Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« 本当の神曲:バッハの「フーガの技法」 | Main | 宣伝:11月7日(金曜日)、ロフトプラスワンに出演します。 »

2008.11.01

超(手短)バッハ入門(偏りあり)

 ちょっと反省する。

 いきなり「フーガの技法」を薦めたのは敷居が高かったか、と。

 思い出せば自分のバッハ体験も、ごく当たり前に中学時代に聴いた「G線上のアリア」と「メヌエット」から始まっている。

 「G線上のアリア」は管弦楽組曲3番の第2曲「エア」に基づいている。なぜそれが「G線上のアリア」と呼ばれるようになったかは、G線上のアリアの知識を読んでもらいたい。実際、クラシック関係は熱心な方が詳細なホームページを作成している。
 著作権もとっくの昔に存在しない曲なので、MIDIファイルも多数ネット上に存在している。例えばこのオルゴール編曲とか。

 とても良い曲。いきなり「フーガの技法」を聴くよりも、まずはここから始めた方がいいのかも。

 「メヌエット」は、バッハが2番目の妻アンナのために書いた曲集「アンナ・マクダレーナ・バッハのためのクラヴィーア曲集」に収録された小品。こちらは「ラヴァーズ・コンチェルト」という題でポピュラー編曲が出たことで一気に一般化した。詳細はこちらを読むこと。
 もちろん、クラシックマニアとしては「どこがコンチェルト(協奏曲)やねん!」と突っ込みを入れねばならない。

 その次に、「トッカータとフーガニ短調」に引っかからなかったのが、自分の幸運だったのかも知れない。この曲はオリジナルはオルガン曲だが、指揮者のレオポルド・ストコフスキーが、派手なオーケストラ編曲を施してあちこちで演奏し、さらにディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」に採用されることで、一気に人々の間で広がった。
 日本では「トッカータ」冒頭部分が、劇的な変化が起きる場合の劇伴として使われ、今や多くの人が嘉門達夫の「鼻から牛乳」の「鼻から牛乳」というフレーズのあの音楽ね、と記憶しているという状態となっている。

 が、思うにこの曲、バッハの代表作とは言い難い。トッカータは派手だががっちりとした構成を好むバッハ本来のありようではないし、続くフーガ(ちゃんとここまで聴いたことのある人、どれぐらいいる?)は、正直なところバッハが書いた数々のフーガの中では凡庸の類に入る。

 「ちゃらり〜、鼻から牛乳〜」で、バッハ体験が終わってしまっている人は、大変不幸であると思うのだ。

 私の場合は、「G線上のアリア」と「メヌエット」の次がブランデンブルク協奏曲3番だった。中学3年の夏、FMで放送されたのをたまたまエアチェックしてハマッた。何回聞き直したか分からないほど聴いた。詳細は、こちらを読むこと。バッハが公私ともに充実していた時代の傑作である。全部で6曲あるが、中でも3番と5番は名曲の名に値する。

 高校に入ると、フルートを習いだし、そこで演奏者としてバッハの楽譜に接することになった。最初が管弦楽組曲2番、次がバッハの真作か疑わしいニ短調のフルートソナタ。こっちは真筆間違いない変ロ長調のフルートソナタと続き、ロ短調のフルートソナタと出会った。

 これは本当にショックだった。その旋律は後の時代のモーツアルトよりもハイドンよりもベートーベンよりも半音階的であり、モダンかつ陰影に富んでいた。その複雑かつ繊細な旋律が、バッハ一流の対位法によって重なり合い、絡み合いながら音楽が形作られていく。大澤さんがコメント欄で「バッハはアバンギャルドだ」と書いているけれども、まさに同じことを実感した。「どうしてこんな半音階を十分に含んだ曲を書けたのか、俺には書けないよ!」ってな感じである(当時すでに自分で作曲への試みを始めていた。今思えば無駄なことを…)。

 その後ああでもないこうでもないとバッハの半音階的な曲を漁るきっかけとなった。「インベンションとシンフォニア」のへ短調のシンフォニアとか。

 ネットとはありがたい場所であり、探せばちゃんとMIDIやらMP3のファイルが存在する。私がノックアウトされたロ短調のフルートソナタの第1楽章はこれだ。

 ちなみにへ短調のシンフォニアはこちら。グレン・グールドは「インヴェンションとシンフォニア」を独自の解釈で曲順を入れ替えて録音しているが、最後にこの曲を持ってきている。これは私からすれば、まったくもって正しい解釈に思える。

 で、同時期にNHK-FMの「現代の音楽」を聴き始めていたわけだが、そのテーマ音楽がウェーベルン編曲の「6声のリチェルカーレ」だったわけだね。

 これです、これ。(音が鳴ります。注意のこと)「は・つ・ね・み〜く〜」

 これはまた、色々と語り始めたたら止まらない曲なので、またいずれ機会があったら。

 この世には確かに、「聴かないと人生損する」という音楽が存在する。その一つは間違いなくバッハの音楽であり、それにティーンエイジャーの時に接することができた私は、随分と幸せだったのだ、と。
 まあ、思いこみかも知れないが、この年齢まで生きてきての実感でもあるのです。

« 本当の神曲:バッハの「フーガの技法」 | Main | 宣伝:11月7日(金曜日)、ロフトプラスワンに出演します。 »

音楽」カテゴリの記事

趣味」カテゴリの記事

文化・芸術」カテゴリの記事

Comments

パスカル学者で信仰者の森有正氏がバッハ弾きであったことは、ご存じですか?
ドーキンス擁護論も読ませて頂きましたが、宗教と信仰を区別できていないように読めました。
典型的な物理ガキのようです。
議論の相手になって頂けるとありがたいです。
別に虐めたいわけではありません。
論点整理に協力頂きたいのです。
お互いに有益ではないでしょうか?

私のバッハへの入口は、音楽ではなく"Goedel Escher Bach"という書籍でした。
なので「音楽の捧げ物」は私が最初に意識して聞いたバッハとなります。

私の学校時代、小学校の音楽の時間に最初に聞くバッハは「小フーガ ト短調」
でしたが、今でも同じなのでしょうかねぇ・・・?

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 超(手短)バッハ入門(偏りあり):

« 本当の神曲:バッハの「フーガの技法」 | Main | 宣伝:11月7日(金曜日)、ロフトプラスワンに出演します。 »