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2008.05.29

はやぶさ2とマルコ・ポーロ

Keii
 本日、幕張メッセで開催中の地球惑星科学連合大会で開かれた、「始原天体サンプルリターンミッション会合」に参加した。JAXAの月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)が、関係する科学者を対象に開催した、はやぶさ2、はやぶさマーク2の現状説明会である。

 概要は以下の通り。

・はやぶさ2



Hayabusa2


 ロケットを海外から調達することが実施の条件となっており、NASA/ESAと交渉中。打ち上げロケットについて、近日中にESAから回答がある(はやければ6月中)。海外からの調達が不調に終わっても実施に向けての道を探っていくが、かなりきびしいことにはなるだろう。

 関係者の発言からして、打ち上げは2014年に設定される可能性が大きいようだ。

・はやぶさマーク2



Mark2_1


 欧州の研究者と共同でESAの将来探査計画「コスミック・ビジョン」に、「マルコ・ポーロ」の名称で提案したところ、一次審査を通過した。応募総数は50を超えたが、一次を通過したミッションは8つ。そのうちのひとつが「マルコ・ポーロ」。

 現在、計画は「マルコ・ポーロ」が正式名称となっている。探査機本体と次世代「ミネルヴァ」ローバーを日本が提供し、大型ランダーとロケットをESAが担当する。従来のはやぶさマーク2とは、大型ランダーが入ったところが異なる。



Mark2_2

 コスミック・ヴィジョンでは、今後さらに二次、三次の審査があり、最終的に8つのプランが2つまで絞り込まれる。最終審査に通った場合には2011年に開発を開始して2018年に打ち上げる。探査目標はウィルソン・ハリントンという枯渇彗星核だ。

Orbit

 もちろんESAだけではなく、今後JAXA内部の審査会もクリアしなくてはならない。

 ESAのセレクションに落選した場合には、改めて日本独自の「はやぶさマーク2」として計画を立ち上げ直す。これまでの検討結果を使えるので計画の急速な組み替えを行うことになるだろう。その場合、到達可能な都合の良い目標天体を見つけることができるかが重要となる。現在、観測を行って候補を探している。

 ライバルの動向として、アメリカの小惑星サンプルリターンミッション「オシリス」の話が出た。

 オシリスはアメリカの探査機シリーズ「ディスカバリー」に応募したが2007年12月のセレクションで落選した。ディスカバリーのコスト上限である4億2500万ドルを超過したことが響いた。小惑星サンプルリターンはNASAとしては初めてであり、技術開発費がかさむことがコスト超過の原因。
 ただしオシリス構想そのものは死んでおらず、現在「ニューフロンティア」という別のシリーズのセレクションに参加しようとしているとのこと。

 はやぶさに関連して、現在相模原に建設中のキュレーション施設、つまりはやぶさが持ち帰るサンプルの分析と保管を行う施設の概要が説明された。

Setubi

 全体を通して感じるのは、小惑星・始原天体探査に対する理不尽な逆風である。はやぶさは、日本が世界で初めて前人未踏のフロンティアを探査したミッションとなった。我々の前には、小惑星・始原天体という、それこそ「世界的な成果があげ放題」のフロンティアが立ち現れたはずなのに、集中投資するどころか、「海外からロケットをとってきたら計画を進めてもいい」という仕打ちはいったいどうしたことだろうか。

 「成果をあげたから金を回さない」?そんなバカな。

2008.05.22

かぐやは見た!

 当blogを読みに来る方は、先刻ご承知だろうけれども、出ましたね。

月周回衛星「かぐや(SELENE)」の地形カメラによるアポロ15号の噴射跡の観測について

 ネットでは「アポロ月着陸捏造説終了のお知らせ」とかなんとか書かれているが、まあ、これで捏造論者が消えることはないと思う。
 どうせ「いや、あの噴射跡はフィルム特撮を引き受けたスタンリー・キューブリックが、現地ロケをしたときに撮影用につけたものだ」とかなんとか言い出すに決まっている。

 アポロ15号着陸船の噴射跡は、当のアポロ15号自体が月周回軌道から確認している。今回の発表は、アポロの痕跡がアポロ以外の探査機で確認できたことに意味がある。

 それ以上に圧倒的なのが地形カメラが取得した立体データからコンピュータ・グラフィックスで作成した月面の風景が、アポロ15号が月面で撮影した写真と完璧に一致したことだろう。
 アポロ15号の撮影した写真には同時に、月に持ち込んだルナ・ローバーも写っている。この写真が特撮だとしたら、アメリカは1971年の時点で、月面の地形を少なくとも「かぐや」の観測と同程度以上の精度で把握していたことになる。

 ちなみに、かぐやの観測は分解能10m。アメリカがアポロ計画の露払いとして実施した無人探査ミッション「ルナ・オービター」の撮影した画像の分解能は最良で60mである。

 今年秋には、高分解能カメラを搭載したアメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO)が月に向かう。LROのカメラで、各アポロミッションが月に残した月着陸船の台座、15号以降のルナ・ローバー、それに火星でマーズ・リコナイサンス・オービター(MRO)が撮影した画像から類推するに、ルナ・ローバーの走行跡までもが写ることであろう(おお、久し振りにMROのページをみたら、フォボスの高分解能画像が出ているではないか!素晴らしい)。

