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2005.12.31

2005年年末スケッチ

 29日は、高校のクラス会。なぜか2年の時のクラスは仲が良く、卒業以来欠かすことなく年に一回集まっている。今年も旧友18名に先生が集まった。
 私のテレビ出演を見た女性から「松浦君は早口過ぎ。これを読んだ方がいいと思うよ」と、「声優入門」という本を貰う。「発音は勉強すれば大きく変わるから」と。
 勉強します。次のチャンスがいつあるかは分からないけれども。

 本会、二次会と流れ、最後は終電を乗り過ごして先生とただ2人、魚民で語り合う。我々の担任だった頃は三十代前半だった先生も、来年で校長定年。
 話題は、自然と10年前にこの世を去った一人の男の話となる。中学からの私の親友で、先生の碁敵だった男。彼はアマチュアではそこそこ打てた、らしい(私は囲碁のルールを知らない)。先生は奴を打ち負かそうと何度も挑んだが、勝てないまま、奴は足早に人生から退場してしまった。
 しんみりと語る先生。「ヒカルの碁」ほど格好良くはないが、確かにそこには碁盤を挟んだ友情があったのだと思う。
 迎えにきた先生の息子さんの自動車で、帰宅。

 30日は仮眠もそこそこに早朝の電車で上京してコミックマーケットへ。遊び友達おかちん氏のブースで売り子をするため。
 ここ数年、夏冬のコミケで売り子をしている。消費の中核となるまで成長したオタクの祭典をジャーナリストの視点で内側から見る——などと理由づけてみるものの、つまるところは面白いからだ。それはもちろん自分のオタクの血が騒ぐということもあるし、もう一つ、普段は眠っている商売人根性が騒ぐということもある。松浦家の祖先は、大阪で暦の製造・販売をしていた。京都の陰陽師が作る巻物にするほど長い暦を、教訓なんかが書いてあって毎日破り捨てる日めくりに仕立てたのは、私のご先祖様だったりする。
 寝不足、酒の残る体で、さすがにコミケの売り子はきつかった。それでも、おかちん氏の漫画がぽんぽんと売れていくのは快い。
 一つ悔いが。私を見つけた方から、サインを所望されたのだけれども、そこに私が書いた本がなかったのでサインを断ってしまったのである。寝不足の頭で「自分の書いたものではないのに、自分がサインを書くわけにはいかない」と考えたのだが、なんでも書けばよかったのだね。本を読んでくれる人があって、私の生活が成り立つわけで、まったくひどいことをしてしまった。

 大変申し訳ありませんでした。多分次の夏コミでも売り子をしていると思いますので、覚えのある方は声をかけてください。

 終了後、打ち上げ宴会に出席するが、半分は隅っこで寝ていた。さかなさんのホームページと「夕凪の街 桜の国」を紹介するで紹介したさかなさんにはじめて会う。おっとりとした愉快な方だった。
 さかなさんはコミケ初参加。まいなすさんとの合同誌をコピーで100部作ったが(直前までホテルでホチキス止めしていたという)、あまり売れなかったとのこと。
 コミケは巨大なイベントだ。参加者は、カタログで事前にチェックしたブースにしか行かない傾向がある。このような場では、無名と同人誌が売れないは、ほぼ同義である。
 粘って出場回数を増やし、コミュニティでの知名度を上げていくしかない。さかなさんもまいなすさんも、面白い漫画を書く人なので、そのうち部数も出るようになるだろう。

 31日は、実家にて年越し蕎麦。仕事が遅れているので仕事仕事。NHKも民放も見るに値しない番組ばかりやっている。とりあえずNHK教育、そしてケーブルのアニマックスでやっていた「機動戦士ガンダム・めぐりあい宇宙編」へ。

 横で弟が酒を飲みつつ、ガンダムを見ている。およそアニメと縁遠い弟の質問がうるさい。
「シャアって一番偉いんじゃなかったの」
(シャアはジオン軍の士官じゃ!)
「なんかララアって、アダルトチルドレン風でうっとうしいよねえ」
(黙って観ろ!)
「えらそーなおばさんが出てきたんだけど誰?」
(キシリアだ!)
「なんでホワイトベースって子供が乗ってんの?戦場に子供を連れて行くのは非人道的じゃない?」
(ええい、説明するとそもそもホワイトベースは難民船になっちまったという経緯があってだなあ…いいから観ろ!)
「そういえば、アムロだって子供だよねえ」
(いいから観ろって!)

 そんな弟も、ガンダム対ジオングで、ガンダムの頭が吹っ飛ばされるところでは「おおっ」と息をのんでいた。

 かくして2005年が暮れていく。皆様、よいお年を。

2005.12.29

今井紀明氏のblogを読む

 年の瀬となり、一体昨年の自分はなにを考えていたのか、と昨年12月の記録を読み返してみる。と、今井紀明氏について書いていたのを思い出した。

 イラク人質事件が2004年4月、その後今井氏は2冊の本を出し、10月からはイギリスに行った。

 今、彼はどうしているのか、と検索をかけてみたら、この12月からblogを書いているのを発見した。

今井紀明の日常と考え事

 今月17日から始まったばかりだ。とりあえず全部読んでみる。

 この19日から、ソウルに滞在。韓国人の彼女の家にいるのか。

 彼のプライベートはともかくとして、結局、現在20歳の今井氏は、まだ頭の整理ができていないな、というのが私の判断だ。

 このblog、タイトルが「今井紀明の日常と考え事」なので、考え感じたことをそのまま掲載しているのかも知れない。しかし、それにしても、他人に自分の思考や状況を伝えるには、あまりに文章が冗長だ。

 思わず12月26日付の記事冒頭に朱を入れてしまう。

 オリジナルは以下のとおり。

クリスマスも過ぎて2005年はもう終わろうとしている。今朝は身体が切れるように冷え込み僕の手は外にいる時間が長いほど痛みが激しくなってきている気がする。僕はいつものように韓国の英字新聞を買い、開いてみるともう今年一年をめぐる国内と国外のニュースを10個挙げた欄が2面に渡って写真つきで掲載されていた。

 無駄が多い上に、係り結びの間違いまで混入している。ニューズレター誌で、さんざっぱらデスクにいじめられた経験を持つ私が直すとこうなる。

「2005年も終わろうとしている。今朝は身を切るように寒く、戸外にいるほどに手が痛む。いつものように英字新聞を買うと、今年一年の国内外10大ニュースを掲載していた。」

 「ちんたら書いてんじゃねえぞ、オラァ」というデスクの声が耳の中に蘇るようだ。

 ひょっとすると、本文は他人に読ませるというよりも備忘録として書いているのかもしれない。だとしても、blogを紹介するトップの文章は、他人に読まれることを前提に書かなくてはならない。それが以下の通りでは、かなり困ってしまう。

 イラク人質事件から一年半以上が経ちました。批判の手紙と批判の手紙を書いた人と会いながら、いろいろ考えてきました。いろいろ批判されましたが、それは本当に正しい情報だったのか、それが僕だったのか、というのは疑問です。なので、僕はこのブログを開きました。もしよかったら見てください。左も右もいいんです。とりあえず、僕ら、努力して生きればいいじゃないですか。お互いにがんばりましょう。ということで、皆様、よろしくお願いします。

 あえては書き直さないが、この文章も、意味はそのままでよりわかりやすく書き直せる。多分、半分以下の長さに削れるはずだ。

 今井blogの文章に見る、冗長さとだらだら感は、彼の頭がきちんと整理できていない証拠だろう。おそらくイラクに渡航した段階では、彼はもっと未熟で、頭の整理もできていなかったのではないか。

 頭がきちんと整理された20歳はまれだ、だから彼の頭が整理されていなくても批判するには及ばない。ただし、そのまま世間で通用するわけでもない。
 どうも彼は、自分が真摯に行動すれば世間に通用すると感じているようだ。

 真摯なだけでは、世間に物言うには足りない。真摯であることは必要条件だが十分条件ではない。なによりも日々の仕事の中で経験を積み、自分を鍛える必要がある。

 勘違い20歳は世間に多い。彼は特別ではない。ごく普通の20歳だ(自分がどうだったかといえば…思い出したくもない!)。だが、今井氏は、イラク人質事件で世間の注目を集めてしまった。普通の20歳には許されるバカな行い(それは成長に必要な行為だったりもする)が、彼の場合思わぬ非難を引き起こす可能性がある。

 彼の前途は多難だろうな、と思う。がんばってほしい。
 

2005.12.27

Google Danceを観察する

 はやぶさ関連といえば関連なのだが、直接はやぶさに関係ない、奇妙で、楽しい出来事が起きた。
 日経・清水編集委員への反論を書いた記事が、検索エンジンのGoogleから一時消失し、その後復活した。何が原因かは不明だが、その間Googleのどのサーバーで検索するかによって検索結果が異なる、さらには同一サーバーでも検索するたびに結果が異なるという現象が発生した。
 こういう現象はGoogle Danceと呼ばれるそうだ。多数のマシンをクラスター化したサーバー群で構成されているGoogle内部のキャッシュが更新される過程で、不整合が発生するのが原因という。

 私は、何人かの知人の協力を得てその過程を観察することができた。実に興味深かった。


 Google Danceについては、「Google 八分 の確認と対応の方法」というページが詳しく解説している。

 私は12月22日に、「はやぶさリンク」:日経新聞・清水正巳編集委員の記事に関してと題して、日本経済新聞の清水正巳編集委員が書いた「研究の失敗に寛容な風土はできるか」という記事に反論した。この記事には大きな反響があり、多数のコメントとトラックバックが付いた。これだけあちこちからリンクされると、検索エンジンでの表示順位も上がる。


 以下は12月25日朝からの経緯である。

 12月25日朝、私はネットの関連記事を漁っていて「清水正巳で検索しても松浦記事がトップに出るのに」という記述を見つけた。ご存知の通り、ロボット型検索エンジンは、さまざまな手法を使って記事の重要度を数値化し、重要な順に結果を表示する。
 興味を持った私は、各種検索エンジンをキーワード「清水正巳」で検索してみた。その結果は以下の通りだった。

清水氏オリジナル記事 松浦の12/22付け記事
Google 1ページ目2番目 1ページ目1番目
Yahoo! 1ページ目9番目 1ページ目1番目
msn 1ページ目1番目 1ページ目2番目
goo 1ページ目1番目 1ページ目3番目

kekkaari これもまた記事にしようと思い、私は記録をとっておいた。ネット社会の様相を写すひとつの例となると考えたのだ。左に掲載したのは、私の記事がトップに来ているGoogle検索結果の画像である。そのときにキャプチャーしそこねたので、これは現在の検索結果だ。

 ロボット型の検索エンジンは「クローラー」というソフトで、ネット全体の更新を常時監視して、検索結果に反映させている。上記結果もいつ変化するか分からない。12/25午後1時頃、私は再度Googleで「清水正巳」と検索してみた。

 するとGoogleの検索結果が、妙に安定しない。検索を繰り返してみると、

清水氏オリジナル記事 松浦の12/22付け記事
1ページ目2番目 1ページ目1番目

という結果と、

清水氏オリジナル記事 松浦の12/22付け記事
1ページ目1番目 掲載されず

kekkanashiが不規則に帰ってくる。この「掲載されず」は、単に掲載順番が下がったというものではない。最後まで検索結果を見ていっても載っていないのだ。Google上で記事の存在そのものが消えてしまっていた。左に掲載したのは、私の記事が落ちてしまっている検索結果のキャプチャーだ。Googleロゴがスペシャルになっているので25日のキャプチャーであることがわかる。

 Googleは世界各国にサーバーを持っており、どのサーバーでも日本語の検索ができる。試しに「www.google co.uk」(イギリスのサーバー)と「www.google.fr」(フランスのサーバー)、「www.google.de」(ドイツのサーバー)を検索するとすべてのサーバーから、

清水氏オリジナル記事 松浦の12/22付け記事
1ページ目2番目 1ページ目1番目

という結果が帰ってきた。本家Google.comでも試せば良かったのだが、ここはそのままだとGoogle.co.jpに飛ばされるので試さなかった。実はGoogle.comを使うのは簡単だったのだけれども。

 Googleはクラスター化されたサーバーを使用している。この状況は、Google日本で何らかの登録データの変化があり、それが日本国内のサーバーのキャッシュに行き渡る過程で不整合を起こしていると考えると理解できる。
 とすると次にはおそらく海外サーバーのデータ書き換えが起きるだろう。

 この時点で、私はネットに詳しい友人数名に連絡を取って、時々世界各国のGoogleにおけるキーワード「清水正巳」の検索結果を監視してもらえるように手配した。

 25日夜から早朝にかけては、Googleの「清水正巳」検索結果は、派手に踊りまくった。あちこちのGoogleサーバーで、検索をかけるタイミングによって、2種類の結果がでる状態がしばらく続いた。

 落ち着いたのは26日の朝だ。海外サーバーを含めたすべての検索で、

清水氏オリジナル記事 松浦の12/22付け記事
1ページ目1番目 掲載されず

 という結果が表示されるようになった。


 26日朝の段階で、私のところに知人から「該当記事の登録が消えている。その他のL/D記事の登録は消えていない」という連絡が入った。
 あるページが、Googleに登録されているかどうかは、そのページのURLをGoogleの検索窓に記入することで確認できる。
 さっそく確認してみたところ、清水編集委員への反論を書いた記事(URLはhttps://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2005/12/post_08cc.html)が、Google登録から消えていることを確認した。
 トップページやその他の記事(例えば12月21日付けのCDの記事など)は登録されていた。

