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2009.01.01

人力ボーカロイドはさえずり機械の夢を見るか

 あけましておめでとうございます。

 以前も書きましたが、もう年賀状を出さなくなって何年も経ちます。このblogが生存証明ということになります。

 新年最初の更新もニコニコ動画絡みです。ネタは人力ボーカロイド。

 初音ミク以下のボーカロイドは、あらかじめサンプリングした音声波形をモーフィングをかけることでスムーズに接続するという手法で、比較的自然な歌声を作り出している。初音ミクの場合は藤田咲さんという声優の声が歌声を発生させるためのデータとして使われている。しかし、ユーザーの間では、「自分の好きな声優の声で歌を歌わせたい」という欲求が存在する。

 欲求の赴くところ試行錯誤も存在するわけで、初音ミクの登場以降、一部ユーザーが好みの声優の音声データを切り貼りして、歌わせるという試みにチャレンジしはじめた。例えば「歌う」という言葉ならば、1)どこかからその声優が「歌う」と発音しているデータを見つけてきて、デジタル的に音の長さや音程を整える、2)「う」「た」「う」と3つのデータを用意してデジタル的に音程と音長を整形してつなぎ合わせる——という作業を延々と繰り返すわけだ。

 恐ろしく手間のかかる作業だが、同じ「あ」でも、様々な表情を持つ「あ」を吟味し、選ぶことができる。限られたデータから歌声を生成するボーカロイドよりも、実際の歌声に近い歌を作り得る可能性がある。

 で、現時点での成果がどんなものかというと…


 これがつぎはぎで作られた人力ボーカロイドだと信じられるだろうか。
 初音ミクによるニコ動100万アクセス超えのヒット曲 「ブラック★ロックシューター」:(Supercellという音楽集団の作品)。それを、ハロPが「アイドルマスター」の登場キャラクターの一人、高槻やよいの音声を切り貼りして人力ボーカロイド化。さらに矢夜雨Pが、キャラクターの画像を入れてビデオ化したものだ。
 高槻やよいの声は、仁後真耶子さんという声優が演じているが、この人が「ブラック★ロックシューター」を歌ったことは(多分)ない。この曲は高槻やよいを演じる仁後真耶子さんの声をサンプリングし、切り貼りして構成されている。それで、ここまでできてしまうのだ。


 こちらは、同じく「アイドルマスター」のキャラクターである秋月律子の声を切り貼りしてacousticPが音源を作成、それにヤマネコPが映像をつけたもの。もちろん秋月律子の声を演じる若林直美さんが歌ったわけではなく、その声をサンプリングして切った貼ったで作り上げたわけだ。
 すいません、私、冒頭の「ハイはーい、りっちゃんですよ〜」という声でけっこうくらっと来ました。


 これまた秋月律子の声の切った貼ったで、ニコ動屈指のヒット曲「メルト」を歌わせたもの。


 これは、同じく「アイドルマスター」のキャラ、菊池誠…じゃない菊地真の声を切り貼りして作成したもの。ちなみに「鳥の詩」という曲は、「AIR」というゲームのテーマソングで、年若きオタク達の間で圧倒的な支持を得ている。
 私は歳若き友人から、初めて「『鳥の詩』がいいんですよ!」と聞かされた時、「なんで、パブロ・カザルスが弾いた『鳥の歌』が、現代日本で若い連中に受けているんだ??」とびっくりしたのであった。いうまでもなく、後者はチェリストのカザルスが帰るに帰れぬ(当時フランコ政権でしたからね)スペインへの望郷の念を込めて演奏したカタロニア民謡です。


 こちらは、「アイドルマスター」の星井美希というキャラクターの声で構成した、ニコ動ヒット曲。

 ユーザーの莫大な手作業が、ある面では専用ソフトウエアである初音ミクの表現力を超えた結果を生み出しているわけで、これはまったくもって面白い現象だ。

 しかし、これらの動画像のもっとも恐ろしい点は、その完成度ではない。ユーザーがせっせと手で行っている作業が、将来的にはパソコンのプログラムで代替される可能性があるということである。現在でもすでに、いくつかの人力ボーカロイド作成を支援するソフトが出回っているが、最終的には歌詞を入力すると、自動的に大量の音声データから、当該人物の声色で歌を作成するソフトウエアができるであろう。

 そうなった場合、悪用の方法も色々考えられる。ひょっとすると電話の音声通話などは、もっとも信用ならないコミュニケーション手段として衰退するかもしれない。歌手や声優などは、まさに「声を盗まれる」可能性すら考えられる。

追記(2008.1.1)

 とかなんとか言っているうちに、こんなものまで出現しているのに気がついた。Perfumeの歌声を切り刻んで、新たな歌詞を歌わせてしまっている。もちろん生身の三人はこの歌詞を歌っているはずはないのだ。

2008.1.3追記
 この動画の音声は、Perfumeの歌声の切り貼りではなく、ボーカロイドの声にエフェクトをかけたものだ、という指摘があった。あるいはそうかも…だがそうだとすると、今度はPerfumeの歌は、Perfumeが歌うということには意味が無くボーカロイドで代替可能ということになる。


 とはいえ、私としては楽しい未来を考えたいところだ。例えばあれこれ残っている田中角栄の演説の音声データを使ってバーチャル角栄ロイドを作り、「びゅわーん、びゅわーん、は・し・るー、走るひかりの…」と歌わせるとか。

 ところで、このようなシミュレーションの精密化を目指す方向とは別に、ニコニコ動画には、SofTalkという音声読み上げソフトで棒読み音声を楽しむという行き方も存在する。「棒歌ロイド」というタグがついているので、色々検索すると面白い動画に行き当たるだろう。


 棒歌ロイドのとんでもない傑作。聞いているとへにゃへにゃと全身の力が抜けていく。厨房的発想ではあるが、今まさに、この歌をイスラエルの首脳部に聴かせたいと思ってしまう(「ゆっくりしていってね」って、ヘブライ語ではどう言うのだろうか)。

 まあ…「表現は技巧につれ、技巧もまた表現につれ。しかし技巧は表現にあらず、技巧に過ぎぬ」…ということで。



 ところで今回のタイトルは、もちろんフィリップ・K・ディックの本歌取り。「さえずり機械(Twittering Machine)」というのは、1980年代に作曲家の吉松隆氏が提唱していた「すべての鳥の歌声をサンプリングして、ありとあらゆる声でさえずるデジタルバード」
というコンセプトからの引用である。

 同コンセプトに基づく作品としては「デジタルバード組曲」「ランダムバード変奏曲」などがある。「デジタルバード組曲」は、このCDで聴くことができる。若き日の吉松作品は、どこを切っても血が出るぐらいの真摯さがほとばしっている。「デジタルバード組曲」も傑作だ。どこか孤独でひねくれた「鳥恐怖症」から始まり、愛らしく美しい「夕暮れの鳥」、幻想と怪奇の「さえずり機械」、メカニカルな「真昼の鳥」と続き、ラストの「鳥回路」では音楽が感傷を引きちぎって疾走する。


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Comments

いちおう人名なので

菊池真→菊地真
星井みき→星井美希

です

 いけない。ご指摘ありがとうございます。

 直しておきました。

Google翻訳でTake it easy!!!を調べただけですが,こうなるみたいです。右から左へ読みます。発音は良く分からんです。

קח את זה בקלות!!!

 ヘブライ語の「ゆっくりしていってね」ですね。なるほど、機械翻訳を使う手がありましたか。

 ほんと、どう発音するんでしょう。やはり棒歌ロイドに歌わせてYouTubeに投稿するべきなんでしょうね。

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