Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« スクーター後席の太ももにバカの壁を見る | Main | 赤外線天文学の話を聴く »

2005.10.21

原稿のストレスに耐えかね毒を吐く

 原稿を書く。状況分析の原稿。基本は公開されたデータを解析して、新しい視点を提示することだ。公開データをつつき合わせたり、斜めに読んでみたり、表計算ソフトに入力して分析してみたり。

 リヒャルト・ゾルゲがせっせとスターリンに送っていた情報のあらかたは、公開された情報の分析だったという話がある。諜報活動の主力は公開情報の分析であり、007的な非合法活動で得られる情報は全体の1/10以下なのだそうだ。

 調査報道と言う奴も似たようなものだ。いや、自分がやっているのが調査報道に値するのかはあまり自信がないのだけれど。

 こういう話を書いていると、ふつふつと情報収集衛星の悪口が書きたくなってしまって困る。このblogは人畜無害な身辺雑記に終始するつもりだったのに。

 衛星という道具の特徴は何か。比較的短時間に全球的な地球のデータを取得できることだ。
 国家戦略にとって重要な全地球的データとはどんなものか。いくらでもある。植生、気象、土地利用、オゾンの全球分布、降雨のリアルタイムデータ——すべて国家戦略の策定のために重要だ。
 そのようなデータを得るにはどうしたらいいか。もちろん各種地球観測衛星をがんがん打ち上げ、迅速にデータを解析し、効果的に解析結果を利用する体制を構築すればいい。

 で、情報収集衛星の目的は何か。朝鮮半島北部と、日本海のいくつかの特定設備の戦術的監視である。

 アホかーっ。

 事実だけ指摘しておこう。
 全地球的戦略データの収集に向いた衛星という道具を、戦術情報を得るための高々度偵察機の代用にするのは、冷戦期の米ソの発想だ。

 同じ金を使うなら、朝鮮半島を巡るヒューミント(人対人の007的情報収集のことだ)に突っ込めば、ずっと効果的に情報を集められたろう。

 情報収集衛星が集めているような可視光高分解能データは、GISのような地図情報システム、店舗出店にあたっての商圏把握、都市計画といったむしろ民生面で有用だ。情報収集衛星の撮影データは、Google Mapのような仕組みで全面公開してこそ生きるのである。そうすれば物好き達が、専門家の分析しきれなかったデータも、喜んで分析してくれるだろう。タダで。

でもって結論。
 情報の秘匿で国家の優位を保つのではなく、情報の公開と共有が、国家間の危機を回避する方向に働くような仕組みを模索するべきなのである。

 書いてしまって自己嫌悪。不十分な煮詰めのままblogに書く話じゃないなあ。ごめんなさい。

« スクーター後席の太ももにバカの壁を見る | Main | 赤外線天文学の話を聴く »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

宇宙開発」カテゴリの記事

Comments

いっそセンサを山ほど載っけて、「そういう戦略情報収集にも使える衛星」にしてしまえば良かったのに、と思います。もったいない。元々日本のお役所はそういうの得意じゃないですか。MTSATとかMTSATとか。

NOAAは極軌道を回る衛星持ってますよね。

日本陸軍がソビエト革命前にレーニンに資金援助(大した金額じゃなかった様だが)したとか、日露戦争前後で「できることは何でも」式で諜報活動をやっていたようです。

ハードばっかりだと、人間が見えません!
相手の心のひだに入り込むやり方で・・・・

でも、それがうまく行かないですね。
そんなにうまく行けば国連の常任理事国入りも楽なんでしょうね

最近話題の佐藤優氏の本を読んでも、諜報活動の基本は公開情報の分析とヒューミント(だと言ってますね。
ロシアで大きな成果を上げた人のことだから、信頼が置けます。

想像ですが、映画007みたいなグレー&ブラックな情報収集は、公開情報の検証、あるいは公開情報から出てきた仮説の検証のためにするのでしょうね。
でなくちゃ危なくてしょうがない。

佐々淳行氏がテレビで言っていた言葉を思い出します。
"IT"の"I"はinformationではなくて、intelligenceでなくては意味がない、と。
いろいろ考えさせられます。

 宇宙技術の信仰ということで、仲間内で出ていたのが、「ロケットエンジンの比推力至上主義」と「地球観測衛星の解像度至上主義」でした。どっちも数字がはっきり出てくるためについつい競って向上させがちですが、「何に使うか」を考えないと無意味かつ有害になってしまうのですよね。

私の誤解であれば良いのですが、松浦さんの情報衛星に対する批判の技術的な部分は実はALOSについても言える事の様に思えます。
光学衛星の衛星構造の不味さはALOSにも共通ですし、レーダー衛星の軌道の不味さもALOSに当てはまります。(何せALOSでは光学衛星とレーダー衛星は共通ですから...)
日本の情報衛星の不味さは実は日本の衛星設計能力そのものの問題なのかも知れません。

「けいすけさん」のサイトでパキスタンの地震のデータが出ていると教えられ訪ねた。
http://blog.goo.ne.jp/keisukekisaragi
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2005/pr20051021/pr20051021.html
ははは、経済産業省のセンサーはこんなに役に立つぞ!と自慢気
ysakiさんの云う様に、バスの悪さが目立つのか。
やはり、経産省の方がプレゼンが上手いな〜

>ALOSについても言える事
 その通りです。

>日本の衛星設計能力そのものの問題
 ではなくて、利用まで考えた情報アーキテクチャ構築の下手さが問題なのだと思っています。

>経産省の方がプレゼンが上手い
 まったくですねえ。情報収集衛星に関しては、防衛庁ではなくて公安警察がけっこう使っているという話が聞こえてきています。広報に関して公安はセンスゼロですから、「絶対秘匿を貫いておけばいい」と考えているみたいです。で、隠さなくてもいいことすら出てこない…

>「ロケットエンジンの比推力至上主義」と「地球観測衛星の解像度至上主義」
 乗用車の燃費至上主義、スポーツカーの馬力至上主義、デジカメの画素数至上主義などと対応するものでしょう。

ともすれば、「情報の整理・整頓=情報分析」という誤解が堂々とまかり通る国ですので。
もちろん、分析過程での整理・整頓や分類・体系化は重要な作業要素ではあるのですが、決してそれは分析の十分条件ではないはずですよね。
ところが、お役所やその傘下機関がwebサイトで公開している「なんたらの分析」系レポートをみると、・・・まぁ何ともはや。

>情報の整理・整頓=情報分析
 ありますねえ。つまり自分の見方というものを提示できていないのですが。お役所仕事の問題点は、提示しないにもかかわらず印象操作で一定の方向に結論を引っ張っていこうとすることでしょうね。

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 原稿のストレスに耐えかね毒を吐く:

« スクーター後席の太ももにバカの壁を見る | Main | 赤外線天文学の話を聴く »