 私達としては、当面の間アポロ月着陸捏造論者の言い訳を楽しむことになるだろう。


 数あるアポロ月着陸捏造論本のうち、最低にして最悪。もっとも許し難い犯罪的な本。一応アフィリエイトでリンクを張っておくが、間違っても買ってはいけない。エム・ハーガ (著), 芳賀 正光 (翻訳) となっているが、これはもちろん芳賀 正光(著)であろう。



 本気で「アポロ月着陸は捏造だ」と主張するなら、「こいつアホや」と思いつつも、そこに稚気を感じることもできないわけではない。ところがこの本は、決して「捏造だ」と言い切らない。あれこれ「これって捏造なんじゃないの」の思わせる“証拠”を提示しつつ、断定せずに「頭の体操です」と逃げている。



 つまり著者は、月着陸捏造論が虚妄であることを承知しているのだ。承知した上で、月着陸捏造論で本を売って儲けようとしているのである。これは情報を生業とする者として最低の、下劣な行いだ。



 この本に関しては原著出版時の朝日新聞社出版局局長、及び担当編集者、あきれたことに朝日文庫への収録を決定した責任者、全員切腹ものである。朝日新聞が「科学を一面トップにした男」木村繁の大活躍で、アポロ報道において他社をリードした過去を忘れたか。

 お前らあやまれ!腹切って黄泉まで下り、木村繁にあやまってこい!


 著者の品性下劣さが臭ってくるエム・ハーガ本に比べれば、副島本はまともなものだ。



 でも、アタシ、こんな本書くんだったら、せめてNASAのホームページぐらいきちんと読んだ方がイイって思うんです…



 「あ〜あ」と思っていたら、案の定第13回トンデモ本大賞を受賞。さらに、と学会面々による反論本まで出てしまった。



 決して副島本単独では読まないこと。2冊そろえると、ある意味けっこうなエンターテインメントになっているので、読みたい方はまとめてどうぞ。

2008.05.20

新型インフルエンザ、5月中旬のまとめ:韓国の亜種同定、欧州でプレパンデミック・ワクチンを認可

 5月中旬までの鳥インフルエンザ情報をまとめておく。

 情報源は以下の通り。

・小樽市保健所の外岡所長による鳥インフルエンザ直近情報
・インドネシア現地情報をまとめたBerita Flu Burung
・笹山登生氏のSasayama’s Weblog
GooglenNews


 ひとつ宣伝、SAFETY JAPANに、国立感染所研究所の岡田晴恵氏へのインタビューを書いた。プレパンデミック・ワクチンについて、かなり突っ込んで聞いてみたものだ。

インタビュー:H5N1型という“敵”に日本が採るべき策

 私は、マンションのような集合住宅で、パンデミック時の籠城が果たして可能なのだろうかということを気にしている。岡田氏からもはっきりした答えは得られなかったが、この問題は早急に専門家を集めて検討すべきだと思う。


●この二週間ほどの間の最大のトピックは、韓国で蔓延している鳥インフルエンザが、クレード2.3.2だと判明したことだ。
 インフルエンザの亜種のことを専門用語で「クレード」と呼ぶ。インフルエンザウイルスは突然変異を起こしやすく、次々に亜種が出現する性質を持つ。やっかいなのは、それぞれの亜種が抗原が微妙に違うので、亜種が異なると別途ワクチンを用意する必要があるということだ。それでも最近の研究では亜種間で共通の免疫をつける「交差免疫」という現象が見つかり、プレパンデミック・ワクチンに応用されている。

 同時にクレードを調べることで、そのウイルスがどこから来たものかを知ることができる。ウイルスの感染拡大ルートが分かるわけだ。

現在までに、H5N1インフルエンザウイルスは、「クレード1」「クレード2」「クレード3」に大別されており、特にクレード2は、さらに細かい亜種への分化している。

 クレード2.3系は2005年後半に中国で検出され東南アジアに広がった亜種だ。過去韓国と日本で検出されたウイルスはクレード1だった。このことは、過去とは別のルートで新しい亜種が韓国に入り込んだことを示唆している。
 秋田県と北海道で検出されたウイルスは、どのクレードなのだろうか。まだ発表されていないが気になるところ。感染のルートが推定できれば、それに応じた対策も可能になる。

 このクレード2.3.2は、比較的人に感染しにくい亜種なのだそうで過去に人間への感染例は報告されていないとのこと。韓国では「人には感染しない」という報道も出ている。

 もちろんこれは間違い。「感染しにくい」と「感染しない」は別物だし、今「感染しにくい」としても、突然変異で突如ヒトに感染するようになる可能性は皆無ではない。安心してはいけないということ。

●韓国での感染拡大は止まっていない。ついに首都ソウルでもH5N1ウイルスが検出されて大騒ぎとなった。
 韓国でも対策の遅れが批判されている。ソウルの動物園(のような施設らしい)で4月28日にキジ2羽が死亡したのが4月28日。ところが、そのまま放置して検査の依頼は5月3日、H5N1検出は5月6日だった。その間の休日には多数の市民が子供を連れて来園していたという恐ろしい状況だった。

