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2007.09.13

「宇宙基本法を考える2」の補足その2

 昨日の記事の続きです。

 宇宙基本法が施行されれば、日本の基礎的な政策として宇宙開発が位置付けられる。と、同時に政治家の判断が非常に重要になる。本当に政治家はきちんと勉強して的確な判断を下せるようになるかどうかが、今後の日本の宇宙開発を左右することになる。

 では、もう一方の産業界が、宇宙基本法について何を考えているかという、これははなはだ心許ない。

宇宙基本計画への要望 宇宙変革の時期を迎えて(pdf)

 この22ページを読んでもらいたい。

 我が国宇宙開発や宇宙産業をめぐる状況は、財政制約の強まりなど、様々な制約条件がある。限られた予算の枠組みを最大限有効活用し、宇宙基本法の理念を実現しつつ、優先度の高いプログラムを推進していくためには、全てのプロジェクトに均等に予算を配分することは出来ない。重要な政策課題に対応し、優先度の高いプログラムから順次進めていくためにはメリハリのきいた予算配分が必 要である。

 この認識には賛成だ。

 本提言では、利用するサイドの優先度が高く、前項で述べた「宇宙基本法」の理念である「国民生活の向上」「産業振興」「研究開発」「国際協力」の四つの視点を含み、技術基盤も構築できる一石三鳥のプロジェクトに高い優先度を与えた。

 この手法も通常のものだ。選択と集中というわけだ。ところが…

 宇宙分野を大別すると、危機・災害管理を含んだ広義の「安全保障」と、技術基盤を含む通信・放送、リモセン、航行などの「実利用」、科学・有人ミッションなどの「研究開発」に分けられるが、特に我が国が喫緊に必要としながらも、十分に技術力が定まっていない分野に重点を置くとすれば、まずは、思い切って「安全保障」に重点的に予算配分することとし、ついで「実利用」を進めていくことが望ましい。

 なんだろう、これは?

 「選択と集中」ならば得手に集中して不得手分野を後回しにする。それが「特に我が国が喫緊に必要としながらも、十分に技術力が定まっていない分野に重点を置く」とは??

 これは「選択と集中」から見れば全く逆の、危険な失敗への坂道だ。

 はっきり言えば、「安全保障」と「実利用」とは、現在の日本の宇宙開発の得意分野ではなく、産業界から見て「政治家が納得してお金を出してくれそうな分野」というだけに過ぎない。

 航空宇宙工業会は、国防族議員とのつながりがある。おそらくは、そちらから手を回して安全保障分野を押し立てれば、政治家が財務省を説得して予算を付けてくれると考えているのだろう。

 ところが、安全保障分野の現状はどうかといえば、公称1mの分解能すら達成できない情報収集衛星の光学衛星に代表されるように、性能の足りない機器を、機密の壁の向こうで何をやっているか分からない状態で使っている(らしい)に過ぎない。

 光学衛星は、はっきり言って三菱電機が政府に売りつけた不良製品である。
 もちろん三菱電機やJAXAの技術者にすれば「4年であれだけの性能の衛星を作れというのが土台無理な話だ」ということになる。

 だが、三菱電機は民間企業だ。
 民間企業が「できます」と言って請け負った以上、商業道徳としてまともな製品を納入する義務がある。性能を達成できなかったということは詐欺的営業をしたということに等しい。

 「1000万画素です」といって300万画素のデジカメを売れば詐欺である。

 光学衛星が要求性能を達成できなかった理由は、基礎的の技術的蓄積が足りなかったからだ。日本の宇宙開発はこれまで安全保障分野の経験を積んでいない。つまり不得手分野だ。

 「喫緊に必要」であっても、地道で十分な時間を掛けた技術開発を省いて、いきなり大きな計画を実施すれば失敗する。ごく当たり前の常識である。

 工業会の主張は足元がしっかりしていない分野に金を突っ込め、といっているのと同じである。航空宇宙工業会は、こんなところに金を出せといって、本当に強固な縦割り予算体制を打破できると思っているのだろうか。

 予算総額が増えない現状で、縦割り予算を打破して予算を獲得するということは、予算をどこかから削って持ってくるということだ。
 そのためには、「我々の宇宙計画はこんなに役に立ちます。そっちに国家予算を投資するよりお得ですよ」と言って、しかも実績を示せなくてはならない。

 まず、実績を示せるところ、得意な分野に集中投資すべきなのだ。

 それはどこか。私は宇宙科学だと考えている。1955年のペンシルロケット以来、50年を超える蓄積が存在する分野だ。

 宇宙科学は、最先端の科学観測を行う。そこで蓄積された技術は、センサー技術から姿勢制御技術に至るまで、安全保障にも実利用にも役立つ。しかも、宇宙科学は人類が宇宙に進出するために必要な情報を宇宙から地球に送ってくる。我々は宇宙について何を知っているというわけではない。太陽系の中であっても分からないことだらけなのだ。

 その一方で日本の宇宙技術は基礎が薄いということをよく理解して、基礎研究に厚く投資すべきだろう。

 例えば宇宙輸送系の分野では、地上から宇宙への輸送コストを劇的に下げねば宇宙利用は進まないことが指摘されている。劇的に輸送コストを下げたければ、再利用宇宙機から軌道エレベーターに至るまでの様々な高い技術に挑まなければならない。
 一足飛びに高い技術に飛びつくことはできない。そんなことをすればスペースシャトルの失敗に続くことになる。

 日本の宇宙開発には、まず、なによりも多方向への厚い基礎研究が必要だ。「現状で何かを達成している」と慢心するのではなく、「まだまだできていないことが多い」と考えて、基礎を充実させなくては、未来の成功はあり得ない。


 以上、やや駆け足だが、私の主張をまとめておいた。

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Comments

松浦さん 超ご無沙汰でございます。
#はやぶさフィーバー以来のコメント書き込みです。(^▽^;;)

「宇宙開発の民間受注からみで生じた問題点」について問題提起されていましたので。。
また、折しも、打ち上げ延期になっセレーネ(かぐや)の打ち上げを明朝(9/14 AM10:31)に控えたタイミングでもありましたので。。。

私個人的には民間企業の先端技術力に期待したいし、JAXA&お上(日本国)側も、積極的に適材適所の民間徴用を進めて行って欲しいと思います。
#純粋な意味で。。大企業と官民癒着の「オドロオドロ」したネタはひとまず置いといて。。

「かぐや」は、H2ロケット初の『民間企業カラーの強いロケット』(ロケット本体に生産メーカーの「スリーダイヤ」が大きくマーキングされたロケット)で、月へ旅立ちます。
言い換えれば、「三菱重工のH2ロケット」が国産人工衛星打上の初舞台を踏む。。という事です。
これまでも民間企業がJAXAからの受託生産で宇宙開発プロジェクトには多数参画していると存じます。しかし、企業カラーを強く打ち出したロケットは、国産宇宙開発プロジェクトで初の試みかと思います。
また、「かぐや」の各種センサー機器にも、三菱電機をはじめ民間企業多数の技術の結集(6,7年前の技術ながら^^;)があちこちに、散りばめられていると聞いています。

「民間企業とJAXAの共同事業」というラベルが大々的に打ち出されている「かぐや」プロジェクトを見守りながら、私は(楽観的ではありますが、)『官民二人三脚』の国産宇宙開発の今後に期待したいと考えています。


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