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2009.04.03

イモリとカエルと宇宙生物実験

 3月7日付けの「タチの悪い冗談、ないしは本当の悪夢」で「そもそも、今までイモリの受精卵以上の生命を打ち上げたことのない日本(1995年に実験衛星SFUでイモリの受精卵を打ち上げ、スペースシャトルで回収している)が、有人軌道周回を抜かして突如として有人月探査を言い始めるあたり、どうにもこうにも怪しい。」と書いたが、この件で宇宙科学研究本部の山下雅道教授から、「ちょっと違いますよ」という連絡が来た。

 正確には、受精卵を打ち上げたのではなく、軌道上で受精したらしいのであった。

 以下、山下教授からのメッセージと、送られてきた画像である。共に許可をもらって以下に転載する。


Jointsfua 打ち上げたのはイモリの雌の成体2個体でし た。軌道上(推定)でメスの総排泄孔内にたくわえられていた精子により受精した卵がえられ発生が進みました。日本から日本のロケットで宇宙に送られた生物としてはじめてでありました。ただしイモリを SFUに載せたのは打ち上げのおよ そ1ヶ月前で、打ち上げ時に内部電源にきりかわるまで実験固有のライフラインをつなぎ、生命維持のための給電・モニターを連続して実施していました。

 写真は SFUをフェアリング組み立てにのせるところで、左で片膝ついてイモリ・ケーブルをガイドしているのは代表研究者です。

 実はこのメッセージ、当該記事の掲載直後にもらっていたのだけれども、忙しさのためにここまで掲載を遅らせてしまったのだった。山下先生、申し訳ありませんでした。

 メッセージは、日本初の宇宙生物実験である、1990年の秋山豊寛さんが宇宙ステーション「ミール」に行った際のカエルを使った研究にも触れていた。

 秋山さんの飛行は、色々と刺激的だったな、と思い出す。「政府関係でアメリカに頼むよりも、ソ連に金で頼んだほうが早い」というのも驚きだった(今となっては常識だ)し、初めて西側のカメラが入ったミールの船内も見るもの聞くもの全て初物尽くしで面白かった。

 確かカエルを詰めた実験装置はISAS手作りで、その辺で買ってきた食品容器の流用だったはずだ。当時、私の同僚が宇宙研の黒谷明美さんに取材に行って、「NASAだと、嫌になるぐらい大量の“安全です”という書類を書いて積み上げないとOKが出ないものが、ソ連だと、その道の権威というか責任者がいて、その人が実験装置の実物を見て『OKだよ』と一言いえばOKなんだそうな」などという話を聞いてきて、米ソの方法論の違いにのけぞったのもなつかしい。

 日本初の宇宙飛行士が、ソユーズ宇宙船でミールに行ったジャーナリストであるということも、そして日本初の宇宙生物実験が、スペースシャトルでも国際宇宙ステーションでもなく、ミールで実施されたといういうことも、今後を考えていく上で、絶対に忘れてはならないだろう。
 歴史的事実を、無視したり忘れたりするとたいていろくな事にはならない。「日本最初の宇宙飛行士は毛利衛さんで、最初の宇宙実験は1992年にスペースシャトルで実施したFMPT、愛称“ふわっと'92”だ」などと思い込んでいたら、今後もとんでもない判断ミスを犯すことになるだろう(宇宙開発戦略本部長である麻生首相は大丈夫だろうか)。

 そうだった、“ふわっと'92”が、最初は“ふわっと'91”だったことも忘れてはいけないな。そして、そもそも毛利さんらの飛行は、3人が選抜された1985年末の段階では1988年の予定だったということも。

 “ふわっと'92”の時は、「毛利さんも7年も待って大変だな」と思ったが、今や角野直子、古川聡両飛行士は選抜から飛行までが10年超になっているのに、誰も「随分とひどいものだ」とは思わない(そうだ、土井隆雄飛行士は、選抜から飛行まで12年かかったのだったな)。

…これで、物事が前に進んでいると言えるのかどうか…ねえ。

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Comments

日本の宇宙開発における進歩の捉え方として、今年大学に入学した人たちはもうみんな日本人が既に宇宙に行っている世界に生まれて来ているんですよね。
つまりこの「生まれた時から飛んでる世代」は、日本人が宇宙に行くことは既に普遍的なものって感覚を持っているはずなんです。この感覚を持った人は今後、まだ日本人が行っていないときに生まれた人と大きな考え方の違いが生まれてくるのではないかなあと思っております。ま、それが「前に進んでいる部分」ではないかと。

うーん。学生とは日々接しておりますが。。。

最近一番がっくり来るのは、「宇宙飛行士になりたいんです」という学生でしょうか。熱心な学生ほどそんな傾向があるような気がします。
もちろんここで言う宇宙飛行士は、「自分(達)で打ち上げ手段を確保して」云々という宇宙飛行士ではなくて、「(いつくるかわからない)JAXAの宇宙飛行士募集を待って、(これまたいつくるかわからない)打ち上げ機会を待つ」方の宇宙飛行士なんですけどね。

JAXA宇宙飛行士の方々の忍耐力と努力にはいつも感服しますが、しかし学生達が最初から其所を目指すというのに引っかかるのは、僕の感覚が世間からずれているのか、世間の感覚がずれているのか、うーん。

前とか後とか上とか下とかが良くわからない世界がやはり宇宙なのではないか、とか落としてみたりして(^_^;

> 前とか後とか上とか下とかが良くわからない世界がやはり宇宙なのではないか、とか落としてみたりして(^_^;

んで、よくわからないまま受験して、落ちちゃったのが、わたし、と (^ー^;

このあたりの意識のギャップ(作る側と行ってそこで仕事を遂行する側)は、コリョリョフとガガーリンの昔から、変わらないのだなぁ、って、最近よく思います。

訓練すべきスペシャリティがまったく異なっているのですけどね。

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