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2008.06.25

宣伝:6月28日(土曜日)、ロフトプラスワンに出演します。

 小野英男さんの話を聞く「衛星まつり」も第4回。今回はちょっと時代も下って、宇宙開発事業団の実用衛星、特に気象衛星の話あたりをお聞きする予定です。が、予定は未定のロケットまつり、どうも小野さんも隠し球を用意している雰囲気で、油断禁物ではあります。


宇宙作家クラブpresents
ロケットまつり24「衛星まつり4」
〜日本で一番多く人工衛星を設計した男〜
40年前、衛星開発に挑んだ本人が、日本の人工衛星開発のはじまりを語る、4回目
【Guest】小野英男(日本で一番多く人工衛星を設計した男)
【出演】浅利義遠(漫画家)、松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、笹本祐一(予定)

場所:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864、地図)

6月28日(土曜日)
Open18:00/Start19:00
¥1000(飲食別)

2008.06.13

人の世の理とこの世の理

 昨日来、「水からエネルギーを引き出すことを可能にした」という「ウォーターエネルギーシステム」が、話題になっている。
 ジェネパックスという会社が開発したと主張しており、6月12日に大阪府の議員会館2階で説明会を開催した。私は見ていないのだけれども、その日のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でも好意的に放送されたそうだ。

 この件についてはGIGAZINEが頑張って記事を出している。3番目の記事で分析を行っているので最後まできちんと読むこと。

水から電流を取り出すことを可能にした新しい発電システム「ウォーターエネルギーシステム」を見に行ってきました(GIGAZINEその1)
水から電流を取り出す「ウォーターエネルギーシステム」デモムービーいろいろ(GIGAZINEその2)
真偽判断に役立つ「ウォーターエネルギーシステム」に対する各報道陣からの質疑応答いろいろ、そして現時点での結論(GIGAZINEその3)

 ウォーターエネルギーシステムの原理は、ジェネパックスのホームページ内こちらに掲載されている。

 要は、“新規開発した”MEA(膜・電極複合体)が触媒となって、水を酸素と水素に分解し、得られた水素をまた酸素と結合されることで電気を取り出すというものだ。

 詐欺か、信じ込んでしまったが故のトンデモかは分からないが、これはガセだ。きちんと勉強している高校生ならば、簡単に見破ることができるはず。むしろ、物理でエネルギー保存則を学んだ高校生に、「このシステムの問題点を指摘してごらん」と問う、練習問題としても適当だといえる。

 以下は私の解答。このシステムが動作すると、水を触媒分解した酸素と水素から電気エネルギーを取り出した後に、水が生成する。その水をまた触媒分解して、エネルギーを取り出せる——つまりこの仕組みはいくらでもエネルギーを取り出すことが可能な永久機関であり、エネルギー保存則に反する。従って動作しない。

 エネルギー保存則は、これが破れれば既存の科学すべてがひっくり返るほどの、この世界の根本的な法則だ。それが破れるとするなら、発見者はノーベル賞どころではない大騒ぎになる。少なくとも、新しいクリーンエネルギーというようなしょぼい小ネタですむ話ではない。

 ネタそのものは、過去から幾度となく繰り返されてきた「私は永久機関を発明した」という勘違い、ないしは詐欺、のバリエーションと言えるだろう。

 問題は、説明会の場所が大阪府の議員会館だったこと。なぜ、そんな場所を使えたのか?

 大阪大学・菊池誠教授のblog「kikulog」でこの件に関する議論が行われており、そこで説明会が民主党の府議会議員2名の主催であることが指摘されている。しかも財政危機のただ中にある大阪府の補助金まで投入されているとのこと。

ジェネパックスの説明会案内

主催:「環境保全と災害対策を考えた新エネルギー」をテーマとした、民主党・無所属ネット議員団のまちづくり部会長 中川 隆弘様、環境農林部会長 森 みどり様

中川 隆弘(なかがわ たかひろ) 大阪府豊中市選出(民主党大阪HPより)
みどりのかぜ(森みどりHP)

 中川議員は、大阪府立豊島高校卒、近畿大学商経学部卒。森議員は大阪教育大学卒で茨木市立小学校教員の経験あり。共に学歴職歴は、高校物理の演習問題程度であるウォーターエネルギーシステムの問題点を見抜けて当然のレベルにある。

