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2007.04.16

ジャンクフードを考える

Jiroramen

 タイトルは「考える」であって「食う」ではない。念のため。

 昨年春、ほぼ四半世紀振りに「ラーメン二郎」のラーメンを食べた。

 その日は、神保町の出版社で打ち合わせが長引いたのだった。腹が減ったぞ、さあどうしよう、と歩き回ると、靖国通りから路地を入ったところに行列を発見した。「二郎神保町店」とある。

 一つの記憶が蘇った。学生最後の年の三田祭(そう、私は慶應出身である。ただし三田には学祭ぐらいでしか通わない理工学部生だった)、私は「最後の記念に食べておくか」と、まだ三田の四つ角にあった「二郎」本店の行列に並んだのだった。ところが行列はあまりに長く、別の用事が入っていたので、途中で列を外れざるを得なかったのである。

 見ると行列はそう長くない。よし、学生時代の妄執をここで晴らしておこう。私は行列に並び、二郎ラーメンにありついたのである。

 山のようにもやしが載ったアブラぎとぎとのラーメンを一口食べて、思い出した。「俺、これ食ったことあるわ」

 記憶はさらに遡る。大学に入った年、学祭の準備で先輩に連れられ、三田にやってきた私は、「三田に来たらこれ食わなくっちゃな」という先輩と共に二郎ラーメンを食べたのだった。不味いとしか形容しようがない味に「なんだこりゃ」と思った。
 ずっと忘れていたのだが、最初の一口でありありと、それこそ、脂で微妙に粘っている二郎本店のカウンターの手触りまで含めて思い出した。
 おお、プルーストの「失われた時を求めて」みたいじゃないか。


 二郎のラーメンについては、このあたりのページWikipediaの記述を参照してほしい。かつては三田の四つ角にあり、慶大生に絶大な人気を誇ったラーメン屋だ。場所こそ移動したものの、現在も三田で本店は営業しており、その他のれん分けの店が首都圏を中心に多数存在する。

 二郎のラーメンはとにかく盛りが良い。野菜がどんぶりにてんこ盛りになって出てくる。その味は脂ぎとぎと、化学調味料たっぷりの奇怪なものだが、くせになる習慣性を持つ。
 二郎にはまった者は「ジロリアン」を自称し、のれん分け全店制覇する者や、自宅で二郎の味を再現しようと研究を重ねる者(「家二郎」なる単語まで存在する!)など、多彩な活動を展開しているらしい。

 その他、勉強せずに卒論のネタに詰まった学生が、二郎のおやじさんにインタビューして「二郎ラーメンの来歴」を卒論代わりに提出して卒業したとか(驚いたことにネットにアップされている。これだ)、「ラーメン二郎」の商標を他者に登録されて名乗れなくなりそうになった時、慶大出身の弁護士が一致団結して無償で協力し、商標を取り返しただとか、二郎を巡るエピソードは尽きない。
 ジロリアン作と伝えられる「二郎はラーメンではなく、二郎という食べ物である」という言葉は、けだし名言であろう。

 さて、ここからが本題。

 四半世紀振りに二郎ラーメンを食べた私の脳裏で、ひとつの疑問がわき上がったのである。「二郎ラーメンは明らかにジャンクフードだ。ではジャンクフードとは何か?」

 Wikipediaでは「ジャンクフード(junk food)とは、エネルギー(カロリー)は高いが他の栄養価・栄養素の低い食べ物のこと。」と書いているが、二郎ラーメンがカロリー以外の栄養価が低いとも思えない。
 単にカロリーが高いことがジャンクフードの条件にすれば、氷砂糖なども入ってしまうことになる。

 昨年の夏から秋にかけて色々考えた末に、遂に私は妥当と思われるジャンクフードの定義にたどり着いた。キーワードは「過剰」である。

ジャンクフードの定義(松浦による、2007)
・炭水化物を中心に
 1)過剰な塩分と油脂で味付けされた食物
 2)さらにそれらに
   a)過剰なアミノ酸
   b)肉、チーズなど過剰なタンパク質
   c)過剰な香辛料
  の一部、ないし全部が付加された食物

・タンパク質を中心に
 1)過剰な塩分で味付けされた食物
 2)さらにそれらに
   a)過剰な油脂
   b)過剰なアミノ酸
   c)過剰な香辛料
  の一部、ないし全部が付加された食物

 この定義ならば、カップ麺や駅の立ち食い蕎麦や牛丼から、ビーフジャーキーや魚肉ソーセージに至るまでをカバーすることができる。
 すべての項目に「過剰」とあるところに注意して貰いたい。過剰さこそが、ジャンクフードのジャンクフードたる所以なのである。