 そこで26日午後5時過ぎに、「松浦晋也のL/D」全体を再登録するようGoogleに申請してみた。

 この申請に意味があったのかなかったのか、26日午後6時頃から、再度Google Danceが始まった。キーワード「清水正巳」で、私の記事がトップに来たり来なかったりする。海外サーバーでも同様の状態となった。我々は、GoogleサーバーをIPアドレス単位で監視して「どこそこが踊っている」「こっちは踊っていない」と、お互いに報告し合った。

 夜半にかけて、ダンスは徐々に収束していった。27日午前1時過ぎにGoogle.comのサーバーのひとつが踊っているのを確認したのを最後に、検索結果は収束した。
 
 もちろん結果は

清水氏オリジナル記事 松浦の12/22付け記事
1ページ目2番目 1ページ目1番目

である。私の記事は1日振りにGoogleにおいて復活を果たしたわけだ。ちなみにGoogleのクローラーは、27日朝の段階で、まだ来ていない。再登録申請に意味があったのか無かったのかは、不明である。


 一体なぜこんなことが起きたのか。誰かが当該記事のデータを削除し、しかる後に復活させたのか。実は、私も最初は意図的にデータが削除された可能性を疑った。

 しかし、清水編集委員に関する記事のデータをGoogleから削除しても誰も得はしない。

 この記事が消えることで利害が発生しそうなのは、私を筆頭に、Google、清水編集委員、清水委員の所属する日本経済新聞の4者だろう。ところが、

 私は記事を検索で読んでもらえなくなって損。
 Googleは検索の信頼性が下がって損。
 清水編集委員は、ジャーナリストにあるまじき言論弾圧をした嫌疑をかけられて損。
 日経新聞は、言論機関にあるまじきネットへの圧力をかけたと疑われて損。

と、誰も得をしない。こんなバカなことを誰もするはずがない。

 おそらくは、Googleの登録データが何らかの原因で壊れ、そのまま世界中のサーバー群に壊れたデータが波及していったのだろう。その過程でGoogle Danceが発生、さらに修復の過程で再度Google Danceが起きたのだと思う。

 私としては、面白いものを見せてもらって、とても満足である。

#午後7時56分追記 また検索結果が、私の記事をはじくようになってしまった。ともあれ、しばらくは様子を見ることしようと思う。

2005.12.26

「はやぶさリンク」:野尻抱介さんからの呼びかけ

 SF作家の野尻抱介さんが、はやぶさに関して意見・感想はこまめにJAXAにメールしましょうと呼びかけている。


 はやぶさの成果でぜひとも強調し、広く伝えたいと思うのは、kentaroさんが述べているようなこと——ものづくり、技術開発の精神を鼓舞したことです。なのでひとつ提言しておくと、
 いずれ広報、成果判断の素材になると思われるので、意見・感想はこまめにJAXAにメールしましょう>ALL。
「L/Dのコメント欄に書いたからいいじゃん、あそこJAXAの人も読んでるんでしょ?」はダメです。国民から直接寄せられた意見・感想でないと、筋として使えませんから。

 どこまでExploration?——サイエンスが主目的のミッションなら冒険を避けてオフ・ザ・シェルフという選択もあるでしょうね。でも今回は工学メインなので、新しいことをすべきだった、と。新しいことをやって、それがきちんと伝われば必ず声援は集まるし、ひいては予算獲得につながるのではないでしょうか。


 野尻さんは12月14日午前の記者会見で川口淳一郎プロマネが述べたことこそが重要だと言う。

 おそらくは

 今回、サンプルリターンを全世界で初めて試みた。宇宙開発は過去、マスコミの監視の中、びくびくしながら、確実性の高いプロジェクトを実行してきた。しかし宇宙開発には、リスクを取っても先に進むということも必要なのではないか。

 高い塔を建ててそこへのぼってみれば新たな地平が見えるものだ。そのような塔を自ら建てるという意識を鼓舞したという点でははやぶさには意味があると考えている。

のという発言を指しているのだろう。

 私も同感だ。今後とも挑む心を失わないために、JAXAにメールを送ろう。


 右上のリンク集にはやぶさまとめを掲載した。報道やJAXAからの広報も一段落した今現在、おそらくはやぶさに関するもっとも充実した索引である。管理人がどなたかは分からないが、ご苦労さまです。

 今回、ネットから自発的にこのようなリンク集が現れたことは、はやぶさの評価を考える上でも重要だと思う。一般がつまらないと思うミッションならば、このようなものは出来はしない。「面白い、だから色々なことを知りたい」という欲求を多くの人が抱いたからこそ、このようなリンク集がある。

2005.12.25

「はやぶさリンク」:お願いが2つ

 日経新聞の清水正巳編集委員の記事を取り上げた前記事に、多くのトラックバックとコメントを頂いきました。

 引き続き、発言とトラックバックをお願いいたします。

 はやぶさリンク開始以降、このページを見ているマスコミ関係者も増えたようです。おそらくここへの書き込みとトラックバックは、プロフェッショナルのメディア関係者も読んでいると思います(毎日の元村さんもいらっしゃいましたし)。

 そこでもう一つお願い。清水委員への個人攻撃ととれる罵倒的な書き込みは控えてください。問題にすべきはあくまで、清水委員が書いた記事の内容です。特にそういう書き込みが多数というわけではないですが、もの言うときには背筋を正してということで。

2005.12.22

「はやぶさリンク」:日経新聞・清水正巳編集委員の記事に関して

 日経新聞の清水正巳編集委員が、12月21日付けで「研究の失敗に寛容な風土はできるか」というはやぶさの評価に関する論評記事をネットで公開している。NETアイ プロの視点という、日本経済新聞の編集委員が顔と名前を出して書く記事の一つである。

 清水編集委員は、略歴を見ると、日経サイエンス編集長、科学技術部長などを歴任したベテランだ。
 しかし、この「研究の失敗に寛容な風土はできるか」は、奇妙に現実からずれた内容となっている。

 ずれた内容になってしまった背景には、「成功」と「失敗」のみに拠って記事を作成する、かつての新聞科学記事のフォーマットが崩れつつあることがあるように思われる。はやぶさは複雑なミッションであり、簡単に「成功/失敗」と分類できるようなものではなかった。
 清水編集委員の意識は、かつての「要するに成功なんですか、失敗なんですか」という記者質問に代表される、複雑な現実を単純な二分法で切り捨ててしまうフォーマットから、逃れられていないのではないだろうか。


 清水委員は、まず

「 日本の小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワの探査ほど、成功したのか、失敗したのか分からないプロジェクトはない。」

と書く。
 しかし現実には、はやぶさの成功・失敗は細かく公表されている。イオンエンジンの長時間運転と、それによる惑星間航行には成功。自律航法を使った差し渡し500mほどしかない小惑星イトカワへのランデブーには成功。上空からのカメラや分光器を使った科学観測も成功。リハーサルを経て2回の試行で史上初の小惑星タッチダウンと上昇に成功。
 サンプル採取はサンプル採取用弾丸が発射されなかった可能性が高く不明。ただし、第一回着陸時に舞い上がったサンプルがカプセルに到達した可能性がある。
 そして地球帰還は現在のところ3年遅れ。通信回復可能性は70%程度の確率。

 これのどこが「成功したのか、失敗したのか分からないプロジェクト」なのだろうか?

 文書冒頭で現状認識を誤った結果、その後の議論も奇妙な方向へと逸脱していく。

「機構内でははやぶさは将来の宇宙探査に向けた「技術実証」が狙いだから、イトカワ到着で一応目標を達成と言っているが、飛行だけが目標と言うのではあまりに情けない。」

と書くが、まずはやぶさの目標は小惑星への飛行だけではない。はやぶさ特集:小惑星探査機「はやぶさ」の研究計画について(JAXA/ISASホームページ)に、川口淳一郎プロマネが寄稿した文章によると、はやぶさの目標は以下の通りである。

「はやぶさ」で開発・実証を目的としている4つの新技術要素は,イオンエンジンを主推進機関とした惑星間航行,光学観測による自律的な航法と誘導方法,惑星表面の標本採取技術と惑星間軌道からの直接大気再突入と回収です。あまり強調されてはいませんが,このほかにも2液小推力化学推進機関,総電力固定のデューティ制御型熱制御,イオンエンジンを閉ループに組み込むホイールアンローディング, PN-code超遠距離測距(PN-codeは送信電波に乗せる疑似雑音符号で,この符号の往復伝搬時間を測定することにより,距離を求めます。),リチウムイオン2次電池の採用など,各種の新たな衛星・探査機技術が導入されています。

 「イオンエンジンを主推進機関とした惑星間航行」は、全世界的に見てもアメリカのDeep Space 1ぐらいしか前例はない。しかも噴射の総時間数で、はやぶさはDS1をはるかに凌駕している。「光学観測による自律的な航法と誘導方法」もまた、DS1程度しか過去に例がない(これは私が知らないだけという可能性もある。関係者の指摘を待ちたい)。「惑星表面の標本採取技術」は、小惑星表面という意味ならば前人未踏の技術だ。

 これのどこが「情けない」のだろう?

清水編集委員は、続けて以下のように書く。

 科学技術の研究開発には新発見やイノベーションにつながる発明、そして一つ一つの技術を組み合わせ、全体システムをつくりあげるような技術開発プロジェクトがある。前者は未知の世界の挑戦という性格があり、失敗なしに成果を挙げるのは至難の技である。一方、後者は着実にシステムをつくることが前提であり、出来上がったシステムが動かなかったり、目標を達成できなかったりすれば失敗であり、無駄な研究開発ということにもなる。

 つまり、前者では失敗は許容され、後者では失敗は許されないということになる。はやぶさは後者になるが、研究者が意図しているかどうかは別にして成否のあやふやな発表をみる限り、失敗の責任逃ればかりが前面に出ているような印象を与える。

 まず、「新発見やイノベーションにつながる発明/そして一つ一つの技術を組み合わせ、全体システムをつくりあげるような技術開発プロジェクト」という分類が間違っている。ここでは「新たな探査を行うための技術開発/開発した技術を応用しての科学探査」と分類すべきだろう。そうすれば、前者では失敗は許容され、後者では失敗は許されないという記述の意味が通る。はやぶさは前者である。ただし「失敗は許される」のではなく、「準備に準備を重ねても失敗を覚悟の上で挑むミッション」なのだ。

 また、一連の着陸を巡るJAXA/ISASの記者会見は、そのすべて出席した者としては、十分に説明義務を果たしていると感じられた。「失敗の責任逃ればかりが前面に出ているような印象」とあるが、印象は個人のものであり、少なくとも報道に携わる者が印象を自分の意見の論拠とするべきではないだろう。

 「成否のあやふやな発表」という表現も妙だ。光ですら往復30分かかる場所にある探査機からの、極めてビット伝送速度の遅い通信を使って、「なにができたか、できないか」を判定せざるを得なかったのである。あやふやさがあったとすれば、ミッション成否判定に関する探査機の内部システムと通信システムの限界によってもたらされたもので、JAXA/ISASが人為的にもたらしたものではない。

 清水委員は、記事を以下の記述で結ぶ。

 失敗してもそれを率直に認めずに取り繕ったり、失敗を恐れて低い目標を掲げるようになったりしては科学技術立国もありえない。見境なく研究費をばらまくような研究バブルは厳に戒めなければならないし、研究の管理や成果の評価はしっかりしなければならない。だが、志の高い研究には失敗しても研究費を惜しげもなく注ぎ込む度量も必要だ。総合科学技術会議は研究の善し悪しを見抜く力が一層求められる。

 この結論には、私も異論はない。が、そこに至るまでの議論には、上に指摘した通りの大量の錯誤が含まれている。これでは結論の信頼性も揺らいでしまう。


 科学技術報道に携わって、おそらくは四半世紀を超えるであろうベテラン記者が、一体なぜこのような文章を書いてしまったのだろう。

 長らく、科学技術、特に宇宙開発の報道は「要するに成功なんですか、失敗なんですか」という記者質問に代表される、「成功・失敗の二分法」で行われてきた。「要するに」という質問の前振りはつまるところ「記者の自分は技術的なことは分からないが、」ということを意味する。裏の意味は「技術的な事を勉強する時間がないが、」であり、さらに真の意味は「技術の事を勉強する気もない」だったりする。
 だから、「要するに成功なんですか、失敗なんですか」という質問は「技術の事は分からないし勉強する気もないが、成功か失敗かは理解できる。そんな自分に分かるように説明しろ」という意味だったのだ。
 その結果、報道の中から、実際には読者に伝えるべき情報が欠落し、「成功だ失敗だ。誰の責任だ」という極めて限定された内容の記事が新聞紙面に踊るのが常だった。

 それに比べると、今回のはやぶさ関連報道は全体にずいぶんと質が上がった。
 そしてJAXAのマスコミ対応も、今回はかなり良かったと私は判断している。一般向けの広報が足りているとは思わないのだけれど、それでもメディア向けには、正確な記事を書くに十分な情報がタイムリーに提供されたと思う。ただし、的川泰宣教授、寺園淳也さんといった個人の努力に負うところが多かったことは要注意点だ。組織的な広報という点ではまだまだできることはあるし、今もなお十分ではない。

