宇宙基本計画についての記事を書いた
nikkeibpに宇宙基本計画の記事を5回に分けて書いた。
・宇宙基本計画策定に向けて(1)
利害関係者の意見を寄せ集める従来パターンから抜けられない方針
・宇宙基本計画策定に向けて(2)
目指すべきはブートストラップ方式の産業立ち上げ、
初期段階での安全保障分野への傾斜は最悪の選択
・宇宙基本計画策定に向けて(3)
宇宙科学・探査を“最初の靴ひも”として
宇宙開発全体の浮揚を
・宇宙基本計画策定に向けて(4)
宇宙科学と有人探査の有機的連携を
人類の宇宙進出を念頭に長期的戦略を
・宇宙基本計画策定に向けて(5)
“理工一体”の宇宙科学推進体制の再構築を
世界一線級の尖った計画を推進できる体制が必要
宣伝と言うよりもお願いだ。ぜひともこれらの記事を読んでもらいたい。そして、私の意見に賛成でも反対でもかまわないから、自分なりにどうすればいいのかを考えてもらいたい。
おそらくこの春には宇宙基本計画に対するパブリックコメントの募集があるはずだ。可能な限り多くの人たちにパブリックコメントへの募集をお願いしたいのである。
昨年8月に宇宙基本法が成立し、宇宙開発の中枢は、内閣メンバーで構成される宇宙開発戦略本部へと移った。宇宙開発戦略本部は、宇宙基本法に定められた通り、今、日本の宇宙開発の基本となる宇宙基本計画の策定を行っている。
今回が宇宙基本計画の初めての策定であり、ここで決まったことは後々の日本の宇宙開発に大きな影響を与えることになる。
ところが、それが今や、なにやらわけの分からない形で決まりそうな雰囲気になりつつある。
宇宙基本法は、宇宙開発の方針を政治が決めるという方向性を打ち出したが、今まさに政治状況は流動化しており、政治家が腰を据えて宇宙に取り組む状況ではなくなりつつある。経済状況もご存じの通りで、「宇宙は後回し」になってもおかしくない形勢であり、実際そうなりつつある。
それではこれまでの宇宙政策を引き回してきた官僚は、といえば、これまた「政治優先」を明記した宇宙基本法があるので、なかなか動けないでいる。彼らは政治家とは異なり、それ専門に働けるので、それなりに動いてはいるが。
私が恐れるのは、このようなぐちゃぐちゃの状況の中で、自民党の「軍備を持つ普通の国」を求める」姿勢と、官需で業界を支えたい産業界との思惑が一致して、宇宙の安全保障用途の利用が、無節操に進むことである。
「真にコストパフォーマンスにすぐれた宇宙の安全保障利用」を目指すのではなく、「機密の壁の向こう側で国民の監視の目を逃れた形で、巨額の公共投資ができるアイテム」として、安全保障が使われるかもしれないのだ。
私は、宇宙の安全保障利用に反対しているのではない。宇宙開発にまつわるあれこれが、国家安全保障に巻き込むことで、機密の向こう側に行ってしまい、その結果、日本の宇宙開発が停滞してしまうことを危惧しているのである。
技術は広く使われてこそ社会に利益をもたらす。知識は共有されてこそ、未来への道しるべとなる。宇宙開発のための開発した技術は、広く使われてこそ宇宙開発をさらに前に進める力となる。得られた知識は共有され、議論のベースとなってこそ、私たちの未来を切り開く道具となる。
そもそも、安全保障は知識の秘匿を旨とする。国民生活にとって大変大切な事柄だが、本質的に反未来的な指向を持っているものだ。だから、安全保障は「宇宙開発の技術的成果を利用するもの」であり、「それを通じて産業を支えたり、技術を開発するものではない」というのが、私の意見である。
とにかく、きちんと情報を仕入れて、自分の頭で考えてもらいたい。新たな宇宙基本計画が動き出す今は、日本の宇宙開発を良い方向に向けるチャンスなのだ。そのためには、あなたの考えをきちんと政府に、内閣に、宇宙開発戦略本部に表明することが必要なのである。
宇宙開発は国民のものだ。宇宙開発の成果も未来も、税金を支払う国民のものだ。関心をもってほしい。無関心が一番いけない。
お願いいたします。
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本日のBGM - Jean-Jacques Goldman "Né en 17 à Leidenstadt" 1917年にライデンシュタットで生まれていたら ♪Et si j'étais né en 17 à Leidenstadt Sur les ruines d'un champ de bataille Aurais-je été meilleur ou pire que ce gens Si j'avais été allemand? もしも1917年にライデ... [Read More]
