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2007.09.12

「宇宙基本法を考える2」の補足その1

 昨日のネイキッドロフト「宇宙基本法を考える2」に来場した皆様、雨の中をご苦労さまでした。

 そして石附澄夫さん、吉井英勝さん、お疲れ様でした。特に吉井さん(「さんで呼んで下さい」ということでしたから、以下「先生」ではなく、「さん」と書きます)、私は共産党の議員の方と長時間話したことはなかったので、非常に刺激的で面白かったです。

 席上、吉井さんから「内閣総辞職、解散となると、議案は廃案になる」「継続を続けて衆議院任期満了と共に廃案という手もある」という発言があったが、一夜明けると安倍総理辞職というニュースが。
 この先、宇宙基本法がどんな扱いを受けるのか、成立するのかしないのか、ますます混沌としてきた。


 以下はちょっとしたまとめである。

宇宙基本法法案(衆議院):議員立法として提出された法案全文。

 法案は、最後まで細かい手が入れられている。これが最終的に提出された法案だ。

 私はずいぶんとよく練られた条文ではないかと考えている。第1条で法律の目的を「宇宙開発に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の向上及び経済社会の発展に寄与するとともに、世界の平和及び人類の福祉の向上に貢献することを目的とする」と定め、以下「宇宙の平和利用」「国民生活の向上等」「産業の振興」「人類社会の発展」「国際協力等」と条文が続く。

 特に7条に「環境の配慮」としてスペースデブリも含む環境問題に触れているのはいいことだと思う。

第13条に「国民生活の向上等に資する人工衛星の利用」として、「人工衛星を利用した安定的な情報通信ネットワーク、観測に関する情報システム、測位に関する情報システム等の整備の推進その他の必要な施策を講ずる」と定めている。つまり法律が国に対して「これらを整備せよ」と命令しているわけで、このあたりが経済界がこの法律を歓迎する理由のひとつだろう。その分、国家予算が宇宙開発に回るというわけだ。

 吉井さんが「宇宙の軍事利用につながる」と指摘した部分は14条。「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。」という部分だ。
 ただしこの部分は、法の理念を規定した第2条の「宇宙の平和利用」に反しない限り、ということになる。法制局は、「偵察や早期警戒衛星のような非破壊的利用は合法である」という解釈を出してくることになるだろう。
 従ってそれが軍拡かどうかは、軌道上からの偵察が軍拡にあたるかという問題になるはずである。

 第15条には、「我が国が宇宙開発に関し使用できる周波数の確保」という文言が入っている。これは大学衛星などにとって非常に重要だ。これまで総務省の動きが鈍かったために、国際的な周波数確保が難しかったのが、この法律が成立すると総務省に「すみやかに周波数を確保せよ」という強制力が働くことになる。

 第18条は「国は、宇宙の探査等の先端的な宇宙開発及び宇宙科学に関する学術研究等を推進するために必要な施策を講ずるものとする。」(ネイキッドロフトに来た皆様にお詫び:私は条文に「探査」の文言が入っていないと話しましたが、ここに入っていました)とある。

 この条文を「そうは言うけれども国家予算は限られているし、防災衛星や情報収集衛星が先で探査は後回し」という形で遮られないようにしなくてはいけないだろう。今現在の時点で宇宙から得られるのはごく微量の土壌サンプルと情報だけだ。そして宇宙探査こそ、宇宙から人類にとって最も有意義な情報を得ることができる分野なのであるから。

 石附さんからは、第24条以降に定められた宇宙開発戦略本部について議論が提起された。宇宙開発戦略本部は、本部長が内閣総理大臣、副本部長が官房長官と宇宙開発担当大臣、本部員が残る国務大臣という構成になっている。つまり閣議と同じということだ。

 条文案の段階では、本部員に有識者が入っていた。提出された法案では、「有識者」がはずれてより政治主導が鮮明になっている。石附さんからは、産業界はこのことに不満で、産業界からの有識者を入れろと主張しているという話が出た。

 これは不安要素だ。事実上の閣議で宇宙開発が審議されるというのは宇宙開発が国の施策としてはっきり位置付けられるということだが、では政治家達がいったいどの程度宇宙開発にまつわる問題を理解しているかといえば、現状ではかなり心許ない。
 ここで「よきにバカらえ」というバカ殿的丸投げの態度が定着してしまうと、官僚が作った計画に認め印という今までと変わらないことになってしまう。