 ともあれ、かつて種子島で「衛星は遠地点高度3000km程度の軌道に入った模様」と聞かされて、「つまり種子島から3000kmの沖合に落ちたんですか」と質問した毎日新聞の記者(もうあれから8年近く経った。そろそろ毎日だとばらしてもいいだろう)や、「リレーの配線ミスか」と聞いて「リレーってなんですか?」とという史上に残るような質問をかましたNHKの記者のような、勘違い記者は一人もいなかった(正確には、東京事務所からあまりに事前勉強をしていないと思われる質問をして、遮られていた女性記者が一人いたが…週刊誌関連だったのだろうか)。
 相模原のプレスセンターや、記者会見の場で、記者間で話題になったのは、例えば「ストックホルムシンドロームのようについついJAXA/ISASに同情したくなるような状況で、どうやって正しい立ち位置を貫き、きちんとした情報を読者や視聴者に伝えるか」といようなことだった。
 それでも、例えばミニローバー「ミネルヴァ」の放出失敗にあたっては、あたかもはやぶさミッション全体が失敗したかのような記事が出た。

 一体なぜかと考えていくうちに、「報道現場の質は向上しても、記事をまとめてタイトルを付けて出向するデスククラスが、旧来の考えにとらわれているのではないか」ということに気が付いた。
 記者会見で、的川泰宣教授が「現場と会社の上のほうとは温度差がある」と発言したことからしても、会社で偉くなって報道の第一線に出てこなくなった元記者らは、どうやらまだ「要するに」の二分法の側にいるらしい。

 結局、清水正巳編集委員の記事は、二分法の残渣に基づいているために奇妙なものになってしまったのではないか——そう私は考える。

 ネット時代を迎えて、「事物を伝える」ことはメディアの特権ではなくなった。逆にメディア側が「広く伝えている」が故にウォッチングの対象となり、時には批判されるようになった。
 私も含めてプロの物書きは、決して一般大衆を軽んじることはできない。なぜなら、その中には本物のプロ、まさに記事が対象としている分野の職業人が多数含まれるからだ。私たちは、最初の事実認識の時点で、それら多数の人々の視線にさらされていることを忘れてはならない。「成功か失敗か」で複雑な現実を極度に単純化してしまうなら、信用を失うのは我々書き手の側なのだ。

 以下に、清水正巳編集委員の記事に関する記述へのリンクを作成することにします。blogで言及した方は、この記事にトラックバックをかけて下さい。また、その他Webページで言及した方は、コメント欄で申し出てくれれば、以下に追加します。

野尻ボード 野尻抱介さんの発言(12/22)
KiTさんの日記(12/22の項)
小熊善之さんの日記(12/23の項)


 また、清水委員の側から、この記事に反論がありましたら、コメント欄、メールなどでお願いできればと思います。別途、当blogで独立した記事として掲載します。もちろん、日本経済新聞のホームページで反論を行っても結構です。その際には当記事へのリンクや私の名前の掲載を行っても構いません。

2005.12.17

「はやぶさリンク」:Lullaby of Muses

MUSES 今回のイトカワ着陸ではやぶさに興味を持った人のために、はやぶさ関連グッズの大物を紹介する。

Lullaby of Muses 甲斐恵美子

 2002年、打ち上げ前に制作されたジャズ組曲。はやぶさの行程を全11曲の組曲で表現した大作だ。

 この曲はJAXA/ISASの矢野創さんが、ちょっとした機会に天文学者にしてジャスCDのlyraレーベルの主宰者である尾久土正己さんと知り合ったところから始まったのだそうだ。「探査機のテーマ音楽が欲しい」という矢野さんのアイデアに、音楽家が応えた結果である。アルバムには矢野さんが力のこもった長文の解説を書いている。

 音楽は即興中心のハードなジャズではなく、メロディを主体とした美しいものだ。自由自在に跳ね回る中谷泰子さんのヴォーカルが素晴らしい。

 このCD、以前は相模原のISAS売店や内之浦の土産物店などでも入手できた。現在もLYRA-RECORDから通信販売で購入することができる。注文ページ。詳細ボタンを押せば、全曲の試聴も可能である。

 もしも興味が出たならばどうぞ。

12/20記 ヴォーカルの方を間違えていたので修正しました。

2005.12.16

「はやぶさリンク」:サイエンスZERO、ネットの反響

 はやぶさの旅は続く。が、地上の報道は一段落だ。

 明日17日、NHKの科学番組「サイエンスZERO」が、はやぶさの特集を組む。

サイエンスZERO
小惑星探査機「はやぶさ」計画の全貌に迫る
放送日 12月17日(土)午後07:00〜教育
再放送 12月20日(火)午前02:35〜BS2
再放送 12月21日(水)午前00:00〜教育

 番組側は川口淳一郎プロマネと出演交渉をしていたが、はやぶさの状況が予断を許さないということで、私にバックアップの話が回ってきた。
 もしもはやぶさが今もプロマネの指示を必要とする状況ならば、私が真鍋かをりさんとテレビに出演していたのだが(残念!)、数日前に「川口先生がどうやらOKです」という電話がかかってきた。本日16日に収録が終わったはずである。

 もちろん、私が出るよりも川口プロマネが自ら計画の意義と成果を説明するほうがずっと良いに決まっている。おそらく、当事者がメディアでそれなりの時間をかけて語る最初の機会となるはずなので、興味のある方は見てみよう。


 ネットには、はやぶさの探査に関する反響が多数アップされている。そのうち、ネットならではのものを。

 まずは「はやぶさタン」。ネットのオタクカルチャーにはなんでもかんでも擬人化して名前の後ろに「タン」をくっつけて呼ぶ流れがある。

 私は3人の「はやぶさタン」を確認した。
tear dropさん:実は知り合いである。ミッション図解も作成している。
あしべ精肉店さん
藤野一宏さん

 12/17追記:野尻抱介さんによると、以下の「はやぶさタン」が更に確認された。
たゆたひ日記 はじめてのおつかい
Blogum はやぶさタンカルテ
Re:ヘッドライト・テールライト ..いくととさんイラストはこちら
鋼花製作所Lobby あきらめません

 そしてフラッシュ。主に巨大匿名掲示板の2ちゃんねるの住人が作成している。理解としては現代版「落首」と思えばいい。もちろん著作権どうのこうのというのは野暮というものだろう。
 出来のいいフラッシュは、単なるネットの落書きではなく「作品」の域にまで達している。

はやぶさ、帰って来い…
hayabusa

 日本でインターネットが一般に開放されてから10年以上経つが、過去、これほどまでにネットで一般に支持された宇宙機は無かった。
 はやぶさミッションのどの要素が、これほどまでに人々を魅了したのか。宇宙開発に関わる者はよく考える必要があると思う。

 はやぶさをはやぶさたらしめた要素、人々の耳目を集めついにははやぶさを支持するに至らしめた要素、それこそが日本の宇宙開発に長年欠落してきたものではなかったのか——私はそう思うのだ。

 それは挑むことだ。過去とは全く質の異なるチャレンジに、果敢に挑むこと。安全牌と無謀の境目の細い一線を見極め、臆せず境界線上を走り抜けること。

 過去、宇宙開発関係者は、「危険なことは国民が支持しない」「マスコミが失敗失敗と騒いで既存計画も危うくなる」と言い、安全牌の計画を推進してきた(特に旧NASDAにはその傾向が強かった)。はやぶさは、そのような行き方が言い訳の結果であったことを明らかにしたといって良いだろう。

[Hayabusa link]: Unfinished Business

Translated by JSpace http://mole.den.hokudai.ac.jp/jspace/.Thank you.

After the press conference, I had a conversation with the Project Manager Kawaguchi:

"Professor Kawaguchi, You looked victorious today."

"Did I?"

"In today's conference you spoke a lot, and you touched the topics that you were never able to discuss in the previous conferences (i.e. the significance of the Hayabusa mission, and its direct comparison to the missions of NASA and ESA, etc.) I think you could finish this one on good terms, and this is going to open up the path to future missions. Don't you think so?"

To that , he answered:

"No, I'd rather say we are still seeking for victory in defeat. Hayabusa is still waiting for us, waiting for the return trip to earth. That's our unfinished business."

P.S. - As for the Lipovitan-Ds with special label and "Unagi Pie" that I received in the "Rocket Festival" talk live held in Dec.2, I handed them to Project Manager Kawaguchi in person today.

P.S.2 - I heard that Terakin (THE Lipovitan-D guy in JAXA "Hayabusa Live" blog!) has received two cartons of Lipovitan-D, directly from Taisho Pharmaceutical Co., Ltd, the manufacturer of the product. Apparently the people in Taisho saw the "Hayabusa Live", and decided to show their gratitude.


[Hayabusa link]: Press Conference on 14th Dec.

Following is transration by JSpace http://mole.den.hokudai.ac.jp/jspace/ Thank you for their effort.


Here are details of the press conference. Prof. Junichiro Kawaguchi (Project Manager) and Prof. Yasunori Matogawa attended.

Explanation by PM Kawaguchi:

During the operation via Usuda station at around 1:15pm on 8th Dec, we had decrease both in signal level and the range rate from Hayabusa. Because they are decreasing slowly, we suspect it was caused by attitude disorder occurred from blowout of leaking gas.

At that time on 8th Dec, Hayabusa was in the state waiting for recovery of chemical propulsion system. It was in the spinning state with the period of about 6-min in order to help the operation to stabilizate its attitude.

The capability of attitude control with xenon jets for the ion engines was not sufficient. The disturbance torque is larger than the capability of xenon jets, and we could not stop the loss of attitude balance.

It seems that the vehicle is now in coning motion surpassing the critical nutation angle (If the vehicle in coning motion surpasses that angle, the attitude changes drastically and the vehicle turns "upside down").

Since 9th Dec, communication to Hayabusa has been stopped. According to our analysis, however, there is a 60% chance for the recovery.

From now on, we have to switch the operation policy from the regular operation to the salvation mode. We will continue the salvation mode for one year. If we can recover the vehicle by the beginning of 2007, the ion engines will ignite from that time and it will return in 2010.

Hayabusa is designed to stabilize passively, and the current coning motion will eveutually converge to the rotation around the Z axis (around the parabola axis).

It may be difficult to maintain both of the power and communication line concurrently at this moment, from the disturbance on 8th Dec.

Presently, Hayabusa is in almost the same position as Itokawa. Uncertainty of the orbit (note by translator: snipped in the original article. According to JAXA press release, I suppose "Even if supposing the uncertainty of the orbit, we can track the vehicle by orienting the Usuda antenna to Itokawa, and the risk of losing Hayabusa will be minimal.")

According to our analysis results, the possibility to satisfy the condition among the sun and the earth is relatively high after convergence of coning motion. The possibility of recover by Dec 2006 is 60%, and that by the spring of 2007 is 70%.

If we could re-ignite the ion engines by the 2007 spring, the vehicle will be able to return to the earth on June 2010.

Questions and answers session:

Kyodo Press: Was the disturbance torque caused by fuel leak? Is it the same leak occur on November 26th and 27th?

Dr.Kawaguchi: Fuel leaked twice on November was pooled in the pipes and insulation blankets. We presume that the pooled fuel blew out on December 8th. Blown fuel was very little as just 10ml or 8ml. However Xenon jet could not control the disturbance.

Mainichi Shimbun Press: I would like to confirm present communication status. And what do you think about recovery of thruster system after recovery of position?

Dr. Kawaguchi: We need directional medium-gain and high-gain antenna, to receive any signal from the probe. That is, we need good convergence of the radio beam. High-gain antenna cannot be used with very little attitude alignment mismatch. On December 8th, we lost connection while we were still in medium-gain antenna mode. So we need to send a command from the earth to switch to low-gain antenna operation through low-gain antenna. However, the wave-receiving range of the low-gain antenna is approximately 60 degree. With very unstable axis coning movement, it is impossible to keep receiving command from the earth even using low-gain antenna. The coning movement takes about one month to be stabilized enough to regain communication. Now we are waiting for that.

In this status, the probe’s communication computer enters stand-by mode by shutting down the power. This probe is designed to restart from the mode with the commands from the earth. Thus, unless the equipments are broken from lower temperature, the probe should be recovereable with commands from the earth.

Thruster system has not recovered on December 8th. It is just a speculation, but wiring to drive shutting valve could be broken by fuel leak. On the other hand, another wiring for thermometer running the same place is still working. Something may be happening.

Mainichi Shimbun Press: Is there possibility for the recovery of thruster system?

Kawaguchi: We'd like to try recovering it. After recovery of communication, we'd like to start recovery for the thruster system. But there is a risk of total loss of the vehicle during the recovery process. We must get things going carefully considering the risk.

Tokyo Simbun Press: Is the coning motion converging? On what do you base the recovery chance of 60% over the coming year?

Kawaguchi: Convergence is based on the physical law. The direction of the rotation axis after convergence is a crucial key for the recovery; it's a matter of probability. The probability of communication recovery by Dec 2006 is 60%, and that by the 2007 spring is 70%.

Asahi Shimbun Press: Is there a possibility for failures of other equipments from three-year extension? And what about the running cost during the extension?

Kawaguchi: Of course, the probability of equipment failures will increase. We have to restart them from the almost freezing state. The figures I put before does not mean that "it can return to the earth with 70% probability"; it means that "for the 70% probability of communication recovery, we will continue the operation."

It costs, of course. If the government and citizens think it's not worth their money, we have to abandon the operation. But the JAXA committee on yesterday did not say we should give up. For details, please ask the JAXA officers.

Yomiuri Shimbun Press: Please tell us your impression about extension of return.

Kawaguchi: Very depressing for me. I expected the achievement of the mission in good condition; the 3-years extension will increase risks and make the operation harder.

However, we think we can recover with good reason. Still, even if it's recovered, the probe is fill of wound now and the return trip will be very hard. Yet, if there is any chance, we have a will to give it a try.

Nikkei Science: How will the recovery of the thruster system affect the return?

