Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« 映画:ピンチクリフ グランプリ | Main | トップに広告、新規カテゴリー追加、そしてJASRAC »

2007.12.25

初音ミクと終わりのはじまり

 久し振りに野田司令に会ったら、「初音ミクはどうした?」と言われた。

 もちろんいじっております。試作品もあります。が、なかなか腰を据えて歌わせることができないのでありますよ。

 その間にも世界は動いていて、ニコニコ動画では初音ミクをフィーチャーしたオリジナル曲はどんどん出てくるわ、マッシュアップが進んでとんでもない高クオリティの映像が付くやらで、素晴らしい事態が進行しているではないか。

 こういうものは参加してみるに限る。是非とも自分も混沌広がるマッシュアップの場に乱入してボコボコにされてみたいのだけれど、悲しいことに私には野尻抱介さんのように、ささっとセンスの良い作品を作る能力はないのであった。あまりにうらやましかったので、野尻さんの投稿に、「先生なにやってんですか」とコメントを付けた…というのはウソですが。

 いやもうなんてえか。もっとやって下さい。

 ここに来て、ネットのムーブメントを旧来の権利処理の方法でビジネスをしようとしたドワンゴ(ニコニコ動画を運営するニワンゴに出資している。ちなみにのまネコ問題でミソ付けたエイベックスの関連会社でもある)と、初音ミク発売元のクリプトン・フューチャー・メディアの間で、トラブルが発生していたが、この度無事解決した。

 詳細はまとめWikiをみてもらいたい。要約するとニコニコ動画で短期間のうちに200万アクセス超えるヒットとなった「みくみくにしてあげる」という曲を、ドワンゴがカラオケに使おうとした際、JASRACに登録したことから、これまでネットで自由にマッシュアップされてきた曲が使えなくなるとしてネット利用者から大きな反発が起きていたのである。

 旧来の著作権ビジネスを展開しようとしたドワンゴが、著作権無視の花園に開いた花であるヒット曲を自分一人でつみ取ろうとしたことの帰結がこれである。

 明らかに、なにか今までとは違う事態が進行している。
 
 私は1998年から2000年春まで、つまりサラリーマン生活の最後の2年間、音楽のネット配信関連の取材に従事した。その時にずいぶんと音楽関係者に会ったのだけれど、つくづく感じたのは「音楽業界は嫉妬の連鎖で構成されている」ということだった。

 以下は一般論として読んでもらいたい。

 音楽業界に身を投じる者に音楽嫌いはまずいない。その多くは最初、自分がミュージシャン、クリエイターとして成功することを夢見ている。しかし、目標を達成するのはごく一部だ。残る者のうち一部はバックバンドやスタジオミュージシャンとなる、そこからも脱落すると、今度は音楽プロダクション関係者としてマネジメントや経営に携わることになる。

 つまり、夢破れた者が、かつて自分も追いかけた夢を実現した者を管理することになる。

 音楽プロダクション(業界的には音楽出版社などという)からも脱落した者は、より音楽から遠い場所、すなわち業界団体の事務などに流れていく。脱落に脱落を重ねた者が、業界を束ねて関係官庁との折衝を行うのだ。

 これに、地方のコンサートなどを仕切るプロモーター(彼らの多くも夢やぶれた者だ)や、興行に張り付いてくるヤクザなどを加えると、嫉妬と権力とのドロドロの場ができあがる。「なるほど、美空ひばりが絡め取られたのはこれか!」と取材で何度も思ったものだ。

 このどろどろの場が崩壊しない最大の原因は金だ。音楽の世界はヒットしなければ、極貧のどん底でのたうち回ることになる。しかし、その一方で一発ヒットが出ると、投資に対するリターンがとんでもない比率となる。
 つまり、音楽のクリエイターとしての才能がなくとも、業界に張り付いてヒットのおこぼれで食っていこうと思えば、食っていけるのだ。

 そのような資金のリターンを保証しているのが著作権を初めとした各種権利であり、JASRACというわけだ。JASRACは同時に、著作権料回収代行の手数料を徴収している。ヒット曲となるとこの額はバカにならない。それは同時に日本一の弱小官庁などと言われる文化庁にとって、とても貴重な利権になっているわけである。 

 結論を言えば、音楽業界は、一部のクリエイターの才能に、多くの関係者がぶらさがって食っている世界なのだ。

 初音ミクの件は、そのような業界構造が崩壊に向かう一つの象徴なのではないかという気がする。

 才能というものは、ダイヤの原石よりもキノコのほうによほど似ている。条件さえそろえば、勝手に生えてくる。
 食えるかどうかの判別に、知識と才能が必要という点もキノコそっくりだ。そして音楽業界を仕切っている者のすべてが、才能を見抜く能力を持っているわけではない。

 クリエイターとしては、創造の喜びと、人々の称賛、そして普通に暮らす生活費があれば十分だ。しかし業界はそれでは困るので、利益を最大にするための色々な仕組みを作り上げてきた。著作権のありようなどもその一つである。アーティストが音楽プロに所属するというシステムや、原盤権という権利も、あるいは送信可能化権などというものもそのうちのひとつだ。