 この定義に従うと、二郎ラーメンのジャンクフードとしての完成度が見えてくる。まず、中心となる炭水化物は自家製極太麺だ。醤油味で化学調味料たっぷり豚骨スープには、塩分とアミノ酸がたっぷり入っている。もちろん脂ぎとぎとで油脂は十分。「ブタ」と称する極端な厚切りチャーシューで過剰なタンパク質という条件もクリアする。「ニンニク」山盛りトッピングで、過剰な香辛料もオッケーだ。
 しかし、それだけに留まらないのが二郎ラーメンの恐るべきところと言えるだろう。「野菜マシマシ」のコールとともにトッピングされる山盛りのゆでたもやしとキャベツ。

 そう、二郎ラーメンには、「過剰な野菜」というもう一つの隠し武器まで装備されているのだ。すごいぞ二郎ラーメン、まさに無敵。最強のジャンクフードの名にふさわしい。

 そんな二郎ラーメンの欠点は、極太麺を茹でるため、作るのに時間がかかるということ。店の前にはいつも行列ができるので、熱烈なジロリアン以外は、なかなかその味に触れる機会がない。中毒患者を増やすのが困難なのである。

 ふ、そんなことでは世界征服に使えぬではないか。目指すはジャンクフードによる世界の食の蹂躙。手本はマクドナルド、と、昨年来「究極のジャンクフード」というレシピをつらつらと考え続けている。モデルは二郎ラーメンだ。これを短時間でサーブ出来るように改良すれば、世界のいかなる民族をも味で支配できるに違いない。
 わはははは、世界が我の足下にひれ伏す日は近いぞ。

 が、考えてみれば、ジャンクフードで生活習慣病ばかりの国民となった国を征服しても、大して面白くはないのだっだ。

 究極のジャンクフードレシピは、とりあえずは、レインボーマンの「死ね死ね団」あたりに、「日本を破滅させるにはこれっすよ」とフランチャイズ権として売りつけるのが適当なのであろう。


 なにやら話が妙な方向に向かってしまったが、気にせずまとめることにしよう。
 上記のジャンクフードの定義から、「過剰」を抜いて、代わりに「適度」と入れてみよう。

・炭水化物を中心に
 1)適度の塩分と油脂で味付けされた食物
 2)さらにそれらに
   a)適度なアミノ酸
   b)肉、チーズなど適度なタンパク質
   c)適度な香辛料
  の一部、ないし全部が付加された食物

・タンパク質を中心に
 1)適度な塩分と油脂で味付けされた食物
 2)さらにそれらに
   a)適度なアミノ酸
   b)適度な香辛料
  の一部、ないし全部が付加された食物

途端にヘルシーフードに早変わりする。二郎ラーメンのようにこれに適度の野菜が加わるならば、けっこうな健康食だ。

 つまりは程度問題であり、人間の脳は過剰に対して快感を感じるようにできているのだな、というまあ当たり前と言えば当たり前の話なのであった。

——我ながら詭弁っぽい話ではあるが、ともあれ昨年来ジャンクフードについて考え続けているのは事実。ちょっとばかり実験もしているのだけれど、その話はまた気が向いたら。

 写真はラーメン二郎神保町店のラーメン。

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Comments

ジャンクフードの定義としては、ずばり「習慣性」と「入手性」ですね。どこでも思いついたときにはすぐ食べられるもの」って感じですかね。牛丼愛好家から怒られると思いますが、牛丼も十分そのカテに入っています。
あとみんなハンバーガーをジャンクだと馬鹿にするけど一日一回普通サイズなら良い食事だと思いますよ。

お店のおねーさんに
「シェイクを付けてポテトとコーラのゴールデンコンビはいかがですかー!」
と言われて、

「あ、はい、それお願いします!」

と言っちゃうと、もーカロリー過剰ですけどね。

食品業界は売り上げ拡大のため、生活習慣病を黙認してるとしか思えませんが・・・・
ジャンクフード業界のCSRとは如何に??


追加!

昔はバイナップル、バナナと言えば高級果物で、病院にでも入院しないと缶詰パインでもなかなか食べられんぜいたく品でした。(おいおい、いつの生まれだ??)

それを親類の甥っ子は
「バナナきらい!パイン硬い!きらい!!」
「おじさん(私のこと)ボク、ウニ大好き!!お寿司に行こうよ!でもエビきらい!」
とのたまいます。
中年の会社員みたいなこと言うんじゃない!とも思います。
(小学生になる前にウニなんか食べさせるな!おじいちゃん!)


入手性が変わると食品の評価が変わります。ほんとですね。

マクドナルドで一人前のハッピーセットを数人で分けて
”適度”なレベルにまで落とし込んだら
マクドナルドはジャンクフードでは無くなる・・・?

”太ったアメリカ人が食ってそうな物”
”体育会系の酒飲み男子大学生が好みそうな物”
この二つに抵触するモノってことでどうでしょう

ジャンクフードとは
「安い・(店で食う場合には)早い・旨い・量がある」の要件を満たし、このうちの「旨い」の要素を「過剰な塩分、脂分、化学調味料、香辛料」の、いずれか一つ、もしくはいくつかの組み合わせで実現している物。

って感じでは?