Kawaguchi: Currently, the recovery of the thruster system is not the requirement for the return trip to the earth. We have a plan of return trip by controlling the attitude with xenon jets after we get the leaked gas out of the probe by heating the vehicle. It is still in the planning phase, and we are studying its viability.

(Next from the Sagamihara campus...)

Astronomy Monthly(Gekkan Tenmon): Are there any change in your view on the sample retrieval after these events? How much scientific discovery could you make out at this point? You're experiencing another difficult situation now, what is the biggest lesson you've learned in these troubleshooting experience?

Kawaguchi: We haven't been able to download any new data, so our view is still unchanged. Status of the vehicle did change, and there are possibility of data being lost. If minimum power supply is available the data will hold, but we can't tell for sure at this point.

As for scientific discovery, we still have undisclosed informations, but the science community plans to open them to the public as soon as possible.

There are considerable amount of information that only Hayabusa could gather. We won't be repeating on its content for today. At some future date we will publish a formal summary. I consider that these results funded by national taxes should be primarily available to this country. We fear that if these data spread, any researcher from other countries could release a paper as first author. And of course contribution to the world must be considered, too.

As for achievements in engineering, we think that achievements in overall operations have a prominent importance, not only in troubleshooting.

We attempted the first sample return in this world. Space development in the past was nervously carrying out projects with solid chance of success under close watch by the mass media. But we think it is also neccesary to take risks and go on forward for the space development to progress.

If you build a hight tower and climb it you will see a new horizon. Hayabusa has inspired the morale toward building such tower on our own, and I think Hayabusa was meaningful on that account.

I suppose that neither NASA nor ESA can issue a proposal on sample return right now. At least they have to have success to the level of Hayabusa for that. So if there is Hayabusa 2, it would be something that only Japan can do. We look forward to it by all means.

Astronomy Monthly: Are there any similar plans outside Japan after Hayabusa?

Kawaguchi: Numerous project proposals like sample return or ion engines have emerged after the launch. Maybe Hayabusa did touch these off. We're receiving proposals for joint operation. This is because they fear there is too much risk to do this alone, they have to have us involved. But I think we can take the lead on the next plan, rather than just to be in part of the plans from other countries. This is my personal opinion, not of JAXA as a whole. I'll get in trouble if you get this as a consensus in JAXA.(laughter in the audience)

Tokyo Simbun Press: Does the return method without the thruster system utilize xenon jets?

Kawaguchi: Yes.

Tokyo Simbun Press: Can the xenon jets generate sufficient power in the return phase?

Kawaguchi: First, the attitude control and the orbit control are different matters. Operation of the ion engines has no problem now. But in order to operate them, the attitude has to be maintained properly. We will use xenon jets for that. We think we can do it.

Kyodo Tsushin Press: What will happen when convergence of coning motion stops?

Kawaguchi: It has two alternatives, whether the power can be provided to the solar batteries or not, and whether the communication can be established or not; The possibility that both conditions are satisfied is 60-70%. Hayabusa has quite large solar battery paddles for its ion engines. When it does not use the ion engines, they can generate power enough for recovery, even if the direction of the sun is not aligned considerably.

Sankei Shimbun Press: Are you going to wait for stabilization of the attitude in the operation over the next several months?

Kawaguchi: By the beginning of February, the attitude will be stabilized and we can decrease the frequency of the operation, to two or three days in a week. Then it will recover by the autumn. That's our estimation.

Currently, there is a possibility that fragments of commands reach the vehicle. So we are automatically and continuously transmitting commands.

Nature: Please tell me details about that NASA and ESA cannot provide such proposals like yours.

Kawaguchi: I have no intention of picking a quarrel with NASA or ESA (laughter in the audience) ... You may have seen the demo of running ASIMO, but if you ask if we could pull off that kind of stunt, we can't, at least in a short period of time. We have to consider political context in space programs. We are required to pursue the matters with high feasibility because they are tax-supported. Please note it's just my personal opinion. (laughter in the audience)

But, this tendency leads to the mainstream of the space development combining established technologies, called "off-the-shelf technology". Stardust by NASA is one example.

This plan is very easy to consider from the administrative view; Cheap and safe. Highly effective if it matches to the scientific purpose.

However, off-the-shelf way has no future, if there exist no more ready-made technologies on the shelf.

When such time comes, can NASA or ESA really shift their policy from combination of ready-made technologies? I think it will be hard. The more capable a bureaucrat is, the more hesitation he feels, I think.

But, because we have experienced the Hayabusa mission, we can say distinctly, for example, that "we can do at least the landing on an asteroid." A large number of application of research collaboration for us indicates the background that we are the one who can declare "we can do it".

Again, let me make sure that I don't intend to speak against NASA or ESA.

Mainichi Shimbun Press: How much is the chance of succeeding to return to the earth?

Dr. Kawaguchi: If Hayabusa is healthy, I will be confident of the return. But present condition of the probe is like a ill person that could be drop dead with a sneeze. Returning to the earth is like telling serious ill person to go to a postbox far away and drop a mail. Fortunately just one of four ion engines is enough to bring Hayabusa back to the earth. The condition is not very strict. To be back in 2007, all ion engines had to be healthy. But changing the plan to 2010 made requirment for power from ion engines much smaller. Of course, long term flight increase the possibility of failure.

Mainichi Shimbun Press: Is it getting worse than the situation on 7th December?

Kawaguchi: I think it stays unchanged. Drop of the temperature freezes the thruster oxidant. It causes the decrease of its volume, increasing the risk for another leakage. There are various factors and prediction is difficult. But it does not mean more difficulty in the return, for there are no new troubles.

NHK: Is the communication suspended currently, including the beacon mode? Isn't there any problem by complete discharge of the batteries?

Kawaguchi: it is suspended including the beacon. The batteries are of no concern to the return. As long as the attitude is proper and the solar batteries can generate the power, it can return to the earth.

NHK: Is the vehicle temperature OK, though the power is completely down?

Kawaguchi: It's unexpected. Because the heaters are off, the inside of the vehicle is in the temperature unexpected in advance. No doubt it's severe.

NHK: From which direction did the gas blow out on 8th December?

Kawaguchi: We don't know now.

X-Knowledge: I'd like to ask you what kind of unreleased data will be released from now on, as far as you know.

Kawaguchi: High-resolution images, of course. Gravity mapping with high precision, results of infrared and X-ray spectrographs ... the genre is as explained so far. Results of initial analysis will be corrected in the beginning of next February. A large-scale conference on the moon and planets will be held at Johnson Space Center in next March. We will release results there.

Monthly Star Navigation (Hoshi Navi): On the JAXA's website, success criteria for Hayabusa mission is 200 points now. How is the current rating?

Kawaguchi: Only the reentry of the capsule remains. As for big factors, four of them have finished ... I'd like to say so, but sampling result is now quite ambiguous. I think 70% has been completed. Once the rating as defined prior to launch reached 100 points, the succeeding points acquired are the same to me. I'll be satisfied if you evaluate it in good-mark system.

Aviation Week: In return to the earth, do you go through the procedure of stopping the ion engines, attitude modification by xenon jets, and restart of the ion engines? And can the xenon freeze?

Kawaguchi: Exactly for the operation procedure. While xenon freezes at -110 degrees Celsius, we think the temperature will not decrease that far because the sunlight always shines it.

Astronomy Monthly: Even on the return in 2010, will the return point be Woomera, Australia? And what is the most difficult in the return?

Kawaguchi: The return point is Woomera. The most difficult thing is sustenance of the attitude. It is almost a miracle that we can keep operation even though the wheels and thrusters have troubles. The thruster system have to be recovered after enough and serious consideration on risks. Attitude control by xenon jets is sufficient in usual situation, but now it's also severe under the situation to be almost in critical condition by just one sneeze.

NHK: Won't the designed life be expired in more than 7 years of operation?

Kawaguchi: The designed lifespan of the vehicle is four years. This operation exceeds it.

Yomiuri Shimbun Press: Is there any influence on other probes from now on?

Kawaguchi: In some projects in the developing phase now, there may occur the interference in utilization time of Usuda Station; SELENE, the moon probe, at this situation. I think it can share the time successfully. After that, it will be all right up to 2010.

Prof. Matogawa: Final word. Thank you very much for your media coverage. The coverage will converge for a while, but anyway thank you for your all-night coverage. This time we had the largest coverage system since the "Ohsumi" (the first Japanese satellite launched in 1970) mission. Yesterday I had a meeting with newspaper editors, and I felt a significant temperature difference from frontline press reporters. I thought that your enthusiasm in frontline reporters is not spread to the higher level. Please propagate it above (laughter in the audience).

This time, Hayabusa team have grown greatly in a few months, and some young members have proposed new mission ideas. Among JAXA executives, an atmosphere that "we must support them" have been coming up.

We will continue releasing our news frequently.

We appreciate your continued understanding and cooperation.

( Translated by JSpace http://mole.den.hokudai.ac.jp/jspace/ )
よろしくお願いいたします.

2005.12.14

「はやぶさリンク」:未完のミッション

 記者会見の記事にちょっと足りない部分(書ききれずに語尾が書いていない部分などがあった)を書き加えました。

 記者会見終了後、川口プロマネに、「『勝った』と思っているのではないですか」と聞いてみました。
「勝ったって?」
「今日、先生はよく話しましたし、今までの記者会見ではとても触れられなかった話題(はやぶさの意義やNASA、ESAとの比較など)にも触れてますから。次につなげることができたと考えているのではないですか」

 答えは以下の通り。

「いや、私としてはまだ『負け』と思っていますよ。何しろ今も、はやぶさは未完のミッションですから」

追記:ちなみに、ロケットまつりで受け取った特製ラベルのリポビタンDと、うなぎパイは、本日、川口プロマネに直接お渡しました。

追記その2:リポDで一躍有名になったテラキンさんのところにはblogを読んだ大正製薬関係者から、直々にリポビタンDが2カートン届いたそうです。

「はやぶさリンク」:12月14日午前の記者会見

記者会見の様子です。

 出席者は川口淳一郎プロマネと、的川泰宣教授。

川口プロマネの説明

 12月8日午後1時15分頃の臼田局可視で、受信レベルの低下とレンジレートの減衰が発生。受信レベルとレンジレートがゆっくり減衰していることからガス噴出に伴い姿勢異常が生じたと推定される。

 12月8日時点で、はやぶさは化学推進の復旧待ち状態の状態。姿勢の安定を図るために周期6分ほどのスピン状態に入っていた。

 イオンエンジン用キセノン噴射による姿勢制御の能力は十分ではなかった。外乱トルクがキセノン噴射の制御能力を超えており、姿勢が崩れていくのを止めることはできなかった。
 探査機は現在、臨界ニューテーション角(これ以上のみそすり運動が起こると姿勢が大きく変動して探査機が“ひっくり返る”状態になる)を超えるコーニング運動(みそすりの首振り運動)に入っていると考えられる。

 12月9日以降、はやぶさとの交信は切れている。ただし解析の結果、復旧の可能性は60%ある。

 今後運用方針を、通常運用から救出モードへの転換が必要になる。救出モード運用は1年間継続する。2007年初めまでに復旧できた場合にはその時点からイオンエンジンを運転して2010年に地球帰還させる。

 はやぶさは受動的に安定するよう設計されており、げんざいのみそすり運動は最終的にZ軸(パラボラアンテナ回りの軸)の回転に収束するようになっている。

 現時点では12月8日の外乱によって、電源と通信回線の両方が常時確保できない可能性がある。

 現在はやぶさはイトカワとほぼ同じ位置にある。軌道不確定性を考えても地上局からの再捕捉はできる。

 解析結果によるとみそすり運動収束後に、太陽と地球との条件を同時に満たせる可能性は比較的高い。2006年12月までに復旧できる可能性は60%、2007年春だと70%となる。
 2007年春までにイオンエンジンを再稼働させれば、2010年6月の帰還が可能になる。

質疑応答

共同通信 外乱トルクの原因は、燃料のリークか、それは11月26日と27日に発生したものか。

川口 11月の両日に漏れたものが、探査機内の配管内や断熱ブランケット内などにたまっており、12月8日になって噴出したものと推定している。12月8日に噴出したのは燃料にして10ccとか8cc程度の僅かな量。しかし、現状のキセノン噴出ではこれでも制御しきれなかった。

毎日新聞 現状の通信状況を確認したい。姿勢復旧後のスラスター系復旧の見通しはどうなっているのか。

川口 探査機から何らかの信号を送ろうとすると指向性を持ったミディアムゲイン、ハイゲインのアンテナを使わざるを得ない。これはどれだけ電波ビームを絞って送信するかということだ。ハイゲインアンテナは、姿勢が少しでもずれると送信できなくなる。
 12月8日には、ミディアムゲインアンテナを使うモードのまま通信が切れてしまった。したがって、ローゲインアンテナ経由で地上からコマンドを送って、ローゲインアンテナを使うモードに入れなくてはならない。
 しかしローゲインアンテナでも電波を受かる範囲は60度程度であって、おおきなみそすり運動を起こしていると、ローゲインアンテナでも常時地上からのコマンドを受信できなくなる。現在はこの状態。
 現在の推定では、みそすり運動が通信可能なまでに減衰するのに1ヶ月以上かかる。現在はみそすり運動が減衰するのを待っている。

 この状態では電源が落ちて通信を司るコンピュータ待機状態に入る。これは、地上からのコマンドを受けるとリスタートするように作られている。従って、待機状態の間に温度低下などで機器が壊れない限り、地上からのコマンドで復旧させることができる。

