パブリックコメントの内容
うっかりしていると、ここの更新がすぐ滞ってしまう。
以下に、1月末締め切りだった、「宇宙開発に関する長期的な計画への意見」 へ、自分が送った内容を公開する。
パブリックコメントでは、事務局の側から代表的な意見に対する回答が作成される。このように自分の送った意見を公開しておくと、官庁の側が送られてきたコメントをどのように取捨選択したかを知ることができる。
官庁側のコメントの選択から、彼らが何を考えているかを推測することができる。
さあ、どうなるか。
「宇宙開発に関する長期的な計画への意見」
・氏名 : 松浦晋也
「全体の論調について」
私は、1988年以降20年間の日本の宇宙開発をウォッチングしてきた。
その間、長期ビジョン、宇宙開発政策大綱など、長期プランは何度か作成されたが、常に同じ特徴があった。
・高い理想(無難な理想とも言う)
・宇宙という場所の特性を見誤り、同時に宇宙開発に必要な技術の特殊性や難しさを軽視して作成される中期計画
・過小な予算規模のせいで矮小化する個別計画
の3つである。
「高い理想」とは、諸外国がこういっているから、日本も対応しなくてはならない、という国際的な流行に乗る姿勢を指す。例えば20年前なら、スペースシャトルに日本人飛行士を搭乗させ、国際宇宙ステーションにモジュールを提供して長期滞在要員を送り込み、やがてスペースプレーンを飛ばして、宇宙工場で新物質を生産する、というものだった。
その議論の根拠は以下のようなものだった。
・スペースシャトル←アメリカのもの
・宇宙ステーション←アメリカの提唱
・スペースプレーン←アメリカのNASP計画
・宇宙工場←シャトル初期、1980年代前半ににアメリカで語られた宇宙商業化(86年にチャレンジャー事故が起きたというのに…)
今次の計画は、以下の通り大きな目標を設定している。
1)国及び国民の安全と安心の確保
2)宇宙空間を活用した社会基盤の整備・拡充
3 )未知のフロンティアたる宇宙への挑戦
その根拠は以下の通りではないか。
1)国及び国民の安全と安心の確保→ アメリカとのミサイル防衛で共同歩調を取る関係上、安全保障分野で宇宙セグメントを使用する体制を作らねばならない。
2)宇宙空間を活用した社会基盤の整備・拡充 → 放送衛星、通信衛星、気象衛星を開発し、諸外国と同じ技術水準にたどり着くとしたBCG体制(1969年体制と言っても良いだろう)が、スーパー301によって崩壊してから18年、そろそろ違う「国民に役立ちますよ」という姿勢を見せないと国民に対して格好が付かない(遅すぎる…)
3 )未知のフロンティアたる宇宙への挑戦 → ブッシュ米大統領が言い出した有人月探査プランに日本も乗って、あわよくば兆円オーダーの予算を財務当局から引き出したい。
3項目中2項目が、アメリカ絡みの受動的な発想であり、残る一つも、決して未来志向ではない。
つまり、現実を見つめて、ゼロから思考し、日本の宇宙開発にどのような未来像を描くのか、そこに到達するにはどうすればいいのか――という徹底して自分で思考する態度が、過去の長期計画同様、欠けているように見える。
私達にとって何が必要か、何が足りていないのか、不足を補い、さらに突出させるにはどうしたらいいのか。
結論を言うと、今回の「宇宙開発に関する長期的な計画」には、 偏見なき現状把握と、根本からの徹底した思考の2つが全体的に欠けているように読める。
「今現在、世界的にこんな風になっているから、こういうものを並べておきましょう」では、未来に益するところはない。
「(2)宇宙開発推進の基本方針 」について
今回の長期計画では以下の基本方針が提示されている。
1 自律性の維持・確保 2 国民・社会への成果還元。 3 世界一線級の研究開発成果・学術研究成果の創出。 4 我が国の強みを活かした上で適切な選択と集中を図り、効果的・効率的に行う。
大変に、素晴らしい文言だ。ただし注意すべきは4番目であろう。
「適切な選択と集中」とは、「予算が増えないことを前提に、やることを削る」ということに他ならない。
では、「誰が」「どのような理由で」「適切な選択と集中」を判断するのであろうか?
