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2007.10.13

これまでのミッションの価値

 プログラム的探査を主張するためには、今、私達の日本が、どのような価値のある探査を行っているかも重要となる。出発点がしっかりしていなくては、その上にどんなにしっかりした仕組みを作り上げても、成果としては貧弱なものになってしまうだろう。

 過去22年の間に、日本は3回、4機の探査機を惑星空間に送り出してきた。ハレー彗星を目指した「さきがけ」「すいせい」、火星探査機「のぞみ」、そして「はやぶさ」だ。

 76年に1回の国際共同ミッションの一環として打ち上げられた「さきがけ」「すいせい」(1985)は、ハレー彗星接近という特別な機会を利用したものだった。観測内容は同時期に打ち上げられた各国の探査機を分担され、その後の彗星探査は、核に高速の人工物体を打ち込む「ディープインパクト」(アメリカ)、彗星核への着陸を目指す「ロゼッタ」(欧州)まで、大分間が空いた。
 だから、ここでは考慮の対象からはずそう。日本でも彗星核サンプルリターンが検討されているが、これは技術的に考えると、おそらく「はやぶさ」の成果の延長戦上での実施ということになるだろう。

 ここでは、「のぞみ」「はやぶさ」についてのみ考えることにする。

 実は現在、それぞれ後を追う、追従者が出てきている。

Osiris 「はやぶさ」の追従者は、アメリカの「オシリス」だ(Photo by NASA)。イオンエンジンを使って小惑星にタッチダウンし、土壌サンプルを採取して持ち帰るという、まさに「はやぶさ」そのものの構想である。現在、アメリカの小型探査機シリーズ「ディスカバリー」の候補として選定中である。10月末から11月にかけて、選定結果が公表される予定だ。

 もちろん選定に漏れて消えてしまうこともありうるが、私の聞いた話では、「オシリス」が選ばれる可能性が高くなっているという。

 選定されればオシリスは2011年に打ち上げられる。

 「のぞみ」は火星本体ではなく、火星の希薄な大気の状態を調べる探査機だった。
 旧ソ連の探査機「フォボス」の観測から、火星は上層大気からかなりの量の酸素がイオンの形で流出していることが判明している。それも数億年オーダーで、火星の大気がなくなってしまうほどの勢いだ。
 どんなメカニズムで酸素が流出しているのか、酸素は減っているのはどこかから補充されているのか——これらの問題は地球という星の大気環境を知る上でも重要である。比較対象の相手があるとないとでは、研究の進展が変わってくる。
 しかし「のぞみ」はトラブルにより、火星周回軌道に入ることなく終わった。

 アメリカは現在、小型の火星探査機シリーズ「マーズ・スカウト」を実施している。現在、最初のマーズ・スカウト「フェニックス」が火星南極地域への着陸を目指して、火星へ飛行中である。

 NASAは次のマーズ・スカウトを2011年に打ち上げる予定で、現在、ミッションの選定を進めている。
 多数の提案の中から、2007年1月に、2つの候補が勝ち残った。「メイブン(MAVEN)」と「グレート・エスケープ」だ。年内にはこのどちらかが、正式の「マーズ・スカウト」として選ばれることになる。

・メイブン(MAVEN:Mars Atmosphere and Volatile Evolution mission)
 正式名称は「火星大気と揮発性物質進化ミッション」。火星の気象及び大気の変動のありようを高層大気のイオン圏をも含めて調査しようというミッションだ。

・グレート・エスケープ(The Great Escape):火星高層大気を調査するミッションだが、読んだ通り高層大気からの酸素が逃げ出している過程の解明を大きな目標として掲げている。

 両ミッションの詳細は月探査情報ステーションのニュースが詳しい。

 つまり、どちらが選ばれても、「のぞみ」が果たせなかった観測を実施するミッションということになるのだ。

 現在宇宙探査の最大勢力であるアメリカが、過去20年かけて日本が実施した2ミッションの後追いをするということは、何を意味するのか、すこし考えてもらいたい。

 日本の研究者達が、乏しい予算の中で考えに考えて、意味のあるあるミッション、科学的価値のあるミッションを選んで実施していることを意味する。

 つまり、日本は、プログラム的探査の出発点としてふさわしいだけの質の高いミッションを選択し、実施してきているということである。

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Comments

松浦さん
私もはやぶさの援護射撃メールを送りたいと思うのですが、
どんな内容を書けば良いのか思いつきません。
筆がすべって逆効果になってしまうのが心配です。
どんなことを書けば良いのかテンプレのようなものを
提示していただけないでしょうか?

