Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« June 2006 | Main | August 2006 »

2006.07.27

「時をかける少女」を観る

 いったいいつ、まともな記事を書いたっけ、と思うぐらい潜航していた。仕事が三つ重なって忙しかったのです。
 2つは告知しました。残る一つは、笹本祐一さんの「宇宙へのパスポート3」への解説執筆でした。8月発売ですが、7月29日のロフトプラスワンのイベントでは少部数ですが先行販売になるそうです。


 もう次の仕事が迫ってきているのだけれど、体の細胞のひとつひとつに紙ヤスリをかけられたようなだるさで、どうにも力が出ない。その中、気分転換に映画館へと出かけて「時をかける少女」を観てきた。

 素晴らしい!

 原田知世主演・大林宣彦監督の1983年版映画も良かったが、それに勝るとも劣らぬ傑作だ。残念ながら上映館が少ないので、興味を持った人は万難を排して観に行くことをお薦めする。たとえ一日がかりになっても、それだけの価値がある作品だ。
 


製作会社:角川書店
制作会社:マッドハウス
監督:細田守
原作:筒井康隆(角川文庫刊)
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
美術監督:山本二三
音楽:吉田潔
配給:角川ヘラルド映画

 キャラクターデザインとあるように、これは実写ではなくアニメーションである。また、ストーリーも、筒井康隆原作そのままではない。筒井原作のヒロインである芳山和子の姪が、新たなヒロインとなる(そう、30代半ばを過ぎた芳山和子が狂言回しとして登場する)。現代の高校生を主人公とした、完全にオリジナルなストーリーで、いくつかの道具立てだけが共通している。

 細田守監督はアニメの世界では緻密な演出で知られた人だそうだが、私は初見。劇場用長編は「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」(2005年)に次ぐ2作目。オリジナルとしては初監督作品になる。

 青春映画の条件が、「今」を描きつつ、ほんの少し現実にはあり得ないあこがれを忍び込ませることだとするなら、この「時をかける少女」は、まさに青春映画のスタンダードだと言える。
 ヒロインの紺野真琴は、ちょっとしたことから時間を跳躍しする能力を身につけるが、その特殊能力の使い方はまさに等身大。大笑いさせてくれる。大笑いのうちに、時を超える能力は周囲に影響を与え、やがてのっぴきならない事態を引き起こすこととなる。その時、真琴はなにを考えてどう決断したのか——クライマックスで顔をグシャグシャにして大声で泣く真琴は、とても魅力的だ。

 とにかくすべてが緻密でよく練られているにもかかわらず、苦労の痕跡を一切見せない仕上げとなっている。脚本は、タイムトラベルものの傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」並みに精緻であり、演出、背景、キャラクターの設定や声優の演技に至るまで、すべてがきちんと当たり前のように磨き上げられている。
 しかし、その「当たり前」こそ、ここ数十年の邦画の大部分に欠けていたものではなかったろうか。

 館内が明るくなってからも座ったまま、「いやあ、いいものを観たなあ」という気分にしばらくひたることができた。

 この作品、Yahoo!ムービーの「時をかける少女」紹介でも、高評価をうけている。
 実は今、同じYahoo!ムービーでぶっちぎりの酷評を受けている作品がある。スタジオジブリ「ゲド戦記」だ。

 細田監督とスタジオジブリの間には因縁がある。当初、「ハウルの動く城」は細田監督作品で予定されていたのが、途中降板で宮崎駿監督の作品となったのだ。

 両者とも沈黙を守っているので詳しい経緯は知りようもない(後からの注:細田監督は幾分かを語っていた。コメント欄参照のこと)。しかし、1)ジブリが望んで細田監督を招聘したこと、2)両者の沈黙(これは相当な軋轢を示唆する)、3)そして「時をかける少女」の素晴らしい出来映え——の3つを考え合わせると、ジブリは宮崎監督の後を引き継げる才能として細田監督を望んだものの、活動のための十分な場の提供ができなかったらしいということが見えてくる。

