A-Bikeに乗る その3 A-Bikeを観察する
A-Bikeを子細に観ていくと、ずいぶんと細かいところまで気を遣った設計をしていることが分かる。同時に、6kg以下という軽さは、構造材に大胆に樹脂製品を使った結果であることが見えてくる。樹脂製品はガラス繊維で強化したFRPだそうだ。母材がなにかは分からなかったが、おそらくは高強度のエンジニアリング・プラスチックを使っているのだろう。
タイヤ周り。タイヤは6インチの小径。ホイールにドラムが付いており、外側から締め付ける簡素なドラムブレーキを採用している。部品点数削減のための設計だろう。ブレーキの効きはよく、タッチも通常の自転車と変わりない。ただし雨天でどうなるかは、雨中走行をしたことがないので分からない。
分割式のハンドル周辺。ハンドルは左右から差し込む。ガイド溝がついていることから分かるように、ハンドルはピンとガイドで半分固定されており、完全に分離することはない。左右のハンドルを受けるハンドル中央部は、下部がえぐってあり、同時に樹脂製の支持部品がついていることに注目。これはおそらく応力が集中してハンドルが分割部付け根から破断するのを防ぐためだろう。同時にえぐった部分からハンドルは下に折れ曲がるようになっている。
ちょっとピンぼけの写真だが、サドル部分。畳んだ状態から引き起こしたところ。サドルを支える金属のポストと、ポストを固定する樹脂製のサポートの基部ヒンジが同軸になっていることに注目。
縦フレームを伸ばしている。サドルは必要最小限の大きさしかない。いい加減な座り方をすると、お尻が痛くなる。もちろん、きちんと座骨を座面にあてて座れば尻が痛くなることはない。とはいえ、これで数十kmも走るのはちょっと勘弁して欲しいところ。
車軸を支えるのは驚いたことに、FRPの部品。金属製ではない。よほど強度に自信があるのだろう。それぞれの部品の内側には強度を保つためのリブが一体成型されている。
わかりにくいかもしれないが、前輪のホイール、ペダル軸の直後、そして後ろ縦フレームの3ヵ所に反射材が取り付けてあり、視認性を上げている。特に左右側面の白丸の反射材は強烈に光を反射する。交通の安全性という面でも、しっかりした配慮がなされている。
空気を注入するバルブ部分。タイヤに空気を入れるのは少々難しい。折れ曲がった口を外にひっぱりだす必要がある。タイヤチューブに直づけされている口をこじることになるので、チューブを破損しないように注意しなくてはならない。
バルブの規格は、ママチャリなどが使っている英式でも、スポーツ車が使う仏式でもなく、米式である。自動車やバイクと同じ規格だ。米式バルブに対応したポンプを持っていない場合は、新たに購入する必要がある。
空気圧は90psi(6.2KPa=6.2気圧)。通常の自転車は4〜5気圧程度なので、それよりも高い。もっともタイヤ自体が小さく空気量も少ないので、空気を入れる事自体は大した仕事でもない。
A-Bikeは、5月現在で、日本代理店(大作商事)が決まり、もうすぐ国内販売が始まるという状況になっている。
日本語の販売ページもできた。
価格は5万6000円(税別)。税込みで5万8800円だ。香港からの個人輸入では4万円そこそこだったので高く感じるが、英国からの個人輸入は税金によって7万円近くかかったので、まあ妥当なところかも知れない。
楽天でも取り扱いが始まっている。
11日現在、一番安いところで、税込み5万2500円である。
ところが現在、A-Bikeの格安類似品が日本に流入している。あえて掲載はしないが、楽天でも「A-Ride」「A-Bikeタイプ」といった名称で1万5000円程度で売られている。
これは、開発元のシンクレア・リサーチが中国の製造工場を選定する過程で、図面が流出したためらしい。儲かるならば知的所有権など知ったことかの中国企業が、売れると見てイミテーションを安く製造しているのである。
私はこれら偽物を直接さわったことはないが、買うべきではないと判断する。もちろん、知的所有権侵害の製品を買うなという意味もあるが、それ以上に、偽物は危険であると考えるからだ。
同じものを半値以下で作ろうとするならば、1)工作精度を下げる、2)材料を手抜きした安いものをつかう——しかあり得ない。
同じ中国で作っているのだから、人件費その他が大きく変わるとも思えない。開発コストの回収が不要ではあるが、それだけでここまで安くなるわけではない。
つまり偽物は安い低強度の材料と低精度加工で作られている可能性が高い。
A-Bikeは、適切な材料の選定と巧妙な設計によって成立している。精度と材料のグレードダウンは、即致命的な故障につながる可能性が高い。壊れて損をするだけならまだしも、走行中の破壊で搭乗者が大けがをする可能性もある。中国製品なので、製造物責任で賠償を求めようにも相手が見つからない火も知れないし、見つかっても賠償に応じるとは限らない。
自転車は自分の命を預ける乗り物だ。形が同じだけの安物を選ぶべきではない。
それでは、A-Bikeの乗り心地はどんなものなのか、というわけで次回に続きます。
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私の持っている某社のノートPCは、ヒンジのプラ部品が数年でクラックが入ります。もう2回交換しました。(メイド イン C国)
ヒンジ強度が弱く、設計段階から弱い構造になっていたようです。
構造部品がこの程度の「なんちゃって製品」レベルで作られた自転車は・・・
安全かどうかは、言わずもがなですね。
Posted by: DVDを見せたがる男 | 2007.05.11 07:13 AM
本物でさえ怪我し損なうかも知れないのですから乗り物にはおっしゃるとおり、十二分な配慮が必要と考えます。各部鉄製になって重くなってるが強度は平気、とかおっしゃる方がたまにいますが、軟鉄の強度はほんとにたかが知れてます。思いから頑丈というのも眉唾です。
Posted by: 須田浩之 | 2007.05.11 08:54 PM
素材技術と加工技術の進歩が、こういう設計の機械を実現させたというような自転車ですね。だから軽量で強度と耐久性に優れた材料が普及すれば、まだまだ革新的な設計が誕生する余地がある。
Posted by: 林 譲治 | 2007.05.13 09:55 AM
その後知ったところだと、どうやらA-Rideのほうは韓国製らしいです。どこでどう製造図面が流れたんでしょうね。
>軽量で強度と耐久性に優れた材料が普及すれば、まだまだ革新的な設計が誕生する余地がある。
その通りだと思います。だから、全産業の基幹として、材料分野は非常に重要ですね。
Posted by: 松浦晋也 | 2007.05.14 01:45 AM
いやいや、そもそも本物が高すぎでしょwwww
せいぜい1万でいい代物w どんだけ吹っかけて売ってるんだwwww
Posted by: ankoku | 2011.10.29 01:34 PM
確かに、昨今のドル75円というレートからすれば高いのですが、この記事を書いた2007年はそんなレートではなかったことをまず思い出して下さい。
そして「せいぜい1万でいい代物」というのはankokuさんの感想で、その感想に基づいて「どんだけ吹っかけて売ってるんだ」というのはアンフェアでしょう。きちんと、中味を分析して「これなら製造コストはこの程度だから、日本価格は高すぎる」と言えないと説得力がありません。
現在、後継車種のA-Bike Cityが4万8000円で売られていますね。ざっと検索するとイギリスでは280ポンド=3万5000円。代理店が入ることで1万3000円高くなることを容認できるかどうか、だと思います。
ただ、こちらは6.5kgになった(トレンクル6500と同じ)なので、私にとっては魅力が大分下がりました。
Posted by: 松浦晋也 | 2011.11.04 12:14 AM