 韓国では軍隊を動員したり、病院に対して厳戒態勢の指示が出たりと、国を挙げての防疫が続いている。

 韓国での感染拡大が止まらない背景には、伝統的に小規模の鶏取引が多く、故意か無知かは分からないが、感染鶏を“売り抜けてしまう”ことが多いということがあるようだ。他にも死んだ鶏を用水路に捨てた例があったり、地方自治体が事態隠しに動いたりと、まずい事例が次々に出ている。

 とにかく、無知が一番いけない。鳥インフルエンザに対する知識を一人でも多くの人が身につけておかないと。

●日本も韓国を笑えた状況ではない。5月半ば以降、全国で養鶏場周囲の消石灰による消毒作業が始まった。県レベルでの対応だが、秋田県でのH5N1検出の発表が4月29日だから、2週間遅れなのだ。2週間でどれほどウイルスが広がる可能性があるかを考えれば、あまりに遅い。

 次もこれほど幸運だとは思わないほうがいい。

●インドネシアでは、首都ジャカルタの真ん中で、感染者が出た。16歳の少女が感染して死亡。弟も感染しているとのことで、はたしてヒト→ヒト感染なのか非常に気にある。少女が住んでいた場所は日本人が住む地域にも近いとのこと。
 さらに、西ジャワでも死者が出ているし、20日にはスラウェシで5人の集団感染の疑いが出ている。
 インフルエンザというと、冬のものと思いがちだが、それは日本だけの話。東南アジアでは通年の病気だ。スペイン・インフルエンザは日本でも、9月から流行が始まっている。

●欧州ではグラクソスミスクライン社のプレパンデミックワクチン「プレパンドリックス(Prepandrix)」が欧州医薬品規制委員会(European medical regulators)の承認を受けて販売されることとなった。クレード1のベトナム株で作成されたワクチンで、報道によると2回接種を行うもののようだ。スイスすでに全国民分に相当する800万人分を発注しており、アメリカも2750万人分を発注、グラクソはその他欧州数カ国から発注を受けているとのこと。
 日本も買えばいいのに、と思ったが、外岡先生の日記によると、日本は薬事行政が複雑で、海外で承認されたワクチンでも国内で試験をしないと使えない仕組みになっているとのこと。

●これまでウイルス情報の提供を拒否していたインドネシアは、15日にウイルス情報を国際的に提供する方向に方針転換した。ただし、ウイルスを直接提供するのではなく、インドネシア独自の解析結果を国際的なデータベースに記載するということのようだ、

●英国国立医学研究所が、新型インフルエンザは、容易にタミフルに対する耐性を持つ可能性があるが、もう一つの抗ウイルス剤リレンザでは耐性が発現しにくいという研究結果を発表した。つまりは、タミフルの備蓄だけはだめで、複数の抗ウイルス剤を備蓄する必要があるということだ。

読売ウィークリーが、蛾の細胞を使うワクチン製造法に取り組むUMNファーマを紹介している

UMNファーマ

 同社は、新型インフルエンザに向けたワクチン工場のための用地を取得した。ニュースリリース

 2010年から年間1000万人分を製造するとのこと。本当に間に合えばいいのだが。

 培養細胞を使う方法は、比較的短期間に大量のワクチンを製造できる。UMNファーマの方法では、鶏卵を使うと6ヶ月かかるところを8週間、つまり2ヶ月で製造できるとのこと。

 蛾の細胞を使うというのは、哺乳類の人間とはなるべくかけ離れた種の細胞を使うということなのだろう。培養細胞は、猿や犬のものを使うことが多いが、種が近い場合、培養に使う細胞中に未知の危険なウイルスが隠れている可能性がある。

2008.05.18

すべてのCDをポケットに

Ipod_cd

 3月末頃から、個人的なプロジェクトを少しずつ実行していた。

 「自分の持っているCDをすべてiPodに落とし込む」というものだ。

 1990年代の初め、ノートパソコンが市場に現れた頃から、「デジタル遊牧民」というコンセプトを漠然と考えていた。

 1986年に大学卒業旅行で行った北京の故宮博物館には、清朝歴代皇帝の肖像画があった。
 清朝は遊牧民の作った王朝だ。清朝貴族はやがて漢民族の文化に感化されて定住するようになったが、ファッションには遊牧民の習慣を残した。貴金属や玉をめいっぱい身につけて、肖像画のモデルとなったのである。
 移動し続ける遊牧民は、全財産を身につける。

 遊牧民の財産は宝玉。では、記者の財産は何か——当然のことながら自分の収拾した情報だ。

 ノートパソコンが出現した時、自分が持つデータをすべてノートパソコンに収めて常に持ち歩き移動するというライフスタイルがあり得る、と思ったのである。

 1990年当時でも、自分の書いた文章は持ち歩きが可能だった。1990年代半ばにはデジカメが出現して、自分の撮った写真を常時持ち歩くことも可能になった。1990年代半ばから、私はメインマシンをノートパソコンに切り替え、なるべく持ち歩くようにした。