その判断基準は?
過去、特に1990年代以降、日本の宇宙開発は、1)アメリカの後追い、2)技術的検証の無視、3)事業の継続性と理由付けの重視――で大きな損害を出してきた。
例えば…
地球観測衛星「みどり(ADEOS)」が3t超の大型衛星になったのは、1)アメリカで1980年代前半に流行した「観測機器をスペースシャトルで自由に交換できるプラットホーム衛星」というコンセプトに追随したからだ。1986年にチャレンジャー事故が発生し、アメリカでプラットホームコンセプトが破棄されても、「みどり」は「軌道上で観測機器は交換しないが、将来のプラットホーム衛星のために必要な技術を習得する」という名目で、搭載機器を分離しても軌道上での熱環境が保てるという設計を採用した。
将来性を失ったプラットホーム技術に拘るという決断は、誰がどのような理由でしたのか?
その結果、衛星は大きくなり複雑化した。それに開発マネジメントの不備が重なって、ついには打ち上げ後1年経たずして太陽電池パドルが破断するという事態を呼び込むことになった。
しかも、衛星コンセプトの致命的欠陥はそのまま「みどり2」に引き継がれ、再度軌道上で1年経たずして衛星を失う遠因となった。
恐ろしいのは、「アメリカがやっているから」「組織が『失敗した』とは言えないから」といった理由で、技術的正当性が閑却され、その結果の選択と集中が行われることだ。
「選択と集中」とは、失敗に対する保険となる多様性を放棄するということである。愚かな選択と集中を行えば、待っているのは破滅だ。
従って選択と集中を言う以上、「賢い選択と集中を行うための仕組みの提言」が不可欠だが、長期計画にはそのような言及はない。
「2.宇宙開発利用の戦略的推進
(1)宇宙利用プログラムの重点化 について」
◯ 人工衛星等を活用した宇宙利用分野については、以下の3つのプログラムに重点化を図り推進する。 1)地球環境観測プログラム 2)災害監視・通信プログラム 3)衛星測位プログラム
1は大きな問題はないだろう。積極的に推進すべきである。問題は2)と3)だ。
衛星は本来、ワールドワイドなものだ。地球全体を一気に把握するのに向いている。この狭い日本列島における災害監視と通信を、衛星で行う理由はどこにあるのだろうか。
災害監視なら、各地自衛隊基地に緊急用偵察機を多数配備したほうが安く、効果的ではないか?
緊急時のために専用通信衛星を上げるぐらいなら、地上の携帯電話地上局の災害に対する耐性を上げるほうが安く、効果的なのではないか?
何しろ日本は狭いのだ。
衛星を使ったシステムの実現を主張するなら、最低限これらの疑問に明確に回答できるものでなくてはならない。偵察機にはできないことをできなければならないし、携帯電話とは異なる利便性を提供できなくてはならない。
少なくとも現状、JAXAの検討している防災衛星は、「もう一組の情報収集衛星」と化す可能性が非常に高い(データの解析は追いつかず、肝心な時に肝心な場所の情報を提供できない)。
「きく8号」の技術を使って、災害時用の専用通信システムを構築しても、「地方自治体の庁舎に、ホコリを被った専用端末が一つずつ」というかつてのキャプテンシステムと同じ末路をたどる可能性が高い。
衛星を使う以上、サービスもワールドワイドでなくてはならない。日本の上空を飛ぶ災害監視衛星は、世界中全ての土地の上を飛ぶのだから。
従って、防災衛星システムを組むならば、アメリカのNOAA衛星のようなデータ垂れ流しで、誰でも受信可能にして国際貢献を行う、というぐらいの枠組みを作らなければ、とてもではないが有効利用とは言えない。
これは政府の政策マターとなるおおごとだ、そこまで考えた上で、「災害監視・通信プログラム 」と言っているのだろうか。
衛星測位が、国家の重大事であることはいうまでもない。
でも、それではなぜ「準天頂衛星」なのだろうか? もう計画が動いてしまっているから?
