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2008.01.02

モバゲータウンの高校生

 年末、恒例の高校クラス会。なぜか2年の時のクラスが卒業以来四半世紀以上、一年も欠かすことなくクラス会を開き続けている。

 一人、大学の新入生に情報リテラシーを教えている友人がいる。彼が言うに「俺、最近モバゲータウンやってんだよ」

 白状するならすぐにモバゲータウンのなんたるかを思い出せなかった。「モバゲーって、モバイルのゲームか?」

「違う違う、SNSだけど携帯専用なんだ。今の高校生のけっこうな部分がモバゲータウンやってんだよ」
「この年して女子高生とお友達になりたいとか」
「バカ、この春にはモバゲータウンやってた連中が、新入生で入ってくるんだ。情報リテラシーを教える側が、モバゲータウンを知ってないとまずいだろ」

 高校生のほとんどは自分が自由に使えるパソコンを持っていない。しかし携帯電話は持っている。彼らはパソコンではなく携帯電話経由で ネットを利用しているのだという。

 彼によると、最近問題になっている高校の裏サイト問題や、無防備なプライバシーの露出なども基本的には携帯電話サイトにおける問題なのだとか。

「ホントにね、みんな携帯電話でネットしてるんだよね」

 話題は携帯の弊害へと向かう。道具は思考を支援する。問題は携帯電話という道具が、人間の思考を支援し拡張するだけではなく、モバイルという特性故の不自由さを持っていることだ。小さく低解像度のディスプレイ、テンキーを使う日本語入力、相対的に小さいメモリー容量——。

 携帯電話を、電話として捉えるなら、他に置き換え不可能なコミュニケーションの道具だ。しかし、メール送受信装置、デジカメ、音楽プレーヤーとしては、十徳ナイフ的なもどかしさがつきまとう。確かに役立つが、専用の道具とは比較にならない。

 しかし、道具は人を育てる。極端な例だが、十徳ナイフでは宮大工は育たない。

 日本語に、ケータイ小説という文体が、新たに付け加わるなら、それはそれでいい。しかし、携帯電話によるコミュニケーションに依存することで、ケータイ小説文体でしか思考できないようになるとこれは問題だ。

 音楽に関しても然り。CDで16ビット、44.1kHzのクオリティを手に入れた我々だが、今や圧縮音声により、手に入る音楽データのクオリティは逆に低下している。「人間の聴覚では聞こえないデータを削ることでファイル容量とビットレートを落としている」とはいうがどこまで下げて良いのか。

 自分自身、携帯電話にHE-AAC、48kbpsでCDからリッピングした音楽データを入れており、それでモバイル用途は満足している。しかし、その一方で自宅にはCDを再生する環境を持っており、通常はCDで音楽を聴いている。
 携帯電話のHE-AAC、48kbpsという音環境で、果たして「良い音を聴き分ける耳」は育つのか(自分がそんな耳を持っているかというのは、この際別にして)。

 酒も入っているせいか、ぐるぐると議論は回る。

 日頃パソコンを使い、同時に携帯電話も使っている身からすると、携帯電話には「葭の髄から天上覗く」のようなもどかしさがつきまとう。広い情報の海を狭い狭い窓から観ているような。

 今の高校生が、その狭く小さな窓だけでビットの海を観て触って、育っているとしたら、それは問題だ。

 携帯電話端末がタダではなくなり、その一方で「EeePC」のような低価格ノートパソコンが日本でも発売されるようになると、状況は変わるだろうか。

 いや、そう簡単ではないだろうな。

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Comments

現時点での中高生とか、もうちょっと下の世代になると、最初に触れるインターネットの窓は多くの場合 PC/Mac になっているようですよ。
それで、自然に PC/Mac とケータイでの使い分けもできているモノだとか。
ケータイでの文字入力とかは面倒で考えられない、とか、 IM があるからケータイのメールはチョットしか使わない、とか、そのような世代も下の方から生まれてきているため、「ケータイ世代」というのが「ゆとり世代」と重なってある種の特異点になるかも知れないという予測もあるようです。

教育の現場で「ケータイ世代」と向き合う方達には、是非とも大きな窓の使い方を叩き込んで欲しいですね。

どっかの報道で読んだ記憶がありますが、インターネットアクセスにパソコンを使うか携帯電話を使うかは15歳(記憶が曖昧です17歳かも)くらいまでに決まるそうです。それで、一度携帯電話の方に行ってしまうことで、インターネットに対する理解度というか利用度に大きな差がついてしまうということです。
確かにパソコンを使わないと本当の意味でのインターネットの利点は享受できないと思います。それを知らないのは私なんかからみると可愛そうと思ってしまいます。
前の人のコメントにもあるように最近では小学生からパソコンでインターネット(主に検索ですが)を触らせるので、下の世代は違ってくるかもしれません。

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