「はやぶさリンク」:11/4降下リハーサル中止の記者会見
本日4日の小惑星イトカワへの降下リハーサルは、高度700m付近で、自律航法装置のデータに異常が発生したために中止された。
・「はやぶさ」のリハーサル降下試験の結果について:11月4日
また、3日付けで、マイクロローバー「ミネルヴァ」の解説がアップされている。
午前4時17分に高度3.5kmから降下開始。高度700m付近までは正常だった。しかし——
姿勢制御と、降下中の高度と速度の制御は、高度約700m付近まで順調に行われましたが、自律航法機能の航法誤差が許容値を逸脱したことを検出したため、日本時間12時30分に地上からの指令で以降の試験を中止し、続いて上昇指令を送信しました(リリースより)。
「自律航法機能の航法誤差が許容値を逸脱した」の内容は、午後4時半からの記者会見で、川口教授より説明された。以下、宇宙作家クラブニュース掲示板にアップした内容に一部を補い、説明を追加して掲載する。
川口
リハーサルの結果です(発表文読む)。
質疑応答
共同通信:自律航法機能と誤差の許容範囲を超えたということを説明して欲しい。
川口:はやぶさはイトカワの明るさの中心を計算して、そこに向かって降下していく。同時に直下のイトカワ地表までの距離も計測し、その両方から判断して降りていく。
イトカワは複雑な形状をしており、周期12時間で回っている。このため近づいていくと光の当たり方から、明るさの中心がきちんと判断できなかったのではないかと考えている。例えば明るい部分と暗い部分がはやぶさから見ると、イトカワが2つみっつの複数に見えてしまった可能性がある。
現状でそれが原因だとは断定できないが、テレメトリーでは取得画像のどこに向けて降下していけばいいかを判定できなくなったことは判明している。こういうことが起きるとレーザー高度計は、明るさの中心をターゲットするようになっているので、どこが明るさの中心になるかが分からなくなると、どこの高度を測ればいいか分からなくなり、高度を測定できなくなる。
時事通信:明るさの中心を見るというのは
川口:ある一定以上の明るさの面積の重心に向かうということ。明るい領域が一つなら問題ないが、複数ならどこに向かうかは難しくなる。明るい領域が2ヵ所ぐらいなら対応できるようになっているが、明暗がまだらになると対応しようがない。現在NASAの地球局経由で機上のデータレコーダーに蓄積したデータをダウンロードする準備を進めている。それを使って対策を検討する。
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はやぶさは現在、電波が届くのに16分かかる場所にいる。何かを受信して、コマンドを送ってそれがはやぶさに届くまで、電波が往復で30分以上。これでは、遠隔操作ですべてをこなすことはできない。そこではやぶさには自らセンサーで取得したデータを解釈し、どのように動作するかを自ら決める機能——自律航法機能が搭載されている。
自律といってもはやぶさが意志を持っているわけではなく、周囲の状況から自らの行動を導出するアルゴリズムを搭載してあるということだ。
降下中のはやぶさは、イトカワを撮影し続ける。得られたカメラ画像から、ある程度以上明るい領域を抽出し、その領域の中心、正確には面積重心へと自らを導いていく。
面積重心というのは、抽出した領域と同じ形状にボール紙を切り抜いて、立てた指の上に載せて釣り合う位置、と思えばいい。もちろん数学的に計算で求めることができる。
同時にはやぶさは、レーザー光線を使ったレーダーで、はやぶさ地表からの距離を計測し続ける。イトカワに細いレーザー光線を照射し、反射して光が帰ってくるまでの極微小な時間差を測定して距離を知るという仕組みだ。レーザー光線を、イトカワにきちんと向けるために、レーザー・レーダー(ライダーという)は、カメラ画像で得られた面積重心のデータを使用する。
カメラ画像→明るい領域を抽出→重心を計測する→重心の位置に基づいてレーザーの照射方向を決める。
というわけだ。
イトカワ地表まで、700mのところまで降りたときに何が起きたのか。
川口教授によれば、イトカワの地表が複雑だったために、カメラ画像から抽出した明るい領域の形状が、予想以上に複雑だったらしい。
例えば、明るいところがカメラ視野の両端に、黒いところが中央にあると、抽出した領域は視野の両端に2つに分かれることになる。
はやぶさに搭載したアルゴリズムは明るい領域が二つぐらいに分裂しても対応できるように設計されていた。しかし、例えば揺れる水面のように明るい領域と暗い領域が入り交じった画像を撮影したら——はやぶさは、自分がどこに向かって降下していけばいいのかを算出することができなくなる。
日経新聞:帰還への影響はあるか。推進剤は持つのか。
川口:明日はまず、ホームポジションにはやぶさを戻す操作を行う。明日の晩に対策会議を開く。対策には二、三日かかるだろう。日程的には12月にイトカワを離れなくてはならないというのがぎりぎりだ。
リハーサルは一回増やすぐらいなら、推進剤は持つだろうと考えている。NASAの地上局予約はなかなか予定を動かせないのだが、第1回については動かせるという条件になっている。
リハーサルは再度行いたいが、できるかどうかはまだはっきりとは言える状況ではない。
毎日新聞 装置側に問題が出た可能性はないか。
川口:今のところ機器については問題ないと考えている。しかし現状ですべてを把握しているわけではない。とはいえ上昇時に正常な信号を返してきているので問題はないだろう。