 スラスター系は12月8日の時点で復旧には至っていない。ここからは推定になるが、リークに伴って遮断弁を駆動する配線が破損したかとも思えるが、同じ場所を走っている温度計測配線は生きている。何が起きているは十分な検討が必要。

毎日 スラスター系復旧の見通しはあるのか。

川口 復旧に努力したいと思っている。通信が復旧したらスラスター系復旧に入りたい。ただし、スラスター復旧過程で探査機全損ということもありうる。リスクを検討して慎重に進めなくてはならない。

東京新聞 首振りの大きさは収束の方向に向かっているのか。復旧確立が今後1年で60%の根拠は。

川口 収束は物理の法則である。首振り運動収束時に回転軸がどちらを向いているかが、復旧の鍵となる。これは確率だ。2006年12月までに通信可能になる確率は60%、2007年春までだと70%となる。


朝日新聞 3年延長により他の機器が故障する可能性は。また、その間の運用コストは。

川口 機器故障は当然可能性が上がる。ほとんど凍結状態から再立ち上げするので、先ほど出した確率は「70%の確率で地球に戻れる」ということではない。70%で通信復旧できる可能性があるなら、運用を続けようということだ。
 当然経費はかかる。政府と国民の判断によって非効率と判断されれば運用をやめざるを得ないが、昨日のJAXA役員会では、止めろということにはならなかった。これ以上はJAXA役員に聞いて頂ければと思う。

読売新聞 帰還日程の延期の感想を。

川口 私としては残念の一言である。順調にミッションが達成できることを期待していたわけで、3年間延びることで、リスクは増えるし運用も難しくなる。
 しかし、我々としては合理的理由から復旧はできると考えている。たとえ復旧したとしても、満身創痍であって地球帰還は容易ではない。少しでも可能性があるなら、帰還に挑む心づもりだ。

日経サイエンス スラスター系復旧と帰還の関係はどうなっているのか。

川口 現状、スラスター系の復旧を地球帰還の条件にしていない。探査機の温度を上げて漏洩ガスを十分に放出してから、キセノン噴射で姿勢を制御しつつ地球に戻る方策を考えている。この方法は現在完全に確立はしていない。その方向で検討を続けている。

相模原へマイク

月刊天文 サンプル採取について、その後見解に変化はないだおるか。現時点までにサイエンス的成果はどの程度出ているのだろうか。現在また大変な事態を迎えて、一連のトラブル対処について得られたもっとも大きな教訓はなにか。

川口 新たなデータダウンロードをできていないので、見解に変化はない。現在また探査機の状況が変わったので、データは消えてしまった可能性もある。電力がわずかでも供給されていれば、データは保持されるのだが、現状では確定できていない。
 サイエンス成果については、まだ公開していないものもあるが、出来るかぎり速やかに公表したいとサイエンスコミュニティは考えている。
 はやぶさのみが得られた情報は、かなり多い。これについてここで繰り返すことはないだろう。多少先にあるがきちんとしたまとめを公表することになるだろう。我が国として国民の税金でまかなわれた成果は、その成果を我が国が享受する必要があると考えている。データが拡散すると、他国の研究者が第一著者となるペーパーが出てしまう可能性もある。もちろん全世界への貢献も考えなくてはならない。
 エンジニアリングの成果では、トラブルシューティングのみならず運用全体で得られた成果を重要だと考えている。
 今回、サンプルリターンを全世界で初めて試みた。宇宙開発は過去、マスコミの監視の中、びくびくしながら、確実性の高いプロジェクトを実行してきた。しかし宇宙開発には、リスクを取っても先に進むということも必要なのではないか。

 高い塔を建ててそこへのぼってみれば新たな地平が見えるものだ。そのような塔を自ら建てるという意識を鼓舞したという点でははやぶさには意味があると考えている。

 現状、NASAもESAもサンプルリターンもおそらくプロポーザルを出せないだろう。少なくともはやぶさレベルまでは成功させなくてはならないから。
 だからはやぶさ2があるとすれば、これは日本にしかできないだろう。是非ともやりたい。

月刊天文 はやぶさ以降、似た計画は外国で立ち上がっているのだろうか。

川口 打ち上げ以降、海外からサンプルリターン、イオンエンジンといったプロジェクト提案が次々に出ている。これははやぶさが触発したものか。我々に共同実施の申し込みも来ている。これは、我々を巻き込まないとこわくて出来ないからだ。
 だが、私としては他国の計画に参加するのではなく、われわれが主導して次の計画を進めていってもいいのではないかと思う。これはJAXA全体の意見ではなく、私の意見だ。JAXAの意見と思われては困ってしまうのだが(笑いが起こる)

東京新聞 スラスター系を使わない帰還の方法とはキセノン噴射で行うのか。

川口 そうだ。

東京新聞 帰還段階になるとキセノン噴射は十分な力を発揮するのか。

川口 まず、姿勢と軌道は別物だ。イオンエンジンの運転には現状問題ない。しかし運転するには姿勢をきちんと保たなくてはならない。そのためにはキセノン噴射を使う。それはできると考えている。

共同通信 首振りが終わるとどういう状態になるのか。

川口 太陽電池に電力が供給できるかどうか、通信が確立できるかどうか、の二者択一であって、両方が成立する確率が60〜70%ということである。イオンエンジンを搭載しているのではやぶさはかなり大きな太陽電池パドルを持っている。イオンエンジンを運転していなければ、太陽の方角がかなりずれていても、復旧に必要な電力を発生できる。

産経新聞 今後数ヶ月の運用は姿勢安定を待ち続けるということか。

川口 2月上旬には姿勢が安定するので、運用をまばら、一週間に二三日にしてしてもいい時期となる。そうすれば秋頃までに復旧するだろう、という見積もりだ。
 現在は、切れ切れにでもコマンドが届く可能性があるので、自動的にコマンドを送信し続ける仕組みを動かしている。

ネイチャー NASAやESAはそのようなプロポーザルを出せないということをもっと説明して欲しい。

川口 NASAやESAにケンカを売っているつもりはないのですが(笑いが起きる)…ASIMOが走りましたけれど、すぐにあれをやれといってもできない。宇宙開発はポリティカルに進めざるを得ない。税金を使っているので確実性の高いことを追求せざるを得ないのだ。あくまでも個人的見解ですよ(笑いが起きる)。
 しかし、これを続けていると、確実な技術を組み合わせて行う宇宙開発が主流になってしまう。オフザシェルフテクノロジーという。アメリカのスターダストはこれだ。
 これは行政的には非常に考えやすい計画だ。安いし安全。うまくサイエンスの目的に合致すれば非常に効果的である。
 しかし、オフザシェルフテクノロジーは、棚の上の出来合い技術がなくなれば、そこでお終いだ。
 その時に、NASAやESAが、出来あい組み合わせの状態からポリシーを転換できるかどうか。私は難しいと考える。有能な役人であるほど、転換に躊躇すると思う。
 しかし我々ははやぶさをやったおかげで、例えば「小惑星への着陸まではできます」とはっきり言うことができる。共同研究の申し込みが多い背景には、我々なら「できる」と言い切れるということがあると考えている。
 くれぐれもNASA、ESAの悪口を言っているのではないことを付け加えておく。

毎日 地球に帰還できる確率はどの程度か。

川口 健全な探査機ならかなり自信を持てるのだが、現状はくしゃみひとつで危篤に陥る状態である。帰還は、重病人にポストまで歩いて貰ってはがきを出そうとしているようなものだ。イオンエンジンは4基中1基生きていれば帰ってこれるので、非常に条件は緩い。2007年帰還だとイオンエンジンが健全でなくてはならなかったが、2010年になったことでイオンエンジンにかかる負荷は非常にゆるくなっている。もちろん長時間になることで故障確率は上がるのだが。

毎日 12月7日時点と比べてもっと難しくなっているのか。

川口 私は同じと思っている。温度が下がるとスラスター酸化剤も凍る。凍ると体積が縮小するので、新たな漏洩が発生する危険性もある。さまざまなファクターが存在して予測は難しい。しかし新たなトラブルがなければ、帰還が難しくなったというわけではない。

NHK 現状ビーコンも含めて通信は切れているのか。バッテリーが放電しきったことで問題はないのか。

川口 ビーコンも含めて切れている。バッテリーは帰還には関係ない。姿勢さえ正しくとれて太陽電池が電力を発生できれば帰還できる。

NHK 探査機温度は、完全に電源ダウンしても大丈夫なのか。

川口 想定外ではある。ヒーターが切れてしまうので、探査機内部は、事前の想定外の温度となる。きびしいことは間違いない。

NHK 12月8日にどの方向からガスが噴出したのか。

川口 現状では分かっていない。

エクスナレッジ 未公開データで、これからどのようなものが出てくるか分かる範囲でお聞きしたい。

川口 もちろん高精細画像がある。高精度の重力マッピング、赤外とX線分光の結果…ジャンルとしてはコレまでに説明した通り。初期解析の結果は来年2月の初めに集まる。来年3月ジョンソン宇宙センターで月・惑星に関する大きな会議があるので、そこで成果を出していくことになるだろう。

月刊星ナビ 今ホームページ上ではミッション達成度は200点になっているが、現状の採点はどうなっているか。

川口 残されているのはカプセルの再突入だけである。大きな要素としては、4つまで終わった…といいたいところだが、サンプル採取が非常に曖昧なってしまっている。7割以上はできていると考えている。
 打ち上げ前の採点表で100点を超えれば、私としては同じだと思っている。加点法で見てもらえれば私としては満足である。

エイヴィエーションウィーク 帰還の時はイオンエンジンを止めてキセノン噴射で姿勢修正、またイオンエンジン起動という手順を踏むのか。またキセノンの凍結はありうるのか。

川口 運用はその通り。マイナス110℃でキセノンは凍結するが、太陽が常時当たっているのでそこまで温度が下がることはないと考えている。

月刊天文 帰還場所は2010年でもオーストラリア・ウーメラか。また帰還で最も難しいのは。

川口 帰還はウーメラ。もっとも難しいのは姿勢維持だ。ホイールもスラスターもトラブルを出してなお運用をできているのが奇跡のようなものだ。スラスター系はリスクを十分考えつつ復旧を図らねばならない。キセノン噴射による姿勢制御は、通常ならば足りるのだが、くしゃみひとつで危篤ということなので、きびしいことは変わりない。

NHK 7年以上の運用となるが設計寿命は尽きないのか。

川口 探査機の設計寿命は4年。それを超える運用となる。

読売新聞 今後の探査機に影響を与える可能性はあるのか。

川口 現在開発フェーズにあるプロジェクトでは、臼田局の利用時間に干渉が生じる可能性がある。現状では月探査機「セレーネ」がある。これはうまく時間をシェアできると考えている。以後、2010年までという範囲では大丈夫だろう。

的川 最後に一言。どうも取材ありがとうございます。しばらくは報道は収束するでしょうが、徹夜取材ありがとうございます。今回は「おおすみ」以来の取材体制を敷いて貰いました。昨日、論説委員との懇談がありましたが、現場の記者の方と大分温度差があるのを感じました。現場の記者の方の熱気が上に伝わっていないと感じましたので、皆さん、よろしく御願いします(笑いが起きる)。
 今回、僅か数ヶ月ではやぶさチームも大きく成長しましたし、「こんなミッションをやってみたい」という若手も出てきました。JAXA役員の間でも「これはサポートせねば」と言う雰囲気がでてきている。
 今後ともニュースがあればなるべくひんぱんに出していこうと思っている。
 今後ともよろしく御願いします。

「はやぶさリンク」:速報、帰還は2010年6月に

 記者会見が始まりました。

 12月8日に再度燃料の漏洩が発生。その後現在に至るまで復旧ができないでいる。復旧可能性は比較的高いが、帰還を2010年6月に延期する。

 詳細は、追ってアップします。

2005.12.13

「はやぶさリンク」:明日14日、朝9時30分から記者会見

 明日、12月14日水曜日朝9時30分から、JAXA東京事務所に置いてはやぶさ関連の記者会見があります。

 午前11時頃には記者会見の概要をアップできるかと思います。

Press Conference about Hayabusa present status, will held at 9:30 14rh Dec. JST.

I intend to upload Japanese article at 11:00 or so.(S.MATSU)

2005.12.07

[HAYABUSA link]: Press Conference at 16:50 on 7th Dec. JST

Following is the transration by Mr.zunda. Thank you!

Quick update from the press conference:

It seems unlikely that the bullet has been shot during the landing on Nov. 26th. (Comment by PAKU: To be precise, the JAXA www page says that the operation team has not confirmed data that shows a shot in the downloaded telemetry.) Chemical thrusters have not recovered yet. Altitude of the vehicle has been controlled with the ion engine. (Note by zunda: the JAXA www page says that they are using xenon gas for the ion engine as propellant.)

Hayabusa will leave Itokawa later than Dec. 14th. Journey plan is still being built.

Details will be posted here after the press conference.


Following is the transration by Mr.RogueEngineer. Thanks a lot!

Rough translation to English (briefing part only, no Q and A session):

The report from the press conference on 4:50 PM, attended by Project Manager Junichiro Kawaguchi and Professor Matogawa.

Briefing from Project Manager Kawaguchi:

As already reported, the recover operation from the safe mode is not going well. On November 19th, we established beacon communication with low-gain antenna.

From November 30th, we started communication with on/off radio signal (1-bit communication).
On December 1st, intermittent communication of 8bits/sec with low-gain antenna was established.

