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2007.09.20

MRJ、大丈夫か?

 三菱重工業が、YS-11以来の国産旅客機「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」の開発に乗り出そうとしていることは、多くの人がご存知のことと思う。

 開発にゴーサインはまだ出ていないが、今回三菱重工はかなり本気のようだ。やっと航空ニッポン復活となるのだろうか。

 私は、かなり危惧している。旅客機市場はそんなに甘い世界ではないというのもあるが、それ以上に三菱重工の営業に不安感を抱いている。

 私の漠然とした不安感を補強する記事を見つけたので紹介する・

 「航空の現代」という航空の世界では有名なホームページがある。作者の西川渉氏は、朝日航洋の代表取締役専務まで務めた、リージョナルエア、すなわち地域航空のプロ中のプロだ。

 その西川氏が今年7月2日付けで、<パリ航空ショー> 三菱リージョナルジェット という記事を公開している。今年のパリ航空ショーに、三菱重工はMRJのモックアップを出展した。西川氏は航空ショー会場で、モックアップ内部を見学しようとした、その時の記録である。以下少し長くなるが引用しよう。

 川崎重工の向こう側では三菱重工が計画中のリージョナル・ジェットMRJのキャビン・モックアップを展示していました。実物大のコクピットと胴体部分を模したもので、非常に立派です。ところが、内部を見せてほしいというと、断られたのです。今日からパブリックデーなので、機内に人をいれるとキリがないからという理由です。

 しかし今日はビジネスデーでもあるし、第一そんなに人が詰めかけているわけでもない。周囲には誰もいないじゃないかというと、特別な人以外は見せられないという。なんだか「馬の骨」呼ばわりされたみたいで、確かにそうには違いないが、やっぱりカチンときた。無論こちらは最初から名刺を出して名乗っているわけです。

 こんなに立派なモックアップをわざわざつくって、はるばると日本から持ってきて、おそらくは高い料金を払って会場に展示しているのでしょう。にもかかわらず、内部を見せるわけにはゆかぬとはどういうことか。展示の意味がないではないかと押し問答をしていると、三菱の若い社員に代わって年配の女性が出てきました。そして、こちらの話を聞くと、しばらくお待ちくださいと言って引っ込み、やがてデザイナーを名乗る人物が登場しました。いずれも日本人です。

(中略)

 こうした規制というのは警察や国家のやりたがることで、何かの秩序を保つには必要なことですが、人に見せるための展示をしながら見せないというのは、どう考えてもおかしい。どこかに秘密があるのなら最初から展示しなければいいわけで、三菱重工の妙にこわばった権威主義を感じさせられました。平たくいえば「もったいぶるな」ということです。

 パリにMRJモックアップを持っていったのは、三菱重工の経営判断だったのか、それとも営業サイドの意向だったのか、いずれにせよ、この対応はあまりにひどい。

 まず、出てきた「三菱の若い社員」が、西川氏の名前を知らなかったということが信じがたい怠慢だ。MRJは、ミツビシ・リージョナル・ジェットだ。Googleで「リージョナルジェット」と検索すると、トップに出てくるのは西川氏のホームページなのである!

 西川氏のページを少しでも読めば、「作者はこの分野に非常に深い見識を持っている」と分かり、「作者は誰だろう」と西川氏の名前で検索をかけるはずである。そうすれば氏の経歴も出てくるので、「なるほど、仕事上この人の名前は覚えておかなくては」と考えるのが自然だろう。

 それが「特別な人以外は見せられない」と対応をしたということは、「三菱の若い社員」が、自分の仕事についてネットで検索することもしなかったということを意味する。仕事に対する意欲が全く感じられない。