 しかし見抜けなかったわけだ。

 仕事柄、政治家が、ごく普通の理科の知識に欠けているために、判断を誤る例をいくつか見てきた。今回もそうなのだろう。

 理系文系をことさらに峻別するのは無意味なことだが、大きく分ければ理系とは「世界の理を知る」知識体系であり、文系は「人の世の理を知る」知識体系だ。人は社会を形成して生きているので、人の世を動かすのは文系の知識である。法学であったり経済学であったり会計学であったり——みな政治に密接に関係している。

 だから、かどうかは断言できないが、どうも政治や行政の関係者は「世界の理」を軽く見ているのではないか、と感じられることがある。実際には、世界の理は、人の世の理より強い。今日中に仕事が片づかないから太陽が沈むのを呼び戻す、平清盛のようなことはまず間違いなくできない。

 ところができる気分になってしまうことがままあるらしい。

 いくら環境にやさしいからといって、水からエネルギーが取り出せるわけではない。

 情報収集衛星の開発が決まった時も、自由民主党関係者の一部は衛星から地上の任意の地点を随時観察し放題と思っていたふしがある。実際には、太陽同期の回帰軌道からは、一日の決まった時刻にしか観察対象の直上を通過しない。これは物理的に決まっているので、政治的なかけひきや妥協でにどうこうできるわけではない。

 GXロケットも、現在似たような状況になっている。本日6月12日付けの朝日新聞の記事によると、自民党は党の方針として「中小型の偵察・監視衛星打ち上げ用ロケットとしての利用を中心に国家戦略上の重要性を担う」とGXロケットを位置付けている。

 朝日新聞は、4月に以下のようなことがあったと伝えている(以下引用)。

「宇宙開発委は技術面を審議するのが本来の役割。国策としての位置付けまで踏み込むのは僭越ではないか」
 4月初めの自民党宇宙開発特別委員会。河合克行衆院議員が、文科省や宇宙気候の幹部を前に、繰り返した。
 H2Aの代替ロケットとしての役割や、米国との協力関係維持をなどを重視する一部政治家は、政府の責任でGX開発を続けるよう求めている。

 いずれまとめて書くつもりだが、GXロケットの開発費用や1機あたりのコストが無茶苦茶に膨れあがっている根本には、GXの機体構成がロケットとして最適なものから、大幅にずれていったということがある。

 一番おおもとの設計は第1段エンジンが推力150tf級の「NK-33」だったものが、いきなり400tf級の「RD-180」になってバランスが悪くなり、さらには第1段として流用するはずだったアトラス3が運用終了となり、より大量の推進剤を積むアトラスVの第1段を使わざるを得なくなった。
 GXは、今や構想段階と比べると、物理学的にアンバランスなロケットとなってしまっているのだ。

 物理的にアンバランスで最適設計からはずれているのだから、政治家がいくら「国策だ」と強く主張して開発続行を指示したとしても、完成するのは出来の悪いアンバランスなロケットでしかない。最適設計からずれて無駄な部分を抱えているから、商業市場で競争力を持つ価格にもならない。

 今後の開発過程で、例えば第2段のさらなる重量増加というようなバランスを崩すような問題が発生すると、ますます悲惨なことになる。もとのバランスが悪いので、開発過程でのリカバリーが効かないのだ。それは、JAXAやメーカーが努力するとかしないとか以前の問題である。

 国策といえども人の世の理であり、物理的なこの世の理には勝てない。それを無視すれば、待っているのは悲惨な結果だけだ。

 政治家は、人の世の理のプロであることはもちろんのこと、物理学や化学や地学といった、世界の理も、せめて高校から大学教養課程程度ぐらいまでの基礎的な常識をきちんと使えるようにして欲しいと思うのだ。

 あ、ワールドビジネスサテライトもひっかかったわけだから、マスコミも、だな(もちろん自分も含めてだ)。

 永久機関に引っかかるのは、理工系ならばかなり恥ずかしい失敗なのだけれどもなあ。


追記
 日経BPにも記事が出ていた。(グリーン・カー
「水と空気だけで発電し続けます」,ジェネパックスが新型燃料電池システムを披露
)