DISCOTICAさん

 テンプレート通りに書くよりも、自分なりになぜ「はやぶさ2」計画を進めて欲しいのかを自分の言葉で書いた方がいいと思います。

 逆効果になることを心配する必要はありません。通常の礼節を守った書き方ならば、逆効果になることはないでしょう。

 DISCOTICAさんが感じている「はやぶさ2」を見たいという気持ちを素直に分掌すれば、それで十分ですよ。

 よろしくお願いいたします。

のぞみ打ち上げ直前までISASで働いていた者です。そのときの印象(あくまで個人の印象です)を考えると,「日本の研究者達が、乏しい予算の中で考えに考えて、意味のあるミッション、科学的価値のあるミッションを選んで実施していることを意味する。」というのには非常に違和感を覚えます。本当に科学的成果のみを考えるならば,あれだけ多くの観測機器を積む必要があったのでしょうか?

 中村さん、はじめまして。ホームページは時折拝見しています。

>本当に科学的成果のみを考えるならば,あれだけ多くの観測機器を積む必要があったのでしょうか?

 「恐るべき旅路」を書いた時に聞いた説明は、プラズマ系の観測は必要なパラメーターが多いので、どうしても観測機器が増えるということでした。

 どのような観測が重要で、どのようなセンサーが不要かという議論は科学コミュニティがすればいいと私は思っています。そこに妙な派閥や政治力学が入ってこない、というのが外から見た公正性の判断基準になるでしょう。

 むしろ、日本の宇宙科学に関して、きちんと反省すべきは1990年の宇宙理学委員会で、なぜルナAが通過したかということです。私は、この件は調査委員会を作って徹底的に検証し、再発を防ぐ方策をとるべきと考え、そのように主張してます。
 残念ながら現在のISASにはそのような動きは見られませんが。

 ルナAが中止になったということは、宇宙理学委員会が機能不全を起こす可能性を秘めた組織であるということを示しています。「何が科学的に意味のある観測であるか」と、「それが実現可能な観測であるか」を、きちんと判断できなかったということですから。

 だからこそ、機能不全の原因をきちんと追求すべきと思います。中止にして国民が忘れたと思ったら大間違いですから。

開発の過程で、思いもよらぬ困難に遭遇してスケジュールが遅れたということは、挑戦的な課題だったからこそではありませんか? スケジュールどおりにできることばかりだったら、研究ではなく、事業になってしまいます。
 宇宙とは無関係ですが、20年ほど前の某大型研究プロジェクトは、建設開始時点で既に、本来狙っていた画期的発見の可能性はほとんどないということが外国の研究の結果などからわかっていたけれど、完成して稼動することを重視して、挑戦的な設計変更は行なわかったという話を最近聞きました。コミュニティを守るという意味で政治的には賢いのでしょうが、正しい科学研究の態度なのか疑問を感じます。
 責任追及ではなく、現場が萎縮しないように原因追究をしてほしいものです。、

> ホームページは時折拝見しています。

恐縮です。わたしは松浦ファンで「恐るべき旅路」をはじめとして松浦さんの宇宙関係の著書は全部読んでます。あと日経BPの連載も。(これは一つめのコメントのときに書くべきでしたね)

> そこに妙な派閥や政治力学が入ってこない、というのが外から見た公正性の判断基準になるでしょう。

これが問題で,当事者の専門家集団の言っていることに「外からみた」人がどれくらい踏み込めるか難しいですね。たとえば

> プラズマ系の観測は必要なパラメーターが多いので、どうしても観測機器が増えるということでした。

と説明されたときに,そのチョイスに「妙な派閥や政治力学」が入っているかどうかはなかなか判断できないのではないでしょうか?

これについては書き出すとかなり長くなるので,コメント欄では差し控えます。もし,松浦さんのアドレスをお教えいただければ(ネット上を探したけど見付からなかった),メールを差し上げたいと思います。私のアドレスは投稿のときに入力してあります。

連続投稿失礼します。

nqさん,ご無沙汰(?)しております。

> 開発の過程で、思いもよらぬ困難に遭遇してスケジュールが遅れたということは、挑戦的な課題だったからこそではありませんか?

挑戦的な課題というだけならいくらでもつくれて,つまり不可能でもいいから派手な計画をぶちあげればいいわけです。「はやぶさ」や「はるか」が偉大なのは,最大限挑戦的で,かつぎりぎりの線で実現可能であるということですよね。

松浦さんが問題にされているのは,その実現可能性の見通しが甘かったということではないでしょうか。とくに日経BPの記事(だったかな?)で松浦さんが指摘されているように,身内に甘い体質というのが問題だと思います。

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