 その結果が、「ゲド戦記」における「二世」宮崎吾朗監督の登用につながったらしいということも。

 私は「ゲド戦記」は未見なので評価を差し控えたい。Yahoo!ムービーにおける酷評は、「スターウォーズ」を望んでやってきた観客にタルコフスキー版「惑星ソラリス」を提供してしまった結果、という可能性もあると思う。

 しかし、これだけは言える。「ゲド戦記」には、過去の宮崎駿監督作品の成功に引き寄せられるかのように様々な資本が出資しており、大かがりな宣伝を行っている。明後日29日からの公開では、上映する映画館の数も非常に多い。
 対して、「時をかける少女」は、ほとんど限定公開としか言いようのない状態で上映されている。

 宣伝に惹かれて「ゲド戦記」を観るであろうお客さんの半分にでも四分の一にでも、「時をかける少女」を観て貰いたいな、と私は思うのだ。
 才能は常に辺縁から雑草のように現れるものだから。かつて宮崎駿監督もそうだったように。

2006.07.25

宣伝:新著「エルピーダは蘇った」が7月20日に発売されました

 日本唯一のDRAM専業メーカーで知られるエルピーダメモリ(株)の取締役社長兼CEO坂本幸雄にノンフィクション作家松浦晋也が10時間におよぶインタビューを行い、エルピーダメモリ躍進の秘密を探る。
 坂本幸雄は、もともとは甲子園を目指した球児であり、その叶わなかった夢を追い続けて日本体育大学へ入学し、高校野球の監督を目指す。卒業後ひょんなきっかけからTI(テキサス・インスツルメンツ)へ入社。倉庫番からスタートし、徐々に隠れた経営能力を開花させていき、後に複数の企業で企業再生の任にあたり、「再生請負人」「プロ経営者」としての地位を築く。
 日立とNECの合弁企業として生まれ、低迷を続けていたエルピーダメモリの社長に 2002年に就任した坂本は、豪腕をふるい、親会社出身の能力に欠ける経営幹部を次々と本社に戻してエルピーダ独自の路線を短期間で築き、実績をあげていく。業績にアップダウンの多い半導体業界で、競争相手の多いフラッシュメモリにあえて手を出さずDRAMに特化するこの会社を率いるユニークな経営者を通して、日本の半導体業界の復興の手立てを探る。

 「宇宙じゃないのか」という声が来そうですが、そうです、宇宙じゃないのです。ビジネス書なのです。

 元を正せばBP出版局の先輩が「面白い社長さんがいるんだけどライター仕事しないか」と声をかけてきたのがきっかけでした。インタビューをまとめるだけの楽そうな仕事だと思って引き受けたのが大間違いで、半導体業界という土地勘のない世界に四苦八苦することになってしまいました。本の編集方針も、「きちんと書く」という方向に変更となり、ずいぶんと時間を掛けることとなりました。

 慣れない仕事でしたが、自分にとっては非常に勉強になる仕事でもありました。何よりも坂本幸雄さんという、優秀な経営者から長時間話を聞くことができたというのは、得難い経験だったと思います。巨大組織のマネジメントに関してずいぶんと勉強になりました。

 取材をしていて「この人は優秀だ」と感じさせる人は、常に簡潔な言葉で明快に語ります。坂本さんは、これまでの取材で会った人々の中でも、飛び抜けて明快に語る人でした。

 意地でもビジネス書によくある「ヨイショ百万回」にしたくはなかったので、ずいぶんと考えた上で書いたつもりです。それなりの内容にはできたかな、と思いますので、店頭でお手にとってもらえれば幸いです。
 

2006.07.21

宣伝:新著「日本列島は沈没するか?」が7月15日に発売されました

 地球を四畳半サイズに縮めてみると、富士山の高さは1ミリにも満たない! 「日本沈没」などのフィクションを入り口に惑星地球を多角的に分析、最先端技術をレポートする、SFファン、科学ファン必携の書。

