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2005.11.02

「はやぶさリンク」:大きな画像が消えた理由(?)

 JAXA/ISASホームページのリリースJAXA/ISASホームページのリリースから、高分解能の大きな画像が消えてしまった。

 一度出した情報を断りなく引っ込めるのは、ネットではあまり行儀良いとはされない。

 実は私の手元にはいくつかの大きな画像がある。記者会見でCD-ROMに入れて配布したものだ。

 JAXA/ISASが、そういう不誠実なことをするなら、私が代わってアップしてやろう——というわけにもいかない。というのは、どうもこの件にはかなり複雑な事情が存在するように思えるからだ。

 記者会見の資料に掲載されたすべてのイトカワ画像には「この画像は、較正未了画像につき、科学成果論文への使用に適しません」という但し書きが付いていた。しつこいほどに「論文には使えないよ」とアピールしていた。

 つまり「はやぶさ」関連の研究者は、データを使った発見のプライオリティにかなり神経質になっている。

 その背景には、海外の一部共同研究者の行きすぎた態度もあったと聞いている。「はやぶさ」データについて、向こうのメディアに日本への断り無くしゃべってしまったのだという。

 これだけなら、「向こうさんはオープンでいいじゃないか、一方JAXA/ISASは何をやっている」ということにもなる。が、もう一つ深刻な事情が存在する。

 日本の研究者は、全く未知の天体に接近するということに場慣れしていない。

 なにしろイトカワが、日本にとって初めての“テラ・インコグニタ(未知の大陸)”だ。そこで何をどう解析すれば新しい知見が得られるのか、論文に値する発見があるのか、すべては手探りだ。しかも慢性的な人員不足。人的パワーは足りない。

 一方で海外、特にアメリカの科学者らは、何度となく未知の天体からの画像を解析した経験を持っている。そのノウハウを持ってイトカワの画像を見れば、日本の研究者よりも手際よく新たな発見をしてしまうほどだという。それは圧縮したJPEG画像でもあり得ることらしい。さらには惑星科学者の数も多い。人材豊富である。

 ここまでさんざん苦労をして、やっと目的地にたどり着き、データを入手できたのに、あっという間に他人に解析成果を横取りされるかも知れない——そのことに対して、かなり日本の研究者らは神経質になっているようなのだ。

 広報が一度出した画像を引っ込めるのだから、おそらく「はやぶさ」計画のかなり上のほうから、「大きな画像は出さないでくれ」というリクエストがあったのだろう。

 正直、情報公開はして欲しいと思う。イトカワ壁紙をホームページにアップすればいいのに、とも思う。
 しかし、複雑な事情が存在することを知ると、なかなか「何でもかんでもすぐ見せて」とは言いにくくなってしまう。

 いや、傍観者としては「見たい!」と言い続けることが重要なのは分かっているのだけれども。そして、私が考えすぎで、単にサーバー容量が足りなくなった、ぐらいのことならいいのだけれども。


 11月4日は、タッチダウンのリハーサル。イトカワ上空30mまで降下し、マイクロローバー「ミネルヴァ」と、88万人の名前を仕込んだターゲットマーカーを投下する。明日3日から、オペーレションルームは2日ぶっつづけの勤務となるそうだ。

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Comments

負けて学ぶ、痛い目を学ぶと言う事も必要なんじゃないでしょうか。
日本の薄いデータ解析技術者が何年たっても分からない様な解析を海外の研究者がやってくれるんであれば、科学の発展の為には、その方が良いでしょう。
確かに、美味しい処だけ、もって行かれるのはしゃくだと思いますし、相手だって、そういうデータをくれないのであれば、相互主義というのはあると思います。
でも、そういう自国の研究者優先主義でデータを抱え込むより一定の時限を決めてそれ以降はオープンにすると言う態度がやはり必要なのではないかと思います。

DNAの二重らせん構造発見で、ロザリンド・フランクリンの名前がしばしば出てきます。

その例にならえば、仮にイトカワ画像解析が海外の研究者によって行われたとしても、JAXAはそれを誇りに思ってもいいでしょう。

このプレスリリースの関係者の一人としていくつか説明をさせてください.
ISASのサイトから高分解能の画像がなくなったことについて,少なくともわたしの知っている/調べた範囲では,プロジェクト内外から何らかのリクエストがあったという話はありません.
画像を選んだ人間として,一回出したものを引っ込める意図は毛頭ありません.実際消えてるじゃないか,という意見はまあそのとおりですので,もう一度データギャラリーなりなんなりの別の形で元の画像を一般に公開できるようにします.

また,
> その背景には、海外の一部共同研究者の行きすぎた態度もあったと聞いてい
>る。「はやぶさ」データについて、向こうのメディアに日本への断り無くしゃ
>べってしまったのだという。
というのはいくつかの話が混じって不正確なものになっているように思います.(これまたわたしの知っている範囲でですが)海外から来ている共同研究者が観測データについてしゃべった,ということはないと思います.

もちろん背景として松浦さんが解説している,内外の研究能力の格差,という話は実際に存在します.しかしそれでも実際にデータを取得したのはわれわれのチームである以上,較正や解析の方法について一番熟知している「はやぶさ」チームメンバーです(画像は較正などの手間が一番かからない類のデータなのは確かですが).また,そもそもまともな論文雑誌なら現段階でプロジェクト外の研究者がwebリリースデータだけを使って何か論文を書いたとしてもよっぽどのことがない限り受理しないだろう,という見方もできます.多分チーム内ではわたしは楽観論者の方だとは思いますけれどね.

なお観測データは一定期間後(半年ないし一年ぐらいでしょう)には原則的に全て公開されます.これははやぶさに限らず他のプロジェクトでも同じだと思います.そもそもわれわれも「はやぶさ」以前は過去の海外ミッションの公開データを使って研究してきた訳ですから,当然です.

平田成さま

はやぶさミッションの成功を祈っているものです。私のブログではいろいろ意地悪な表現をしてますが、ようはISASの研究者にはもっと堂々とした態度で臨んでいただきたいと切に願っております。

提案ですが、

>観測データは一定期間後(半年ないし一年ぐらいでしょう)には原則的に全て公開されます

という文章を

ウェブ上データの利用方針について
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/policy.shtml

のページに追加されてはいかがでしょうか。これだけのことで外部からISASを見る目がずっと好意的なものに変わると思います。

もっと早く、もっとオープンに公開せよというご意見の方がいらっしゃるようですが、宇宙科学、天文学分野ほどデータが公開されている科学分野は他にあるのでしょうか? 天文衛星にしても地上大望遠鏡にしても1,2年でデータが公開されるのが普通です。
 他の研究分野、例えば加速器を使った素粒子物理学実験ではデータを公開してライバル研究チームがそのデータを解析するなど考えられないようです。医学、生物学、材料開発など、宇宙科学以上に巨額の税金をつぎ込んでなされている研究で、どれほどのデータの公開がされているのでしょうか?
 早い公開が「科学の発展」のためによいというのは正しく聞こえますが、研究チームが当然受けるべきクレジットを得られなければ、研究者のモーティベーションも、業績評価もあがらず、その研究分野は国内では衰退するかも知れません。
 他の研究分野との比較、そして、早い公開がそのまま科学の発展には直結しない、という二つの視点からも考えて欲しいです。

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