そもそも準天頂衛星は、通信放送サービスを行うものとして、民間(三菱電機、日立製作所など)が立案し、政治まで巻き込んで(次世代新衛星システム推進議員連盟)官民共同の開発スキームを作り上げた。ところが、通信・放送では事業が成立しないという指摘が相次ぎ、計画に測位が後から追加され、それでも潜在的大手ユーザーになる可能性があったメーカー(トヨタ)が、見切りを付けた結果、民間は撤退。計画の測位部分だけがJAXAの研究開発計画として進められることになった。
私が聞く限り、準天頂衛星の技術的な筋の悪さは、コンセプト提唱の当初から明らかだった。
準天頂衛星は、静止衛星の代用品だ。特徴は日本から見て衛星が天頂にあるということ。欠点は24時間のサービスを行うためには、衛星が3機以上必要になるということだ。
つまり、準天頂衛星の採算性は、「天頂という衛星位置に、市場規模を3倍にするだけの価値があるか。3倍の投資を行う価値があるか」という一点に尽きる。価値がないなら、準天頂衛星システムは、静止衛星にコスト的で太刀打ちできない。
地上でこれだけ携帯電話が普及し、デジタル地上波のワンセグが普及する中、通信・放送分野でその価値がないことは明らかだった。
結果、後から追加した測位用途だけが残ったわけだが、では「準天頂軌道は、測位用途の研究開発に最適な軌道」なのだろうか? 測位の研究開発を行うのに、準天頂軌道は技術的に最適なのか、コスト的に最適なのか?
そのような検討をきちんと振り返って行わず、長期計画の文言の中に、「準天頂衛星システムによる全地球測位システム(GPS)の補完・補強に係る技術実証を関係府省庁と連携して行う。」と入れてしまっていいのか。
GXロケット同様、「今後の進め方については、適時適切に開発の進行状況を把握しつつ厳正な評価を行い、その結果等を踏まえ対処する。 」と書くべきではないか。
「2.宇宙開発利用の戦略的推進
(3)宇宙探査への挑戦」について
◯ 我が国の強みを活かし、未知のフロンティアである宇宙の探査に積極、 果敢に挑戦する。
これほど力の入った文面にもかかわらず、「GXロケット」「準天頂衛星」のような、具体的な探査機名称が入らないのはなぜか。そして、「推進する」という抽象的な動詞を使うのはなぜか。
より詳細な文面の語尾を見ても(p.10の後半)、「宇宙探査を進めることとする」「適時適切にその要否を慎重に検討することとし」「基盤的な研究開発を進める。」「進めるよう努める。」と、抽象的動詞のオンパレードだ。
なぜ、「実施する」と書けないのか。
そして、月・惑星と大きく括ると、そこには大きな問題が存在する。
「本当に月に行ってしまっていいのか」「月に限られた資金を突っ込んでいいのか」ということだ。それは「アメリカの有人月探査にどこまで関与していいのか」という問題ともつながる。
惑星科学者に聞くと、異口同音に「月になんか、なにも資源はありませんよ」という。地球上の元素濃縮と鉱床の生成には水が大きく関与している。誕生当初から水が存在しなかった月にはいかなる形の鉱床も存在しない可能性が非常に高い(もちろん現状では、全く未知の濃縮プロセスが存在する可能性は否定できないが)。