 それ以前に、なぜパリ航空ショーまでモックアップを持っていったのか、その意図は末端まで徹底していたのだろうか。

 より多くの人にMRJを知ってもらい、その性能とコストパフォーマンスを宣伝し、受注につなげるためだろう。パリ航空ショーは、飛行機が飛び回るただのお祭りではない。軍民を問わず世界各国の航空関係者が集まり、ついたてを立てたブースの中で様々な商談を行い、自らの優位をアピールし、ライバルをけ落とす宣伝すらする、熾烈な商売の場なのである。
 一般客に混じって、お忍びの各国関係者がいてもおかしくない、そういう場所なのだ。

 モックアップなど汚れても壊れてもいい。直せばすむのだから。もったいぶるよりも一人でも多くの人にモックアップを体験してもらい、意見を聞くと同時に、「三菱は本気で旅客機を開発するつもりだぞ」と思わせることが重要なのだ。

 それが、「特別な人以外は見せられない」とはどういうことだろうか。西川氏の体験は、ビジネスデーに起きている。一般客は入場しておらず、会場内は航空関係者と出展者、そして報道関係者が大部分だ。
 やってきた各国の報道関係者にも「特別な人以外は見せられない」と言ったのだろうか。

 もしそうなら、つれなくされた報道関係者は、自国に戻り、「ミツビシはモックアップも見せてくれなかったよ、ケチだな」と言って回ることになるだろう。それが、MRJの国際的なイメージにどれだけのダメージとなるか、想像できているだろうか。

 一般公開日はどうだったのだろう。特別でない一般客がいくら来ても「特別な人以外は見せられない」という対応だったのだろうか。
 それら特別でない人が、将来MRJが就航した暁には、乗客として乗ることに、思い至っていただろうか。その時、「自分はパリで初めてこの飛行機のモックアップにすわったんだぜ」と考えることが、どれだけ三菱のイメージを高めるか、考えはしなかったのだろうか。

 パリまでモックアップを持っていって、対応を間違って悪印象を振りまいて、どうするというのだろうか。

 2003年にパリ航空ショーに行った時に見た、中国のリージョナルジェット旅客機「CRJ」の展示を思い出す。ものすごい熱気で、「買って下さい、買って下さい」と迫ってくるようだった。もちろんモックアップも全日公開である。

 そんな奴とMRJは市場で戦うのだ。戦う前の宣伝で負けていてどうするというのだろう。

 西川氏は、続三菱リージョナルジェットという記事も書いている。

 テレビや新聞は三菱の宣伝文をなぞって、これが如何に素晴らしいプロジェクトであるかを喧伝するが、絵に描いた餅ではどうにもならない。パリ航空ショーの現場では「こんな遠いところまで、朝早くからようこそ来てくれました。どうぞ、ご覧下さい」といった姿勢は、広報の美辞麗句とは逆にどこにも見られなかった。

 そうした姿勢はむろん現場の問題ではなく、上層部の熱意の程を反映し、税金を投入する日本政府の考えを映し出したものであろう。そこには何とかして、この飛行機を売りたい、買って貰いたいという背水の気迫は少しもうかがえないのである。

 この西川氏の意見に、私も同意する。

 三菱重工は官需主体のメーカーだからだろうか、営業部門がどうにも鈍重な印象を受ける。
 経営に失敗し、会社を閉じたロケットシステムも、三菱重工から営業出身の社長が来ていた。だが、同社が、営業的に目が覚めるような活動をしたという記憶はない。

 私としても、MRJで三菱重工が久し振りに意欲を出していることは素直にうれしい。1962年のYS-11初飛行から45年、1983年の日本航空機製造の解散以降24年もの時を経て、また旅客機を日本で作ろうという動きが出てきたことは、大きな意味があると考えている。