From that, we found out:

As a result of attitude control on November 27th, it seems that electricity loss has occurred due to great change in attitude or other cause.
Vaporization of the fuel that leaked inside of the probe might have caused drop of temperature of significant number of equipments. At the same time, loss of electric power caused deep discharge of battery. These seems to have resulted in resetting of electrical module in the system. We are still analyzing the details.

On December 2nd, we tried restarting chemical engine (thruster), but we had marginal thrust, and it was not fully operational.

On December 3rd, we confirmed that misalignment of the direction of high-gain antenna and the Sun-Earth was getting larger, that was, 20 to 30 degrees. As a emergency attitude control, we decided to use xenon gas, which was normally used for ion engine operation, and started writing software for that.

On December 4th, we executed attitude control with xenon gas emission.

On December 5th, the alignment of high-gain antenna and Sun-Earth has recovered to 10 to 20 degrees, and we are having communication of 256bits/sec with medium-gain antenna. However, the probe is slowly rotating, and we are only having intermittent communication, once in 6 minutes.

As of December 6th, Hayabusa is at 550km from Itokawa. The distance from the Earth is 290,000,000km. Currently we are reactivating the only remaining reaction wheel, and it is running at 1000rpm.


Mainichi: Does it mean the bullet was fired, but the data was lost?

Kawaguchi: The data from firing equipment cannot be replayed unless we set the probe to launch mode. We did not have the time to switch the mode. Because the data could be lost if the firing equipment is reset due to loss of electricity, on Nov. 26th, we sent a command to transfer the data to data recorder and write protect it.

However, on 27th, we had loss of electricity and equipment reset of large scale. We lost the absolute time data of DHU (Data Handling Unit) and partition data of data recorder (DRAM). That means, we can replay data recorder, but we don't have the data that we fired the bullet.

But we still could replay the command sequence during the descent. According to that, in the sequence prior to the touchdown, there was a command to inhibit firing of the bullet by switching the bullet firing equipment back to safety mode. We are still investigating why such a command was included in the sequence.

The data we gained so far is spotty, but all the data we have suggests that "the bullet was not fired". Our take is there is 80 percent chance that the bullet was not fired.

Yomiuri: When will you be able to say anything conclusive from the analysis of data?

Kawaguchi: We are having hard time interpreting some of the data. On the first landing, the probe was exposed to high temperature from Itokawa, but the temperature of bullet firing equipment was higher on the second landing, suggesting that the bullet was fired. That is inconsistent with other data.
With current communication speed, we cannot download the image data. Once we could download the image, we'll be able to see the touchdown attitude and more detailed information could be drawn.
Before we start the operation of ion engine, we wish to download as much data as possible, and when we have sufficient data, we would like to hold a press conference for debriefing.

Anyway, the amount of data is scarce and they are inconsistent. We cannot draw any conclusion yet.

Kyodo Tsuusin: Of the record kept in the data recorder, some is lost and some is still there?

Kawaguchi: Data recorder uses DRAM and we lost partition information. That usually means all the data is lost. But when we tried download small amount of data, we could retrieve what looks like valid information.

Kyodo Tsuusin: As for the safety mode of the bullet firing equipment, did you send wrong command, or was there an error in writing inside the probe?

Kawaguchi: We don't know yet.

Following is the transration by Mr. nao. Thank you for your.effort.

Rough translation (cnt'd). Sorry for my poor English.

Kyodo Tsushin: Can the vehicle return to Earth by departure after 14th Dec?

Kawaguchi: That schedule is based on the case that we can fix the vehicle with the quickest process. We have prepared a orbit plan to start the return on 14th or 15th and reach the Earth in June 2007.

However, the thrusters are yet in bad condition. Without thruster recovery, the vehicle cannot keep the attitude. From now on, we try to recover the thrusters by rebooting powers or changing temperature of the thruster system.

If thrusters don't recover, the vehicle will return using attitude control by emitting xenon jet for the ion engines. In this case, if the attitude falls down, we have to stop the ion engines, restore the attitude by xenon jet, and then boot the ion engines again. Because the booting process of the ion engine takes considerable time, there is a risk for lacking enough running time for the engines to return to the Earth, which indicates an emerging alternative way to extend the return timing.

Kyodo Tsushin: Is there a possibility to change the pickup point in Australia to somewhere?

Kawaguchi: Indeed, the extension of return timing will increase the re-entry speed or the re-entry angle of the capsule, leading to larger risks for the capsule.

NHK How is the attitude control by xenon gas, concretely?

Kawaguchi: The vehicle has four ion engines, and the orifice of each engine has a neutralizer with four nozzles per engine in order to neutralize the jet gas electrically. The nozzles are openable and closable. By opening or closing the nozzles to emit neutralized xenon gas jets, we are controlling the attitude. Its propulsion force is very small.


Following is the transration by Mr.volunteer . Thank you!

Nikkei Science: Are the posture control on 11/27 and the power loss that followed related, or are they two independent events?

Kawaguchi: It is highly probable that the two events are related. Back in the operation on 27, thruster output was very small. So we restarted the spin which was once stopped, and at the same time sent commands to take more distance from Itokawa since it was getting closer to the asteroid.

Asahi: What do you think of the possibility that the sample were stirred up by the landing and actually gathered? And your comment on this turn of the situation where you couldn't retrieve the sample at the rate of 80%?

Kawaguchi: Escape velocity from Itokawa is equivalent to the speed of a pencil dropped from 0.5 millimeter height. It would only bounce up 0.5mm on earth, but on Itokawa where the gravity is small it would jump up more than 10 meters. Buton the second touchdown, the vehicle actually touched the ground for only a second and ascended back, so the sampler horn ascended with the sample, thus the sample would not have reached the capsule. In the touchdown on 20th the vehicle landed on the surface for substantially long time, so we think it is highly probable that the sample that were stirred up have entered the capsule.

We were able to take all the technical procedures aimed for collecting the sample. In that sense, we think that this landing has not lost its significance. Of course we're very determined to retrieve the sample. This is already an area beyond engineering demonstration. The fact that the projectile did not fire is, in a word, discouraging. We think it is essential for us to keep up our motivation for the return flight.


Following is transration by Mr.nao. Thank you very much.

Tokyo Shimbun: What is the neutralizer of the ion engines? And I'd like to know how the disorder in the thrusters is related the A/B dual systems mentioned in the last conference.

Kawaguchi: When the vehicle emits the cations, it gets charged negatively. Then the cations are attracted the negative charges and cannot leave it. So, the cations are needed to be neutralized electrically by anions. The neutralizer emits the negatively-charged gas to neutralize the jet plasma.

The disorder of thrusters is due to the movement failure of latching valves. We are trying to manage to move the latching valves by restarting the power for the valves or changing the temperature of the valves.

Yomiuri: Can the situation change if captured images are downloaded?

Kawaguchi: Yes, but here I cannot assure the success of download.

Space Authors Club: Do you mean that the latching valves of both A and B systems are stuck in with the closing state?

Kawaguchi: Yes. It seems that, on 27th Nov, several kilograms of the fuel was leaked inside the vehicle. The temparature dropped by vaporization. It is not the oxidant but the hydrazine that is leaking. On 2nd Dec, we sent commands to open the A/B latching valves, but they didn't move. It may be caused by problems in the power or wiring on the valve driving system. Freeze of valves or pipes is unlikely because we are now heating each parts in order to release the out gas. Open of the valves might cause the leakage again, but with comprehension of such risks, we are trying to move the valves.

Aviation Week: How is the operation by utilizing NASA DSN?

Kawaguchi: We are provided the usage of 70m antenna for 2 hours per day till tomorrow, by the kindness of NASA. In addition we are going to request support by the 34m antenna for one more week.

Aviation Week: You said that the reaction wheel are rotating with 1000 rpm. How is it with respect to the rated value?

Kawaguchi: We'd like to use it with 2000-3000 rpm in consultation with the vendor. They are designed for about 5000 rpm in max.

Jiji Tsushin: Did the leakage occurred inside the vehicle?

Kawaguchi: We confirmed from acceleration data on 26th that it leaked also outside through the top side.

When communication was disrupted by the large attitude disorder on 27th, there was a leakage of several kilograms, though we do not know if it is outside or inside. Its ground is the event that there occurred the downward propulsion force and the spinning speed decreased on 30th. It can be explained by our speculation that the fuel leaking inside the vehicle evaporated and blew outside.

Jiji Tsushin: Are the xenon or the thruster fuel enough for return to the Earth?

Kawaguchi: I think xenon lasts enough if there are no more disturbance.

Unknown: Is the leakage inside the vehicle stopping?

Kawaguchi: Stopping. If it continued, the vehicle temperature would decrease by vaporization heat. Now we are heating the vehicle to vaporize and eject the leaked fuel remaining inside.

Unknown: Are you stopping the leakage, or did it stop by itself?

Kawaguchi: I think that we stopped it. Now the both latching valves are closed and the leakage is stopped.

Sky Traveler (Gekkan Temmon): In the case of missing the return chance by 15th Dec, supposing we'll wait for three years for its return, then will Hayabusa travel along with Itokawa?

Kawaguchi: I think it will go away sufficiently from Itokawa. It will go further and further off Itokawa. FYI, the three-years waiting is just a candidate, and a pattern with three-and-half years is also possible. At this moment we focus on June 2007.

Mainichi: Is the reason of the thruster leakage unknown?

Kawaguchi: Yes. The touchdown itself is unlikely to cause it because the leakage occurred on the top side of the vehicle. The temperature dropped down due to vaporization on 27th, but on the contrary, the temperature increased on 26th. We have to give a consistent explanation after analyzing such data.

Tokyo Shimbun: Did the success of attitude control by the ion engines increase the chance for the return to the Earth?

Kawaguchi: We had no way in the last press conference, but now the situation got better than that. But we cannot evaluate definitely whether it is sufficient for the return.

Tokyo Shimbun: You concluded the success by finish of the sequence on 26th. Does the sequence finish even with a wrong command inserted?

Kawaguchi: Yes.

NHK: As for scientific data, Have you already downloaded the data up to 25th? And is there possibility to download the current data during the return cruise?
Kawaguchi: (The data up to 25th is) Already downloaded. We will download the data at the touchdown before starting the return cruise. After cruising phase starts, it will be difficult to make enough time for download.

NHK: Is the battery charged now?

Kawaguchi: It has restored again. Hayabusa is designed to work without the battery as long as its attitude is normal. I think that it has no obstacle for the cruise. The battery of Hayabusa has a capacity only for 40-min operation of the whole system.

NHK: How long can it be extended to achieve the return in June 2007?

Kawaguchi: We aim the return start by the mid of December, understanding some disadvantages in re-entry. If it is extended to the late December, the return on June 2007 will be harder.

Unknown: When did you confirm that the bullet did not fire?

Kawaguchi: Around 3:00pm on 6th. It was a deep shock to me, too. I told it to Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology in this morning.

Sky Traveler (Gekkan Temmon): Were you unable to confirm the bullet firing on the finish of the sampling sequence?

Kawaguchi: In order to confirm the action of firing equipment, we have to switch the operation mode of the vehicle to the another one, the lift-off mode. On 26th we considered that it worked because the sequence worked well.

Akahata: Did you assume the attitude control by the xenon gas in advance?

Kawaguchi: No, we didn't assume it. This idea was proposed by the ion engine team when the thrusters did not move on 2nd Dec.

I myself was planning to control the attitude by operating the ion engines. But the ion engine team comprehended well the movement range of the nozzles, and gave me a proposal that the jet by the neutralizer can change the attitude.

At that time, the attitude of the vehicle was sliding by 1 degree per day, and without the proposal what we could do would be almost only to watching the dying vehicle.

Nikkei: Is the replacement of the sequences an artificial error?

Kawaguchi: The detail is unknown in the current situation. Let us keep it "No comment" now.

Unknown: You said that the data might be lost by the battery discharge. Which date have you already downloaded the data for, and which date is the data stored in the DRAM for?

Kawaguchi: First, the reason is not the battery discharge, but the decrease of power output; the battery team would get angry (to hear that).

The DRAM must keep a few megabytes data around the touchdown, but we could download only a slight part. The images with high-reso have large sizes.

Sky Traveler (Gekkan Temmon): We already got an image picturing the target marker on the descending phase. Did you obtained any images after that?

Kawaguchi: That image is the latest.

Sankei: Did you confirm whether the command to switch the firing equipment to the safety mode executed?

Kawaguchi: We have to confirm it by data to be downloaded.

Aviation Week: Which do you set a priority on, the return to the Earth or download of the data?

Kawaguchi: Not decided yet. It depends.

Weekly Post: How do you keep motivation during such critical situation?

Kawaguchi: Because our final goal is to return to the Earth, of course.

Prof. Matogawa: No other vehicles in the past have ever been so robust as Hayabusa. It overcomes 8 times even after experiencing 7 failures (a Japanese proverb). I think the belief by Project Manager (Prof. Kawaguchi) is keeping the team up.


That's all.