 しかし今や、ニコニコ動画のように、才能と大衆が勝手に集まってきて音プロもJASRACもなしで楽しく遊ぶ場が動き出してしまった。
 もちろん、ヒット曲には対価が必要だろう。カラオケ配信で儲けたっていい。そこにJASRACが入ったってまあ良し。
 でも、そこだけにしといてもらいたいというのが、多くの人の感じるところじゃないだろうか。ネット配信の制限だの、マッシュアップが著作権侵害だの、JASRAC余計なことしてくれるな、ということだろう。

 私としては、音楽シーンのごく一部が現在のような巨大ビジネスになっていることのほうが、異常だと思っている。歌は英語でAir、空気だ。空気のように無償で、口伝えで、多くの人々の間に広がっていくのが、本来の歌ではなかったか。そして今や、ネットという歌を伝える新たな媒質が存在している。

 1994年に日本でインターネットの一般への開放があった時、「これで世界は変わる」と言っても理解できない人は多かった。あれから13年、そろそろ色々な変化がでてきたな、という気がする。

 それにしても、うう、自分もマッシュアップに参加してみたい!

 著作権については、色々書きたいことがあるので、この話題は続きます。

« 映画:ピンチクリフ グランプリ | Main | トップに広告、新規カテゴリー追加、そしてJASRAC »

音楽」カテゴリの記事

初音ミク関連」カテゴリの記事

Comments

松浦さん

著作権がらみですが、グーグルが進める図書館所蔵書籍のアーカイブ化についてはいかがお考えでしょうか?

昭和のロケット屋さんを注文しました。届くのを楽しみながら待っております。


僕は、趣味の範疇で音楽商売に関わっているのですが、
今回の松浦氏の主張は少々過激すぎると思います。
良心的な音楽事務所は、クリエイターを活かす事を充分に
考慮してると思いますよ。

> クリエイターとしては、創造の喜びと、
>人々の称賛、そして普通に暮らす生活費があれば十分だ。

今日の歌人・俳人の生活を考えて下さいますでしょうか。
今日、創造だけでは、普通に暮らせません。
そしてそれは今の音楽関係者の大半も同様です。
(松浦氏が取材した頃は、音楽バブルの頃で、
音楽関係者が最後にメシを喰えた時代でした)

文化庁の利権の話も解りますが、JASRACの管理(相場が決まっている)
が及ばない
「サンプリング」の著作権になると、相手の言い値ですので、完璧に
力関係になって、もはや無茶苦茶です。

ここまでは、単に、僕のクダマキなのですが、
もし、次回、著作権に踏み込んでくださるなら
表層的な「楽曲・歌詞・JASRAC」の視点では無く、言い値のヤクザ商売が
堂々とまかり通っている「フレーズ・音色・サンプリング」に踏み込んで
下さることを望みます。

JASRACの管理下にあるうちは、凄く大まかに言うと
一曲20円(発売枚数によって前後するが、おおまかにはこの辺り)
なんで、話がシンプルなんです。
正直、真面目にカバーCDを出しても、大した額には成らないんです。

ところが、JASRACの範疇を外れた、Remixとか、サンプリングによる
フレーズの引用になると、枚数に関わらず、
ワンフレーズがいきなり数百万オーダーに
なることが珍しくありません。

現在の著作権問題について、踏み込むなら、
ここらの暗黒を掘り起こして下さることを希望します。

この件に関して、クドクド言いますが
確かにJASRACは「ウワマエはねてる」
うっとおしい存在ではあります。
では、JASRACが無くなると、どうなるか、と言う問題です。

例を上げます。表立ったジャニーズの個人ファンサイトには、
まず写真が見当たらないのですが、あれは写真をアップした
ホームページには、事務所が、著作権を理由に
法外な料金を請求するからです。

決してJASRACを肯定する訳では無いのですが、実際に音楽を
作る身分からすると、JASRACの範疇で音楽を制作するのは、
JASRACにお金を払うにしても、貰うにしても
ややこしい内容証明のやりとりが不要ですし、恣意的な要素が入らず、
安価ですので、ある意味、楽である事は申し上させてくださいね。


 拙動画の紹介どうもです。このところの初音劇場を見ているとNIFTYでGNU Cが盛り上がっていた頃とか、Windows95が出てインターネットが爆発的に普及し始めた頃が思い出されてわくわくします。民衆蜂起というのか。
 ときに、初音ミク特撮シリーズの新構想があるんですが誰かやりませんかね。自分じゃ絶対作れないので。
 スターウォーズ1作目のデススター攻撃シーンで、Xウイング戦闘機に刺さっているR2-D2を初音ミクで置き換える。ダース・ベイダーの戦闘機に撃たれて髪がアフロになるとか、それでキレまくって翼端のレーザー砲をぶっこぬいて後ろ向きに発射するとか、そういう。