 2001年、5GBの初代iPodが発売された。となれば、自分の持っているCDをすべて持ち歩き、聴きたいと思った瞬間に音楽を呼び出せたら素晴らしいのではないだろうか。

 2001年時点では、自分の収拾した音楽をすべて持ち歩くのは無理だった。保有するCDの数が多すぎた。

 128kbpsの圧縮音声も、聴いても分からない程度とはいえ、音声の質は悪化している。なにか「自分のビット資産が目減りする」ようで嫌だった。

 これはいけるかも、と思ったのは80GBのHDDを搭載したiPodが出た2006年のことだった。この時点でAppleは独自のロスレスコーデックもリリースしていたので、目減りなしのビット資産をiPodに詰め込めむことが可能になっていた。しかし、簡単な計算をしてみると、私の持つCDの枚数は、すでにAppleロスレス圧縮をもってしても、80GBには収まらないことが判明した。

 私はもう少し待つことにした。2007年9月、遂にAppleは160GBの容量を持つiPod Classicを発表した。世間では、同時発表のiPod Touchのほうが話題になっていたが、私にとっては「160GB」という容量のほうがよほどの大事件だった。

 半年ほど、買うたやめた音頭を踊った後、私はAppleの軍門に下った。


 私のPowerBookG4は、160GBのHDDを内蔵しているが、これでは容量が足りない。バックアップ用に1TBの外付けHDDを調達し、これまでバックアップに使っていた500GBの外付けHDDを音楽専用にすることにした。もちろん音楽データに関しても、最終的にはバックアップを作っておかなくてならないだろう。デジタルデータは、事故で一瞬にして失われる可能性がある。

 4月から5月にかけて毎日仕事の合間を縫って、デジタル化を進めていった。まいったのはCDの書誌データを集めたCDDBのデータが統一したフォーマットを持っていなかったことだ。CDDBは世界中のネットユーザーがボランティアで入力しているのだそうで、結果としてデータ・フォーマットはばらばらだ。例えば、作曲家の名前も「武満徹」「武満 徹」「Toru Takemitsu」「Takemisu, Toru」「Toru Takemitsu(1930-1996)」などなど。

 これらは自分の都合に合わせて入力しなおさなければならなかった。

Ipoddata
 1ヶ月以上の入力作業の後、私は自分のコレクションが160GBのiPodに収まりきらないことを発見した。30枚ほどの単品CDと全50枚以上の武満徹全集がはみ出してしまったのだ。256kbpsのAACに圧縮しておけば良かったのだろうが、そもそも圧縮音声は嫌だというところから出発しているので、いたしかたない。

 床の上に広げたCDの山のうえに、iPodを置くと、なんともいえない感慨に打たれた。これだけのCDを買うのに20年以上かかっった。それが今、ポケットに入る大きさのiPodの中にすべて入っている。20年分の記憶、「あの曲、この曲を聴いた時の自分」がiPodの中に入っている。

 音楽販売の形態が変わるわけだ。これだけのCDの山が、ロスレス圧縮ファイルでiPodに収まってしまうのだ。音楽コンテンツ販売の形態が変化しないと考えられるのは、よほど鈍感な人だけだろう。

 今、私はiPodを持ち歩いて音楽を聴いている。過去、気に入っていた曲も、突如思い出した曲も、すぐに呼び出して聴くことができる。
 こうなると、「懐メロ」という概念は消滅するのだろう。懐メロは、世間にその音楽が流通しなくなり、記憶からも薄れていって初めて懐メロとなる。いつでも思い出した時に、すぐに聴くことができるならばそれは懐メロではない。
 たとえ自分のiPodの中に曲がなかったとしても、オンラインストアからすぐにデータを買ってくることができる。オンラインストアに品切れはない。

 この先、ますますデジタル・ストレージの容量は大きくなっていくのだろう。自分の書いた文章、書籍、音楽、インタビュー音声、写真、動画像などを全て持ち歩く未来も、そう遠いことではないと思う。

 一つはっきりしていることがある。もしもAppleが320GBや500GBのiPodを発売したら、私は喜んで買うだろう。収まりきれないCDは残っているし、iPodにはデジカメ画像も収めることもできる。今現在2万5000枚、60GBを超えているデジカメ画像をも、できれば私はiPodで持ち歩きたいと思っている。
 250GBのHDDレコーダーに入っているテレビ番組の録画を加えるならば、ストレージの容量はいくらあっても足りない。

 データを吸い出した後のCDは、お気に入りの数十枚を除いて段ボール箱に詰めて押し入れにしまった。これ自身がバックアップ最後の砦というわけだ。本棚は大分空いたのだけれども、空の本棚を眺めつつ、私は「これでまたCDが買える」などと考えているのであった。

 さあ、SACDプレーヤーを買って、次はSACDを集めるかな。


 というわけで、iPod160GB。圧縮音声でいいと割り切れば、ほとんどの人は自分の所有するすべてのCDの音声データを持ち歩くことができるだろう。


良いSACDプレーヤーはないかと捜して、このパイオニアのDV0-800AVに行き着いた。デジタル時代に入り、AV機器の音質は、ますます価格に依存しなくなりつつある。