 「金属水素化物と水を反応させた際に水素が取り出せる仕組みと近い方式」というのならエネルギーの発生も理解できるが、その場合MEAは触媒ではなく反応してかなりの速度で損耗していくはず。当然「水と空気だけで発電」とは言えない。

さらに追記
 日経BPの続報が出た。【続報】ジェネパックスが水素生成のメカニズムを明らかに。ポイントは金属または金属化合物の反応制御

 タイトルの通り、水と反応する金属で水を酸素と水素に分解するとのこと。以下記事より。


「今回発表したシステムの特徴はこの金属または金属化合物の反応性を制御して長時間に使うことを可能にした点にあるという。

 今回披露したシステムはMEA(膜/電極接合体)の燃料極内部にこうした金属や金属化合物をゼオライトなどの多孔質体に担持しているとする。水素生成反応による生成物は水に溶解し,システム中の水とともに排出される。」

 水と反応する金属というと、リチウム、ナトリウム,カリウムあたりだろうか。マグネシウムも水と反応する。いずれにせよ、生成物が水に溶け、排出するとなると、「水と空気だけ」という表現は当たらないということになる。魚雷ではリチウムと6フッ化硫黄という組み合わせが使われるが、これと類似の反応をより緩やかに起こす仕組みといえるだろうか。

2008.06.12

A-Bike:バチモン二題

その1

 中国には「阿里巴巴(アリババ)」というB2Bコマースサイトがある。要はヤフオクが個人と個人の売買をつないでいるのと同じ要領で企業間取引をつなぐサイトだ。日本のソフトバンクも出資していて、日本語サイトも動き出している。このサイトを見ていると、中国が今何を日本に売りたがっているかが見えてきて、なかなか面白い。

 何の気なしに、「自転車、自転車部品」のカテゴリーを見ていったら、こんなものが出てきた。

深圳(zhen)市華訊唐科技有限公司

 む?これはA-Bikeか、それともニセモノか。A-Bikeはシンクレアが知的所有権を持っているはずだが、きちんとライセンス契約を結んでいるのか、それとも…

 B2Bサイトなので、深圳市華訊唐科技有限公司の詳細も掲載されている。年間売上:50億-100億円、資本金:500万-1000万円ということだから、今まさにのし上がろうとしている企業だろう。
 深圳市華訊唐科技有限公司のホームページもある。フィットネス製品とカー用品をほとんど手当たり次第に作っていることがわかる。

 さらにアリババの掲載情報を見ていくと、おおっオリジナルにはない赤と青のA-Bikeも作っているではないか!

 これはニセモノだな。

 しかし、日本向けB2Bサイトに、堂々ニセモノを掲載して売ろうとするというのは、いい根性しているというか、怖い物知らずというか。この調子だとアリババの各言語向けサイトのすべてに、バチモンを掲載しているのではないか。

 私は「だからチャイナクオリティww…」というような見方はとらないが、中国政府がWTOに加盟しても、末端がこれじゃ先行き大変だな、とは思う。

 とりあえず、書いておこう。たとえ安くてもニセモノを買ってはいけません。オリジナルほどの強度や精度がないので、危険です。

17;45追記:
 おわっ、ここにもバチモン(広州尚雅会化妝品有限公司)が!
 と思って、ずっとアリババのページを見ていったらば、そんなものでは済まなかった。

 福建省(茘城区聯合貿易有限公司)からも参戦しているではないか!

 広州(広州施耐電子科技有限公司)からもぞくぞくだ!

 ここにも(永康市弘源工貿有限公司)

 ニュー自転車(永康市衆星車業有限公司)ってのもひどいな。自分で開発したわけでもないのに。

 はっきりA-BIKEと名乗ってしまっている(永康市福旺進出口有限公司)ところも。ニセウルトラマンみたいだ。


 ひゃー、ストライダのバチモンっぽいのもあるぞ(永康市浩邦工貿有限公司)

 しかも一種類でない(永康市福旺進出口有限公司)