東京事務所からの質問 トラブルが発生した時刻は。高度700mの時点か。
川口 その瞬間ははっきりしている。上昇指令を出したのが12時30分で、決断には10分ほどかかったので問題発生は12時20分頃だったと思う。
東京事務所からの質問 オンボードの危機回避機能はないのか。
川口 機能はある。が、オンボード機能が判断に手間取っている時には、地上からコマンドを送ることができる。今回はコマンドを地球から送信した。
東京事務所からの質問 臼田の後はNASA局で追跡しているのか。
川口 今回は臼田の追跡終了と、NASA局の追跡開始の間に、ギャップがある。NASAが突然ヴォイジャーの運用をしたいと言い出して、1時間ほどがキャンセルとなった。
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NASAはDSN(Deep Space Network:新宇宙ネットワーク)という、惑星間空間に出て行く探査機の運用システムを持っている。オーストラリアのキャンベラ、アメリカのゴールドストーン、そしてスペインのマドリッドの3ヵ所に巨大なパラボラアンテナを設置、24時間いつでも、どの方向にいる探査機とも交信できるというシステムだ。
DSNは賃貸しでアメリカ以外の国が利用することもできる。しかし、アメリカの探査機が優先なので、どうしても必要な時に使えないということもある。
JAXA東京事務所からの質問 最低何日空ける必要があるのか。
川口 シミュレーションと対策の時間が必要。それと体力の問題がある。今回も昨日からぶっつづけでオペレーションを行っている。実際問題として二三日中に再度リハーサルを行うのは難しいと考えている。
読売新聞 今回トラブルは想定範囲内なのか。どこまで実際に降下したのか。リハーサル兼第一回になった場合、ミネルヴァは落とすことができるのか。
川口 多分に予想の範囲内だ。また実際には電波が到達するタイムラグがあるので、700mからさらに降りていると思う。データをダウンロードして確認する必要がある。リハーサルと第一回タッチダウンを同時に行う場合も、ミネルヴァの投下は不可能ではない。ただし降下シーケンスは複雑になる。というのは投下に当たってイトカワの自転をキャンセルする方向に投下する必要があるため。
月刊天文 自律機能で降下目標を変えることはできるのだろうか。あるいは、地上からの判断でできるのだろうか。
川口 最後の画像を撮影する高度500mのところで、GO /NO GO判断を行う。そこまでは地上で判断できるが、そこから先は機上の自律航法機能による判断となる。搭載ソフトウエアを全面的に改修して、地上から新ソフトウエアを送るというのは難しいと考えている。今ある搭載ソフトウエアの範囲で、パラメーターを工夫することにより、継続降下ができるようにすることになるだろう。
月刊天文 もしあと2回しか降下できなくなったら、リハーサルを飛ばすのか、本番を一回諦めるのか。
川口 要検討事項です。考えさせて下さい。
NHK 表面がごつごつしているということは、光の反射に影響したのか。レーザーレンジファインダーは動作したのか。ライダーが地表との距離を測れなくなった理由はどこにあるのか。
川口 イトカワ固有の形状が原因だろう。レーザーレンジファインダーの動作は解析中。ライダーはおそらく、探査機が姿勢を変えてしまったので、レーザービームがイトカワから外れたということではないかと推測している。
東京新聞 12月の何日にイトカワを離れる必要があるのか。
川口 何日と決まっているわけではない。イオンエンジンを使って帰還するならば、どの期間にイトカワを出発するかが決まる。12月のある期間中にイトカワを出発する必要がある。
NHK 降下に当たっての制約条件は。
川口 まず、臼田からの可視でGO /NO GO判断を行えるということ。イトカワは約12時間で自転しているので、これで降りる場所が制約される。次がNASA地上局を望む時間帯に使えるかどうか。
NHK 今回のことはリアクションホイール故障と関係あるのか。
川口 あります。姿勢制御に制約が生じているわけですから。どこを向くにしてもホイールが生きていれば望む方向に向けることができるけれども、ジェットではどうしても荒い姿勢制御になってしまう。
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リアクションホイールの故障がじわじわと効いているという印象だ。
はやぶさは3基のリアクションホイールを搭載している。通常の衛星は、予備も含めて4基のリアクションホイールを搭載している。姿勢制御が命であるハッブル宇宙望遠鏡などは、6基を搭載し、そのどれでも3基が生きていれば姿勢制御が可能という設計にしている。
はやぶさの場合、ガスジェットによる姿勢制御に加えて、イオンエンジンによる姿勢の変更がある程度可能ということで、探査機全体で冗長性を確保するという方針で、リアクションホイールを1基減らした。設計時に非常にきびしい重量制限があったことの反映である。
「貧すれば鈍する」だ。ぎりぎりの条件でやむを得ず選択した限界設計が次々にトラブルを連鎖するという、難しい状況になっている。それを運用ノウハウと、関係者の頑張りでどこまで補えるのか。
ともあれ、勝負は11月一杯だ。今月末にはでサンプル採集についての結果が出る。
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