 これはいい、と買おうとしたものの、どうやらそろそろ次期モデルが出るらしい。というわけで、私は今、アマゾンで買うたやめた音頭を踊っているのです。

2008.05.17

BD-Frog:サドルとシートピラーを交換する

Seat7


Seat1 BD-Frogのシートピラーは、二重になっていてかなりシートを高くすることができる。しかし身長が低く足が短い私には全く無意味だ。

 この部分、なんとかして軽量化したいものだよなと思い、以前BD-1から外したシートピラーをひっぱり出してきた。どうやらうまく付きそうだ。新しい軽めのサドルも買ってきた。ポントレガーの「インフォームR」というサドルだ。写真は左から、オリジナルのパイプが二重になったシートピラー、真ん中が新しいインフォームRサドル、右がBD-1に附いていたシートピラーとサドル。




Seat2 Seat3



 そのままで重量を測ってみる。オリジナルのサドルとシートポストは954.5g、BD-1のサドルとシートポストは821.5g。交換するだけでも120g以上軽量化できることになる。



 Seat4 新しいサドルは237.5g。サドルを交換すれば、さらに100g程度は軽くできそうだ。




Seat5 Seat6



 サドルを交換し、長すぎるシートポストは思い切りよく切断してしまう。折りたたんだときの邪魔になるからだ。もちろん切った分だけ軽くもなる。

 できあがったサドルとシートポストの重量は636g。なんと318.5gも軽くなった。前回のステムの交換で188.5g軽くなっているので、トータルでは507gの軽量化である。畳んで持ち上げてみると「お、軽くなったな」というのが分かる。

 これはせっせと輪行しないと損だ。

 軽量化したBD-Frogで、早速このあたりの登坂練習のメッカである湘南平を登ってみた。

 500g軽くなったぐらいでは、あまり走りが良くなったとは思えない。相変わらず上りはつらい。湘南平には、近くの高校の体育系部活もジョギングに来ている。自転車に乗っているにもかかわらず、上りでジョギングの高校生達に抜かれた。つくづく情けない。もっと鍛えねば。

 自分の目算としては、トータルで1kgぐらいまでは軽量化できるのではないかと踏んでいる。つまりあと500gだ。サドルとシートポストを軽い部品に入れ替えるとあと200gぐらいは簡単に軽くなるはずである。もちろんこれまでのようなBD-1余剰部品の再利用とは違って、お金がかかるわけだ。




Seat8


 まあ、自転車の軽量化に血道を上げるよりも自分を軽量化するほうが、ずっと削り代は大きいし健康にもいいし、余計な部品代も不要ではある。




Intoaz1


 ちなみに、AZ-1にも積んでみた。簡単に積み込むことができ、運転の邪魔にもならない。これなら車で遠出してサイクリングという遊び方もできるな。

2008.05.09

かぐやハイビジョン映像のネット公開にあたって

 もう皆さんご存知だろうが、NHKが月探査機「かぐや」の取得した「地球の入り」「地球の出」のハイビジョン画像を、ネットで公開した。

かぐやアーカイブ アースウォッチャー

 今回公開されたのは、1280×720ピクセルの画像だ。オリジナルの1920×1080ピクセルではないのが残念だが、現在のネットの伝送容量と端末となるパソコンディスプレイの解像度を考えると妥当なところだろう。
 もちろん、伝送容量もパソコンの能力もムーアの法則に従って伸びていくものだから、NHKには1年後程度をメドに、フル解像度の画像を公開するよう望みたい。

 この件については、MIAUが、NHKに質問状を出し、それに対する回答が来たり、といくつかの動きが続いていた。私も、記事を書いている(「ハイビジョン月面画像を公開しなかったNHK」「日本ではダメなのにカナダではネットで観られる「かぐや」ハイビジョン画像」)。

 やっと、事態は良い方向に向かったと考えて良いだろう。

 今回の件に関して私は、記事を書いた際の感触から、NHK内部にも状況を正確に理解し、事態を打開しようとしている人たちがいることを感じていた。

 昨今の映像コンテンツの権利を巡るニュースをフォローしていると、なかなか「公開すべきコンテンツは公開すべき」という原則が、組織の中では通りにくくなっているだろうことが見て取れる。

 公開にまで持っていった「NHKの中の人」、本当にご苦労さまでした。MIAUもナイスプレーだったと思う。

 そして、公開に至るまでのNHK内部の手続きにおいて、あれこれと疑問を投げかけ、牽制したであろう「別の中の人」へ。

 これがあるべき姿なのですよ。最初からこうしていれば、「親方NHKは、あれこれ言われてから仕方なくやったんだろ」などと言われず、「さすがNHKは情報のあるべき未来を見据えている」と評価されたはずなのですよ。