 ぞろぞろ、出てくる(浙江朗匯科技有限公司)ではないか。
 
 ストライドバイクなどと名前をつけているところ(浙江金拓機電有限公司)もある、

 全部見たわけではないが、まだまだありそうな雰囲気だ。なんというか…1匹見かけたら30匹は…の世界だな。

 しかし、ネットを通じてバチモンの製造元の連絡先までが一発で分かるというのは、便利になったもんだというべきなのか。

その2
 バチモンたちも、マーケットリサーチ及び研究開発に怠りはないようで、今年に入ってから、8インチタイヤを付けたものが出回るようになった。A-Ride Xとか、A-bicycleとか。

 段差の乗り越えに関して、A-Bikeの6インチタイヤが不安要素であることは間違いない。「8インチタイヤにすれば」というのは誰でも考えることで、これらバチモンは本物に先駆けて、“改良”を試みたわけだ。もちろん安い。3万7500円のところを1万2800円って、まあ奥さんお得ですわよ!

 もちろん買ってはいけない。強度の問題はもちろんのこと、重量が7.5kgになってしまっている。オリジナルの5.7kgが7.5kg。たった1.8kgの差だが、これが携行にあたっての大きな差となる。A-Bike購入以来、色々実験してみたが、人間の重さを感じる感覚は5kgを超えると少しの重量増加でも急に重く感じるようになる。また、10kgを超えると、また多少重くても大して苦には感じなくなるようだ。
 オリジナルが6インチタイヤを採用しているには、それなりの意味があると、私は考える。

 同じ7kg台なら、私はバイク技研のYS-11を薦める。8インチタイヤの自転車が欲しければ、私のお薦めはCarry-meだ。

 高いというなかれ。値段に惑わされず、きちんとコストをかけたものを見抜いて、良い物を買うことで、質の低い製品を淘汰できるのだから。


 中国最大のB2Bサイト、アリババの勃興と創業者の馬雲の軌跡をまとめたノンフィクション。書評仕事で読んだのだけれども、正直文章はあまりうまくないし、内容も散漫。それでも、中国にB2Bサイトが何をもたらしたかをはっきりと示す面白い本だった。

 B2Bサイトが、中国の商取引にもたらしたのは「信頼」だった。中国における伝統的な商取引は、人と人との信頼関係が絶対的な意味を持つ。つまりは「有関係」、コネだ。信頼できる知り合いのそのまた知り合いも信頼できる、という形で信頼のネットワークが広がっていく。

 この方法では、無関係の他人とは、お互い全く信用できないことを前提に取引を行うことになる。となると、相手を出し抜き、騙してでも一方的に利益を上げようという態度にもつながることになる。後がどうなろうと、もう二度と取引をしないから構わない、というわけだ。

 しかしアリババは、取引をした相手が相互に相手を評価し合うシステムを持ち込んだ。ヤフオクの評価と同じだ。となれば、ひどい評価を喰らうような取引は控えなくてはならない。明らかにアリババは、中国の商取引に新たな信頼を持ち込み、そのことによって大きく成長したのだと思う。

2008.06.11

2つの映像アーカイブ

 インターネットの出現で、情報のありようが2つの面で変化した——そう私は考えている。

 ひとつは同時性。あらゆる情報が瞬時に拡がり、共有されるようになった。

 もうひとつが通時性。ネットに貯蔵された情報はすべて等価であり、どんなに古い情報も、埋もれてしまうということはなく、瞬時に引き出すことができる。

 この通時性に関する、非常に素晴らしいサイトを2つ発見した。

 まず、朝日ニュース昭和映像ブログ

 昭和30年代の、ニュース映画を観ることができる。当時の日本がどんな状況だったのか、どんな雰囲気だったのか、貴重な記録をネットで閲覧できる。

 様々なニュース映画を観ていると、「ALWAYS 三丁目の夕日」に代表される「昔は良かった」系のフィクションが虚構であることが実感される。昔は昔で、欲望と欲求不満と騒然とした社会状況の中で、皆、いがいがとトゲを突き出しつつ必死に生きていたのだ。

 そして科学映像館

 こちらは昭和20年代以降多数作られた科学映画の映像をネットで公開している。制作大手の岩波映画の映像が収録されていないのが残念なのだけれども(何か権利関係の理由があるのだろう)、僕らの先輩が科学というものをどのように映像化してきたかを、一望することができる。

