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2006.11.26

小杉健郎先生逝去

Kosugi

 26日は宇宙作家クラブ例会、半田利弘先生の講義を楽しみ、仲間内で酒を飲んでの帰途、携帯電話で、太陽観測衛星「ひので」プロジェクトマネージャーの小杉健郎先生逝去の報を受け取った。
 2日前に脳梗塞で倒れ、意識を回復しないまま今夕の死を迎えたとのこと。

 一体何を言えばいいのだろう。先生が全精力を注ぎ込んだ太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」はこの9月に打ち上げられ、まさにこれから素晴らしい観測データをどんどん送り届けてくれるところだったというのに。かくのごとき死があるとは。

 私が小杉先生と親しく話したのは一回きりだ。「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」を出した後、的川泰宣先生の部屋にお邪魔した時、先客として的川先生と雑談(ではなかったのかも知れないが)していたのが小杉先生だった。

 小杉先生は「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」をほめてくれた。その上で「前の『ようこう』でも、ずいぶんと危ない局面はあったんだよ」と話してくれた。私はといえば、「これはネタになる。SOLAR-Bが無事に上がったら聞きに行こう」と考え、先生の話を聞いていた。

 もはやそれすらかなわぬ夢となった。

 あの時、色々とお話を伺ったが小杉先生が、SOLAR-B実現に、全精力を注いでいることは会話の端々から感じることができた。

 今年9月の打ち上げ時に、内之浦で松葉杖をついている姿を拝見したが、「今は声をかけるまい」と、遠巻きに見ていた。その後。相模原ISASの食堂で定食を食べているのを見かけた時も、「もう少し後で」と思い、声をかけなかった。ISASの定食を食べるというよりも、かき込むという調子で食べていた小杉先生の表情は、幸福そうだった。それは、「やっと本格的な観測ができる」という幸福感だったのだろう。
 今年9月の打ち上げ成功後の記者会見で、小杉先生の表情はこれ以上はないほどに 晴れ晴れとしていた。「これからが本番だ」という喜びに満ちていた。明らかに先生は、全身全霊を SOLAR-B計画にかけておられた。

 今、私が言えることはただ一つだけだ。「先生、ご苦労さまでした」。いや、これすら私のような部外者が言うべきことではない。

 小杉健郎という個人の意志は、「ひので」観測チームに引き継がれるのだろう。

 写真は、今年9月23日、「ひので」打ち上げ成功記者会見にて。撮影:喜多充成

2007.11.27 13:00注記
 一部文章を不適当と判断して削除しました。経緯はコメント欄に書きました(松浦記)


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Comments

言葉もありません。

>現在のJAXAには様々な人がいて、中には立場ほどに責任を負うことから逃げている人もいる

多かれ少なかれ、どこの団体や企業にも、周囲の人間をうんざりさせるほどの自己保身に走る人間はいるものですが、そういう奴がいると、その下で一所懸命に動いている人間は、全くもってやる気を削がれてしまいます。人材も決して育ちません。(自分がかつて勤務していたところがまさにそういうところの典型でしたので…)

小杉氏のように、ひとつの計画に対して本当に心から打ち込んで取り組んできた人物を失うことは、JAXAにとっても日本の科学にとっても、あまりにも痛い損失です。

志半ばにして… という言葉が、小杉さん自身の気持ちにも当てはまることでしょう。
心からご冥福をお祈りいたします。

 昨日、良い気分に酔っての帰宅途中に、連絡を受け、帰宅後に大急ぎで文章を起こしました。かなり私も混乱しており、結果、訃報に相応しくない内容を書いてしまいましたので、一部削除しました。

 削除部分はとりあえず以下に置いておきます(Almost Prayedさんの書き込みの意味が分からなくなりますし)。また、この件については今晩、トピックを改めて書くことととします。

「一人の人、それも立派に生きた人の死にあたって、以下のような事を書くのは、死を汚すことなのかもしれない。それでも私は書かざるを得ない。

 現在のJAXAには様々な人がいて、中には立場ほどに責任を負うことから逃げている人もいる。

 具体的に書くならば、準天頂衛星、GXロケット、その他現在どんづまりにある宇宙プロジェクトが現在の窮状に至るにあたって、過去に意志決定をできる立場にいた、あるいは現在も継続して、立場にある人である(個々には過去の失敗プロジェクトを並べてもいいだろう「みどり」とか「みどり2」とか)。

 そういった人々と、小杉先生を同じ「管理責任者」という地位でくくってはならない、と思う。」

本当に残念でなりません。観測が始まるこのタイミングに運命の残酷さを感じずにはいられません。
#TBさせていただきました。

http://solar-b.nao.ac.jp/news/061127PressConference/
「ひので」搭載可視光・磁場望遠鏡の初期成果
先ほどから見入っています。
素晴らしい映像です。

サイエンティストで、自分のプロジェクトを夢を、多くの人の共感のもと語れる人は少ない。そして、小杉先生は貴重なお一人でした。

太陽は難しい分野で、日本は世界のトップをいっているのですが、研究者はそれほど多くない。また、一般市民の人気もそれほど高くないのが実情です。日食は例外ですが。それこそ日の丸の国だというのに。

そうしたなかで、小杉先生の存在は、さまざまな点でかけがえのないものでした。まさにこれからという時に、誠に残念でなりません。

これからは、ひのでチーム、そして日本の太陽研究者が小杉先生の遺志をつぎすばらしい活躍をしてくれることが、小杉先生の最大の喜びでしょう。われわれもその応援ができればと思います。

>「ひので」搭載可視光・磁場望遠鏡の初期成果

小杉先生は、お亡くなりになる前に、この映像をご覧になられていたのでしょうか?

> お亡くなりになる前に...

11月7日の「本日のひので」には「……リムに見えるスピキュールのムービーは圧巻。ひのでにより、教科書はかなり書き換わり……」とあります。

そして1週後の11月15日付の記者会見資料には、27日のに発表予定の画像が添付され、出席者として小杉先生のお名前も記載されています。http://solar-b.nao.ac.jp/news/061127PressConference/1127PressConf-ver3.pdf

なので「ご覧になっていた」と推察しますが、直接ご存知の方、先生が漏らした感想などを。

以下は私なりの「追悼の辞」です。
http://kids.jaxa.jp


16日のサイエンスZEROで急逝直前に収録された内容が放映されるそうですね。

サイエンスZEROを見ました。
番組後半で「ひので」に関する話題になり、

ノートパソコンに映し出された初画像をみて、爆発せんばかり..
光球面の拡大された可視光画像を見て絶句した..

等、これからやるぞという感じが満面にでていて、
番組最後の追悼のテロップがでた時には、
あまりに唐突な死であったことが感じられました

  

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