 今回の件は、自分たちの収益の元となるハイクオリティのHDTV画像を、生データでネットに掲載してしまうことに対するためらいが、NHKにあったのだろう。
 このロジックは、もちろん通用しない。「地球の出/入り」の画像は、国民の税金で開発された探査機に搭載したNHKのカメラで取得された。NHKが独力で取得したものではない以上、探査機に対する出資者である日本国民、さらには全世界の人々への、ネットを使ったハイライト部分の公開は当然である。


 この問題を広く捉えるならば、ネットワークによって「デジタル映像コンテンツ」の流通はどう変わっていくか、という問題だ。

 音楽の世界では、ネット流通において違法コピーをどう避けるかという問題に対して、すでにアメリカの状況によって答えが出ている。「テクノロジーによる過度のコピー制限をしない」ということだ。

 まずiTunes Music Store。その成功に理由のひとつには、緩いデジタル著作権管理(DRM)がある。

 さらにiTMSでは、iTunes Plusという高ビットレート、DRMなしのサービスを行っているし、アメリカではAmazonがMP3フォーマット/320kbps、DRMなしの音楽ダウンロード販売を開始し、売り上げを伸ばしている。

 DRMは不要。それで十分ビジネスは回るというのがすでに実績として証明されているのだ。着うたなどで、DRMにしがみついている日本の既存音楽業界はいずれ衰退するだろう——私はそうみている。

 私は、この流れは動画像でも同じではないかと思う。コピーワンスもダビング10も、従来のビジネススキームに固執するあまり、にっちもさっちもいかなくなっているのではないだろうか。

 すでに台湾発で、コピーワンスを無効にする「フリーオ」というデジタル放送チューナーが出回っている。コピーワンスはテクノロジーの産物であり、後から来るテクノロジーに破られる——これは自明の理だ。だからといってこのようなチューナーの所持や利用を違法化したとしても、それは映像産業全体の活力を奪うだけのことだろう。

 まあね、例えばゴールデンタイムのテレビ各局、なかんずく民放各社が、コンテンツと呼ぶに値する、何度もの視聴に耐える番組を制作しているかといえば、私はノーだと思うのだよな。
 そしてこれは、本がデジタル化される近い将来、自分にも関係してくる問題である。「お前は本当に、意味のある情報を生産しているのかね?」と。

2008.05.06

サロマ湖でもハクチョウの感染を確認

 5日、北海道で新たにサロマ湖で見つかったオオハクチョウの死骸から、鳥インフルエンザ陽性反応が出た。

鳥インフル:サロマ湖畔で1羽が陽性か(毎日新聞)

 現状ではインフルエンザ・ウイルスが検出されたという段階で、強毒型のH5N1ウイルスかは不明。しかし、1)すでに死んでいる、2)韓国ではH5N1ウイルスが蔓延中という状況証拠から、強毒型ウイルスである可能性は高い。

 要するにこれまで野鳥をきちんと監視していなかったのだろう。それが、秋田県の事例でH5N1ウイルスが検出されたもので、あわてて監視体制を強化したら、すぐに次の事例が見つかったということではないだろうか。

 野鳥の防疫は、養鶏場の防疫よりもずっと難しい。鳥が死んでいるだけだから、危機感も抱きにくい。

 しかし、この段階できちんと食い止めないと、鳥インフルエンザが、渡り鳥のみならず国内の鳥類にも定着してしまう。そうなったら、ヒトからヒトへの感染を起こす新型インフルエンザが出現する確率が上昇する。もちろん、うっかり肺の奥深くウイルスを吸い込んで、人が鳥インフルエンザに感染する事例も出てくる可能性がある。

 実のところ、白鳥は感染すると死ぬので、ウイルスの拡大が分かりやすい。それだけ防疫もやりやすい。

 本当に注意しなければならないのはカモだ。

 カモは強毒型の鳥インフルエンザ・ウイルスに感染すると約3割が死亡する。しかし残る7割は、感染しても症状が出ない、不顕性感染となる。不顕性感染を起こしたカモの腸管内でウイルスは増殖し、糞の中に大量に排出される。糞は水に溶け、その水を飲んだ別の鳥に感染する。

