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2008.12.23

一転、気象衛星の予算がついた。しかし…

 前の記事を書いてから1日で、事態は大きく変化した。次の世代のひまわり2機は予算が付くことが決まった。


気象衛星「ひまわり」の後継機整備へ(日本経済新聞)

 気象庁は22日、2009年度予算の「重要課題推進枠」で、静止気象衛星「ひまわり」後継機の整備予算77億3200万円が要求通り認められたと発表した。(中略)  同日付で内示を受けた。整備予算を確保したひまわり8、9号はそれぞれ14年度、16年度に打ち上げる計画。(中略)  ひまわりは2基体制で運用し、現在の6号は10年度に、7号は15年度に寿命を迎える。(後略)(22日 22:19)

 気象衛星継が、「多目的衛星にして空港特別会計から予算を持ってくる」というような無理矢理の手段ではなく、きちんと気象庁に予算を付けるという形で予算化されたことは非常に喜ばしい。

 しかし、なぜ「重要課題推進枠」なのか…

 「重要課題推進枠」は、内閣総理大臣の裁量で使途を決めることができる予算枠で、来年度予算では約3300億円となっている。気象衛星と同時に、医師不足や救急医療の対策に304億円、麦や大豆など穀物の生産農家を支援に423億円、中小企業の資金繰り支援に123億円などが支出されることが内示された。

 このことから分かるように、「重要課題推進枠」は本来、世界情勢や経済状況の変化に政治の判断で素早く対応するための予算だ。

 気象衛星を巡る問題は、2年や3年の間に持ち上がったものではない。遡れば最初の気象衛星「ひまわり」が打ち上げられた1977年から、バックアップなしの運用に対する批判は存在した。過去30年近く、「いったいどうするのか」と言われ続けた問題だ。

 その根深さを考えるなら、予算処置としては気象庁の予算請求に対して財務省がきちんと査定して内示を出すという本来の予算折衝で予算化されるべきだった。

 政治の側は、内閣官房・宇宙開発戦略本部が、12月2日に出した
平成21年度における宇宙開発利用に関する施策について(宇宙開発戦略本部決定)(pdfファイル:リンク先の文書は「案」となっているが、12/2付けでこの文書は決定となっている) で以下のように明言している。

気象衛星は、我が国のみならず、アジア・太平洋地域の三十数カ国、22億人以 上の生活を支える気象予測に不可欠であり、観測に空白期間が生じないよう、現 在運用されている「ひまわり」の後継機については、平成26年度及び平成28年度 の打上げに向けた開発を進めることが必要である。

 宇宙開発戦略本部は内閣総理大臣を長として、閣僚が構成員となる。事実上内閣と同じだ。宇宙開発戦略本部が明言しているということは、内閣の総意ということと同じであり、官僚の側は通常ならば、予算を付けないわけにはいかないはずなのだ。

 それが、一度ゼロ査定となり、「重要課題推進枠」で復活した。急速な変化に政治が対応するための予算枠から、復活の形で予算が付いたというのは奇妙である。

 復活折衝が本当に揉める場合には、年末ギリギリまで議論が続く。22日の段階であっさり復活したということは、当初から官僚の側で復活をお膳立てしていたということだ。つまり「重要課題推進枠」を使うということで、政治と行政の間で事前に話がついていたということである。

 いくつか考えられる。まず、気象庁の予算枠への大幅増加となるのを財務省が嫌い、「政治が言うから仕方なく増やしたのだ」という形を作りたかった可能性がある。

 もう一つは、「国民の関心が高い気象衛星にやっと予算がついたということを、政治の側が手柄に仕立てたかった」という可能性だ。
 かつて自民党単独長期政権の時代は、この手の復活折衝が横行していた。大蔵省査定で切られた予算を、政治家がねじ込んで復活させるという形だ。実際には「復活」は仕組まれた出来レースであり、政治家は「私が大蔵に声をかけたから予算が復活したのだ」と地元で話すことにより「さすがセンセの権力はすごい」とばかりに支持を集め、官僚は恩を売ることで政治家を操縦するという関係が成立していた。
 特に来年度予算の場合、宇宙基本法施行後、初の予算折衝だったので、政治の側には自分たちがイニシアチブを取っていることを一般にアピールする必要性があったことは間違いない。

 さらに、前の記事のコメント欄に、きゅーてぃ渡部さんという方が、気象庁・気象研究所の独立行政法人化に絡んで、気象庁がきちんと気象衛星の重要性を財務省に説明しなかった可能性を指摘している。

 何があったかは、私もつかんではいない。が、気象衛星の予算が、正規の予算要求→内示の流れでは計上されず、「重要課題推進枠」で復活したことは、政治か官僚組織かのどちらか、あるいは両方に「道理が通らない」状況が存在することを予感させる。

 今後の宇宙開発のありように不安を感じさせる事態ではある。

 なお、今回の予算化により、気象衛星に関する話題は、「どこのメーカーが衛星を受注するか」「どの観測センサーを使用するか」に移る。
 海外メーカーになるか、国内メーカーになるかは、1989年の対米通商交渉・通称「スーパー301」による市場開放(結果として日本の衛星メーカーは壊滅的打撃を被った)と、宇宙基本法の定める「国内宇宙産業の振興」との絡みで、かなり難しく、政治も関係する問題となるだろう。

 日本は気象衛星の観測センサーを開発した経験はない。アメリカのメーカーから買ってくるしかないが、気象センサーの生産能力は限られており、発注から納入までのリードタイムは長い。三菱電機(ひまわり7号の製造実績あり)も日本電気もセンサー購入で動いているだろうか。

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Comments

「復活折衝」を止めましょうというのが、今後の政治の動き。そこを、念頭において下さい。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/policy/206372/