 こちらは、スタッフロールがしっかりしているので、思わぬ作曲家がとんでもないところで映画音楽を付けているのを見つけるという楽しみもある。

 こういう過去の情報を、誰でも閲覧できる形でののアーカイブ化は、社会の基礎的な情報インフラストラクチャとして、とても大事だ。NHKが今、過去の番組を次々にデジタル化しているが、これも適切な形式でネットに広く公開されるべきだろう。

 ところでひとつ提案。これらの映像にニコニコ動画のようなコメントをつける機能は付かないだろうか。今後コメントが集積していけば、それをコメントが付けられた年代別に整理していくことにより、「どの時代には、この映像がどのように受け止められたか」を示すメタ情報も蓄積できるようになるわけだ。

2008.06.07

BD-Frog:ハンドルを切りつめる


Handle1_2 BD-Frogのハンドルは、購入当初から気になっていた。少々長くて私の手ででは、シフターに親指が届かない。ハンドルバーだけではなく、エルゴンのグリップをも切りつめる必要があるので、少々ためらっていたのだが、過日思い切ってやってみた。


Handle2 左右共に1.5cm切りつめてみた、切ること自体は大して難しくはない。金ノコ一丁で済む。やってみると、手を持ち替えることなくシフターに親指が届くようになった。数十kmほど走ったが、切りつめたことによるデメリットは別に感じない。もっと早くこうすれば良かった。


Handle3 もちろん、切ったことによっていくらかは軽くなるはずである。ふむ、17gの軽量化か。


Asarisuddle あさりさんから、中古のより軽いサドルが届いた。さっそく交換する。サドルには135gと書いてあるが、実測値は152g。これまで付けていたサドルが237.5gだから、85.5gの軽量化だ。


Chainguard フロントのチェーンリングについていたガードがネジの脱落で割れてしまった。もちろんはずす。乗るときにズボンの裾をバンドで止めるようにすればいいだけの話だ。

 43gか…取り付け用ネジは1本1g強で5本だったから、ネジを含めてまあ48gぐらいだな。

Frog0806
 というわけで、また150.5g軽くなったBD-Frog。ここまでで、トータル657.5g軽くなった。目標の1kg軽量化まで、あと340gあまりだ。  

2008.06.06

大元帥に花束を

 多分最初に読んだのは、母方の叔父が実家においていったSFマガジン。野田宏一郎名義の連載「SF英雄群像」ジェイムスン教授の回。小学5年生だった。

 はまったというか、見事にひっかかったのは中学1年の時にハヤカワSF文庫2ケタ台でばんばん出たキャプテンフューチャーのシリーズ。何度読み返したか分からないぐらい読んた。あのシリーズは自分の宝物だった。

 サンケイの第二次世界大戦ブックスのいくつかの翻訳、例えば「モスキート」あたりも、記憶に残っている。誰が翻訳したか一目瞭然の、はずむような文体だった。

 直接お会いしたのは数回。SFマガジンに掲載された(2001年12月号)野田野田対談をまとめたときは、事前に周囲から「大元帥はめちゃくちゃしゃべるから注意しろよ」と言われた。が、実際には野田司令のほうがしゃべりまくり、大元帥は喜んでその話を聞いていた。

 気が付くと、ずいぶんと影響を受けているのだった。

 だから、大元帥に花束を。

 本日、SF作家・翻訳家にして宇宙軍大元帥、野田昌宏氏逝去。

ヒルクライムで負ける

Nishiharima

 A-Bikeだが、相変わらず便利に使っている。今回、はじめてヒルクライムに挑戦してみた。

 6月4/5日と、宇宙作家クラブで、兵庫県の西はりま天文台にある2m望遠鏡「なゆた」の見学に行った。西はりま天文台は、JR佐用駅から6kmほどの山頂にある。地図を見ると高低差200mほど、普通の自転車ならば、まあ上れるであろう程度の坂だ。

 せっかくだから、と、わざわざA-Bikeを持ち込んで走ってみた。

 駅から2kmはゆるやかな道で、何の問題もなかった。ところが上りにかかると、やはりダメ。ギア比を選ぶことができないので、息が上がってしまう。短い坂ならなんとかなるが、これだけの長い坂になると、脚に合わせたギア比を選べなければどうしようもない。

