「はやぶさリンク」:11月10日午後5時からの記者会見詳報
本日午後からの記者会見速報です。9日に事実上のリハーサル降下を実施し、70mまで降下しました。4日のトラブルに対する対策結果は良好。この時にターゲットマーカーを一つ放出しました。このマーカーはイトカワに着地していません。
4日のトラブルの詳細も公表されました。はやぶさの姿勢が乱れたのではなく、スラスターによる姿勢制御で横方向に余分な推力が加わり、イトカワとはやぶさの相対位置が横方向にずれていったのです。
記者会見出席者は、井上一JAXA/ISAS本部長、川口淳一郎教授(プロジェクト・マネージャー)、久保田孝助教授(「ミネルヴァ」ローバー担当) 橋本樹明教授(自律航法系担当)
発表内容の概要。JASAリリースは、「はやぶさ」のリハーサル降下再試験について(11月10日付け)。
・ 11月9日に、降下試験を実施。70mまで降下した。
この時の降下試験は、広報カメラの画像処理閾値を変えたことの効果の確認、および、スラスター姿勢制御による横方向へのずれを地上からのコマンドで補正できるかを確認した。
まず9日午前10時にイトカワから70mのところまで降下の後、50cm/sで急速上昇、午後1時には再度500mまで降下し、ターゲットマーカーを放出して、ターゲットマーカーを使った航法機能の確認を実施。
第二回の着陸を予定していたウーメラ域を高精細で撮影。その結果、ウーメラ域は予想以上に岩石が多く、タッチダウンには不適と判断。
第一回着陸予定地ミューゼス海を高精細度で撮影。こちらも岩石が多いが、ミッション策定時に予想したリスクの範囲内に収まると判断。イトカワで唯一の着陸可能地点であると判断。
今後の予定。
・ 11月12日、リハーサル降下を実施。ウーメラ域上空を通過して、ミューゼス海に緩降下して「ミネルヴァ」ローバーを投下。
・11月19日に、署名入りターゲットマーカーを用いてミューゼス海に着陸、サンプル採集。ミューゼス海。
・11月25日 第二回サンプル採集。実施するかどうかは第一回の結果を見て判断。
以下、質疑応答です。質問者など聴き取れなかった部分は空白になっています。申し訳ありません。
問い:NHK トラブル対処法を詳しく知りたい。
答え:橋本 カメラ画像を二値化して計算しているが、その閾値(スレッショルド)をチューニングした。
スラスターで姿勢制御をする場合は微小な推力が並進方向に発生してしまう。得られたイトカワ画像から探査機のイトカワに対する相対位置——横方向のずれ——を検出し、地上からのコマンドで並進推力を補正する
問い: ターゲットマーカーはイトカワに落とす意志があったのか。
答え:川口 まず、2年半の宇宙航行を経て、ターゲットマーカーがきちんと分離するかどうかを確かめる必要があった。落ちればいいと思ってはいたが、落とすことはできなかった。
問い: NASAの地上局利用にあたって交渉中ということだが、19日には局を確保できるのか。
川口 NASAのアンテナを確保したとしても、アンテナと相模原を確実に結ぶことができるかという問題がある。NASAのアンテナを2機確保して、バックアップも含め2回線用意するということも考えられる。今のところなんとかなるのではないかと考えている。
問い: 一回余計に降下しているわけだが、スラスター燃料残量は大丈夫なのか。もう一度リハーサルを行う意味はどこにあるのか。
答え:川口 9日は誘導航法機能の確認を優先したものだった。これは燃料が持つかどうかのリスクを冒しても、是非とも実施しなければならないと考えた。燃料をけちって不十分な状況で本番を迎えるよりは、ここで試験を行うほうがいいと判断した。
問い: 9日のターゲットマーカーは何m上空で分離したのか。12日のリハーサルの目的は。本番の着陸は日本時間では何時になるか。
答え:川口 ターゲットマーカー分離の高度約500m。12日のリハーサルは、実際のサンプリングを行う経路を完全にトレースすることと、近距離レーザー高度計の動作を確認する。レーザー高度計は4つのビームを出しているが、これらがすべて一致した値を出力を出すかを確認する。これまではイトカワに対する相対的な傾斜があったので4ビーム同時に出力を得ることができなかった。
12日の時刻はNASA局を確保できるかどうかで決まるので、現在検討中だ。臼田局からの管制をで実施するなら午後3時、米国局からの管制で行う場合も午後4時とか、そんな時間になると思う。
問い:時事通信 ターゲットマーカーがイトカワに降りなかった理由は。
答え:川口 ターゲットマーカーは小惑星イトカワが背景に大きく写っている状況で分離したかったが、臼田局からの可視時間内の運用は大変あわただしいものだった。交信に必要な遅延時間もあり、やや高い高度の500mで分離してしまった。少々残念だ。