 この本は、藤崎慎吾、西村一、松浦晋也の3人の共著です。

 映画「日本沈没」リメイク版公開にあわせて、最新の地球科学について一般向けの書籍をまとめようという藤崎慎吾さんの発案で企画されました。藤崎さんは、SF小説「ハイドゥナン」(早川書房:amazon bk1)で、自らも南西諸島の沈没を描いています。
 藤崎さんによって企画が成立したところで、まず、海洋研究開発機構で、海底掘削船「ちきゅう」の実現に尽力した西村一さん(SF大会では海洋SFマニアとして有名)に、執筆者として白羽の矢が立てられ、最後に松浦がおそらくは専門知識を一般向けにかみ砕く技術を買われたかで、参加しました。執筆にあたっては、西村さんが八面六臂の活躍をしました。執筆量は、西村、藤崎、そして最後に松浦という順になります。

 私は、本書末尾のIODP、ちきゅう、そして地球シミュレータの解説を担当しました。本書執筆は大変ではありましたが、楽しい作業でした。最新の地球科学は驚くほど急速に変動しており、毎年のように新たな発見がなされています。「なるほどねえ、現在はこういう状況なのか」と驚くことの連続でした。「日本沈没」が書かれた33年前は、ようやっとプレートテクトニクスが実証されたかされないかという時期でしたが、現在では地球の内部についてはるかに詳細なデータが集められており、なおかつ謎もまた増えているのです。

 読んで頂ければと思います。

2006.07.20

お願い:ロケットまつりの録音を捜しています

 『ロケットまつり』本の制作にあたって、情報提供のお願い (ロフトプラスワンホームページ)

 現在、ロフトプラスワンでの人気イベント「宇宙作家クラブpresents・ロケットまつり」の内容を本にしようとしていますが、第4回から第7回の録音や録画が、ロフトプラスワン側でできていなかったことがほぼ確実になりました。

 ついては、来場された方の中にこれらを録音した方がいらしたら、一部分でもかまいませんのでご提供いただけますでしょうか。

音源をご提供いただきたい回

* ロケットまつり4 − 2005年2月12日(土)開催
* ロケットまつり5〜ペンシルロケット50周年! − 2005年4月12日(火)開催
* ロケットまつり6 − 2005年6月3日(土)開催
* ロケットまつり7 − 2005年8月21日(日)開催

 勝手に録音していたからといって怒るようなことはありません。また、念のため、これらの音源が見つからなくても、出版を断念することは考えていません。

音源をお持ちの方は、お手数ですが8月4日までに「rocket●loft-prj.co.jp」(●を@に変えてください)へご連絡ください。

 

 松浦からも、よろしくお願いいたします。

2006.07.08

宣伝:7/20、7/29、新宿・ロフトプラスワンのイベントに出演します

 下記の通り、新宿・ロフトプラスワンのイベントに出演します。

●7/20(木)
宇宙作家クラブpresents
「小松左京&谷甲州,『日本沈没』を語る」
7/15に映画「日本沈没」も公開。そして小説「日本沈没」第二部も発売。小松左京氏とともに第二部作者の谷甲州氏をお招きしてのトークライブ。この対談イベント、必見!
【出演】小松左京(作家)【Guest】谷甲州(作家)
【聞き手】松浦晋也、笹本祐一
18:30Open/19:00Start
前売¥2300/当日¥2500(共に飲食別)
前売はロフトプラスワン店頭にて7/9〜発売

●7/29(土)
宇宙作家クラブpresents
「ロケットまつりスペシャル 「はやぶさは舞い降りた」 」
小惑星からのサンプル採取をミッションに宇宙を行く・小惑星探査機「はやぶさ」。その「はやぶさ」チームをお呼びしてのトークライブ!
【Guest】橋本樹明(ISAS=JAXA宇宙科学研究本部教授)、久保田孝(ISAS助教授)、矢野創(ISAS助手)
【聞き手】松浦晋也、笹本祐一、浅利義遠
Open18:00/Start19:00
¥1200(飲食別)<当日券のみ>


 共に会場は
ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864)

« June 2006 | Main | August 2006 »