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2008.05.20

新型インフルエンザ、5月中旬のまとめ:韓国の亜種同定、欧州でプレパンデミック・ワクチンを認可

 5月中旬までの鳥インフルエンザ情報をまとめておく。

 情報源は以下の通り。

・小樽市保健所の外岡所長による鳥インフルエンザ直近情報
・インドネシア現地情報をまとめたBerita Flu Burung
・笹山登生氏のSasayama’s Weblog
GooglenNews


 ひとつ宣伝、SAFETY JAPANに、国立感染所研究所の岡田晴恵氏へのインタビューを書いた。プレパンデミック・ワクチンについて、かなり突っ込んで聞いてみたものだ。

インタビュー:H5N1型という“敵”に日本が採るべき策

 私は、マンションのような集合住宅で、パンデミック時の籠城が果たして可能なのだろうかということを気にしている。岡田氏からもはっきりした答えは得られなかったが、この問題は早急に専門家を集めて検討すべきだと思う。


●この二週間ほどの間の最大のトピックは、韓国で蔓延している鳥インフルエンザが、クレード2.3.2だと判明したことだ。
 インフルエンザの亜種のことを専門用語で「クレード」と呼ぶ。インフルエンザウイルスは突然変異を起こしやすく、次々に亜種が出現する性質を持つ。やっかいなのは、それぞれの亜種が抗原が微妙に違うので、亜種が異なると別途ワクチンを用意する必要があるということだ。それでも最近の研究では亜種間で共通の免疫をつける「交差免疫」という現象が見つかり、プレパンデミック・ワクチンに応用されている。

 同時にクレードを調べることで、そのウイルスがどこから来たものかを知ることができる。ウイルスの感染拡大ルートが分かるわけだ。

現在までに、H5N1インフルエンザウイルスは、「クレード1」「クレード2」「クレード3」に大別されており、特にクレード2は、さらに細かい亜種への分化している。

 クレード2.3系は2005年後半に中国で検出され東南アジアに広がった亜種だ。過去韓国と日本で検出されたウイルスはクレード1だった。このことは、過去とは別のルートで新しい亜種が韓国に入り込んだことを示唆している。
 秋田県と北海道で検出されたウイルスは、どのクレードなのだろうか。まだ発表されていないが気になるところ。感染のルートが推定できれば、それに応じた対策も可能になる。

 このクレード2.3.2は、比較的人に感染しにくい亜種なのだそうで過去に人間への感染例は報告されていないとのこと。韓国では「人には感染しない」という報道も出ている。

 もちろんこれは間違い。「感染しにくい」と「感染しない」は別物だし、今「感染しにくい」としても、突然変異で突如ヒトに感染するようになる可能性は皆無ではない。安心してはいけないということ。

●韓国での感染拡大は止まっていない。ついに首都ソウルでもH5N1ウイルスが検出されて大騒ぎとなった。
 韓国でも対策の遅れが批判されている。ソウルの動物園(のような施設らしい)で4月28日にキジ2羽が死亡したのが4月28日。ところが、そのまま放置して検査の依頼は5月3日、H5N1検出は5月6日だった。その間の休日には多数の市民が子供を連れて来園していたという恐ろしい状況だった。

 韓国では軍隊を動員したり、病院に対して厳戒態勢の指示が出たりと、国を挙げての防疫が続いている。

 韓国での感染拡大が止まらない背景には、伝統的に小規模の鶏取引が多く、故意か無知かは分からないが、感染鶏を“売り抜けてしまう”ことが多いということがあるようだ。他にも死んだ鶏を用水路に捨てた例があったり、地方自治体が事態隠しに動いたりと、まずい事例が次々に出ている。

 とにかく、無知が一番いけない。鳥インフルエンザに対する知識を一人でも多くの人が身につけておかないと。

●日本も韓国を笑えた状況ではない。5月半ば以降、全国で養鶏場周囲の消石灰による消毒作業が始まった。県レベルでの対応だが、秋田県でのH5N1検出の発表が4月29日だから、2週間遅れなのだ。2週間でどれほどウイルスが広がる可能性があるかを考えれば、あまりに遅い。

 次もこれほど幸運だとは思わないほうがいい。

●インドネシアでは、首都ジャカルタの真ん中で、感染者が出た。16歳の少女が感染して死亡。弟も感染しているとのことで、はたしてヒト→ヒト感染なのか非常に気にある。少女が住んでいた場所は日本人が住む地域にも近いとのこと。
 さらに、西ジャワでも死者が出ているし、20日にはスラウェシで5人の集団感染の疑いが出ている。
 インフルエンザというと、冬のものと思いがちだが、それは日本だけの話。東南アジアでは通年の病気だ。スペイン・インフルエンザは日本でも、9月から流行が始まっている。

●欧州ではグラクソスミスクライン社のプレパンデミックワクチン「プレパンドリックス(Prepandrix)」が欧州医薬品規制委員会(European medical regulators)の承認を受けて販売されることとなった。クレード1のベトナム株で作成されたワクチンで、報道によると2回接種を行うもののようだ。スイスすでに全国民分に相当する800万人分を発注しており、アメリカも2750万人分を発注、グラクソはその他欧州数カ国から発注を受けているとのこと。
 日本も買えばいいのに、と思ったが、外岡先生の日記によると、日本は薬事行政が複雑で、海外で承認されたワクチンでも国内で試験をしないと使えない仕組みになっているとのこと。

