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2008.04.04

テレビを巡る終わりの始まり

 こんなニュースが出た。

フジ、BPOに改善報告書提出 「27時間テレビ」問題:asahi.com
フジテレビ:江原さん出演番組で報告書公表:毎日新聞

 放送倫理検証委員会(BPO)がフジテレビに出した意見は以下の通り。
FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」に関する意見(pdfファイル)

 フジテレビがBPOに提出した報告書はこちら
ハッピー筋斗雲」に関する報告書
 2008年1月21日付 BPO放送倫理検証委員会決定第2号

 この件については、大阪大学の菊池誠教授のBlog「kikulog」で、議論が行われている。

「江原番組に対するフジテレビの見解」(kikulog)

 ここで問題になっている江原啓之氏と彼の行うスピリチュアル・カウンセリングについて、私はウソであろうと判断している。ただし非常によくできたビジネスモデルを構築している、と。

 通常の詐欺師は被害者から金品を巻き上げるが、江原氏はテレビメディアに視聴率という果実を与えることで、その一部を収益とする。被害者に金品の被害は出ない。
 したがって、彼のウソは犯罪としては成立しない。テレビに出ることによって彼の著作は売れ、さらなる収益を彼にもたらす。

 しかし、被害者がいないわけではない。根拠のないスピリチュアル・カウンセリングを信じてしまえば、将来にわたって様々な形で人生の判断を誤る可能性が高まる。が、それは短期的には表面化しない。

 実に良くできた仕組みだ。

 今回の場合は、江原氏が事前に十分に準備しない状態でカウンセリングと称する行為を行い、カウンセリングを受ける者に直接的な被害を出したから問題になったわけだ。

 報告書を読む限り、今回の件でフジテレビは、スピリチュアル・カウンセリングを採り上げることについて反省をしていないようだ。

「プロデューサーから上がった意見」というところには、わずかにひとつだけ「非科学的な根拠の薄いテーマを題材にした番組制作に対する一層の注意喚起が不可欠であることを実感した。」とあるだけである。
 報告書に付帯する識者意見が、軒並み「非科学性」を問題としているのと対照的だ。
 フジテレビのプロデューサーたちはむしろ、素人を扱う番組も難しさに目がいってしまっている。

 そうじゃない。「非科学的な根拠の薄いテーマを題材にした番組制作」は、そもそもやっちゃいけないのだ。そういうものはアングラで流すならともかく、貴重な公共財である電波帯域を占有して放送してよいものではない。

 今回の件に、私はテレビというメディアの追いつめられた姿を見る。

 「江原啓之」で検索をかけてみよう。Googleの検索結果は、まず公式ホームページ、Wikipediaと来て、3番目は「江原啓之 インチキ霊視!?檀れいの「死んだ父親」が生きていた ...」、4番目は「J-CASTニュース : 前世は「中世の賢者と貴族」ばかり 江原啓之の「摩訶 ...」、以下そんな内容のページが続く。
 関連検索のキーワードはといえば、「江原啓之 インチキ」「 江原啓之 正体」「江原啓之 批判」と来たものだ。

 つまり、江原啓之氏の出演する番組は、インターネットで検索をしない人を対象にしているということだ。

 それが視聴率を取れるということは、インターネットを使いこなしていない人ほどテレビを見る時間が長いということであり、つまるところテレビというメディアがどんどんネット時代に取り残されているということである。

 もはや地上波テレビは、ネットから取り残された人々を相手に番組を作るしか、収益を上げる方法がなくなりつつあるのだろう。

 そう考えると、スピリチュアルにせよ、若手芸人をすりつぶすようにして使い捨てていくバラエティ番組にせよ、およそ「コンテンツ」というに値しないことに気が付く。

 その証拠に2度3度と見たいと思う人はどれほどいるのだろうか。2度見る必要はないというのが普通の反応ではないだろうか。私はといえば、1度であっても見る必要を認めない。さっさとデジタルCS放送やらCATVに受信機を切り替えるだけだ。

 一時期、テレビの持つ豊富なコンテンツをネット時代に活かすというような話があったが、今現在のテレビ局は事実上、コンテンツ制作セクターとしての機能を喪失しているのではないだろうか。

 それでも、テレビ局で必死になって意味がある(と信じる)番組を作ろうとしている人たちはいる。それらの多くは深夜や早朝の時間帯にしか放送されない。時々仕事で付き合いのできる民放のドキュメンタリー製作担当は、どの局も本当に良い仕事をしていると思うけれど、決してゴールデンタイムには放送されない。

 こういう状況を「終わりの始まり」というのだろうな。


 放送業界が持つ「金になる構造」を明快に解説した本。デジタル放送なんて全部衛星放送にすれば、地上の再送信設備も電波塔も不要に上に、広大な地上波の電波帯域が再利用可能になる。それなのに、なんで地上波で放送するのかと思っていたら、つまりそこには身動きとれなくなった利権構造が存在したのであった。



 衛星放送なら衛星2機で、打ち上げ費用を入れてもせいぜい600億円ほどで済む(しかも最近の静止衛星は15年以上の寿命がある)ところを、地上波デジタルで1兆円設備投資するのだから、日本が借金漬けって本当か?という気分になる。



 ちなみに、私がSAFTY JAPANに書いた書評:「ネットにあらがうTV業界の現在と未来」

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Comments


メディアから見ると江原氏は、(メデイア側の)具合が悪くなればいつでも切れる(代わりはいくらでもいる)便利な存在という図式もあります。
どちらも一時的に相手を利用して利益を得る「共生」した存在ですが、共生関係にヒビが入ってきて、さてどうなりますか。

遅レスすいません。
BPOの件は非常に注目していますが、それから1ヶ月、テレビは何も変わらないですね。相変わらずお笑いタレントばかりを並べたゲームやクイズが、貴重な電波資源を食いつぶして流れています。
内タイなのでソースとしてはちと、と思いますが、
  http://npn.co.jp/article/no/10113104/
さもありなんという話だと思いますが、このまま広告費が減少し、制作費が減ってくれば、次に待ちかまえているのはメディア統合、そして「テレビの終わり」でしょうね。
減った分の広告費はネットの広告費へと変化し、そして儲けているのはGoogle...ということは、この会社の次の一手は何だろうか?

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