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2007.03.31

道路交通法改正案を読む

 私が復帰したら、すぐにコメントが付いた。話題は、昨年来の自転車の歩道走行問題だ。

 この件に対する疋田智氏の反対運動を、「政治的意図に基づく陰謀」とする主張である。警察庁は終始一貫しているにもかかわらず、それに難癖を付けたというわけだ。

 私が更新を止めている間に、警察庁から、道路交通法改正案そのものが公開された。

・「道路交通法の一部を改正する法律案」について[H19.3.2 掲載]
 [条文] PDFファイル
 [新旧対照条文] PDFファイル

 問題となっている自転車の歩道走行について、改正案の具体的な条文は以下のようになっている。

第六十三条の四 普通自転車は、次に掲げるときは、第十七条第一項の規定にかかわらず、歩道通行することができる。ただし、警察官などが歩行者の安全を確保するため必要があると認めて当該歩道を通行してはならない旨を指示した時は、この限りでない。

 これに続いて、歩道走行の用件を「交通標識で指定されているとき」「児童、幼児などが運転しているとき」「車道または交通の状況にてらして自転車の安全が確保できないと認められるとき」と定めている。

 警察官が指示できるのは「歩道を降りて車道を走行すること」であり、「車道から歩道に乗る」ことではない。
 基本的に警察庁は「自転車は原則車道を走る」という基本に戻って自転車の交通安全を確保する方向に踏み出したといっていいだろう。

 ところで、昨年11月30日時点の「自転車の安全利用の促進に関する提言」で、警察庁はどのような態度を示していたかを思い出そう。

「自転車の安全利用の促進に関する提言」 [H18.11.30 掲載]

問題となっている提言4.2.4をもう一度読んでみよう。

上記の環境整備にあたっては、
○ 自転車道や車道における自転車の走行環境の整備状況に応じ、自転車歩道通行可の規制を解除すること
○ 自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること

など、個々の道路について交通環境の変化に応じた交通規制を実施するよう配慮する必要がある。

 これは一見平等な両論併記に見えるが、一つめの○は現行道路交通法の枠内で対処可能であり、これは新たな主張でもなんでもない。つまり法案の改正になんの影響も及ぼさない。
 問題は二つめの○にある。これは、現行道路交通法にない規定を作るということである。

 つまり、警察庁は昨年11月時点では、「自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずること」という内容の条文の追加を考えていたことを意味する。

 それが、実際の改正案では「普通自転車は、次に掲げるときは、第十七条第一項の規定にかかわらず、歩道通行することができる。ただし、警察官などが歩行者の安全を確保するため必要があると認めて当該歩道を通行してはならない旨を指示した時は、この限りでない。」ということになった。

 提言がそのまま条文になるとすれば「ただし」以下は、「また、自転車が車道を通行することが特に危険な以下の場合は、当該道路の自転車通行を禁止するなどの措置を講ずることができる」とならねばいけないはずなのだ。

 警察庁は、今年2月の記者会見で、「誤解に基づくパブリックコメントが多数集まった」とした。
 しかし昨年11月の「提言」と今年3月の「道路交通法法改正案」との間に存在する内容の変化は、警察庁が「自分たちは首尾一貫している」とする彼らの主張とはうらはらに、「誤解に基づくパブリックコメント」で、態度を変えたことを示している。

 私は、上記の事実を「警察庁は、当初自転車を歩道に上げることを考えていたが、パブリックコメントの結果で方針を転換し、自転車の原則車道走行に方針転換した」ことの証拠と考える。

 疋田氏の主張は、政治的意図を持つ陰謀でもなんでもなく、正鵠を射た的確なものだったということだ。

 この件を、今も「陰謀だ」と考えている人は、ここに示した警察庁ホームページにあるオリジナルの文章を読んだ上で、もう一度自分で考えてもらいたい。

 このことは何度書いても強調しすぎることはないだろう。オリジナルに当たり、きちんと読み込み、自分の頭で考えてみよう。


 さて、以下は蛇足。

 物書き商売をしていると色々なところから情報が入ってくるものだ。
 ニュースソースを秘匿しなければならないので「警察庁が態度を変えた確たる証拠」として、ネットに出すわけにはいかないのだが、私は信頼できる筋から「警察庁幹部が事前に自転車メーカーに対して、『自転車は主要道路で歩道に上げる』とはっきり言い切った」と聞いた。
 「これが証拠だ」と、提示できないので、とりあえずひとつの判断材料としてもらいたい。

