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2006.02.08

伊福部昭氏逝去す

 訃報:伊福部昭さん91歳=作曲家 映画「ゴジラ」も作曲:(毎日新聞)

 北海道・釧路生まれ。北海道帝大専門部卒。林務官を務めながらアイヌ音楽や樺太のギリヤーク民族の音楽を研究、「民族の特異性を経て普遍的な人間性に至る」ことを作曲理念に据え、ほぼ独学で民族色豊かな作品を作り出した。1935(昭和10)年、「日本狂詩曲」でパリのチェレプニン賞に入選。同曲は翌年米国でも演奏され、国際的な脚光を浴びた。来日したロシア出身の作曲家、チェレプニンに近代管弦楽法を師事。「土俗的三連画」「交響曲 オホツク海」など独自の交響作品を次々に完成させた。

 一昨年の卒寿記念コンサートでも車いすの登場だったので、かなりお年を召されたなという印象だった。41歳にして肺の病で倒れた盟友の早坂文雄や、65歳にしてガンで忽然と風のごとく去っていった武満徹などを考えれば、この世で成すべき事をすべて成し遂げた、幸福な人生だったと言えるのだろう。

 ただ一つ、戦争中の作品「交響詩・寒帯林」の復活演奏が死に間に合わなかったのは、悲しいことだと思う。この曲は、中国に楽譜があることが確認されたにも関わらず、中国側の事情で楽譜返還が未だ実現していない、

 他に比べるもの無き、「伊福部音楽」としか呼びようのない音楽の数々。私は幼少時に「ゴジラ」シリーズの音楽で、まずその洗礼を受け、高校時代に管弦楽曲を心に刻んだ。一度もお会いしたことはなかったが、心の師の一人であった。

 偉大なる人の偉大なる人生の終幕に、心からの敬意を。ありがとうございました。

 以下、とりあえず思いつくままに並べておきます。


 伊福部昭の伝記。現在のところ、もっともよくまとまった伝記だと思う。



 伊福部本人が、一般向けに自らの音楽観を語った唯一の本。彼の技術が大部の著作「管絃楽法」にまとまっているとするなら、彼の音楽芸術に対する精神的態度はこのコンパクトな本に凝縮されている。
 大変な名著。読むべし。



 伊福部を初めて聴くなら、まず初期管弦楽曲から聴こう。21歳にして書いた最初のオーケストラ曲「日本狂詩曲」の冒頭、静かなヴィオラのソロが鄙びた旋律を歌い出す部分で、もうノックアウトされるはずだ。驚くほどの音楽の瑞々しさ。一転して第二楽章では本人が「この楽章は打楽器が主で、管絃が伴奏である」語った通り、打楽器群が大音響の饗宴を繰り広げる。
 その上で、一転して簡素な音で書かれた「土俗的三連画」と第二次世界大戦中にこの世を去った兄への追悼として書かれた「交響譚詩」の、簡潔な佇まいに耳を傾けるべし。


 代表作である「タプカーラ交響曲」は、複数の録音があるのでお好きなものをどうぞ。ここでは一番手に入りやすいかと思われる広上淳一と日本フィルの録音をリンクしておく。



 「オレはゴジラが聴きたいんだ」という人にはこれ。伊福部の怪獣映画の音楽を演奏会用に編曲した「SF交響ファンタジー」が「1番」「2番」「3番」とまとめて収録されている。
 個人的には1番のラストを飾る「宇宙大戦争」のファンファーレと、それに続く「怪獣総進撃」マーチのあたりが大好きだ。3番に出てくる「海底軍艦」のテーマは「僕らの海底軍艦轟天号、轟天号」というファンが付けた後付けの歌詞を思い出す方もいるのではないかな(後半「●●●●艦長神宮寺、神宮寺」というフレーズが出てくるので人前では歌えないのだ)。


 このCDのメインである「タプカーラ交響曲」はあまり良い演奏ではないのだけれども、同時収録の「ピアノと管絃楽のためのリトミカ・オスティナータ」は、ある程度伊福部の音楽を聴いたことがある人にこそ聴いて貰いたい。「エネルギッシュ」とか「土俗的」という言葉で形容されることの多い伊福部だが、実は細心の注意を払って理知的に曲を構成しているということが分かる作品だ。
 とはいえ、実際に響く音楽はまぎれもなく伊福部節。耳がひきつりそうなほどの変拍子でピアノがばく進する。

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Comments

謹んでご冥福を祈ります。

とても言葉では言い表せません。師事は出来ませんでしたが、自分の師匠である黛敏郎先生からは、いつもいかに素晴らしい音楽家であるか、作曲家であるか、人間であるか、お話を伺う事が出来ました。
自分の日本音楽コンクール本選会(「管弦楽のための“太陽風交点”」の時です)で、堀晃さんとともに、黛先生に紹介して頂き、以降大阪で小松左京氏のご子息が企画された演奏会で、さらに東京で、計3度お話を伺う事ができました。
自分の中での音楽史が閉じた思いすら致します。
自分の音楽の根源的なところに位置する作曲家でした。
天国で愛弟子の皆さんと、また音楽論を戦わせていらっしゃるのでしょうか?
涙が止まりません。
ご冥福をお祈りするのみです。合掌。

 大澤さんの日記、読みました。やはり「怪獣総進撃」でしたか。あれは、本当に癖になる音楽ですね。

 ゴジラ音楽では子供心にびっくり。その後演奏会用音楽で音楽的な内容のすばらしさにノックアウト、という二段階の驚きを与えてくれた方でした。

 今、日本狂詩曲をかけています。何度聴いても素晴らしいです。

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