> 安全保障は知識の秘匿を旨とする。国民生活にとって大変大切な事柄だが、本質的に反未来的な指向を持っているものだ。だから、安全保障は「宇宙開発の技術的成果を利用するもの」であり、「それを通じて産業を支えたり、技術を開発するものではない」というのが、私の意見である。
GPSという技術を開発したのが、どこのどういう組織なのか勉強してから発言してください。
Posted by: ATIC | 2009.01.21 10:16 AM
松浦さま
こちらもパブリックコメント用の素案検討を開始しました。
また各方面にパブコメの準備する旨をお知らせしています。
Posted by: DVDを見せたがる男 | 2009.01.21 12:40 PM
まずは 1 歩から。
「 JAXA モニター」 募集のお知らせ。
→ http://www.jaxa.jp/about/monitor/index_j.html
応募期間は 2009/01/30(金)17:00 迄なので、「我こそ!」と思う方はお早めに。
Posted by: 長田 | 2009.01.21 04:24 PM
1:「宇宙科学は科学者が適切なミッション目標を設定するならば、必ず科学的成果を挙げることができる」とありますが、ここにおける「適切な目標」は、誰が設定し、誰が承認し、誰が正当性の検証をするのでしょうか?予算の適切性は誰が判断し、監査するのでしょうか?
2:現状で必要とされているもの(安全保障)が目の前にあるわけですが、それをうっちゃって技術開発に邁進するだけの理由付けとしては、「技術の根は同じだからスピンイン型に置き換えればよい」では弱いように思います。「迅速な情報の流通と物資・人員の輸送」を求められる安全保障分野で、「技術の実証に探査機上げてから」は悠長ではないでしょうか。
3:仮に2000億の予算を枠のみ与えられ、「内部での割り振りは自由にせよ」とされた場合、どのような分配(技術開発、既存技術での打ち上げ、ISS……)であるのが理想であるとお考えでしょうか?
4:3機関統合の是非等はおいておくとして、松浦先生のNASDAの敵視とISASの持ち上げぶりはある種異常に感じます。無論それをするだけの理由があるのかと思いますが、論評へのバイアスがきつく掛かっていないか気になります。
Posted by: yuhka | 2009.01.22 01:01 AM
安全保障分野はそもそもJAXAから防衛省に移行したほうがいいんだと思います。JAXAがやることじゃないんですよ。そもそも。
宇宙基本法に基づく宇宙基本計画は、私が感じるに今まではJAXAの意向を下にこれからが決められていたのをそこに産業界も加えましょうというのがこの策定したひとつの目的ではないでしょうか?
なのでそれを考えれば重要なのはJAXAではなく産業界の意向なんですよ。それを考えたらきっと産業界は技術研究開発への投資を求めて来るんだと思います。そこに科学探査だとか実利用衛星だとかの区別は無いでしょう。産業界は、安全保障分野にそこまで期待してないですよ。防衛省に移行されれば防衛需要となるわけでしょ。防衛需要に期待なんてしません。
産業界は、JAXAに対して研究開発の窓口になって欲しいと考えているはずです。産業界としてやりたい研究開発を国のバックアップを得ながら進める。その窓口になって欲しいと考えているのではないでしょうか?
JAXAは、安全保障分野が切り離されれば随分と楽になるんだと思います。産業界からしても気軽で身近な組織になるんじゃないんですか。世界は確実にいい方向に向かっているんですよ。
JAXAは、宇宙航空「研究開発」機構なんですよね。宇宙研究開発機構=宇宙航空研究開発所、外様が見ているより案外中はあっけらかんとしているんじゃないですか。別に、NASDAとかISASとかNALとか関係ないでしょ。研究者は、やりたいことをやりたい、楽しみたいんです。いろいろな人から話が聞けて楽しいんじゃないですかね。ISASは、元が東大の組織だったこともあり少し警戒しているんだと思います。ただ、研究者は時間がかかってもちょっとした事から仲間になったりライバルになります。いいんじゃないですか、壊れたって前よりいいものを作れば、まずはフラットになりましょうよ。
私は、楽観的な性格ですがいい方向に向かっているんだと思います。日本にとって宇宙がもっと身近に感じられる世の中になっていくんだと思います。期待も込めていますがね。
「世の中は少しずつだけどいい方向に向かっているんだよ。」
by John Lennnon
Posted by: ひょっとこ | 2009.01.22 02:03 PM
そもそも何故日本の宇宙開発は一本化されてしまたのでしょうか?