 結局かなりの区間を押して登ることとなった。兵庫の山奥までわざわざA-Bikeを持ち込んだ意味がまるでないように思えるが、それでも一部区間はA-Bikeをこいで登ることができたので、まあよし。チェーンが切れるぐらいのことはあるかもと思っていたが、機械的なトラブルは出なかった。

 結論から言えば、A-Bikeでヒルクライムはやめておいたほうがいい。そういうことにつかう自転車ではないということを身を以て確認した。

 なゆた見学は、西はりま天文台顧問の森本雅樹先生も合流してくれて、とても楽しいものとなった。案内をしてくれた同天文台の鳴沢真也さんに感謝。雲で2m鏡による星を見ることができなかったのは少々残念。いずれリベンジをかけることとする。

Nayuta

 一晩、ロッジに宿泊し、翌日は近くにある放射光設備SPring-8の見学。晴れていたらA-Bikeで坂を下っていこうと思っていたが、土砂降りの雨のために断念。


 案内をしてくれた鳴沢さんの著書。自分の天文屋人生と、西はりまに2m望遠鏡ができる経緯をつづっている。後半は、光学的手法による知性体探索(OSETI=Optical SETI)について書いている。西はりま天文台は日本で唯一、OSETIを実施している天文台だ。

 飾りのない言葉でつづられた、とても良い本だ。「ああ、ここにも“望遠鏡を作る人”がいたんだ」とちょっと胸が熱くなった。実は、森本雅樹先生にも、「望遠鏡を作る人びと」(岩波書店1972年)という子供向け名著があるのだ。小学生の私の愛読書だった。



 森本“マッキー”の武勇伝は色々と聴いていたけれども、改めてお話しすると、とても愉快、かつ本質に直接的に突っ込んでくる方だった。酒宴での鹿野司さんとの議論はすごかった。

 アメリカの天文学者ヘールが、ヤーキース1m、ウィルソン2.5m、パロマー5mと次々に大きな望遠鏡を作っていった話になったとき、森本先生は「おじさんはねえ(森本先生は自分の事を“おじさん”という)、大きなものを追ったことはなかったな。いつも本質的に新しいことを目指してきた」と言った。東京天文台に6m電波望遠鏡を作り、野辺山に45m電波望遠鏡を作り、さらにはスペースVLBIへと、ミリ波の電波を使う新しい電波天文学を開拓したパイオニアの自負心を聞いた気がした。

2008.06.02

宣伝:6月7日(土曜日)、阿佐ヶ谷ロフトAに出演します。

 新宿ロフトで回を重ねてきたロケットまつり。今回は、阿佐ヶ谷のロフトAに場所を移し、垣見恒男さんに焦点をあててロケットというものを作る過程の話をお聞きします。
 宇宙研側からみたロケット開発史とは別の、メーカーの側から見た技術開発、そして生産技術について、どんなことをしてきたのかを語ってもらうつもりでいます。ロフトはアナウンスしていませんが、固体燃料の専門家、永岡忠彦さんも参加することになりそうです。

宇宙作家クラブpresents
「ロケットまつり in 阿佐ヶ谷〜日本初のロケットエンジンを開発した技術者」

人気シリーズイベント「ロケットまつり」のレギュラーゲストのお一人・垣見恒男さん。垣見さんは、ペンシルロケット、ベビーロケット、カッパロケット等を設計し、日本のロケット技術の基礎を築いた人物。技術の話だけではなく、「まったくなにもないところから作る」という時代を生き抜いてきた人だからできる話をしてくれる。その数々のお話を「ロケットまつり」では伺っているが、実はまだ伺っていないことがまだまだあると──。

【出演】
垣見恒男
【聞き手】
松浦晋也
浅利義遠

場所:阿佐ヶ谷ロフトA(Asagaya/Loft A)
杉並区阿佐谷南1−36−16−B1(地図)
TEL:03-5929-3445

6月7日(土曜日)
OPEN 18:00/START 19:00
予約・当日券ともに¥1,500(飲食代別)
5/4(日)16:30〜電話予約受付開始!
(Asagaya/Loft A予約電話番号 03-5929-3445)