●これまでウイルス情報の提供を拒否していたインドネシアは、15日にウイルス情報を国際的に提供する方向に方針転換した。ただし、ウイルスを直接提供するのではなく、インドネシア独自の解析結果を国際的なデータベースに記載するということのようだ、

●英国国立医学研究所が、新型インフルエンザは、容易にタミフルに対する耐性を持つ可能性があるが、もう一つの抗ウイルス剤リレンザでは耐性が発現しにくいという研究結果を発表した。つまりは、タミフルの備蓄だけはだめで、複数の抗ウイルス剤を備蓄する必要があるということだ。

読売ウィークリーが、蛾の細胞を使うワクチン製造法に取り組むUMNファーマを紹介している

UMNファーマ

 同社は、新型インフルエンザに向けたワクチン工場のための用地を取得した。ニュースリリース

 2010年から年間1000万人分を製造するとのこと。本当に間に合えばいいのだが。

 培養細胞を使う方法は、比較的短期間に大量のワクチンを製造できる。UMNファーマの方法では、鶏卵を使うと6ヶ月かかるところを8週間、つまり2ヶ月で製造できるとのこと。

 蛾の細胞を使うというのは、哺乳類の人間とはなるべくかけ離れた種の細胞を使うということなのだろう。培養細胞は、猿や犬のものを使うことが多いが、種が近い場合、培養に使う細胞中に未知の危険なウイルスが隠れている可能性がある。

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新型インフルエンザ(H5N1)」カテゴリの記事

Comments

正直考えたくもない可能性なんですが、今回の四川大震災が新型インフルエンザの加速要因になる可能性はどれほどあるでしょうか。
四川では、人と鶏とが混住する環境から、インフルエンザの鶏→ヒト感染が以前に起こったと記憶します。
そこでの、衛生環境の物理的崩壊、精神的衝撃と低栄養で免疫力が落ちている被災者諸氏の集団長期雑居、
中国全土から救援の為に投入され、再び全土に戻る救援部隊(スペイン・インフルエンザの初期の培地は軍隊でした)といった悪条件が重なるリスクに加え、
どうも中国が国威をかけて強行するらしい北京五輪が、世界的感染爆発へのきっかけになるのではないかと…
いま四川現地で奮闘なさっている救援部隊の皆さんが、この先の「可能性」としてのインフルエンザにまで注意を払う余裕があるとはどうも思えないので、
気が付くと既に手遅れなまでに拡散という最悪のパターンを否定し切れないのです。
杞憂で済む事を切実に希望いたしますが、ある程度警戒すべきリスクではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

http://newinfluenza.blog62.fc2.com/
早期封じ込めばかり注力され、パンデミックがなおざりにされる事を恐れるブログ。

日経新聞の5/24朝刊に経済界から政府に対して、国民全数分のプレパンデミックワクチンの確保の要請、および、それに要する費用の一部負担等について記事が掲載されていました。

>UMNファーマ
http://www.yakuji.co.jp/entry6883.html
「新型インフルエンザワクチン「UMN‐501」希少疾病用医薬品に指定」随分ピッチが上がってきました。
>日経新聞の5/24朝刊
プレパンデミックワクチンは今の季節性インフルエンザとおなじで発症を完全に阻止する訳でもなく少し型が違うだけで効かなかったりする訳ですからあまり過度な期待はしない方が良いです。経団連の今回のアドバルーンははっきり言って良い事なのか悪い事なのか判りません。

とっくにご存じでしょうけども、いやなニュースです。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080527-OYT1T00323.htm

18年度の予備費 参院で否決
ttp://www3.nhk.or.jp/news/k10014875931000.html
>28日開かれた参議院本会議で、インド洋での海上自衛隊の給油活動にかかった経費や、
>新型インフルエンザ対策に使った経費など、平成18年度の予備費についての採決が行われ、
>いずれも民主党などの反対多数で承諾されませんでした。
>一方、新型インフルエンザ対策に使った経費などについては、共産党と社民党が賛成しましたが、
>民主党が「平成18年度予算そのものに反対している」という理由で反対し、1票差で承諾されませんでした。
>参議院の事務局によりますと、憲法は「予備費の支出について、内閣は事後に国会の承諾を得なければならない」としていますが、
>承諾が得られなかった場合の規定はないということです。

バクスター製のVero細胞由来H5N1ワクチンの治験結果
http://intmed.exblog.jp/7203250/
アジュバントなしですむならそれにこしたことはない。
今回のワクチンはIgGの中和抗体を誘導する今のワクチンと同じようなものである。
T細胞の免疫には生ワクチンが、上気道粘膜でブロックするIgAの産生には経鼻アジュバントワクチンが望まれるが後者は顔面神経麻痺の発生が多く開発が停滞している。

経団連の新型インフルエンザへの提言概要
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/043.html

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