>気象衛星は、我が国のみならず、アジア・太平洋地域の三十数カ国、22億人以 上
>の生活を支える気象予測に不可欠であり、

妥当な理由でちゃんと予算が付いたのだからなにが問題なのですか?
気象衛星は毎年打ち上げる必要がある物じゃないのですから、気象庁の本予算に
つかないのは当然でしょう。
貴殿の前の記事が、憶測に基づいて先走っていたことを素直に顧みるべきでしょう。

先のコメントで、「妥当な理由で予算が着いたからいいじゃないか」というのがありますが、これは誤解されているのではないかと思います。松浦氏はこの「妥当な理由」をもって、政治も官僚も、緊急手段枠でなく、最初から必要なものとして計上すべきである。と言うのが趣旨と思います。
毎回予算を準備するのが財務省の胸先三寸では適正な予算を作っているとは思えません。したがって私も、松浦氏の趣旨に賛同します。

なにが問題なのですか?さんの「憶測に基づいて先走っていた」か?どうかは、それこそ宇宙オタクさんの「胸先三寸」に帰着すると思います。ひとつ前の記事で「来年度予算の復活折衝がある」(←重要課題推進枠)ので期待と書いていらっしゃるのです。世間の注目も集まらないようなら、課題として取り上げられません。今回は「平成21年度予算2次内示」に取り上げられましたが、記載の事実関係として「財務省原案」には取り上げられなかった事を指摘すること自体を「憶測」というのは如何なものでしょう。
その上で2つ指摘したい事があります。
一つは、世論は盛り上がりに欠けたということです。
blogが全てではありませんが、12/19~23の間に気象衛星を取り上げたのはgoogle blog検索で116件、NOAAなども含めての話ですから、「ひまわり 予算」では10件です。
gooの評判検索「ひまわり 衛星」でも以下のグラフ程度です。
http://blog.search.goo.ne.jp/wpa/rb/dispatch.rb?ie=UTF-8&ik=ひまわり+衛星&from=blgrg
なにが問題なのですか?さんの様にまだ予算がついて良かったというヒトも稀で、関心が無いのが世相のようです。
次に、本当に「ひまわり後継」は「静止地球観測衛星」で良かったのか?予算がついたという定性的な事象に安堵する前に、要求された予算に盛り込まれた仕様が妥当なのか?という議論が必要なのではなかろうか?という事です。
概算要求などの市井の人間が覗き見る事のできる1枚もののパンフでは判りません。
気象観測以外の相乗りは無効とは言いませんが冗長性を欠いては虻蜂取らずです。仕様が予算取りの為の方便として「地球観測」にシフトしすぎて、インテグレートに失敗しては元も子もありません。それに、遣りすぎで水脹れになっては、「しごと館」と同じレベルの反感も買いかねません。

中国は独自のGPS網を既に確立、気象衛星のみで3機体制に入る。
そしてODAにより、日本の周辺各国は次々と日本のシステムより離脱し、中国に依存することになる。

まさか、「復活折衝」が本当に予算の「復活」を「折衝」する場だと思っている人はいい加減居ないだろうとは思っていたのですが。

「復活折衝」は『本当に予算の「復活」を「折衝」する場』であって欲しいと思いますがね。
前世紀のロッキード疑獄事件当時、「そんなことは、とうに知っていた」とうそぶいた大新聞の記者さんがいたそうですが、「異常な状態が常態」なんて異常以外の何者でもないし、知っていたからといって自慢にもなりはしませんよ。

>気象衛星は毎年打ち上げる必要がある物じゃないのですから、気象庁の本予算につかないのは当然でしょう。

確かに毎年打ち上げるものではありませんが、

製作に何年かかって、それにいくらかかって、打ち上げにいくらかかって、運用にいくらかかって


ってあるんですが

正確な値段はわかりませんが、今回の77億で打ち上げられるものではないのは確かです。

それに今年一年で打ち上げて運用までできることもないというのも確かです。


ですから毎年衛星に必要な予算を計上するというのは気象庁としては当たり前のことだと思います。

予算とは全く関係ないですが、以下の報道を見てあきれかえった次第。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081225-OYT1T00391.htm

私が言いたくなった事は、以下が既に語ってくれていました。
http://obiekt.seesaa.net/article/111719181.html

>確かに毎年打ち上げるものではありませんが、
>製作に何年かかって、それにいくらかかって、
>打ち上げにいくらかかって、運用にいくらかかって

まあそうですね。しかし額が年ごとに相当変動しますので、
毎年固定費的に付けるわけにはいかないでしょう。こういう形で
着かざるを得ないのではないでしょうか? 予算の付け方は政治家や
官僚のこれまでのセオリーがあるようです。それを批判するだけでなく、
それを利用することも考えましょうよ。

例えば南極調査船「しらせ」の建造費も似たようなお金の付き方を
していたと思いますよ。
<「しらせ」後継2年遅れに 復活予算で建造着手できず>(2003年)
http://www.47news.jp/CN/200312/CN2003122201005142.html
2004年度予算ではゼロ査定→復活。2005年度予算には造船費が経常
されています。というわけで、騒ぐのは来年の今の時期でよろしいかと。

しかし、、、気象観測の重要性を叫ぶのであればよいのですが、
あまり予算予算と騒ぎ立てるのはどうかと、、、
宇宙ゼネコンブログには私は興味はありません。

>>/.Jer さん
私も両方読んでるんで、あー同じ人かなと思いました(笑
あちらでは学術系ロケットや松浦氏を名指しで批判してましたが……

問題点があるから話題になるわけで、それに対して言いたいことが
あるなら揚げ足取りとか、訳知り顔でそれがどうした、とか
言うよりはっきり論点整理して書いて欲しいですね。

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