一部では太陽風起源のヘリウム3が、核融合燃料として有望とする議論がある。しかし、ヘリウム3の核融合は中性子が出ないので放射化が起こらないというメリットがあるものの、臨界温度が2億度と、現在研究中の重水素の核融合(臨界温度1億度)よりもはるかに技術的に困難である。
月からのヘリウム3採掘を夢見る前に、核融合関連の研究をよほど進めなければ無意味である。
月面両極地方に水がある可能性が指摘されている。水が存在すれば、電気分解により水素と酸素、つまりロケット推進剤が入手できる。従って、月を以遠の宇宙進出のための前進基地とするという発想は一定の意味を持つ。
しかし、月の脱出速度(第一宇宙速度)は1.7km/sもある。大ざっぱに言えば月周回軌道から月に降りるのに1.7km/s分の推進剤を消費しなくてはならない。月面から上昇してくるのにも1.7km/sの推進剤が必要である。
そのような重力井戸の底から、推進剤を持ち出すのは、かなりの技術的困難とコスト高を招くことを理解しておかなくてはならない。場合によっては「より深い地球の重力井戸の底から持ち出した方がまし」という可能性すらある。
月は地球の兄弟星として、地球生成の鍵を握っている。従って、無人の科学探査を行うことに、私は賛成する。
しかし、アメリカの有人月探査プランや、中国、インドの月探査計画に刺激されて、集中的に月探査に向けて「選択と集中」を行うことには強く反対する。
月に科学以外の部分での、「選択と集中」を行う価値があるかどうか、疑問だからだ。現状、月の価値は「そこに国旗を立てて国威を発揚するための土地」という以上のものではない。
日本が月・惑星探査で、「選択と集中」を行う分野は月ではない。他に存在する。
「選択と集中」は、「得手に帆かけて」の方式で行うべきものだ。学生の勉強に例えるなら、不得手な科目を勉強して平均点を上げるのではなく、得意な科目に集中して最高点を上げる戦略である。
日本の得意科目は何か。「はやぶさ」の実績である。つまり小惑星・彗星などの探査だ。
このことは宇宙科学の面から見ても大きな意味を持つ。
近年の太陽系科学の進歩は、太陽系の実像が、以前思われていたような「水金地火木土天海冥」というようなものではないことを明らかにしつつある。冥王星は惑星からはずれ、さらに太陽系の外側に冥王星よりも大きな天体が見つかったことは記憶に新しい。
言うなれば、「水金地火木土天海」の惑星は、高い山のようなものだ。大気の底から太陽系を見ていた我々は、高い山だけ見て「これが日本か」と思っていたに過ぎなかったのだ。日本には平野も川も森も存在するというのに。
小惑星、彗星、惑星の衛星、カイパーベルト天体などを含めた総体こそが太陽系の実態だったのだ。
アメリカと旧ソ連の太陽系探査は、高い山である惑星に向けて探査機を飛ばすことに集中していた。一方、日本は「はやぶさ」の実績により、平野も川も森に相当する小惑星・彗星などの探査で一歩リードした。
今こそ日本は、世界をリードする千載一遇のチャンスなのだ。この分野こそが「我が国の強み」であり、待っているのは「未知のフロンティア」であり、「積極、 果敢に挑戦する」価値がある。
ところが本文には「また、小惑星や惑星への新たな探査に挑戦すべく研究開発を進める。 」としか書いていない。
この消極的な文章は一体何か?