2008.06.01

STS-124「ディスカバリー」打ち上げ

Launch
(Photo by NASA)


 スペースシャトルが飛んでいった。

 STS-124「ディスカバリー」は、国際宇宙ステーション(ISS)日本モジュール「きぼう」の船内実験室を搭載し、日本時間6月1日午前6時2分に打ち上げられた。7人の乗組員には、JAXAの星出彰彦飛行士が含まれる。

 途中、オービターのOMS(機体後部ポッドに収められた軌道変換用エンジンシステム)左側の、噴射方向を制御するジンバリングシステムの制御系にトラブルが発生した。正副2系統のうちのバックアップ系が故障。しかし、ミッションへの影響はなく、無事ディスカバリーは軌道に到達した。

 ジンバリングというのはエンジンを左右上下に振ることで噴射方向を変える仕組みのこと。この制御がうまくいかなければ、ISSへのランデブーも帰還も難しくなる。とはいえ、1系統は正常なので、2系統まとめて故障でもしないかぎり、問題にはならないだろう。

Kibo
「きぼう」船内実験室(Photo by NASA)


 ミッションについては、私はほとんど心配していない。星出飛行士は優秀な人物だし、日本側地上要員は相当の訓練を重ねている。NASAでも、ここまでの組み立てでISS関係者には相当の経験が蓄積されているはずだ。

 心配事は、今回の打ち上げでも外部タンク断熱材の剥離が発生したこと。

Frorida Todayの速報blog"Flame Trench"

 極低温の液体酸素・液体水素を収納する外部タンクには、ぶ厚く発泡樹脂の断熱材が塗布されている。1981年のシャトルの最初の打ち上げからずっと、これが打ち上げのたびに一部が欠けては剥がれ落ちていた。NASAは、打ち上げには支障がないとして、そのままにしてシャトルの運航を続けてきた。

 ところが2003年のシャトル「コロンビア」空中分解事故は、打ち上げ時に剥離した断熱材が翼前縁に衝突して機体を損傷したことが原因だった。コロンビア事故の調査報告書は断熱材の剥離を防ぐよう外部タンクの徹底改修を求めており、今回の打ち上げで、初めて設計改修を施した外部タンクが使用された。



Etank
今回使用された外部タンク(Photo by NASA)

 にもかかわらず、今回の打ち上げでは断熱材剥離は発生した。中でも、打ち上げ約後3分に発生した剥離では、断熱材破片がディスカバリーの腹部に衝突した。NASAは、断熱材は小さく、相対速度も小さかったので損傷は帰還に問題が出るほどではないとしている。

 が、改修を施した外部タンクから、相変わらず断熱材が、小さい破片ながら剥がれ落ち、あまつさえ機体にぶつかったというのは、かなりの問題だ。

 今後NASAがどう判断するかにもよるが、ただでさえ2010年9月末引退までぎりぎりの状況になっているスペースシャトルの運航予定が、ますます追いつめられる可能性はある。

 「安全運行に支障はない」としてシャトルの打ち上げを続けるのか、再度外部タンクの設計を見直すのか。今後要注目だと思う。


 もう一つ。

 今回の打ち上げで、欧州、日本のモジュールが軌道上で揃うことになり、ISSは最低限“完成した”という形に持ち込むことができる。アメリカが参加各国に「最低限の義務は果たしたぞ」といえるようになるわけだ。
 つまり、今後の建設スケジュールは、「いつをもってISSを完成したと判断するか」という政治的判断に左右されることになる。シャトルの運航状況との兼ね合いで、ISSの最終形態が今後も変化する可能性を考慮しておくべきだろう。


 実の所、私は「この日が来た」という実感が持てないでいる。以下、記憶に辿って書いてしまうなら、20年前、この日は1994年のはずだった。1997年だったこともあるし、2002年だったこともある。5年前、コロンビアが事故を起こす直前でも2004年だったはずである。

 いつ、きぼうの実験室が上がったと実感できるだろう。星出飛行士が内部からメッセージを送ってきた時だろうか。
 そして、日本モジュール最大の特徴であり、私が最も役立つだろうと期待している船外実験プラットホームは、まだ来年の打ち上げを地上で待っている。

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