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2009.07.19

書籍紹介:「宇宙暮らしのススメ——小惑星移住計画」 野田 篤司 (著), あさり よしとお (イラスト)



壮大な夢は、受け入れられて、共感されることで、初めて実現への道を歩み始める。それが第一歩だ。——あとがきより

 当blogの常連さんには“野田司令”の通り名でおなじみの宇宙機エンジニア・野田篤司さんの著書が出た。それも、みごとなタイミングで。昨日読了したので紹介する。

 サブタイトルの通り、人類の宇宙進出を考察し、「これから有人宇宙開発を進めるとして、人類はいったいどこに向かって何をすべきなのか」に回答を出そうとした本だ。そしてなぜ“見事なタイミング”かといえば、内閣・宇宙開発戦略本部が、まさにそのことを話し合う会合を設立したばかりなのである。


 ●政府、有人月探査で懇談会発足 産業波及効果など検討へ(日経新聞 2009年7月18日)

 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)は有人月探査の実現性を検討する懇談会を発足する。2020年の無人探査計画や、その後の有人計画の具体策を詰める。

 (中略)

 今年まとまった政府の宇宙基本計画では、有人月探査に向けて20年には2足歩行ロボットで月面探査をする計画を決定。その後の宇宙飛行士の活動については、今後1年かけて検討するとしていた。日本単独で月探査を実施するには、コストや技術面の課題があるため、国際協力の道も探る方向だ。


 実は、この懇談会は設置時点ですでに、2つの点において失敗が宿命付けられている。

  1. 「月に行く」と最初から決めつけてしまっていること
  2. 「コストや技術面の課題がある」から「国際協力」だと最初から決めつけてしまっていること

 先入観ありきで話を進めると、たいていろくなことにはならない。

 野田さんの本が関わってくるのは1.のほうである。人類は宇宙に出て行くとして、いったいどこに行くとどんな展望が開けるのか——これは重大な問題だ。間違った場所に行けば、行ったはいいがその後の展開ができずにそこでおしまい、自動的に有人宇宙開発も終了ということになりかねない。
 そして、少し考えると「まず月に行く」というのが、夜空に隣の星として月が輝くのをずっと眺めてきた、地上に住む私たちの先入観であることに気が付く。

 “人類は、宇宙に出るにあたって、どこに行くべきか”は、先入観を排除して根本から徹底的に考えねばならない問題なのだ。

 本書は、その難問にベテラン宇宙機エンジニアが挑んだ結果だといえる。そして、きちんと結論を出している。

 サブタイトルにあるとおり「目指すは小惑星だ」と。

 月でも火星でもなく、小惑星なのだ。

 小惑星という答えに、納得できる人も納得できない人も、まずはこの本を読まねばならないだろう。

 野田さんは、「宇宙は広大だ」そして「宇宙では地上の常識と反する現象が色々起きる」ということの説明から始める。目次は以下の通り。眼目となるのは第三章なので、第三章のみ小見出しまで掲載する。

    はじめに
  • 第一章 宇宙は広大である
  • 第二章 宇宙の常識・非常識

  • 第三章 人類は宇宙に飛び出そう

    • 人類は宇宙に飛び出そう
    • 月に行っても資源がない!?
    • 火星に行くメリットはあるのか
    • 宇宙開発の狙い目は小惑星帯
    • 小惑星ってどんなところ?
    • 世界のトップを走る日本の小惑星探査
    • 星一つを独り占め! 小惑星をくりぬいて住もう
    • 小惑星開発の要は蒸気ロケットだ
    • 小惑星人の一日
    • 宇宙に出て、何が良いのか

  • おわりに

 内容の一部は、著者のblog「マツドサイエンティスト・研究日誌」にも掲載されている(【人類は宇宙へ飛び出そう まずは小惑星から】 目次からたどることができる)。が、一冊の本にまとまったことで見通しよく、理解しやすく整理され一貫したものとなっている。記述も平易で、多分理科に興味がある中学生なら読み通すことができるだろう。しかも内容面で手を抜いているわけではなく、きっちりと中身が詰まっている。

 野田解説を補足するあさりよしとおさんのマンガは、1ページものが全20ページ、「まんがサイエンス」の面々が登場して、野田さんの記述をさらにかみ砕いて(時にはブラックに)教えてくれる。

 最後の「宇宙に出て、何が良いのか」まで読んだ人は、著者が「なぜ人類が宇宙に出て行くのか」にまで答えを出していることに気が付くだろう。
 本人は「長いこと、30年ぐらいの間、考え続けているが、誰でも納得できる答えは未だ得ていない」とし、あるいは「それは論理的ではないのかもしれないし、むしろ直感的なのかも知れない」(共に本書p.138)と書いているけれども、私にはこのラストの答えは十分だという気がする。それは感動的な答えだ。

 さあ「人類ははどこに向かうべきなのか」、本書を読んだら自分で考えてみよう。疑問があったら検索してみよう。議論する相手がいるなら議論してみよう。

 月?、火星?、そうかも知れない。
 野田さんは、小惑星を推している。
 私は、火星の衛星フォボスはどうだろうとも考えている(何事も徹底して考え抜く習性のあるロシア人が、フォボスに執着しているしね)。
 あるいは、ガニメデ、カリスト、タイタンといった外惑星の衛星?
 内惑星は何か使い道はないだろうか、あるとしたらどんなものだろうか?
 それともいっそ宇宙空間を漂うことにする??


 さあ、あなたはどこに行きたい?
 そこにいって何がしたい?

 そこからさらに先に、どこを目指したい?


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Comments

パブコメの時に月ではなく小惑星と書いたが、手応え無かったな。ウチのは「5-278」ですけど。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/senmon/dai8/8siryou1.pdf
「いや、そういわないで月に行く往く逝く」が返事でしたね。

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