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2005.10.04

知られざる「祝典序曲」を紹介する

 うわ、この曲、CDが出ていたのか!

 「三善晃」をキーワードにネットをさ迷っていて、見つけてしまった。三善晃「祝典序曲」(1970)のCD。オリジナル曲はオーケストラだが、CDは天野正道による編曲版で、ブラスバンドが演奏している。

 この曲、題名と年代でもうお分かりだろう。大阪万国博「EXPO'70」の開会式のために作曲された約5分ほどの曲だ。

 それだけでは珍しくもないが、実は非常に特異な曲なのである。

 聴けばすぐに分かるのだけれども、全然「祝典」という雰囲気ではないのだ。冒頭のファンファーレからして微妙な不安感に満ちており、そこかからなだれ込むようにして始まる主部は、変拍子の不安定かつ荒々しい行進曲だ。

 この曲は、祝祭的な華々しさとも晴れ晴れとした感情とも無縁だ。正反対の「なにかは分からない不安で巨大なものが、ものすごい勢いで否応なく迫ってくる」という雰囲気で一貫している。
 古今東西様々な、作曲家が「祝典序曲」を作曲している。が、三善晃のこの曲ほど、祝祭の喜ばしさからほど遠い「祝典序曲」はないだろう。
 およそ、他に類のない「祝典のための音楽」なのである。この曲は。

 しかし、1970年前後の時代の変化を考えると、評価は逆転する。

 この曲は見事なまでに大阪万国博を象徴している。無遠慮で荒々しい高度経済成長、その頂点で大阪万国博は開催された。すべては大阪万博で反転し、日本は公害とオイルショックとドル変動相場制の1970年代へと突入していくのである。
 時代の転換点である大阪万博のオープニングに、この不安で荒々しい祝典序曲は見事にマッチしているのだ。

 EXPO'70の開会式でこの曲を聴いた人たちは、一体何を感じたろうか。

 三善晃の曲を紹介するなら、彼25歳の傑作「交響三章」、あるいは1960年代を飾る「ピアノ協奏曲」「管弦楽のための協奏曲」「ヴァイオリン協奏曲」、合唱とオーケストラのための戦争三部作「レクイエム」「詩編」「響紋」、あるいは女声合唱をやったなら誰もが一回は歌う傑作「三つの叙情」などを紹介するべきなのかも知れない。が、あえて、あまり知られていない「祝典序曲」を紹介する次第。

 音楽の価値は時代を超越するが、この曲のように時代を見事に表象することで生じる価値もまた存在するのである。


 「祝典序曲」は、LP時代の「三善晃の音楽」に収録されただけで、長い間簡単に聴くことはできなかった。こうやってCDで聴くことができるようになるとは。しかし、主に吹奏楽分野で活躍する天野正道の作品集に天野編曲版として収録されているものだから、せっかく録音されたのにまたも埋もれてしまっている。

 このCD、AMAZONの登録データがまるでいい加減なので、収録曲を以下に掲載する。

 1. 天野正道 / シンボル・マーチ (05:43)
 2. 三善晃(天野正道編曲) / 祝典序曲 (04:38)
 3. モーリス・ラヴェル(天野正道編曲) / ラ・ヴァルス (07:38)
 4. モーリス・ラヴェル(天野正道編曲) / 「夜のガスパール」よりスカルボ (06:56)
 5. モーリス・ラヴェル(天野正道編曲) / 「クープランの墓」よりプレリュード、トッカータ (06:52)
 6. 天野正道 / 舞楽 (07:46)
 7. 天野正道 / 式典のための前奏曲 (08:41)
 8. 天野正道 / セレブレーション・アンド・セレブレーション (07:20)
 9. 真島俊夫 / マンボ・イン (04:21)

指揮:阿部智博 演奏:秋田県立秋田南高等学校吹奏楽部


 こちらは大阪万博の記録映画。音楽は三善晃ではなく、間宮芳生が担当している。

 なお余談だが、三善は1972年の札幌冬季オリンピックでもファンファーレを作曲している。

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Comments

枝葉末節なことですが、最近は「吹奏楽」と「ブラスバンド」を区別することが多いです。というか区別してほしいと思ってます。ブラスバンドといえば、本当に金管楽器しかいないバンドですね。
 ついでにいうと、天野正道の主に活躍フィールドも吹奏楽分野ではなくて、映画音楽だとはおもってます。電子音楽関係の本を見れば、そちらにも名前は出てきますし、最近の「ブーム」も劇伴を吹奏楽にアレンジした作品が主なので。

>「吹奏楽」と「ブラスバンド」

 むう、吹奏楽の方でしょうか。きびしいですね。了解しました。

 天野正道はあちこちで活躍していますね。私は「ストラトス4」の、「木星」もどき発進シーン音楽で、その名前を覚えました。後でOVAジャイアントロボもやっていたと知りましたが、あっちはあまりぴんと来ませんでした。派手な曲を上手にまとめる人だと思います。

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