3月7日午後7時からの、川口淳一郎プロマネの記者会見。質疑応答の要旨です。
記者発表はJAXAホームページにアップされiています。そちらを参考にしつつお読み下さい。
共同通信 化学エンジン推進剤がほぼ全量喪失とあるが、相当残存しているとはどういうことか。採取容器を回収カプセルに移すというのはベーキングから試料を守るということか。
川口 残留しているのはタンク内ではなく、探査機内部や断熱材ということ。タンク内になければ推進剤として使えない。
また、採取カプセルや回収カプセルに推進剤を入れたくないということ。まずベーキングして外へ追い出してからカプセルを閉じる。
共同通信 では、姿勢制御は化学エンジンではできないということか。
川口 11月末から推進剤系のラッチングバルブを開けようとしてきたが、うまくいかなかった。
現状は酸化剤も残量センサーの指示がゼロ。これはまだセンサーがこわれているのか、本当に漏洩したかは分かっていない。センサー故障なら、ラッチングバルブをあけば、酸化剤を噴射して姿勢制御することはありうる。
最悪の場合はイオンエンジン用キセノンを噴射して姿勢制御を行うことを考えている。キセノン残量は42〜44kg。計算上はキセノンによって姿勢制御をしつつ帰還することは可能な量が残っている。あくまでも計算上ではあるが。そもそもイオンエンジンが稼働するかどうかも未確認である。
不明 電源を起動する見込みはついているのか。
川口 説明があまり良くなかったかも。12月初旬に姿勢が大きく乱れた時点で、太陽電池に光があたらず電力がなくなった。1月23日の時点で、地球や太陽から70度はずれた軸でスピンをしていた。はやぶさはイオンエンジンを運転するので大きな太陽電池がついている。現在どんどん太陽を向きつつあるので、ますます電力は増えてきており、ベーキングに必要な電力は確保できる。
毎日新聞 2010年帰還のためのタイムリミットは。
川口 2007年初めではイオンエンジンは2台動いていれば帰ってくる。3台のイオンエンジンが生きているとすれば、1年以上帰還開始時期を遅らせることができる。
毎日新聞 着陸前後の状況のデータは取得できているか。
川口 昨日、本日の段階でデータレコーダーに記録は見つかっていない。一度完全に電源が落ちているので消えた模様。ただし今後精査すれば取り出せる可能性が残っているかも知れない。
東京新聞 テレメトリが取れると言うことでは、帰還に向けた作業は楽になったのか、それとも状況が判明したことで深刻さがわかったのか。どう受け止めているか。
川口 12月初旬と比べると、状況は悪くなっている。12月上旬なら2007年に帰還できる可能性があった。通信途絶ということから考えると、もう天国と地獄だ。この2月3月に回復できる確率は4割程度だった。
東京新聞 バッテリーはもうだめなのか。
川口 バッテリーは短絡が発生しており、充電すると爆発する可能性もある。今後とも使うつもりはない。惑星探査機は日陰がないので太陽電池がしかるべき方向を向いていれば運用が破綻することはない。
ただし、電力余裕が少ない運用はできなくなる。
共同通信 推進剤漏洩はどこから起きたのか。テレメトリからは分からないのか。
川口 11月末に起きたスピン、速度変化と、今回通信回復した状況でのスピン、速度変化は一致しない。異なる部位が壊れて漏れた模様。どこが壊れたかは難しい問題。「ここがこわれた」という情報がない。
産経新聞 姿勢制御コンピュータやスタートラッカーが動くかどうか分かるのはいつか。
川口 姿勢制御コンピューターの機能は2から3週間で分かる。姿勢制御コンピューターは性格の異なる3系統搭載されており、故障していたとしてもバックアップで対応できると考えている。スタートラッカーは、スピンを止めないと機能を確認できない。今年末頃になる。しかしこれらが駄目になっていたとしても、広角カメラでスタートラッカーを代用するというような方法でできないわけではないだろう。
日経サイエンス キセノンガスで姿勢制御をするのはイオンエンジンを点火するのに必要ということか。
川口 違う。イオンエンジンの中和器からキセノンガスを噴出してその反動で姿勢を制御するということ。
日経新聞 地球帰還は厳しいのか。
川口 テレメトリが取れたことで必要条件を満たした。まだまだ帰還に向けた関門がいくつもある。イオンエンジンその他の健全性を確かめ、それらがすべて正常であれば地球に戻れる。常識的に考えれば厳しい。この探査機が生きていることが奇跡だと思って欲しい。
共同通信 ベーキングまではスピンした状態なのか。
川口 そうだ。スピンの状態でベーキングを行う。イオンエンジンの運転に合わせて三軸制御を確立する。イオンエンジンを運転しつつイオンエンジンで姿勢制御をするということになる。
生ガスを中和器から吹いて姿勢制御するかは検討中。イオンエンジン停止時の姿勢制御は、生ガスの中和器からの噴射で行うことになるだろう。
本日発表をした理由は、「新たなリスクをかけた運用が始まる」ということ。この段階で発表しないと「復旧した」という発表ができなくなるので(ここで笑いが起こる)。
週刊ポスト 喜びの声を聞きたいです。1月23日のビーコン取得と、テレメが取れたという時。
川口 信じられなかった。予想よりもずっと強い電波で入感してきたから。運用担当者も「本当かどうか分からないので、地上のアンテナを振って、本当にはやぶさの方向から来ている電波なのか確認してみた」と報告してきた。当日は半信半疑、翌日再度確認して、電子メール交換で全員歓喜した。スピン速度は1周50秒から1分程度で、電波の強弱がこの周期が起こる。1分のうち20秒だけコマンドを受けてくれるという状況だった。その20秒に、うまくコマンドが到達するように地上側で工夫した。
毎日新聞 どの程度の期間停電していたのだろうか。
川口 自然状態では1日0.7度程度姿勢が変わっていくので、かなりの日数は横方向から光が当たっていたはず。
時事通信 ベーキングの目的と、その温度は。
川口 ガスを排出するため。温度は設定運用温度の上限まで上げればいい。ただし時間はかかるだろう。50℃程度。
NHK ベーキング過程でガスが漏れて姿勢が乱れれば、より悪い状況になるのか。
川口 再度姿勢をロストすれば基本的には1月時点に戻るわけだが、それによってなにかが壊れてしまう可能性はある。低温になると回路基盤が膨張率の違いで割れたり回路がはがれたりということが起こりうる。
ベーキングに使うヒーターは機体の各所に取り付けてある。
NHK イオンエンジンで姿勢制御するということは、イオンエンジンは首振りできるのか。
川口 これからジンバル機構を試験する。中利得アンテナのジンバルと同じ
宇宙作家クラブ 酸化剤が漏れたとなると爆発が起きた可能性はどう考えるか。
川口 まず本当に酸化剤が漏れたかどうかを確認しなければならないだろう。少なくとも酸化剤と燃料が接触してはいないということだろう。
週刊ポスト 次の会見のタイミングは。
川口 帰還を開始したというところだろう。ここの機器の復旧の様子はインターネットで知らせるのでいいのではないかと私は考えている。
広報 会見については別途相談させて頂きます(笑いが起きる)。
会見終了後のコメントから。
コーニング運動は1月の通信回復時点で、止まっていたと推定される。
毎日新聞「12月に『重病人が手紙を出すためにポストに行くようなもの』と言っていましたが、ポストにいけるようになりましたか」
川口「より重症になっているが、杖のつきかたはうまくなっているのかも知れませんね。」