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2007.09.27

神と悪魔と罵詈雑言

「『あなたは神を信じますか』って寄ってくる人をからかうと、おもしろいよ」
 こういう、ろくでもないことを教えてくれたのは、高校の年若い生物の教師だった。
「僕も学生の時、よくやったんだよね。話させるだけ話させておいて、『神様なんていませんよ』ていうとむきになったりしてね」

 しかしながら高校の頃は見知らぬ人をからかうには、自分は人見知りが過ぎた。
 意識してこの手の人たちをからかうようになったのは、大学に入ってからだ。

 大学という場所は、おおかたの宗教にとって信者の草刈り場だったのだろう。色々なのがいた。「あなたは神を信じますか」から始まって、「あなたの幸福を祈らせて下さい」とか、「手かざしをさせてください」とか。
 そういえば「神ノ愛ヲ、信ジナサーイ」というモルモン教徒に行き当たったこともある。「どこから来たのか」と聞いたら、アイダホだと言っていた。

 その手の人たちをからかうようになって、面白かったのは、最後の去り際だった。大体はからかわれると分かって、去っていく。その時、必ずといっていいほど、悪態を付くのだ。
 「なんて酷い人だ」というような非難ではない。悪態だ。

 4月、クラブの勧誘でいっぱいのキャンパス中庭で声をかけてきた若者は、特に印象に残っている。のらくらとこちらがはぐらかしていると、遂に怒り出し、「あなたなんか地獄に落ちますからね」と言ったのだ。確か「なんでそんなことが分かるんですかあ?」と返したら、憤然たる態度で「絶対です!」と叫び、去っていったのだった。

 確かに純な魂をもてあそんだ罪は、私にある。が、私は地獄への地図も、地獄の住所も知らない(だから、そういう態度でいたから彼は怒ったんだってば)。

 確か大学の3年になったころだったか、「幻魔大戦」がアニメになり、原作の平井和正も小説を書き継いだことがあった。ところが、当時平井が「GLA」という新興宗教にはまっていたこともあり、書く小説がどんどん妙な方向にいってしまい、20冊も書き継いでもストーリーは全然進まない、ということになってしまった(平井はその後GLAから離れたそうだが、GLAは今も活動している)。
 その頃、GLAの教祖である高橋佳子の著作を何冊か読んだことがある。文章が達者で、後で知った出口王仁三郎の「霊界物語」などに比べると格段に読みやすかった。これらは事実上平井がゴーストライターを務めたそうだ。

 このあたり、本当は再読して確認してから書くべきなのだろうが——ここでは記憶を優先することする。

 高橋佳子の著作(確か「真創世記」だったか、そんなタイトルだった)で強烈に覚えているのが、霊界で農家のおばあさんに会って会話する(霊界で農家ってどういうこと??)というところで、おばあさんの言葉が「だべ」だったか「だべさ」だったか、訛っているのだ。

 霊界がどんなところかは知らないが、訛っているとはこれ如何に?霊界に加藤茶がいたら、やっぱりおまわりさんは「すんずれいしました!」とやっているのか??
 キリスト教の典礼文がキリシタン弾圧の結果、オラショへと転訛したという事例もあるし、訛っていていかんということはないのだろうが、それでも光に満ちた清浄なる霊界に、いきなり俗世間っぽい訛りとはねえ、と、思ったものである。そりゃ、「霊界とはそういうものだ」と言われれば、「はいそうですか」としか答えようがないわけだが。

 この本の中には、悪魔退散のシーンがあり、悪魔は、光の前にありとあらゆる罵詈雑言を吐きつつ退散するのであった。

 いや、このシーンがあったのは平井版「幻魔大戦」だったかも知れない。だいぶ記憶があいまいになっている。

 ともかく、大学生だった時に読んだ新興宗教がらみの本で、一番印象に残ったのが、「悪魔が罵詈雑言吐きつつ退散する」というシーンだったのである。なぜなら、私にはその悪魔が、私に向かって「あなたなんか地獄に落ちますからね」と言った若者と重なって見えたから。

 神の恩寵を私に説こうとした若者が、なぜ悪魔のように去っていかねばならなかったのか(だから、からかったお前が悪いんだってば、という話はともかくとして)。

 その後も宗教がらみで、罵詈雑言を見る機会が何度もあった。例えば、創価学会が日蓮正宗大石寺との確執の中で放った言論攻撃も、私には「まるで退散する悪魔の罵詈雑言」のように響いたものである。