 この春、渡り鳥のカモは、北に帰って行った。しかし今年秋にはまた日本に渡ってくる。それらカモの中に、不顕性感染を起こした個体がいて、ウイルスをまき散らしたら——。

 そうならないように、早急に、防疫体制を構築しなくてはならない。

午後追記;韓国では首都のソウルでも、鳥インフルエンザの発生が確認された。

2008/05/06-11:25 鳥インフル、ソウル市内でも=韓国:時事通信

 東京で鳥インフルエンザが確認されたら、と考えると、事態の深刻さを実感できるだろう。こうならないためには、今、しっかりとした防疫を行わなくてはならない。

2008.05.05

死んだ白鳥をカラスがつついていた…

 昨日の記事のコメント欄に、秋田にいるkamiyaさんが見た、現地の状況がコメントされた。

近くに住む人が「死んだ白鳥をカラスがつついていた」と言っていたので、近くのカラスは保菌している物と考えられます。

 うわ…日本国内に鳥インフルエンザが定着することは、鳥インフルエンザによる死亡事例が相次いでいるインドネシアのようになるかもしれない、ということなのに。

 感染拡大が続く韓国では、地方自治体が情報を隠蔽したという報道が出ている。

韓国:鳥インフルエンザで虚偽発表 KBSテレビ

 この地方自治体の意識の低さでは、日本は韓国を笑えない。

 参考までに:以下は外岡氏がまとめたイギリスにおける対策だ。ここまでやるべきなのに…

2006年英国スコットランドでH5N1鳥インフル死亡白鳥事例集

5/5午後追記:野付半島で見つかった白鳥も、強毒型のHN1ウイルスが検出された。

朝日新聞

 北海道も色々と動き出した。鳥インフルエンザが定着などしようものなら、サミットもなにもあったものではないだろう。

2008.05.04

やはり現地の防疫体制は不徹底のようだ

 鳥インフルエンザ直近情報をまとめている小樽市保健所長の外岡立人氏が5月4日付けの日記で、現地情報に基づいて秋田県など地方自治体の鳥インフルエンザ対策が、不徹底であることを嘆いている。

「幻想と現実の狭間にて」:外岡氏日記

現場への立ち入り検査の遅れ、現場周辺の消毒措置が行われない不気味さ、周辺を行き交う車両の車の消毒、人々の靴底の消毒、…。何も行われていない。

 どうも、秋田県以下、地方自治体は「養鶏場にウイルスが入らなければ大丈夫」と思っているように見える。養鶏場に入れば金銭的被害が発生するが、野鳥が死んでいる分には金銭的損失は発生しない。逆に厳重な対策をするほどに、地方自治体の財政に負担がかかる。

 しかし、実際には養鶏場での発生と、野鳥での発生では対応策が異なり、それぞれ的確な対応をしないと感染拡大を防げないのだ。

養鶏場で発生

   ・飼育家きんの全殺処分

   ・発生源調査



 渡り鳥で発生

   ・発見地域における他の渡り鳥、家きんにおけるウイルス調査

   ・渡り鳥の飛行ルート調査(または推定)

   ・渡り鳥の感染地の特定(または推定)

   ・特定された地域での獣医学的疫学調査

   ・予想飛行ルートからさらなるウイルス拡大地域の特定

   ・特定された地域での獣医学的疫学調査



  上記作業は、推定される汚染地域への人の立ち入りを制限したうえで、作業員が感染しないような装備で行う必要がある。また基本的には発生から1週間以内に全ての予備的調査と対策を終了しなければならない。

  住民の危機管理対策も同時に進められる必要がある。

 繰り返す。どうも、秋田県以下、地方自治体は「養鶏場にウイルスが入らなければ大丈夫」と思っているように見える。

 冗談ではない。養鶏場に入ったら、鳥インフルエンザとしてはもはや緊急事態なのであって、本来的にはそれ以前の段階でウイルスを食い止めねばならないのだ。

 外岡氏の日記は以下の文章で締めくくられている。

 日本の当局者達が、これまでには野鳥からの感染が人で起きたことはないからと安易に考えていると、世界で初めての野鳥から人への感染が日本で発生ともなりうる。

 これは行政業務ではあるが、医科学的基本を背景にした業務であり対策なのである。感染症予防専門家が陣頭に立っている必要がある。失敗したなら彼の責任となるような権限と責任性を課する。欧米はそうである。

 SAFTY JAPANに、「H5N1―強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ」「パンデミック・フルー 新型インフルエンザ Xデー ハンドブック」書評を書いた。よろしければ読んでみて下さい。

 自分のための備忘録。5月2日の官報に、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律」が掲載されている。5月12日施行。読んでおくこと。

2008.05.02

新型インフルエンザ、4月下旬のまとめ:秋田と北海道で野鳥感染死を確認

 新型インフルエンザに関する10日毎のまとめだ。

 ついに日本でも感染死した野鳥が見つかった。韓国では防疫が失敗しつつあるようで、鳥インフルエンザの拡大が止まらない。これはまずい、日本もすぐに水際防御となると心配していたら、やはり来てしまった。

 しかも、地方自治体の初動対応が遅く、手ぬるい。鳥の世界でパンデミックになってしまい、インドネシアのようにウイルスが定着してしまったら、ヒトからヒトへの感染を起こす新型インフルエンザ出現の確率はぐっと上がる。鳥インフルエンザの段階で、厳重な防疫を行わなくてはならないはずなのに、最前線となる地方自治体は、何をしていいのか良く分かっていなかったような印象を受ける。

 全国の地方自治体はもっとしっかりしてほしい。あなたたちの機敏な行動が全日本国民を守ることになるのだから。


 まず、最初に発見された秋田県・十和田湖のケース。各種報道や秋田県ホームページ(発表文はこちら(pdf))によれば経緯は以下の通り。

・4月21日、白鳥の死体3羽と衰弱した白鳥1羽を回収。
・4月23日から有精卵に接種する手法でウイルスを培養、25日にA型インフルエンザウイルスと確定
・26日、県の家畜保健衛生所が周辺農家への聞き取り調査と注意喚起を行う。
・27日にウイルス検体を独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・動物衛生研究所(茨城県つくば市)に搬入。同日夜、H5亜型ウイルスであることを確認。
・29日、ウイルスが強毒型のH5N1型であると発表。