二郎にも負けない大森の店として、霞ヶ関の役人たち御用達とも言われる、虎ノ門の「ビックラーメン」を紹介します。
みそ、しょうゆ、しおの3種類から味が選べて、いずれも野菜が650gもってあって680円。
さらに、「男性専科」というメニューになると、麺が2玉、野菜1.3kgになぜかゆで卵がついてきます。
霞ヶ関や虎ノ門、内幸町、新橋にご用向きあればお試しください。
その他のメニューも基本的に大盛りです。

参考URL: http://www.awaremi-tai.com/bibou/bibou012.htm

 なるほど、調達の用件も考えると色々なジャンクフードの定義ができるんですね。私はあくまで単品として考えていましたが、どういうシチュエーションで食べるかも考えねばならないわけか。

>虎ノ門の「ビックラーメン」
 うわあ、これは…食べに行ってみたいようなみたくないような。

 アクセスが悪いとジャンクフードじゃないわけですね。

 野菜1300gとはいきませんが、中標津の丸福の野菜ラーメンの大盛り具合も太っ腹です。

 ラーメン丸福
http://city.hokkai.or.jp/~tsurumi/maru/marufuku.html

…誰が行くんだ?というわけで、これはジャンクフードではないわけですか…。

rijinさん
こんばんは!

>アクセスが悪いとジャンクフードじゃないわけですね。

その辺は

習慣性(夜中に思い出すと車飛ばして食べに行く等)
×
入手性(アクセスしやすさ、価格、公衆の面前でも食べられる等)

ジャンクフード度(Max無限大)

と考えていただけると良いかと思います。

仮に同じジャンクフード度の食品があるとして、入手性が悪くとも習慣性でリカバリーする場合もあるでしょう。

野中にポツンとあるラーメン屋でも、習慣性の高い(なにか響きが怪しくなりますが)ラーメンを出して商売していればジャンクフード度が高いと判断されます。

これ工場安全活動の一環で、リスクアセスメントに出ていたと思う考え方のパクリなんですが・・・


> 浅利さま
はじめまして。
上原善広著『被差別の食卓』と言う、日本の「ホルモン」、アメリカの「ガンボ」等々、
世界のソウルフードについて取材した料理があります。
 その本によると、フライドチキンは、
元々、欧米では捨てる部位だった手羽(小骨が多く食べ難い)を、
ディープフライにして小骨を柔らかくして食べる黒人奴隷の料理だったそうです
(個人的に「手づかみで食べる」も注目点だと思います。)。
 で、その本を読んで考えましたが、いわゆるソウルフードって

・収入的に恵まれない→安い食材。
・安い食材ゆえ、アクの強い材料が多い→香辛料・アミノ酸類が多くなる。
・身体を動かすから汗をかく→塩分が多い。味が濃くなる(これもアミノ酸が多くなる原因)。
・身体を動かすからカロリー消費が多い→炭水化物主体、または、腹に溜まるように脂っこい。

と、見事にジャンクフードと被るんですよね。
 多分、食べる人のニーズに合わせて誕生したのがジャンクフード、
生活環境と言うシーズから誕生したのがソウルフードだと思うのですが、
ジャンクフードとソウルフードの線引きは、僕にとって未だ不明瞭です。

>わはははは、世界が我の足下にひれ伏す日は近いぞ。

まるでムスカのよおだ。
業界のご意見番「ロケット番長」の本性がこんな傾奇者であられたとは。
宇宙関係の著作を読んで訪問した方が気絶しなきゃいいけど。

冗談はさておきまして。
ドライブしていると日本の国土はラーメン屋とパチンコ屋に埋め尽くされていると感じます。
しかしどちらも海外進出は一向に進みません。
やはり日本人の好みに特化したシロモノなのではないでしょうか。
どちらもろくに会話もせずに一心不乱に取り組む姿が何かの修行を思わせますが。

2001年に東京の映画館で「2001年宇宙の旅」のリバイバル上映があり、そのパンフレットに押井守氏の文章が載っておりました。
いわく「この映画の食事シーンは実にまずそう」
シャトル内の流動食やディスカバリー号内のペースト食もそうですが極めつけはあのシーン。
宇宙の果ての閉鎖空間での孤独な豪華ディナー。
あれが三食続くなら地獄としか言えない。

ラーメンやマックの人気は味もさることながら店独特の賑やかさ華やかさというのが大きいのではないでしょうか。
あれは豪華な調度に囲まれメイドさんに給仕してもらうものではありません。
「ジャンクフードを食いたいな」と思うのは「あの店の雰囲気を味わいたい」という気持ちと不可分だと感じます。

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