最低でも、「また」を削除し「小惑星や惑星への新たな探査に挑戦する。 」と書くべきだろう。「はやぶさ2」「はやぶさMark2」「電力ソーラーセイル」などの具体的ミッション名が、「予算措置がまだだ」という理由で、本文書から落ちるとしたら、それは痛恨の機会損失を言うべきである。
特にここでは、「電力ソーラーセイル」についてその価値を書いておきたい。小惑星は、様々に分類されており、米欧の探査機もそのいくつかに接近観測を行ったり、行うべく航行の途中であるが、未だ木星と同じ軌道で太陽を回る2つのトロヤ群と呼ばれる小惑星群に、人工の飛行物体が接近したことはない。
地上からのスペクトル分析で、トロヤ群に所属する小惑星は、「はやぶさ」が 観測した「イトカワ」とは全く異なる様相を示していることが判明している。
JAXA月・惑星探査推進グループでは、すでにトロヤ群に到達する「電力ソーラーセイル」ミッションが、かなりのところまで検討されている。
アメリカも行ったことがない、前人未踏のトロヤ群に、日本の探査機が赴くということは、「国際共同の有人月探査チームに、日本人飛行士が一人加わって、月面を歩く」ということよりもはるかに、日本の国際的なプレゼンスを向上させることを指摘しておく。
「2.宇宙開発利用の戦略的推進
(4)国際宇宙ステーション計画の推進」について
◯ 国際宇宙ステーション計画を推進し、我が国だけでは達成・習得が困難な課題に挑戦するとともに、宇宙活動のプラットフォームとしてその積極的な活用を図る。
現状認識が完全に間違っている。
「国際宇宙ステーションは、我が国単独では困難な、有人宇宙技術や宇宙環境の利用技術の獲得等を行い得る場として、我が国にとって重要な意義を持つ。」
本当に単独では困難なのか。中国に、有人宇宙技術や宇宙環境の利用技術を獲得している。中国にできることが、日本にはできないのか?
「中国経済は絶好調で、それだけの投資をする余裕がある」という反論は、宇宙ステーション計画が、日本経済絶好調の1984年から始まったということを忘れている。
日本は、1980年代にやろうと思えばできたのに、しなかったのだ。自分でしないで、アメリカに頼るという安易な道に逃げたのである。その背景にはロケットにおける技術導入がN-I〜H-Iの間うまくいったということもあったのだろう。
きちんとゼロから「独自開発と技術導入とどっちがいいか」と天秤に掛けて考え抜くことをせず、二匹目のドジョウを狙ったのだ。
その結果が、計画開始から23年を経て、まだ軌道上に上がらない日本モジュールであると、きちんと公文書に記載して現状を認識しなくてはならない。
美辞麗句で自己欺瞞をしていては、いつまでたっても失敗から立ち直れない。
スペースシャトルは老朽化が進んでおり、過去の実績でいえば120回の飛行で2回の致命的事故を起こしている。そもそも、日本モジュールを乗せたが無事に上がる保証はどこにもない。
リスクのある計画には、最悪の事態を想定して備えなくてはならない。
当然、文部科学省とJAXAは、日本人宇宙飛行士と日本モジュールを乗せたスペースシャトルが致命的事故を起こした場合、どのように振る舞い、リカバリーを行うかの計画は策定済みであると期待している(当然H-IIBもHTVも不要になるわけだが…)。
「また、宇宙空間という特殊な環境を利用した研究成果の創出、新たな科学的知見の獲得、その成果を活用した技術の進歩による新たな産業活動の発展も期待される。 」
材料科学の研究者に聞いても、「宇宙実験が必須」などという発言は出てこない。「10年に1回の実験じゃ無意味」という頻度の少なさを嘆く声と、「地上の分析技術も進んだから」という宇宙実験の価値を否定する声ばかりだ。
官庁に面と向かってそうは言わないのは、研究費が出るからである。
実際、Spring-8のおかげで、超微量試料の分析は大きく進歩した。宇宙で巨大結晶を作る理由はかなり薄れている。
実態を直視しよう。なぜ日本宇宙フォーラムは、毎回の公募研究で、苦労して研究テーマをかき集めなければならないのか。
なぜ、ステーションの民間利用を公募しなければならないのか。専門の研究者から研究テーマが殺到しているなら、民間にリソースを利用させるなどということはあり得ないはずなのに。
我々は失敗したのだ。その認識の上でどうするかを考えなくてはならない。
「2.宇宙開発利用の戦略的推進
(5)宇宙輸送系の維持・発展 」について
◯ H-IIAシリーズを我が国の基幹ロケットと位置付け、性能及び信頼性 の面から世界最高水準のロケットとして維持・発展させる。 ◯ 打上げ需要の多様化に対してより柔軟かつ効率的に対応することができ る宇宙輸送系の構築を目指す。
良い言葉だし、H-IIAを基幹ロケットとして利用することは、他に道がないという消極的な意味において妥当だろう。GX見直しも妥当。
だが、「HTVは無人輸送機であるが、有人施設である国際宇宙
ステーションに接近することから、有人宇宙機に相当する安全性設計がなされており、これを着実に開発、運用することにより、将来の軌道間輸送や有人化に関する基盤技術の習得が図られることとなる。」
という認識は間違っている。
HTVの「有人宇宙機に相当する安全性」とは、スペースシャトル開発当時のアメリカの安全性である。その後のエレクトロニクスに代表される地上の技術の進歩を反映したものではない。
日本は30年前のアメリカの技術基準で、いまから有人の基盤を作ろうというのか?
