Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« はやぶさ2とマルコ・ポーロ | Main | 宣伝:6月7日(土曜日)、阿佐ヶ谷ロフトAに出演します。 »

2008.06.01

STS-124「ディスカバリー」打ち上げ

Launch
(Photo by NASA)


 スペースシャトルが飛んでいった。

 STS-124「ディスカバリー」は、国際宇宙ステーション(ISS)日本モジュール「きぼう」の船内実験室を搭載し、日本時間6月1日午前6時2分に打ち上げられた。7人の乗組員には、JAXAの星出彰彦飛行士が含まれる。

 途中、オービターのOMS(機体後部ポッドに収められた軌道変換用エンジンシステム)左側の、噴射方向を制御するジンバリングシステムの制御系にトラブルが発生した。正副2系統のうちのバックアップ系が故障。しかし、ミッションへの影響はなく、無事ディスカバリーは軌道に到達した。

 ジンバリングというのはエンジンを左右上下に振ることで噴射方向を変える仕組みのこと。この制御がうまくいかなければ、ISSへのランデブーも帰還も難しくなる。とはいえ、1系統は正常なので、2系統まとめて故障でもしないかぎり、問題にはならないだろう。

Kibo
「きぼう」船内実験室(Photo by NASA)


 ミッションについては、私はほとんど心配していない。星出飛行士は優秀な人物だし、日本側地上要員は相当の訓練を重ねている。NASAでも、ここまでの組み立てでISS関係者には相当の経験が蓄積されているはずだ。

 心配事は、今回の打ち上げでも外部タンク断熱材の剥離が発生したこと。

Frorida Todayの速報blog"Flame Trench"

 極低温の液体酸素・液体水素を収納する外部タンクには、ぶ厚く発泡樹脂の断熱材が塗布されている。1981年のシャトルの最初の打ち上げからずっと、これが打ち上げのたびに一部が欠けては剥がれ落ちていた。NASAは、打ち上げには支障がないとして、そのままにしてシャトルの運航を続けてきた。

 ところが2003年のシャトル「コロンビア」空中分解事故は、打ち上げ時に剥離した断熱材が翼前縁に衝突して機体を損傷したことが原因だった。コロンビア事故の調査報告書は断熱材の剥離を防ぐよう外部タンクの徹底改修を求めており、今回の打ち上げで、初めて設計改修を施した外部タンクが使用された。



Etank
今回使用された外部タンク(Photo by NASA)

 にもかかわらず、今回の打ち上げでは断熱材剥離は発生した。中でも、打ち上げ約後3分に発生した剥離では、断熱材破片がディスカバリーの腹部に衝突した。NASAは、断熱材は小さく、相対速度も小さかったので損傷は帰還に問題が出るほどではないとしている。

 が、改修を施した外部タンクから、相変わらず断熱材が、小さい破片ながら剥がれ落ち、あまつさえ機体にぶつかったというのは、かなりの問題だ。

 今後NASAがどう判断するかにもよるが、ただでさえ2010年9月末引退までぎりぎりの状況になっているスペースシャトルの運航予定が、ますます追いつめられる可能性はある。

 「安全運行に支障はない」としてシャトルの打ち上げを続けるのか、再度外部タンクの設計を見直すのか。今後要注目だと思う。


 もう一つ。

 今回の打ち上げで、欧州、日本のモジュールが軌道上で揃うことになり、ISSは最低限“完成した”という形に持ち込むことができる。アメリカが参加各国に「最低限の義務は果たしたぞ」といえるようになるわけだ。
 つまり、今後の建設スケジュールは、「いつをもってISSを完成したと判断するか」という政治的判断に左右されることになる。シャトルの運航状況との兼ね合いで、ISSの最終形態が今後も変化する可能性を考慮しておくべきだろう。


 実の所、私は「この日が来た」という実感が持てないでいる。以下、記憶に辿って書いてしまうなら、20年前、この日は1994年のはずだった。1997年だったこともあるし、2002年だったこともある。5年前、コロンビアが事故を起こす直前でも2004年だったはずである。

 いつ、きぼうの実験室が上がったと実感できるだろう。星出飛行士が内部からメッセージを送ってきた時だろうか。
 そして、日本モジュール最大の特徴であり、私が最も役立つだろうと期待している船外実験プラットホームは、まだ来年の打ち上げを地上で待っている。

« はやぶさ2とマルコ・ポーロ | Main | 宣伝:6月7日(土曜日)、阿佐ヶ谷ロフトAに出演します。 »

ニュース」カテゴリの記事

宇宙開発」カテゴリの記事

Comments

どーも発射台が変ですな。
何もなければこーはならないわけで、何だろう、これ?

 発射台ですか?
 もう少し詳しく書いてはもらえないでしょうか。

 なるほど。何でしょう?

 何にせよ、この問題が解決しないことには次の打ち上げも難しい——ということになるのでしょうか。

 断熱材剥離といい、次のフライトがどうなるのか気になります。

あ。URLが名前のところに張られるからわかりにくかったですね、スミマセン。

監視カメラに写っていると思うので、原因は早々にわかると思うんですけどね。あと、機体に損傷がないかどうかですね。みたところ、破片は発射台からはあまり生じていないようにも思えますので、大丈夫かとは思いますが、そもそもこの損傷を生み出した原因が何かですね。発射台にこれだけのダメージを与えるのであれば、機体にはもっとダメージを与えそうですし。


氷が落ちてきて直撃したとかですかね?

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference STS-124「ディスカバリー」打ち上げ:

» スペースシャトル「ディスカバリー」打ち上げ [ザッキ]
スペースシャトル「ディスカバリー」が打ち上げられました。 (JAXAから転載)打 [Read More]

« はやぶさ2とマルコ・ポーロ | Main | 宣伝:6月7日(土曜日)、阿佐ヶ谷ロフトAに出演します。 »