世界的に見てもISASは唯一の学術研究専用の宇宙機関であり、高い費用
対効果や優れた研究成果を多く残したその実績は、世界の天文学者や宇宙
物理学者が「ぎんが」のデータを求めて相模原に門前市をなした事などあ
またの実例から証明されています。
分かれていた「宇宙研究」と「宇宙開発」を統合した事は本当に正しかっ
たのでしょうか?
Posted by: Escher | 2009.01.22 07:32 PM
yuhka さま
> 1:「宇宙科学は科学者が適切なミッション目標を設定するならば、必ず科学的成果を
> 挙げることができる」とありますが、ここにおける「適切な目標」は、誰が設定し、誰が承認し、
>誰が正当性の検証をするのでしょうか?
宇宙科学における「適切な目標」は、科学者コミュニティが設定し、科学者コミュニティが承認し、
科学者コミュニティが正統性の検証をする、というのが世界の常識です。
NASA や ESA の科学衛星選考プロセスもそうなっていますよね。
> 予算の適切性は誰が判断し、監査するのでしょうか?
科学ミッションに限って言えば、予算の適切性の判断は、政治家、官僚、JAXA内の天下り役員等の、専門知識がない輩が主体ではできないと思います。(監査ぐらいならできると思いますが。)
国は一定の予算を定常的に供給し、その使途は、グローバルな科学者コミュニティの中の競争により決めていくのがもっとも効率的なやり方だと思います。
Posted by: salluto | 2009.01.23 03:17 AM
松浦様
金額については“多い”“少ない”の判断はしかねます。一点を除いて松浦さんの意見に賛成です。科学研究の目指すところ、すなわち”より遠く、より詳しく、より美しく、”は使いようによってはより多くの人々への思考/感性に訴えかけるのでリテラシーを欠く人々への説得力も増すでしょう。ましてや論文数という分かりやすい係数で比較をすることができればなおさらです。おっしゃる通り科学研究は自由に情報を得ることができ、自由に使うことができる、だからこれまで技術発展の核となって来たと私も信じています。90年代の生命科学、70−80年代物理学に代表される情報/視覚系の技術発展がそれに当たるのではないでしょうか。ただ、科学主体だとどうしてもどうしても官需頼みになってしまう傾向があるのでいかにして民需との擦り合わせを見いだしていくかを"政治”で持って考え抜く必要があるでしょう。松浦さんのご意見ですとアナロジーが多そうですので大丈夫だと思いますが生命科学の二の舞だけは避けてほしいです。賛成しかねる一点は予算は多ければ多いほど無駄が出ます。大事なのは参加人数を増やす事であって予算の絶対数を増やす事ではないと思います。
Posted by: KF | 2009.01.27 01:43 AM
以前から松浦さんのブログを拝見していますが、賛成反対以前に主張の軸が今ひとつ理解できません。
失礼な言い方になりますが、自身のイデオロギーを伏せて誤魔化しているような気がします。
「宇宙の安全保障に反対するわけではない」と言っていますが、率直に言って反対なのではないでしょうか?
軍備を持つ普通の国という言い回しが揶揄しているだけのように感じたのと、防衛(軍需)産業が
技術発展に繋がらないという決め付けが歴史的事実に反するのではないかと思ったからです。
松浦さんが賛成する「真にコストパフォーマンスにすぐれた宇宙の安全保障利用」と言うのは
一体どういうものなんでしょうか?
後に続く
「機密の壁の向こう側で国民の監視の目を逃れた形で、巨額の公共投資ができるアイテム」
というのが、軍事は機密があるから反対だと言うのでは、結局のところ安全保障利用に反対と
同義になってしまいます。
Posted by: ポンティアック | 2009.01.31 07:50 PM