ベロモービルの可能性
18日は阿佐ヶ谷ロフトAにいらっしゃった皆様、どうもありがとうございました。楽しんでいただけましたでしょうか。
新しいシリーズの立ち上げということで、ネタを用意しすぎたようで、終演時間が遅くなった上に、一部のネタは話すことができませんでした。どうも申し訳ありません。次回がありましたら、もう少し手際よく進行できるよう注意します。
以下は、私が話したベロモービル(velomobile)関連のリンクを掲載する。
ベロモービルは、流線型のフェアリングを付けた人力の乗り物だ。フェアリング付きリカンベントといってもいいかも知れない。私は、全天候で渋滞知らず、省エネな乗り物としてベロモービルに注目している。
- ベロモービル:Wikipediaより
- 全天候型自転車「ベロモービル」、ガソリン高騰で注目集まる:Wired Japanの記事
- velomobileのある生活:ドイツからベロモービルを輸入してしまったベロモさんのblog。中京圏にお住まいの方のようです。
- ベロモさんによる主要メーカーリンク集
- ベロモさんが購入したgo-one3のHP
- TWIKE KLUB:今回紹介した85km/hでる2人乗りベロモービル「TWIKE」のHP
ベロモービルの存在を知ったのは、A-Bikeについて調べていて行き当たったなるほどれおなるほどというblogからだった。このblogを手がかりに色々検索し、情報を仕入れた。どうも御世話になりました。
拙著「コダワリ人のおもちゃ箱」に、SDVという自転車が登場する。脚の動きを円運動ではなく直線運動にして、効率を上げようという仕組みだ。開発者の織田紀之さんは、この仕組みを使ってフェアリング付きの全天候対応の人力乗り物を造る希望を語っていた。
執筆時、私はベロモービルの存在を知らなかった。リサーチ不足だといえばその通りと言うほかない。
遅ればせながら気が付いて正直びっくりしたのだ。「織田さんが言っていたのは、このベロモービルではないか」と。
ニュートンの運動法則によれば、動いている物体はその状態を維持しようとする。もちろんこれは運動エネルギー損失がゼロの理想状態においてであって、実際には空気抵抗がかかったり車軸やタイヤの損失があったりで減速し、止まってしまう。だが、抵抗を可能な限り減らし、軽量化すれば、ごく小さなパワーでも日常十分な程度の加速と最高速度、そして航続距離を達成できるのではないか——織田さんはそう考えていたわけだが、欧州では一足先に、同じ発想がビジネスになっていたわけだ。
もちろん、ロフトでのトークでも出たように、今のベロモービルは完全なものではない。季節によっては内部が暑くなるのではないか、とか、雨の時の前方視界をどう確保するかとか。
社会的には、汗をかきながらベロモービルで移動した後、人に会うというのはいかがなものか、という問題もある。
その一方で、大きなメリットも存在するように思える。
都市交通では、自動車に一人で乗るというのが大きな問題となる。ひと一人ならば30cm四方でも立つことができるが、自動車は大ざっぱに見積もっても2m×5m程度の面積を必要とする。それだけ道路を占有するわけだ。また、70kgの人間を運ぶのに1t以上の自動車も一緒に動かなくてはならない。昨今の自動車は大きく重くなりつつあり、普通乗用車でも1.5tという数字が珍しくなくなっている。人間1人を、20人分の重量がある自動車で運ぶことにある。燃料の大部分は、人ではなく入れ物である自動車を移動させるために使われる。
ベロモービルは、少なくとも近距離において、この問題を解決する一助になるのではないだろうか。それは、燃料の使用削減につながるし、個人の家計という点では自動車維持にかかる諸経費の節約になる。そしてもちろん、日常に組み込まれた適度の運動によって、健康増進も図ることができる。
「そんなうまいこといくか!」という声が聞こえてきそうだが、突っ込んで検討する価値はあると思うのだ。
私としては、このようなベロモービルにハイブリッド技術を適用すべきではないかと思う。上記リンクにあるTWIKEは、人力とモーターのハイブリッド動力で、最高時速85km/h、航続距離200kmを実現している。これは半世紀昔の360cc軽自動車に匹敵する。
日本は原付の登録基準が比較的緩いので、ハイブリッドのベロモービルを原付として登録して公道を走らせることができるのではないだろうか。もちろんそんな車両が増えるならば、同時に交通体系全体を考え直す必要もあるわけだが。
閑話休題
ロフトのイベントがあった翌日、19日には、宇宙作家クラブの例会で、マイレッジマラソン世界記録を出したFC-Designの中根久典さんの講義を聴いた。中根さんはマイレッジマラソン用の車両開発で、25〜30km/hの速度域における空気抵抗軽減のノウハウを豊富に持っている。
色々質問してみると、現在のベロモービルは、まだまだ空気抵抗を軽減する余地があるようだった。写真を掲載したgo-one3なども、今以上に空気抵抗を減らせるようだ。
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松浦晋也さま、はじめまして、
宮崎文稔(formula-cycle.com)と申します。