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Comments

警察庁と経済産業省の両方から「ご指導」を受けている業種に従事するものです。
両方と付き合っていて思うのですが、経済産業省は比較的、産業の育成・社会への影響といったものを合理的に検討し、判断基準も明確なケースが多いと感じます。
それに対して、警察庁は、産業の育成はもちろん、治安への影響もあまり考慮せず、自分達の権限の確保を優先し、さらに、判断基準を不明確にしつづけることで過去の裁量行政をいまだに維持しつづけようとしているようにも感じます。
今回の一連の話を読んでいても、「いかにも警察庁」と感じます。
警察官僚の意思決定のメカニズムに、非常に興味が…

最後のところですが、「車道に上げる」ですか? 「歩道に上げる」ではなくて。上げるって言葉を使うからには歩道だろうと思いますが、意味が正反対になってしまうので確認です。

sarumaruさん

 そうでした。当方の間違いです。訂正しておきます。

なぜ、"道路交通法の一部を改正する法律案"を読むときは、https://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2007/02/post_209a.htmlにあるように「その文章の前にどのような文章が公式文書化されているかという脈絡」を加味しないのですか?
その文章は、11月の提言、12月のパブリックコメントを受けた公文書じゃないんですか?
そういうところが恣意的だと言われる所以でしょう。
前回は加味したのに、今回は加味しないことに対する論理的な説明を期待します。
なお、「パブリックコメントによってひっくり返った」というのは論理的だとは認めません。その前に警察庁内部の声でひっくり返ったとするほうが3桁ほど論理的なので。

#ついでに。疋田氏の運動が政治的な陰謀なんてアホなことは考えていません。疋田氏のことは、ただ単に「勘違い君」だと考えています。

「やはり恣意的だと思います」さん

>前回は加味したのに、今回は加味しない

 はて?
 私の文章を読み損ねてはいませんでしょうか。

 私は法案の文面と、昨年11月の提言の文面を比較しているわけです。
 これは「その文章の前にどのような文章が公式文書化されているかという脈絡」を見ていることですよ。

>なお、「パブリックコメントによってひっくり返った」というのは
>論理的だとは認めません。その前に警察庁内部の声でひっくり返っ
>たとするほうが3桁ほど論理的なので。

 この件で、「疋田の陰謀だ。恣意的な文章の読み込みだ」とする人は、「終始、警察庁の態度は一貫して自転車の車道歩行を認める立場だであり、疋田は間違っている」としていました。

 「やはり恣意的だと思います」さんは、警察庁の態度が内部の声でひっくり返ったと考えておられるわけですよね。つまり「疋田氏は正しく、警察庁は態度を変えたのだ」ということです。

 そう考える「やはり恣意的だと思います」さんが、疋田氏を「勘違い君」と評価することは妙ですね。「自分も勘違い君です」と告白しているのと同じことになりますよ。

 確かに「パブリックコメントによってひっくり返った」というのは、事の経緯を省略した理解である可能性があります。私は、実際には「元々警察庁内部に、自転車を歩道に上げることに対する反対勢力があって、それがパブリックコメントで力を得て警察庁全体の方針転換に成功した」と見るのが自然だろうと思います。

 でも、「論理的だとは認めません」というのは言い過ぎ。「その方が自然だ」ぐらいでしょう。
 

 なお、この件については、疋田氏自身が、雑誌「BICYCLE NAVI」(二玄社刊)の最新号24号で、事の経緯を詳しく書いています。

 「疋田智の自転車ズバッ」という連載の第1回「自転車歩道法案のルーツ」という記事です(同誌p.132〜p.133)。
 これまでネット上では明確になっていなかった、「何故疋田氏は、警察庁が自転車を歩道に上げようとしていると判断するに至ったか」がまとめられています。