問い:共同通信 はやぶさの影がイトカワに映っているのは何mのところで撮影したのか。ターゲットマーカーの数は。12日ミネルヴァ投下時刻は。
答え:川口 正確ではないかもしれないが100mぐらい。ターゲットマーカーは3つ搭載している。投下時刻は午後3時から4時あたり。(後で高度180mと発表があった)
問い:毎日新聞 ミネルヴァ投下時の高度は。地上からのコマンドで横方向のずれを制御するということだが、時差がある地上からのコマンドではやぶさの位置をきちんと補正することが可能なのか。
答え:久保田助教授 当初30mを予定していたが、重力を考慮すると60〜70mでも大丈夫ということになった。この当たりが目標になる。
答え:川口 あまり頻度高く制御はできないが、地上からの補助は高度数kmとやや離れたとことで使うものなの十分に実施可能。ホイールが故障している故のやむを得ない処置だ。
問い:日経サイエンス タッチダウン時の降下速度はどれほどか。9日の降下では50cm/sというかなり速いの速度ではやぶさを運用しているが。また、タッチダウンに当たって、イトカワの重力の影響はあるのか。
答え:川口 本番では3〜5cm/s。イトカワの重力の影響はある。無視できない。しかし、数百mまで降りる段階では、あまり重力は関係ない。最後のタッチダウン時には関係してくる。
問い:日経サイエンス ウーメラ域からの資料採集を諦めるとどんな損失があるのか。
答え:川口 サイエンスの重大問題だ。不正確な答えになるといけないので、後で回答する。
後からの追加で、今回は出席していない藤原教授のコメントがでた 「二ヵ所からサンプルを採って違いがあるか無いかを確認したかった。しかし着地点は様々な場所からの粒子が集まっているので、イトカワを代表するサンプルが得られると判断している。」
問い:読売新聞 放出されたターゲットマーカーはどうなったのか。
答え:川口 イトカワ周回軌道には入っていないことが分かっている。離れて行ったと判断しているが、どこにあるかは計算していない。
問い:共同通信 画像処理のしきい値を下げたというのはどういうことか。
問い:橋本 広報カメラは8ビットモノクロ、256階調で画像を取得する。4日の段階では64が閾値だった。それ以上明るく、かつその領域が繋がっていればそれがイトカワだと判断していた。ところが意外にイトカワが暗く、暗い領域が大きく繋がっていた。このため4日は、はやぶさは、どこがイトカワなのかを判断できなくなってしまった。
そこで閾値を16にまで落とした。これで明るい領域が大きく得られるようになった。
問い:テレビ朝日 4日と現在で、ミッション成功に向けた準備は進んだと言えるのか。
答え:川口 技術的な確認は進んだ。12日は確実にできるかといえば、それはまた技術的ジャンプだ。まだまだ一つも二つも山がある。
問い:NHK ミューゼス海の着地点Aは、当初の着地条件を満たしていないけれども着陸するということか。
答え:川口 これぐらいのことはあるだろうと、当初は予想していた。それでも、着地地点画像には相当数の岩石が写っている。だからかなりの確率に岩石の上にタッチダウンしてしまう可能性はある。障害物回避機能が働くかどうかは、またリスクの範疇である。
問い:週刊ポスト イトカワの影が写った画像が得られた時の気分は。
答え:川口 探査機の形が写った写真が得られるとは思っていなかったので単純に喜んだ。4日の降下の際も影の映った写真が得られていたのだけれども、よりよい画像が得られた。速くwebにアップしようとするメンバーを制するのが大変だった(笑)。
問い:宇宙作家クラブ 降下時に使用するアンテナと通信速度は。
答え:川口 ハイゲインアンテナで監視し続ける。通信速度は2Kbps。
以上です。
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9日に降下試験を行って、着陸のメドがたったらしい。 http://www.jaxa.jp/press/2005/11/20051110_hayabusa_j.html はやぶさの影がイトカワに映っている写真があったりして、わくわく。 当然ながら、松田さんのところで今日の記者会見での応答が速報されている。 https://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2005/11/11105_8d0b.html JAXAのトップページによれば、今後のスケジュールは、 11月12日 再リハー... [Read More]
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