「はやぶさリンク」:12月7日午後4時50分からの記者会見

 午後4時50分からの、記者会見です。出席者は川口淳一郎プロマネと的川泰宣教授。

JAXA発表文


まず川口プロマネから説明。

 すでにお知らせしているように、セーフモードからの復帰が不調。11月29日に低利得アンテナによるビーコンの通信を確立。

 11月30日から、電波オンオフによる通信を開始(1ビット通信)を開始。
 12月1日にはローゲインアンテナを使った8ビット/sの通信が断続的に回復。

 その結果以下が判明。

 11月27日に指令した姿勢軌道制御の結果、大きな姿勢喪失または何らかの原因による電力喪失が発生した模様。
 探査機内部に漏洩した燃料の気化に伴い、かなりの機器に大幅な温度低下が発生すると共に発生電力の低下によってバッテリーに深い放電が発生し、システム全般の電源系が広い範囲でリセットされたと推定される。詳細は解析中。

 12月2日。化学エンジン(スラスター)の再起動を試みたが、小推力を確認するも本格的には起動せず。

 12月3日、探査機のハイゲインアンテナ軸と太陽、地球のなす角度が20ないし30度へ拡大していることが確認された。緊急の姿勢制御方法として、イオンエンジン運転用のキセノンガスを噴射による姿勢制御を行うことにして、運用ソフトウエアの作成を開始。

 12月4日、キセノンガス噴射による姿勢変更を実施。

 12月5日、太陽、地球とハイゲインアンテナ軸が10度〜20度まで回復し、現在はミディアムゲインアンテナ経由で256ビット/sの速度で通信ができている。ただし、探査機がゆっくりと回転しているので、ミディアムゲインアンテナによる通信は6分に1分といった間歇的なもの。

 12月6日現在、はやぶさはイトカワから視線方向に550kmのところにいる。地球からの距離は2億9000万km。現在1基だけ残っているリアクションホイールを再起動し、1000rpmでの回転を確認している。

質疑応答

毎日 弾丸は発射されたがデータが消えているということか。

川口 火工品動作のデータは探査機を打ち上げモードというモードに入れないと再生できない。11月27日以降、モードを変更する余裕がなかった。このデータは火工品回りが瞬断でリセットされると消えてしまうので、26日にデータをデータレコーダーに転送した上で上書きを禁止するよう命令した。

 しかし27日にはかなり大規模な電源の放電とリセットが起きた。DHU(データハンドリングユニット:データを処理して送信する中枢機能を持つ装置)の絶対時刻データやデータレコーダー(DRAM)のパーティション情報すら消えてしまっている。このため、現状データレコーダーは再生できているものの、その中に弾丸が発射されたというデータは残っていない。

 ただし、降下中に送信したコマンドが再生できた。すると着地前のシーケンスに弾丸発射系統を安全モードに戻して発射できないようにするコマンドが、まぎれこんでいたことが判明した。なぜそんなコマンドが紛れ込んだかは現在解明中。

 現在までに断片的なデータしか得られていない。が、これまでに得られたデータは「弾丸が発射されなかった」とすると整合性がある。私共の感触としては8割がた発射されなかったと思っている。

読売 現在のデータ解析はいつ終わって、はっきりしたことが分かるのか。

川口 データには解釈に困るようなものものある。1回目は長時間着陸してイトカワにあぶられたにもかかわらず、2回目は弾丸発射装置が1回目よりも高温になっている。これは弾丸が発射されたことを示唆している。矛盾しているわけだ。
 現状の通信速度では、画像データをダウンロードできない。画像がダウンロードできれば、着陸直後の姿勢が分かるので、もっと詳しいことが分かると思う。
 イオンエンジンの運転開始前には、なんとかしてデータは可能な限りダウンロードしたいと思うので、そのときにまた記者会見を開いて説明したいと思う。

 とにかくデータは少なく、相互に矛盾している。ここで即断することはできないと考える。

共同通信 データレコーダーに格納されていた記録は、失われているものも残っているものもあるのか。

川口 データレコーダーはDRAMであり、パーティション情報が失われているので普通に考えれば、データは失われていると考えるのが自然だ。しかし、短い情報を試しにダウンロードしてみたところ、一見それらしいデータが出てきたということである。

共同通信 安全装置のコマンドは、誤ったコマンドを送信したのか。それとも、書き込みなどでエラーが発生したのか。

川口 まだ分からない。

共同通信 14日以降の帰還で無事に帰還できるのか。

川口 このスケジュールは、最速で探査機をたて直した場合ということで決まっている。14〜15日に帰還を開始すると、2007年6月に帰還できる軌道計画を用意している。

 ただし、現在もなおスラスターが不調である。スラスターが復帰しなくては、姿勢を保てない。今後スラスター系の電源再立ち上げや、スラスター系温度を変えるといった方法で、スラスター系の復帰に向けて努力する。
 スラスターが復帰しなければ、イオンエンジンに使うキセノンを噴射することで姿勢を保ちつつ帰還することになる。この場合は、姿勢が崩れるとイオンエンジンを止めて、キセノンを噴射して姿勢をたて直し、またイオンエンジンを起動するということが必要になる。この場合、イオンエンジンの軌道はかなり時間がかかるので、こうなると帰還に必要なイオンエンジンの運転時間をとれなくなる可能性がある。
 となると帰還を遅らせるオプションが浮上する。

共同通信 回収場所をオーストラリアから変える可能性はあるのか。

川口 確かに次期が遅れると、再突入カプセルの速度が速くなるか突入角度が深くなるかなので、カプセルのリスクは大きくなる。

NHK キセノンガスによる姿勢制御は具体的にどんなものか。

川口 イオンエンジンは4つ搭載しているが、その噴射口に噴射ガスを電気的に中和する中和機というものがありそこにノズルが1エンジンにつき4つ付いている。ノズルは開閉可能。そのノズルを開閉することで、中性のキセノンガスを噴射して、姿勢を制御している。推力は非常に小さい。

日経サイエンス 11月27日の姿勢制御と、その後の電力喪失は関係あるのか、独立したものか。

川口 関係ある可能性が高い。27日の運用ではスラスター出力が非常に小さかった。このため、一度とめたスピンを再開させ、同時にイトカワに近づきつつあったので、遠ざかるように指令を出した。
 本日取得できたテレメトリによれば、この時探査機は大きく姿勢を崩して太陽電池パドルに太陽光が当たらなくなり、バッテリーを放電してかなりの機器が落ちたようだ。
 姿勢を崩した理由は、スラスター配管が一部凍結して2基一組で噴射すべきスラスターが一方しか噴射しなかったためと現状では推測している。

朝日新聞 着陸によってサンプルが舞い上がって、採取された可能性については。また一転して、8割方試料が採取できなかったとなってしまったことについてコメントを。

川口 イトカワの脱出速度は、0.5mmの高さから鉛筆を落とした速度だ。地球上ではバウンドしても0.5mmしか飛び上がらないが、重力の小さいイトカワでは何十mも飛び上がる。ただし、2回目は1秒しかタッチせず、上昇したのでサンプラーホーンもサンプルと一緒に上昇する形になり、サンプルはカプセルに届かない。20日のほうは、かなり長時間接地していたので、舞い上がったサンプルがカプセルに入った可能性はかなり高いと考える。
 
 サンプル採集に向けての技術的手順はすべて踏むことができた。その意味では今後のサンプルリターン計画に対しては、今回の着陸の意義は未だ失われていないと考えている。もちろん我々はサンプル採取にかなり執着している。これは工学実証を超えた領域だ。
 弾丸が発射されなかったということは、落胆の一言である。今は帰還に向けたモチベーションを保つことが重要だと考えている。

東京新聞 イオンエンジンの中和機とはどんなものか。また、スラスターの不調は、前回説明があったA-B2系統とどう関係しているのかを知りたい。

川口 プラスイオンを打ち出すと、探査機はマイナスの電荷に耐電する。そのままでは探査機のマイナス電荷に引かれてプラスイオンが出て行かなくなる。そこで、出たプラスイオンにマイナスイオンを吹き出して電気的に中和する必要がある。マイナスに帯電したガスを吹き出して噴射プラズマを中性化するのが中和機である。

 スラスター不調は、ラッチングバルブがきちんと動作してくれていないためである。ラッチングバルブを駆動する電源をリスタートしたりラッチングバルブ温度を変えるなどして、なんとかしてバルブを動かそうとしている。

読売新聞 画像がダウンロードできれば状況が変わる可能性はあるのか。

川口 その可能性はある。しかしこの場では、ダウンロードできるとは確約できない。

宇宙作家クラブ ラッチングバルブがAB両系統とも閉位置で動かなくなっているということか。

川口 そうだ。27日の時点で、どうやら数kgの燃料が探査機内部に漏出したようだ。気化によって温度が下がった。漏洩しているのは酸化剤ではなくヒドラジン。12月2日に、A系B系のラッチングバルブを開くコマンドを送ったが動かなかった。動かない理由に関しては、バルブ駆動系の電源や配線系の問題が考えられる。現在アウトガスを逃がすために、各部の温度をかなり上げているので、バルブや配管の凍結は考えにくい。バルブを開けると再度リークが発生する可能性はあるが、そのリスクを理解した上で、バルブを動かそうとしているところである。

エイビエーションウィーク NASA局による運用は。

川口 NASAの好意で1日2時間、70mアンテナを明日まで提供してもらえている。さらに一週間34mアンテナの支援を要請するつもり。

エイビエーションウィーク リアクションホイールは1000rpm回っているということは定格に対してどの程度なのか。

川口 製造メーカーとも協議して今後2000〜3000rpmで使っていきたいと考えている。最大5000rpmぐらいまで使えることになっている。

時事通信 リークは探査機内部に起きたのか。

川口 26日の時点で、上面から外部にも漏れたことが、加速度から確認できている。
 27日については姿勢を大きく乱れて通信が切れた。この時は内部か外部か分からないが数kgの漏洩があった。その根拠として、30日に下面方向に推力がかかり、スピン速度が減少するという事象が確認されている。これは内部にリークした燃料が探査機内で気化して外部に噴出したと考えるとつじつまがあう。

時事通信 キセノンなりスラスター燃料は地球帰還まで持つのか。

川口 キセノンはこれ以上の外乱がなければ持つと考えている。

不明 探査機内部のリークは止まっているのか。

川口 止まっている。続いていれば気化熱で探査機温度が下がるはず。現在、探査機を暖めて内部の残存リーク燃料を気化し、追い出している。

不明 漏洩を止めているのか、それとも勝手に止まっているのか。

川口 止めていると考えている。両ラッチングバルブは閉じており、漏洩は止まっている。

月刊天文 15日までに帰還できなかった場合、3年後まで待つとすると、はやぶさはイトカワに並走して待つことになるのか。

川口 イトカワからは十分に遠ざかることになると思う。イトカワからどんどん遠ざかる。ちなみに3年後というのは一つの候補であり、3年半後というパターンもある。現在は2007年6月にこだわっている。

毎日新聞 スラスターのリーク原因は不明ということでいいのか。

川口 その通りだ。探査機上面から起きているので、着陸が原因とは考えにくい。27日には気化で温度が下がったが、26日には逆に温度上昇が起きている。こういったデータを解析して一貫した解釈をしなくてはならない。

東京新聞 イオンエンジンのほうで姿勢制御できるとなると帰還の可能性は増えたのか。

川口 前回記者会見の段階ではお手上げだったが、現在はそれよりは改善されている。ただしこれで帰還に十分かと言えば、まだ明言は難しい。

東京新聞 26日にシーケンス終了をもって成功としたが、間違ったコマンドが挟まった場合も、シーケンスは終了するのか。

川口 その通りだ。

NHK サイエンス的データについては、25日までの分はダウンロードできているのか。また、帰還途中に現状のデータをダウンロードする可能性は。

川口 ダウンロード済みである。着陸時のデータは帰還飛行開始前にダウンロードする。帰還飛行が始まってしまうとダウンロードは時間的に難しくなる。

NHK バッテリーは現状充電されているのか。

川口 再度持ち直している。はやぶさは、姿勢異常が無い限りバッテリーを使わない設計になっている。今後の飛行には支障はないと考えている。はやぶさのバッテリーは全システムを40分だけ持たすだけの容量しかない。

NHK 2007年6月の帰還のためには、どこまでひっぱれるのか。

川口 再突入が多少不利になることを覚悟して12月中旬の帰還を目指している。下旬になると2007年6月の帰還は困難になる。

不明 弾丸が発射できなかったということを確認したのはいつ頃か。

川口 6日の午後3時頃。私にとっても大きなショックだった。本日午前中には文科省に説明している。

月刊天文 サンプル採取シーケンス終了時に、弾丸が出たことは確認できなかったのか。

川口 火工品の動作を確認するには探査機の動作モードを打ち上げモードという別モードに入れなくてはならない。26日はシーケンスが動いたということで動作したと確認した。

赤旗 キセノンガスによる姿勢制御は最初から想定していたのか。

川口 想定していなかった。これは、 12月2日にスラスターが動かなかった時、イオンエンジンチームから提案を受けた。
 私自身は、イオンエンジンを動作させて姿勢を制御しようと考えていた。
 ところがイオンエンジンチームはノズルの向きの可動範囲をよく理解しており、中和機の中性ガス噴射で姿勢を変更できると提案してくれた。
 この時、探査機姿勢は毎日1度ずつずれていっており、そのままでは探査機が死ぬのを見守るだけということになるところだった。

日経新聞 シーケンスの入れ替わりは人為ミスか。

川口 詳細は現状では不明だ。ノーコメントとさせていただきたい。

不明 バッテリー放電でデータが失われた可能性があるということだが、いつの時点までのデータがダウンロード済み、でいつの時点までのデータがデータレコーダーに入っているのか。

川口 まず原因はバッテリー放電ではなく、電源の出力低下である。バッテリーのチームが怒るので。
 データレコーダーには着陸前後の数メガバイトのデータが入っているはずだが、現状までにダウンロードできたのはほんのわずかである。容量が大きいのは高分解能の画像である。