 政治家には勉強してもらわなくてはならない。それも、最低でも高校の物理化学地学程度の基礎知識を持った上で、である。

 そして附則の第2条だ。

第二条 政府は、この法律の施行後速やかに、独立行政法人宇宙航空研究開発機構その他の宇宙開発に関する機関について、その目的、機能、組織形態の在り方等について検討を加え、必要な見直しを行うものとする。

 はっきりとJAXAの体制を見直すとしている。

 ここが宇宙基本法の理念をきちんと生かすことができるかどうかの分水嶺である。

 私は、アメリカがNASAと国防総省に別個の宇宙組織を持つように、安全保障分野の利用と民生利用の技術開発・宇宙科学を担当する組織をはっきり分離するべきだと考える。
 現状、JAXAが内閣府が運用する情報収集衛星を開発しているが、これは宇宙開発にとって好ましいことではない。安全保障分野の開発を同一組織で行うとなると、宇宙開発全体が閉鎖的な傾向を帯びることになりかねない。それは、現状でも近いとは言い難い国民と宇宙開発をさらに遊離させ、国民の支持を失わせる可能性が非常に高い。

 安全保障分野は予算も組織も別立てにすべきである。

 さらに宇宙科学の分野も、NASAがフィールドセンターのゴダード宇宙飛行センターに加えて、NASAの予算でカルテックによって運営されるジェット推進研究所(JPL)を持つように、地球回りと太陽系探査で独立性の高い組織が実施するようにすべきだろう。現状のように、情報収集衛星の予算負担が大きいから宇宙科学に予算が行かないというようなことは、縦割り予算の弊害であって、本来おかしい。

 縦割り予算を維持するならば、現状のJAXAに安全保障分野の衛星開発も割り振った上で、「いままでの予算枠でなんとかしろ」というのが一番簡単だ。霞が関としては、この一番安易な組織見直しを押してくる可能性が高いと私は見る。
 これからも宇宙開発を進め、我々がウォッチングしてあれこれと議論するためにもこれを許すべきではない。

 結局、宇宙基本法は、きちんと生かすならば、縦割り予算の見直しを必要とする法律なのだ。つまり新たな体制とその体制が打ち出す宇宙政策は、例えば「道路と堤防なんかより宇宙に金を」と主張できなくてはいけない。

 国家財政がきびしい現状で、国家予算の総額が増えることはないだろう。宇宙基本法が成立するということは、縦割り予算の枠を超えて、別の分野の予算をを削り、宇宙分野に予算を配分するということである。官僚組織としては予算不足を理由に再配分を拒否し、宇宙機関を安全保障をもまとめて一本化する案を押してくる可能性がある。

 予算の再配分を行うのは政治家の仕事である。日本の政治家は、政治に大きな権限を持たせる法案に見合うだけの、判断力、実行力を示してくれるだろうか。


 この話題、明日に続きます。

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Comments

宇宙基本法案のキモは、その第2条にあります。

>(宇宙の平和的利用)
>第二条 宇宙開発は、月その他の天体を含む
>   宇宙空間の探査及び利用における国家
>   活動を律する原則に関する条約等の宇
>   宙開発に関する条約その他の国際約束
>   の定めるところに従い、日本国憲法の
>   平和主義の理念にのっとり、行われる
>   ものとする。

これを読んで、「平和的利用」ええやないか、
と思うかどうか、センスが問われます。


月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び
利用における国家活動を律する原則に関する
条約等の宇宙開発に関する条約(昭和42年
条約第19号):

>第四条 条約の当事国は、核兵器及び他の種類
>  の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る
>  軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体
>  に設置しないこと並びに他のいかなる方法
>  によってもこれらの兵器を宇宙空間に配置
>  しないことを約束する。

「核兵器及び他の種類の大量破壊兵器」に当たらなければ、軌道に兵器を乗せることを容認しています。

また、自衛隊の存在が「日本国憲法の平和主義の理念」に反していると、政府は解していません。

宇宙基本法案第2条が宇宙の平和利用決議と一線を画することは、衆議院議員吉井英勝君提出宇宙の平和利用決議に関する質問に対する答弁書(平18.12.8受領)の「(二)について」からも窺い知れます。

どうも私は国にたよる産業は衰退するか、最初から大きくならないつまり国際的な競争力を持てない、気がしてなりません。やっぱり民間でいろいろやるべきだと思います。安全保障などの面からの国家戦略としての技術開発は必要ですが、それに頼るとあまりいい結果がでないような気がします。それは日本に限ったことではないような気がしています。
そんなこともあり最近のニュースとかをみて感じたことをブログ書いたのですが、直接宇宙基本法と関係ないですが、トラックバックさせてもらいました。

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