 今後この問題において疋田氏を批判する立場を取るならば、この文章は必読でしょう。そして、ここに書かれた疋田氏の体験に論理的に反駁しなくてはなりません。

「やはり恣意的だと思います」さんも、是非ともこの文章を読んで、さらに考えてみて下さい。

 私も疋田氏の文章を読んだ上の分析を、別途書こうかと思います。

 この件は「もう面倒だからやーめた」と投げてしまって良い問題ではありません。自転車という役に立つ道具を、公共交通の中でどう位置付けて使っていくかという大変重要な問題です。

これまでの展開を見ていてあるマンガを思い出しました。
藤子・F・不二雄 氏の「箱舟はいっぱい」

接近中の彗星が地球に激突し人類は滅亡する。
政府は極秘裏に地球脱出用のロケットを建造している。

そんな噂が飛び交い世間はパニックに陥る。
すると政府は「彗星との激突などありえないしロケット建造は完全なデマだ」と公式発表。
同時に脱出ロケット乗船チケット販売の詐欺グループが逮捕される。
「なんだ、そうだったのか。ばかばかしい」と皆は安堵し治安はたちまち回復するが、実は・・・

こんな話です。

>「警察庁幹部が事前に自転車メーカーに対して、『自転車は主要道路で歩道に上げる』とはっきり言い切った」

これが事実としても世論操作のための意図的リークという危険性がありませんか。
飛びついたところで真逆の公式発表をして反対派の信用を失墜させるとか。

レーダー衛星の件についても運用状況を完全に秘匿してきたのに「ぶっこわれた」という話だけが大々的に報じられるのは何故でしょう。
国民への説明責任というより後継機の値段交渉におけるメーカーへのプレッシャーと私には感じられるのですが。

真実を追究しているつもりで相手に操られるという可能性は誰にも常にあります。
情報の取り扱いの難しさというものを感じます。


>これが事実としても世論操作のための意図的リークという危険性がありませんか。

 それはないと思います。

 我々、陰謀というものが存在すると思いがちですが、ある程度以上の人数の人間が知りうる陰謀は周囲の暗黙のうちの了解がなければ成立しません。必ず内部の反対者から真相が漏れます。
 ロッキード事件の時に、田中番の新聞記者らが立花隆が文藝春秋に掲載した記事に対して「そんなことはみんな知っていた」という話がありますが、それと同じです。
 この場合、田中番マスコミが、「今太閤田中角栄のダークな部分は書かない」という暗黙の了解を作っていたのですね。
 了解の外にいた立花が、「実はこうなんだよ」と書いちゃったわけです。

>後継機の値段交渉におけるメーカーへのプレッシャー
 これはあるかもですね。レーダー3号の開発はもう始まっているので、値段ではない、なにか別の部分でメーカーである三菱電機、その他サブコントラクターに対して、プレッシャーがかかっている可能性はあるかもしれません。

>真実を追究しているつもりで相手に操られるという可能性は誰にも常にあります。

 インテリジェンスには常にこの問題がありますね。広義には交渉術というものもこの範疇にはいります。

 逆にレッテルに踊らされたり、自分の先入観で真実を見失うということもあり得ます。今回の件は、こっちかな、と私は思っています。

 gadgetさんも書いておられますが、警察庁の意志決定の過程は、あまり透明ではありません。実際はどのようにして方針が決まったかは興味有るところです。

RESありがとうございます。

>ロッキード事件の時に、田中番の新聞記者らが立花隆が文藝春秋に掲載した記事に対して「そんなことはみんな知っていた」という話がありますが、それと同じです。

そんな裏があったのですか。
なんだか映画の「アンタッチャブル」のよう。
「王様は裸だ!」と大人が叫ぶには覚悟が要りますね。

「日本の黒幕」とかいう本に安部譲二の「日本最大の黒幕はヤクザでも右翼でもなく官僚だ。田中角栄は官僚を敵に回したので葬られたのさ」との談話が載っておりました。
官僚機構そのものが「アンタッチャブル」ということなのでしょうか。

法改正に関しては今後も継続して注目していきたいと思います。

今出ているBIG ISSUE日本版の特集は自転車で、疋田さんのインタビュー等が載っています。湘南ではJR茅ヶ崎駅の北口デッキで売っているそうです
http://www.bigissue.jp/index.html

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