 まず、ウイルス検査は、技術的には1日でできる。つまり現状では、地方自治体レベルでの迅速な検査態勢が確立していないことが見て取れる。21日に回収したならば22日には検査結果を出して、23日には防疫に入らなければいけないはずなのだ。

 さらに、韓国で強毒型のH5N1型鳥インフルエンザが蔓延していることは衆知の事実だ。だからA型ウイルス陽性と判明した段階で、H5N1型ウイルスであると想定して防疫体制に入るべきなのだ。つまりどんなに遅くても26日には本格的な防疫体制が動いていなければならない。

 しかし実際には、26日からの初動防疫体制も不徹底だった。SAFTY JAPANに書いたのだけれども、今回の場合は不顕性感染を起こしたカモが、周囲にまだいる可能性があった。
 となるともっとも恐ろしいのは自動車のタイヤにウイルスを含む糞が附着して遠くまで運ばれ、二次感染を起こすことだ。すぐに検問所を設けて通行する自動車のタイヤを消毒しなければいけないのである。同時に、至急周辺地域から鳥の糞を採取してウイルス検査を行わなくてはならない。

 その後、北海道の野付半島で見つかった白鳥の死骸からも鳥インフルエンザウイルスが検出された。経緯は以下の通り。

・4月24日、観光客が白鳥の死骸を発見。
・4月27日、回収した死骸を中標津町の動物病院で解剖。キツネなどの捕食の痕跡なし(死骸を食べたキツネなどが感染し、さらにウイルスをまき散らす可能性もあった)。死後さほど時間が経ってはいなかった。
・5月1日、環境省釧路自然環境事務所が検体を持ち帰りウイルス検査。即日陽性と判明。環境省がウイルス陽性であったと発表。

 ここでも初動の遅れを見て取ることができる。おそらく秋田県の事例が出てきたことで、あわてて検査を行ったのではないだろうか。

 ちなみに北海道庁のページにはこの件に関する情報が見あたらなかった。わずかに別海町のHP短いリリースが掲載されたのみである。トップページに緊急情報として掲載した青森県の対応と対照的だ。大丈夫か?北海道。

 ヒト→ヒト感染を起こす新型インフルエンザの出現を阻止するには、鳥インフルエンザの拡大を防ぐことがとても重要なのだ。

 「ヒトにはめったに感染しないから安心して下さい」というのは事実だ。しかしこの段階での不作為はヒトに感染するウイルスを呼び込むことにつながる。いったんヒト型ウイルスが出現すれば、もう風評被害がどうのこうのなどといっておれる状態ではなくなる。

 まだ鳥インフルエンザが広がる前の段階だからこそ、大げさに思えるほどの防疫が、大きな効果を発揮する。感染拡大が進んでから大規模防疫を展開しても効果は薄いのだ。

 だからこそ、今回の初動の遅さは恐ろしい。幸いなことに今回は初動をもたついている間の感染拡大はなかったようだが、ひとつ何かの偶然が悪い方に出ていたら(例えば、ウイルスを含んだ鳥の糞が長距離トラックのタイヤに附着するというようなこと)、日本全国に鳥インフルエンザが飛び火していたかもしれない。

 韓国では危険な状況が続いているので、今後とも気を抜くことはできないだろう。以前のケースでは京都府と宮崎県の養鶏場で鳥インフルエンザが発生した。今回は秋田と北海道だ。つまり、日本中どこでも鳥インフルエンザが確認される可能性があると思わなくてはならない。

 例え感染の疑いがある鳥が発見されなくとも、鳥の集まる湖沼などでは定期的に糞のウイルス検査を行うぐらいのことをしなければならないはずである。


 その他、鳥インフルエンザ直近情報から、過去10日間の動きをまとめる。

●韓国での鳥インフルエンザ感染拡大が止まらない。どうも感染した鶏の移動を防ぐ手段がザルになっているようで、4月29日に確認されたウルジュ(蔚州)の農場の例では、21日に購入した120羽の鶏のうち104羽が死亡したという。
 5月1日付けで日本に近い釜山でも感染疑い例が出たと報道されている。日本にとってすでに対岸の火事ではなくなりつつある。

●インドネシア・ジャワ島では、4月23日に3歳男児が鳥インフルエンザで死亡した。同国での感染者は132人、死亡者は108人となった。これはもちろん確認された限り、であって、背後には相当数の未確認感染者・死亡者が隠れていると推定されている。

●オーストラリアは、パンデミックに備えてタミフルの処方箋なし薬局販売を検討している。感染初期にタミフルを服用できるかどうかが生死を分けるため、家庭備蓄を進める狙いがあるとのこと。

 日本でも、是非検討して欲しい。

●アメリカとトルコの研究チームが、鳥インフルエンザから回復した患者の骨髄細胞から抗体産生細胞を採取し、抗体を生産させることに成功した。

 新型インフルエンザ出現までの時間を稼げば、それだけ研究は進み様々な対抗策を実用化することができる。だからこそ鳥インフルエンザの段階での拡大阻止は重要なのだ。

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