古今東西、業種の違いを問わず、巨額の利権が関わるところには、それに巣食う有象無象の輩が存在するのですね。

音楽業界の場合だと、ヒットを飛ばしても、契約の不備や騙しやうやむやによって、ミュージシャン側に正当な対価(印税)が支払われずに終わる、ということが昔も今も後を絶たない(例:スモール・フェイシズとかバッドフィンガーとか)ことからもわかるように、数多くのミュージシャンが業界側からの不当な搾取に遭ってきた(遭っている)ということも忘れてはならないことでしょう(ミュージシャン側が裁判に訴えようとしても、かかる法廷費用のために告訴を断念せざるを得ないという例も後を絶たない)。

インターネットの普及により、音楽業界のありかたが劇的に変わりましたが、決して良いことだけがもたらされているわけではないのも事実です。一例ですが、直接の要因ではないとは言え、私の愛する、良質の仕事を行ってきたレーベルがこういう目に遭うのは、非常に寂しいものがあります。
(少し前の話ですけれど↓)
http://www.overheat.com/riddim/issues/no/294/uk_report_from_no294/
http://www.overheat.com/riddim/issues/no/293/uk_report_from_no293/

ぴょんきちさん

>言い値のヤクザ商売が堂々とまかり通っている「フレーズ・音色・サンプリング」

 申し訳ないです。私はこのあたり全く不案内です。これはカバーというだけではなく、曲の一部をサンプリングして別の曲に使うということですよね。私はクラシック系に根があるので、サンプリングで曲を構成することにかなり拒否感がありました。それもありかと思えるようになったのはごく最近のことです。

 JASRACは、おっしゃるとおりだと思います。私思うに寧ろパブリックエネミーならぬネットの敵はレコ協ではないでしょうか。CCCD推進などというろくでもないこともしていましたし。

野尻さん
 ニコ動には帝国の逆襲の替え歌がきちんとアップされてましたね。帝国はとても強い〜♪
 確かに民衆蜂起っぽいとは感じるところです。でもロシア革命みたいに「自由を!」「メシくわせ〜!」という必死な感じではなく、「おもしれーじゃん」でモナーが大群で押し寄せてくるような、笑いと共にあるあたりが、なかなかいいなと思っています。

>巨額の利権が関わるところには、それに巣食う有象無象の輩
 当時JASRACの広報から、アメリカが著作権ビジネスのメッカになるにあたっては、酒場で歌われる新曲の楽譜を、ギャングが一手に印刷してさばいたということがあった、なんてことも聞きました。本当かどうかを判断するだけの知識は今も私にはありませんが、ともかく、形のないものの権利は、けっこう難しいです。

松浦さま
年末年始のドタバタで、ご返事おくれてすみません。

そうです。一般的には、フレーズ・サンプリングなんです。

はたしてフレーズ・サンプリングを使用した曲が、
楽曲になるのか、と言う件ですが、正直、音楽自体の
アイデンティティに関わる問題なので、難しいと思います。
(この問題は、僕の妻が、クラシック出身なので、ときおり話題にします)

また、一部のDJの間では「歌声りっぷ」等のソフトで、アーティストのヴォーカルのみを抽出した上で、バックに自分達の演奏(DTM含む)を加えた
「リミックスCD」を作るのが一般的です。
こう言った「リミックスCD」は、非常に上質なものがあるにも関わらず
「言い値」を吹っかけられるのが確実なので、
「裏ビデオ」並の経路で流通しているのが実情です。

そして、僕の知る限り、TVで常連の、ごく一部のミュージシャンを除いて、
どこの音楽制作会社/ミュージシャン/アーティストも、今は懐は寒い。

きちんと、相場が決まったお金を徴収した上で、こう言ったリミックスCDも正規の流通経路に乗せるのが、音楽の正しい姿だと思うのですが・・・。


さて、以下はオマケで読んで下さると幸いです。

フレーズ・サンプリングには、「音符的要素」以外に、「音色の要素」「演奏の妙の要素(これは著作隣接権だと思います)」
という3つの権利が問題になります。

僕が個人的に体験した件について言うと
(webでは、これ以上は言えません)
とある有名な楽曲の有名な効果音をサンプリングしようとして、
「これがバレると言い値を取られる」とブレーキ掛けられた件です。
これは、確かに僕の無知と非モラル的行為でした。
(事務所の力関係次第で、業界にこう言う行為が横行している件についてはここでは触れない)。

シンセサイザーの音色一つとっても、
マニピュレイターが一生懸命作った音色をサンプリングして使うのは
ルール違反ですし、
実際にマニピュレイターが作成したシンセサイザーの音色は、
それなりの値段で販売されています。

正直、音色(声色)についての価値を、楽曲同様、
JASRACが定義してくださると嬉しいです。

初音ミクの存在意義と重なりますね。
長文すみません。

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 初音ミクと終わりのはじまり:

» 目が!目がーっ [Renana 3rd]
ムスカな感じで。疲れ目が原因かとおもってロートV40を使ったのですがスースーする... [Read More]

« 映画:ピンチクリフ グランプリ | Main | トップに広告、新規カテゴリー追加、そしてJASRAC »