HTVをもって、「有人宇宙機に相当する安全性を習得できる」と考えるのはあまりにうかつではないか。もっと自分の頭を使って、自分の手で試行錯誤することが必要なのではないか。
N-I〜H-Iと、アメリカから技術導入したロケットは、素晴らしい成功を収めた。しかし、その成果を基盤に純国産で開発したH-IIは7機中2機が失敗。H-IIAは13機中1機が失敗した。
過去の経験は、「習った技術は借りた衣裳以上にならない」ことを証しているように思われる。
同じようなことが、有人宇宙開発でも起きる可能性は当然存在する。そのリスクは事前にきちんと認識し、公文書に文言として入れておくべきではないだろうか。
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すでに送付したパブコメにつっこんでもしょうがないのですが、こうして公開しているのは第三者の批判にさらそうという意図だと思いますので、気づいたことを少し。
|月の脱出速度(第一宇宙速度)は1.7km/sもある。
いろいろ混乱してますね。脱出速度ならば第二宇宙速度ですが、それ以前に第n宇宙速度は地球基準なので、ここでは不適切です。さらに言えば月からの脱出速度は2.4km/sです。
以後の文章は月周回軌道との往還を語っているので軌道速度である1.7km/sでもいいんですが、この場合は月の資源を月以外の天体へ運ぼうという文脈だから脱出速度を用いるべきでしょう。
もうひとつ踏み込むと、月に大気がないことや重力損失が小さいことを考えると、月からの脱出は地球からのそれに較べて劇的に楽で、化学ロケットでもペイするケースがあると思います。また、マスドライバーによる射出も可能でしょう。
|N-I?H-Iと、アメリカから技術導入したロケットは、素晴らしい成功を収めた。しかし、その|成果を基盤に純国産で開発したH-IIは7機中2機が失敗。H-IIAは13機中1機が失敗した。
|過去の経験は、「習った技術は借りた衣裳以上にならない」ことを証しているように思われる。
「もっと自分の頭を使って、自分の手で試行錯誤することが必要なのではないか。」の後にこの文章がくるのは不可解です。まずアメリカから習って、次に自分の頭・手を使って開発したのがH-2およびH-2Aでは? また、H-2シリーズが失敗だらけという決めつけかたは、松浦さんが批判してきたマスコミの叩き記事そのもののように見えます。新型ロケットにおいてこの成功率は、国際的にみても悪くありません。
LEOへの輸送には三段ロケットを使うべきで、一段目に水素エンジンを使ったことが間違いだというのが根っこにある意見だと思いますが、それはまた別の話でしょう。
また、「30年前の基準」と「現在の技術」は別にバッティングしないのでは。30年前の技術で現在の基準に合わせるのは大変でしょうが、その逆ならたいして回り道じゃないように思います。
HTVを発展させる案は、金と時間ばかり吸い取られて得るものが少なかったISS協力事業から少しでもポイントを稼ごうという発想で、次善の策としては悪くないかと思っています。これに推進モジュールをつければ月・小惑星-ISS間の有人往還船になるかもしれませんし。
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