月刊天文 我々の貰っている画像はターゲットマーカーが写っている降下途中の画像だが、その後の画像は得られているのか。

川口 その画像が最後だ。

産経新聞 火工品を安全側に戻すコマンドを実施されたと確認されたのか。

川口 今後のデータダウンロードで確認しないといけない。

エイヴィエーションウィーク 帰還とデータダウンロードとどちらを優先するのか。

川口 決まっていない。状況によると思う。

週刊ポスト 危機的状況の中でどのようにしてモチベーションを保っているのか。

川口 やはり最終目的が帰還だからだ。

的川 歴代の探査機の中でこれだけロバストな探査機はないです。七転び八起きです。プロマネの信念がチームをささえている、と私は思います。

以上

「はやぶさリンク」:弾丸は発射されなかった可能性大

 速報です。

 11月26日の第二回着地で、弾丸が発射されなかった可能性が大。スラスターは依然回復せず。イオンエンジンを使って姿勢の制御を実施。

 イトカワ出発は14日以降。帰還計画は検討中。

 詳細は記者会見終了後にアップします。

「はやぶさリンク」:本日12/7 午後4時50分より記者会見

 表題の通り、午後4時50分より、JAXA東京事務所で川口淳一郎プロマネが出席しての記者会見があります。

 私も出席します。なにかわかり次第アップします。

2005.12.05

空気清浄機のフィルターを交換する

airfilter

 ほぼ一ヶ月前の11月6日の話なのだが、はやぶさの影響で書けずにいたことを。

 空気清浄機のフィルター交換時期のサインが点灯した。買い置きのフィルターと交換する。新しいフィルターは真っ白。一方、使い古しのフィルターは、主にディーゼルエンジンの煤煙だろう、真っ黒になっている。
 それでも、このフィルターは2年以上使えた。

 現在の空気清浄機を購入したのは、東京のど真ん中に住んでサラリーマンをしていた1998年のことだ。あまりの体調の悪さに、「これは空気が悪いからではないか」と考えたためだった。正直、空気清浄機は好きではなかった。1970年頃の公害問題が騒がしかった頃、「外出にガスマスクを付けねばならない」というようなディストピア的未来像に触れたせいである。自分がそんな未来に生きているとは認めたくなかったのだ。

 ところが、導入してびっくり。説明書には「1年持つ」と書いてあるフィルターが、私の住んでいた場所では3ヶ月で真っ黒になったのである。「げ、こんな環境に住んでいたのか」という驚きは、翌々年、サラリーマンを辞める一つのきっかけにもなった。

 考えてみれば、後にディーゼル車の煤煙機制に乗り出す石原慎太郎都知事の知事就任が1999年4月だ。1998年といえば、ディーゼル車の煤煙がもっともひどかった時期に当たる。
 その後石原知事主導で、東京都周辺ではディーゼル排気ガス規制が実施された。今は、都心の空気もいくらかましになっているのではないだろうか。

 もっともこの排ガス規制は思わぬ弊害ももたらした。主にジープを初めとした古いディーゼルエンジン搭載の四輪駆動車に乗っているマニア達が、自分の自動車に乗れなくなってしまったのだ。
 イタリアでは古いフィアットを走行可能にするために、クラシックカーに関しては排ガス規制を緩めたりしている。だから、少々のマニア四駆ぐらいいいじゃないかと思うのだけれども、こういうところ、日本の行政は徹底的に無理解かつ怠慢である。
 私の周囲でも、自動車を規制のない地方の実家で登録したり、涙をのんで愛車を買い換えるといった例が出た。

 ともあれ、現在、茅ヶ崎の空気では、「1年で交換すること」というフィルターが2年は持つ。これはありがたいことだ。
 できればフィルターがいくらでも持つぐらい、空気がきれいになって欲しいとも思う。産業社会到来以前はそれが当たり前だったのだから。

2005.12.04

ホットカーペットを敷く

 大阪の葬儀に、ロケットまつりに、羅須地人鉄道協会。さすがに疲れが出て、起きたら午後になっていた。

 氷雨が降って寒い。たまらずホットカーペットを敷く。

 この冬、ここまで一切の暖房装備なしに過ごしてきた。きっかけは夏の暑さだ。地球温暖化が進行するなら、せめてそこからなにか「こいつは良かったぜ」という成果を引き出すことはできないか。「地球温暖化よかった探し」だ。そこで、夏が暑いなら冬だって暖冬になるかも、と、暖房を使わない省エネルギー生活を目指したのだった。夏が暑いから冬も暖かくなる、とは限らないのだけれども。

 結構できますね。暖房なしの生活。こまめに雨戸とカーテンを閉める。寝るときは掛け布団を一、二枚多くする。空気を抱き込むような緩い服を重ね着する。これだけでかなりしのげる。どうにもならないのは、原稿執筆時に手がかじかむことで、これはお湯でこまめに手を洗うことで対処した。

 考えてみれば、自分が子供だった時分の冬の生活はこんなものだった。別にどうということはない。

 しかし今日の寒さは、かなりのものだ。調べると最高気温9℃、最低気温5℃…なんだ、まだ氷点下にはなっていないのか。雨で湿度が上昇しているために、気温以上に寒さが響くようだ。

 ともあれ、ホットカーペットを出して、さらにもう一つの防寒策、すなわちスポーツに出かける。しっかり運動をして、普段から体の血流量を上げておけば、これまた寒さ対策になる。

 フィットネスクラブに行って久し振りに2kmほど泳ぐ。1日1時間の運動、というのを心がけているけれども、なかなか実行できないものだ。要は、地上にいてもミールに乗った気分で生活を組み立てろというだけの話なのだけれども。

2005.12.03

羅須地人鉄道協会に行く

loco6
 朝からAZ-1を駆って、千葉は成田の成田ゆめ牧場へ。ここでは、羅須地人鉄道協会が、2フィートゲージの蒸気機関車を、自分たちで線路の敷設まで行い、運転している。次の次の本のための取材だ。滑川駅で編集のIさんをピックアップしてゆめ牧場へ。この日は、台湾の基隆炭坑から買い入れた蒸気機関車「6号機」がお客さんを乗せていた。製造されてから70年を経た古強者だ。

 親子連れで牧場はにぎわっていた。蒸気機関車に乗って、にこにこしている子供達を見ると、それだけで「ああ、蒸気機関車っていいなあ」と思ってしまう。操縦席に入れて貰って、汽笛を鳴らしたり、石炭をくべてみたり。これは楽しかろう。

 羅須地人鉄道協会というのもなかなかとてつもない団体だ。SLブームだった1970年代、SL写真集が売れてお金ができた鉄道マニア達が、お金を何に使うかと考え、本物の蒸気機関車を買ったところから始まる。そして30年、幾多の挫折を乗り越えて、蒸気機関車を自作し、運転し、整備し、線路を敷く場所を求めて線路を敷設し、保線を行い、ピットを自作し、そして今、成田ゆめ牧場で、日本で唯一の公開型保存鉄道を運用しているのである。

 夜、座談会形式で会員の皆さんから話を伺う。

 なぜ、子供が来ると、汽笛を鳴らさせたりするのか。一人の会員さんがこう言っていた。
「僕ら、子供の頃に駅とかにいってじっと蒸気機関車を見ていると、『おう、さわってみるか』と運転手さんが本物をさわらせてくれたりしたわけです。そういうところに自分の根があるので、ここに来る子供にもできるだけさわらせてあげたいなと。それは自分がしてもらったことを返すということだから」
「そうそう」と別の方から。
「いるんだよね。柵にしがみついて目をらんらんと見開いて機関車見ている子供」
「見れば分かるよね。明らかに他の子と違う」
「そういう子にはね、機関車に乗せて色々見せてあげるんだ」

 いい話だ。

 色々と話を聴き、夜8時過ぎに辞去。

2005.12.02

ロケットまつり9に出演する

 午後遅くから新宿に出て、ロフトプラスワンに出演。会場に着くと、すでに林紀幸さんは来ていた。打ち合わせをするうちに垣見恒男さん到着、ロフトの斎藤さんが「あさりさんまだなんですけど、どうしよう。電話したほうがいいですよねえ」と言っている内にあさりよしとおさん到着。
 今回の目玉は垣見さんの秘蔵資料だったのだけれど、この面白さがお客さんにうまく伝えられたかどうか。垣見さんが、次々に「この人はだれ、この人はこういう人で」と説明する。私は当時の人間関係をある程度調べていたから、ああなるほどなのだけれど、予備知識がないとつらかったかもしれない。

 それでも、ロケットの直径が735mmのラムダになった時点で、当時の富士精密のロケット部門を率いていた戸田康明氏が「これ以上大きなものはよう作りません」と東大に申し入れていたというのは知らなかった。しかもその時、戸田氏の部下だった垣見さんが、密かに糸川博士と「次の次の世代の直径3mロケット」を検討していたのだ。そのLD-3という試案が、30年もの間、様々な人々の手を巡り巡って現在のM-V(直径2.5m)へと結実するのである。

林「なんでミューは直径1.4mになったか知っていますか。それは糸川先生が、ロケットの大きさに制限をかけられるとなったときに、1.4mだと言ったからなんですよ」
垣見「いや、そうじゃないんだ。僕は本当の理由を知っている」
林「え、そうなんですか」
垣見「1.4mというのは私が決めたんです」(会場大爆笑)
松浦「確か松尾先生なんかが計算していた試案では、直径1.2mで、それを糸川博士が1.4mにしろ、と押したとか」
垣見「そう、でも1.4と決めて計算したのは私です」
林「でもなんで1.4mだったんです?」
垣見「忘れちゃったよ、そんなこと」(再び会場大爆笑)

 途中で、会場に来て貰っていた小野英男さんにも壇上に昇って貰う。日本電気で「おおすみ」以降の初期の科学衛星を作った人だ。実は数日前に私とメールのやり取りがあり、「来られますか」「行くよ」ということになってやってきた次第。
 これで終わりと、締めの言葉を言おうとすると、林さんが「ちょっと待って」と、この日最大のサプライズをぽんと机の上に置いた。会場大騒ぎ。さらには終了後のあさりさんによる困ったDVD上映もあり、とりあえずはお客さんに満足してもらえた模様。良かった。

 だが、今回一番意味があったのは、来場していた東海大学のロケットグループ学生と林さんや小野さんの間で、連絡が付いたことじゃないかと思う。退職したベテランは、現場のノウハウを豊富に持っている。文書にはなっていないが、それなしには物事を進められないという種類の智恵だ。そのようなノウハウが若い世代に伝えられるなら、それは素晴らしいことだ。今回すでに、休憩時間中に林さんが、東海大学の学生達に射場安全について解説していた。

 これからロケットや衛星を作ろうと考えている学生さん、おられたら、とりあえずはロケット祭りにおいで下さい。我々の知る範囲なら、教えを請うべきベテランを紹介いたします。

 ちょっとだけ打ち上げに出席し、終電で帰宅。明日は明日でまた朝からやることがあるのだった。

2005.12.01

大叔父の葬儀に参列する

 はやぶさは、まだまだ予断を許さない状況にある。ともあれ、当ページも臨戦態勢を解いて、いつものペースに戻していくこととしよう。

 本日は29日にこの世を去った大阪の大叔父の葬儀。私の祖父の末弟で89歳の大往生だった。個人企業のオーナーで、死の直前まで出社していたので、出席者は仕事関連が多い。
 親族はといえば、多くはかなりの高齢。一段落付いて、酒が入ると、「○○のおばあさんなあ、15歳で網元の家に嫁入りして、家が恋しくて毎日海岸で泣いていたそうな」などという、「赤とんぼ」も真っ青な話が出てきたりする。現在70歳過ぎの彼らが語る「おばあさん」だから、明治末期の話だろう。
 近代とか現代とか言っても、「知っている人の知っている人」と二段階も遡れば、そこは「お里の便りも絶えはてた」の世界なのである。

 亡くなった大叔父は、戦前より左翼思想に傾倒し、戦時中は徴兵されても戦闘を拒否。何があったか、おそらくはぼろぼろにぶん殴られて懲罰労働にでも就かされたか、中国奥地の病院で死ぬばかりになっていたのを、兄、つまり私の祖父が乗り込んでいって、これまた何をどうしたのか救出してきた、という逸話の持ち主だった。その祖父は敗戦後にシベリア送りで死に、大叔父は天寿を全うしたのだから、人生というのは本当に分からない。

 戦後も筋金入りの共産党支持者で、個人企業を社長として切り盛りしつつ、一方で、まだ非合法活動をしていた共産党にかなりの資金を提供したという。共産社会が到来したら真っ先に切られる資本家なのに、共産党に協力するとはこれいかに、と閉口した親族が付けたあだ名が「共産趣味者」。それでも、温厚かつ人に篤い性格で、関西の親族のとりまとめ役的存在だった。

 学生時代、四国旅行の途中に家に泊めて貰ったことがある。酒が入るほどに昔話をし始めた大叔父は、私の事を「なあ龍雄さん」と父の名前で呼び始めた。「ちゃいます。息子です」というと、「おお、すまんすまん」、ところが五分ほどするとまたも「なあ龍雄ちゃん」…それももう懐かしき思い出である。

 葬儀に出るといつも、確かに人の品格というものはあるのだな、と実感する。日頃は隠していても本人の葬儀では隠せない。その人がよく生きてきたかがはっきりと現れてしまう。
 大往生の人の葬儀は大抵の場合明るい。それでも今日の葬儀では、棺の中で小さくなった大叔父の顔に花を乗せる段になって、親族の女性一同、老若を問わず皆涙ぐんでいた。「おじちゃん、さよなら」と。

 我が葬儀も、願わくばかくありますように。

 のぞみとこだまを乗り継いで、夜遅く茅ヶ崎へ帰着。

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