> ベロモービルは、少なくとも近距離において、この問題を解決する一助になるのではないだろうか
全く同感です。
実際私は、リカンベントという分野から入って→リカンベント・トライク→ベロモービル
と進んでいます(納期が長いのでまだ入手できていませんが..)。
普通の自転車でも十分都会では合理的なコミューターとなるのは理論上も実際もそうですが、
やはり速度に限界があります。
ベロモービルとなると、少し自転車を走りこんでいる人(*1)なら、
車の列の速度に完全に乗れるので、コミューターとして多大なる可能性を秘めていると思います。
> このようなベロモービルにハイブリッド技術を適用すべきではないかと思う
はい、ベロモービルといえども、45km/h以上などの車の列に完全に乗るには、
150Wから200Wくらいは必要なので、(*1)の条件が必要となってしまうため、
また重いことから加速は重く登りはとんでもなく大変、ということもあり、
加速と登りに絞ったアシスト機能があれば、自転車マニアでなくとも
しっかりと速く走れるようになります。
> 中根さんはマイレッジマラソン用の車両開発で、25〜30km/hの速度域における空気抵抗軽減のノウハウを豊富に持っている
> 現在のベロモービルは、まだまだ空気抵抗を軽減する余地があるようだった。写真を掲載したgo-one3なども、今以上に空気抵抗を減らせるようだ
はい、現在ベロモービル界では
http://velomobiel.nl/ のQuestが最高といわれているのですが、
http://www.adventuresofgreg.com/HPVlog/VehicleDrags.html
を見ていただければおわかりのように、公道部門でなく
レース部門ではまだまだ最適化が可能です。
ところで、
松浦様が着目されたように、このような分野はほんとうは日本の技術力
が一番すごいはずで、実際に、電気自動車マイレッジマラソンなどでは
卓越したCdA値をもったマシンが活躍しています。
・日本製
・CdAのさらなる最適化(Questより上)
・年間2万kmくらい走ることをイメージした耐久性(Questは5年で10万kmユーザがごろごろいます)
・価格は短期的には100万円以内。ゆくゆくはより安く。
・そして、かっこいいこと。
このようなものが日本発で出てくれば... なんていつも夢見ています。
ちなみに、松浦様はすでにお気づきと思いますが、
いまのように一部のマニアだけが着目しているレベルでは
問題無いですが、クリティカルマスを目指した拡販として、
・UCIを中心としたロードレーサー信奉の強さ
・自動車メーカーや行政などの壁(内需という観点から見れば、本当に効率的な乗り物は国としては望んでいないのでは)
などが大きなネックになってくると思います。
Posted by: formula-cycle | 2009.03.09 12:40 PM
宮崎さま
お返事が遅くなって申し訳ありません。ホームページは時折拝見しておりました。
そうか、150〜200Wですか。それは一般人には難しいですね。しかし、1対1でパワーアシストするなら夢ではないようです。たしかプロのトップクラスの選手は300W以上でコンスタントに100km以上入り続けられるそうで、こうなるとパワーアシストがなくとも悠々自動車の流れに乗って走れますね。
パワーアシストをするならば案外、二種原付登録して走るのがよいかも知れません。
>内需という観点から見れば、本当に効率的な乗り物は国としては望んでいない
これは感じるところです。でも、自動車のためにこれだけ質の高い道路網ができているということは、ベロモービルにも十分な環境ができつつあるということじゃないかと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
#私もQuest欲しいです…でもやはり高いですね。
Posted by: 松浦晋也 | 2009.05.04 12:08 AM
初めまして。
Velomobil(以下VM)を検索してやってきました。
健康管理から自転車を始めましたが、落車事故を機会に2輪自転車の根本的な問題点を再認識しました。一番の問題点は自他共への安全性です。
そこで視野に入ったのがVMでした。
次第に都市コミューターとして最適な乗り物の一つではないかと考えるようになりました。
ヴァージョンとしては人力、電動アシストと電動車の3つがありますね。
行政が交通インフラ整備をすればより効果的になります。
電動用の充電ステーション
他の交通機関も含めて道交法の見直し
保険体制の整備
道路整備
ドイツのあるVMメーカーでは車体を広告に利用し、VM購入の高い初期費用を軽減する提案をしています。
http://www.cab-bike.com/english/financing.shtml
自転車に乗り始めて空気抵抗がいかに大きいかを実感しました。
また物体の衝突エネルギーの怖さも体験しました。
でも自転車なしでは椎間板が顔を出しますので、3台目はVMが欲しいです。
これからいろいろご教授願います。
Posted by: 野田一郎 | 2010.05.05 05:27 AM