 それでも、パリでのこの振る舞いを知ると、「本当に大丈夫か」と、暗澹たる気分になるのだ。

 これでは勝てる戦いにも負けてしまうだろう。技術で負けるのではない。営業の基本ができていないことで負けるのだ。

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Comments

始めまして。三菱の官僚体質と商売下手、ホントに何とかしてほしいですね。来年のファーンボロではしっかり改善を望みたい。その前にローンチできるかどうかが問題ですが。

ただ、私も西川氏のHPは読んでおり、当該ページを見た時は、三菱あーあ、と思うと共に、西川氏の記述にも「この人も相変わらず言うだけだなあ」と感じたのを思い出します。
西川氏が高名であるのは承知ですが、「プロ中のプロ」「非常に深い見識を持っている」との見解には正直同意しかねます。

例えば西川氏がリージョナル機運行の実務、実情に触れたり、自ら市場予測をした記事はあまり記憶にありません。最近では他にもドクターヘリのLZ問題での荒唐無稽な主張、米軍用ヘリ業界の不振についてのお粗末な分析、かつてのエアバス称賛から近年のボーイング擁護への論調転換、など首を傾げるような主張、見解は多々あります。

また、朝日航洋もヘリの用務運行を主体とする会社であり、リージョナルエアとは言えないでしょう。たしかコミューターの運行を一時やりましたが、撤退したはずです。

営業の末端社員が販売を破壊する(妨害なんてもんじゃない!)というのは、私も見たことがあります。そんな時
「二度と買わん!絶対に導入を認めん!」
と客は確信しますね。

三菱の担当も語学が出来るので海外派遣とか駐在をしていますが、
「俺ががんばったからって給料が倍になるわけでもないし、エアショー開催中に何事もなければいい!逆にモックアップを壊されるほうが出世に響く!」
と考えるのが普通ですね。

さてMRJに関して日本の商社はどうしているのでしょうか?
昔の商社の泥臭い(生臭い?)営業マンはどこに行ったのでしょうか?
小ぎれいなブースに立っていれば営業していると勘違いしている営業の方も多いです。
さてMRJはそういった利権とか権益とかのぐちゃぐちゃした中でも販売できるか?
正に三菱グループの実力が問われます。

三菱重工造船部門の営業は普通でしたよ。
うちは中小企業でしたが、ひどい扱いを受けた記憶は無いです。

http://eiji.txt-nifty.com/diary/2007/06/post_80cf.html
他の事でも不評ですね。↑このレセプションは重工ニュース↓には載っています。
http://www.mhi-ir.jp/news/sec1/200706194595.html
お披露目の概念が行き届いていないことは、一事が万事といえるようです。

はじめまして三菱グループのひどさは末端に行くほどひどいですよ。
すでに三菱とはいえませんが、三菱ふそ○の営業所に一度足を踏み入れてみてください。

普通のディーラーなら営業マンが駆け込んできますが、ここでは「あっちにパンフレットがあります」と放置
仕事の打ち合わせがあって担当者を待っていて机に座っているとコーヒーを女子社員が運んでくる。
こちらに運んでくるのかと思いきや、先に社員に配りその後また待たせてから持ってきました。(ふつうは来客に先に出して後でね、と社員に断るのが当たり前だと思うのですが。)

等々、本格にダメなグループです。

「三菱重工は官需主体のメーカー」とありますが、これは偏見です。
官需も国内外コンペチタが多いため儲けは薄く、民間の方がメインで仕事が多いです。

三菱重工は三菱自動車や三菱ふそうの親会社だけあって、個々の顧客などは眼中になく、あるのは日本政府だけでしょう。個別の顧客に対する対応の悪さは、三菱ふそうトラックが起した脱輪事故の後始末を見てもわかります。彼らにとって、個別の顧客など(旧国鉄が駅のプラットホームに居る乗客を陰では「ゴミ」と呼んだ感覚と同じで)眼中にないのでしょう。こういう会社を私の納めた税金で食わせているのかと思うと、溜息が出ます。顧客サービスもできない、従って民間では当り前の顧客に喜ばれる売り込みも出来ない、それだから税金を入れてもらって作った製品で稼ぐこともできないような会社は、つぶれたほうがいいのかも。

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