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2008.12.31

アイマスMadに魅せられて

 昨日NHKで高専ロボコン全国大会を見た。
 NHKの腐敗もここまできたか。

 鹿児島高専が「篤姫」ネタで来たからといって、それに10分以上の時間を割き、あまつさえ本編の映像まで流すとは。ここはいくら「宣伝になる!」と算盤を弾いたとしても、さらりと流すのが公共放送の矜持だろう。

 そして、ゲストが全員邪魔。私は高専生と彼らの作ったロボットとその戦いが見たいのであって、稲垣吾郎がマスタ・スレーブに驚く様を見たいのではない。全試合バージョンを、新年1月2日の午前10時15分〜午前11時44分でBS-2で放送するとのこと。ゲストの出演を切れば、全試合を地上波で放送できたろうに。

 年末に紅白歌合戦などを見るよりもニコニコ動画で過ごした方が数等ましというものだろう(結局それかい)。以下、というわけで、初音ミクを離れて「アイマスMad」の話。

 ニコニコ動画の三大勢力は、初音ミク以下のボーカロイドに「アイドルマスター」、そして「東方」なんだそうだ。東方というのは、一連の「東方●●」という名前の同人シューティングゲームで、その音楽が格好良いということで追従者を生み、一連の「東方系」と呼ばれる音楽ジャンルを形成したらしい。「…らしい」というのは、私はあまり東方系の音楽がピンとこないので、きちんと聴いていないのだ。

 そして「アイドルマスター(THE IDOLM@STER:通称“アイマス[im@s]”)」はナムコ(現バンダイナムコ)の開発したゲームで現在はXBOX360用に販売されている。音楽プロデューサーになって女の子キャラクターを一流アイドルに育てるという育成ゲーム。
 特筆すべきは、3Dグラフィックスで踊る女の子達が、いわゆる「不気味の谷」をうまい具合にごまかして、それっぽく、かわいく見えること。そこで、ゲームマシンからの画像をパソコンでキャプチャーして、あれこれ加工して別の意味を与えた「Madビデオ」がニコニコ動画に氾濫し、現在に至るというわけだ。

 この「アイマスMad」達、もちろん玉石混淆なのだが、選んでみていくとアマチュアとは思えないほどの高品位の映像作品が見つかったりもする。私の場合は、「im@sclassic」というタグを見つけたことが、この世界に踏み込むきっかけだった。


 「im@sclassic」タグから、このカルミナPの作品を見つけたのだった。正直、独自の美意識を貫徹した出来映えにびっくりした。ラヴェルの「クープランの墓」から他の5曲ではなく「トッカータ」を選んだ選曲眼から始まり、ビデオ編集で独自の映像美を生み出しているところとか、後半の音楽の使い方など、どこから見てもこれはパロティ系のMadというよりも“作品”と呼ぶに相応しい。
 

 カルミナPの名前の由来は、初期にカール・オルフのカンタータ「カルミナ・ブラーナ」の曲を使った作品をまとめて投稿していたことらしい。この作品も、なんとも表現に困る面白さがある。朗々と歌い上げるフィッシャー=ディースカウの声が、かくもぴったりと踊る女の子達の映像がはまるとは。


 カルミナPの場合、選曲も渋いというか、「よくこれを選ぶ!」と感嘆することが多い。これもそうでバルトークのバレエ音楽「中国の不思議な役人」(Wikipedia)を使っている。このバレエが、どんな筋かを知った上でこのビデオを見ると、音楽と映像との落差にくらくら来る。


 これまた無茶苦茶渋い選曲。そして音楽と映像が見事にマッチしている。

 カルミナPの作品で味をしめた私は、せっせとアイマスMadを発掘することになったのだった。もちろん再生数はあてにならない。信じるは己の感性と勘のみだ。自分が面白いと思うものを、タグや本人説明などのちょっとした手がかりで探し始めたのである。


 ごく普通のアイマスMadは好きな音楽に合わせてお気に入りのキャラクターの踊る映像を組み合わせるというもの。これは正統派の作品だと思うが、ビデオ映像の作り込みが半端ではない。「世の中にはセンスのある人がいるんだなあ」と、感嘆しつつ「俺にはできねえ」と自分の卑小さにがっくりくる動画ではある。


 うはは、こんなものまであるとは。なんだか子供の頃に戻って「シャボン玉ホリデー」を白黒テレビで観ている気分になってくる。オリジナルの映画は筋としては大して面白くなかったが、空撮まで使った大がかりな映像と、ラストの円谷英二が指揮したという大爆発シーンが印象的だった。
 この森江春策Pは、どうやら推理作家の芦辺拓氏らしい。50歳を過ぎてアイマスMad作成でニコニコ動画生活とは、なんとも若々しい。


 いやもう、この堂々たるレトロっぷりは素晴らしいの一言に尽きる。


 もうひとつレトロ路線で。画用紙に柔らかめの鉛筆で書かれたと思しきイラストに独自の味わいがある。アストロPはレトロ一辺倒というわけではないのだけれど、妙な雰囲気のある作品を次々に投稿している。


 同じくアストロPの作品。ストラヴィンスキーの「春の祭典」。大混乱を引き起こした1913年の初演時に、ニジンスキーが付けた振り付けの再現映像と組み合わせるとは…良い意味であきれてしまう。


 一方で、これだからなあ。掛け値なしで、紅白歌合戦よりも面白いと思うぞ。


 コンロン・ナンカロウの一発アイデアの傑作「習作21番」にその通りの映像をつけた作品。
 これはちょっと説明の必要があるだろう。コンロン・ナンカロウは20世紀アメリカの作曲家だが、共産主義者だったことが災いし、アメリカを出てメキシコに住まざるを得なくなった。メキシコに住み着いた時、彼の手元にあったのは、ロール紙に空けた穴の通りに演奏する自動ピアノだけだった。
 ところが彼はそれを逆手にとって、「人間ではとても演奏できない、自動ピアノでしか演奏できない音楽」を作り始める。「習作21番」はその代表作。基本的に上声下声の2声部から成るポリフォニーなのだけれど、上声部と下声部のテンポが異なっている。上声部は無茶苦茶な速さから徐々に徐々にテンポがゆっくりになっていき、下声部はゆっくりとしたテンポから徐々に速くなっていく。曲の真ん中で2つのテンポは交差し、最後で上声部はゆっくりに、下声部は滅茶苦茶に速いテンポとなって終わる。
 アイドルマスターには亜美と真美という一卵性双生児のキャラクターが出てくるが、この作品は、2人のダンスをそれぞれ、スローモーションから高速再生に、逆に高速再生からスローモーションにと加工して、「習作21番」と組み合わせているというわけ。
 確かに「習作21番」を知っていれば、割と思いつきやすいアイデアだとは思うけれども、それにしても本当にやってしまうとは…

 というわけで当blogの2008年は(NHKのロボコン番組より面白い)ニコニコ動画とアイドルマスターで終わるのだった。

 皆様、良いお年を。2009年も引き続き当blogをよろしくお願いいたします。

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Comments

はじめて書き込みをします。
アイマスMADすごいですよね。技術水準の高さに驚くばかりです。

タグで「全体的にどうなってんだ」で検索することをお勧めします。
洗練された技術の粋を堪能できます。

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