 神と悪魔が、罵詈雑言という、余り行儀良くないキーワードで結びつくなら、それはそもそも宗教という思考様式に致命的な欠陥があるためではないか——当時の私はこの程度まで考えて、そこで思考を止めた。

 例えは悪いかもしれないが、吉本新喜劇の池乃めだか演じる、凄んでも凄んでも、すべて外して笑いをとったあげく、「今日はこれくらいにしといたるわ!」で締める——あれに近いものを感じたわけですな。

 昨日のドーキンスの本で思い出した、そろそろ四半世紀も昔の記憶である。もちろんオウム真理教なんて連中が本物のテロをやらかす大分前の話だ。

 以下は余談。

 私が、その手の人たちをからかうのをやめたのは、大学最寄りの駅で、おそらく同じ大学に通っていたのであろう——女性から「あなたの幸福を祈らせて下さい」と声をかけられたからだった。

 そーら、カモさんキター、しかも鍋と葱付きーっ、てな調子で、私はへらへらと相手をしたのだが、彼女はすべてを真剣に受け取って、「またお会いしましょう」といって去っていったのである。

 む、勝手が違うぞ。

 その後数回、彼女と会った。その都度、彼女は真剣な調子で「真理」を語り、私はへらへらと受け流した。何回目だったか、彼女は「私達の家に来ませんか。仲間の家があるんです」と言い出した。まあ、新興宗教が気の弱い学生を巻き込む時の常套手段である。

 だが、その後の言葉が違った。「家ではみんなでご飯を食べるんです。みんなで一緒に食卓を囲むなんて、とても素晴らしいことって思いませんか」

 私はこの言葉にショックを受けた。私の育った家庭は、円満にして満点というわけではなかったが、それでも家族が揃って食卓を囲むのは当たり前であった。私はそれを素晴らしいことと思っていなかった。家族の食卓は、当然あるべきものだった。

 「一緒に食卓を囲む」ことを「幸福である」と語る彼女の背後に、なにか尋常ならざる不幸の気配を感じた。触れてはならぬものに触れてしまったという後悔が背筋を走り抜けた。

 私は二度と彼女に会うことはなかった。そして、その手の人をからかうのもやめた。

 私には神も悪魔もどうでもいい。彼女はその後幸福になったのだろうか。そちらのほうが気にかかる。





 昨今、「神と悪魔」テーマなら、やはり「るくるく」だろう。悪魔の王女が貧乏学生のところに同居するという典型的落ち物パターンながら、込められた毒と哄笑が半端ではない(なにかとんでもない伏線を仕込んでいるようでもあるし)。実際問題として、天使がなぜか荒れ寺の小坊主になって、「やはうえさま、お元気ですか」と祈る、なんて発想は、あさりよしとお以外から出てきようがない。

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Comments

宗教もオカルト一種のアート、ファッションでしょ

おお、今、神の怒り(マイクロソフトのたたり?)に触れてIEがフリーズしてしまいました!(笑)

もう一度書き直します。(神と戦っているのか古いPCと戦っているんだか??・・・)

おねーチャンから勧誘を受けたことはないですが、おばあさんから
「道場に来れば足が治るよ!」
と骨折して足を引きずっていたときに言われたことがあります。
「ああ、これでパコってはまるんだろうな」
と妙に納得したことを覚えています。

ちなみに、当時背中にペインティングが入っている親方がいる建設会社でバイト頭(リーダー)をしていた関係で勧誘してくるおにいちゃんについては
「よお、いい体してるな!どうだバイトしねーか?!」と体をベタベタさわってと逆に勧誘してました。
恐ろしいものでも見る目つきで逃げていきましたが・・・

夜は親方のおごりでビールを飲んで・・・
という今から思うと牧歌的な生活でした。
その親方のおかげでカルトにもはまらず、世の中のカラクリがわかるようになったと感謝してます。

私も大学時代は宗教関連の誘いをしてくる人を言い負かしたりしてましたが、さすがに罵詈雑言をあびせられるということは無かったですねぇ。

年代が違うのでなんともいえませんが、男性の信者の場合は私の反論に対してそういうこともあるかもしれませんという感じで納得されることが多かったのですが、女性の場合はまったく意に介せず自分の信じることをひたすらお話されることが多かったです。

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