Web検索


Twitter

ネットで読める松浦の記事

My Photo

« 日食、太陽活動、木星への衝突 | Main | 書籍紹介:「ロケットと宇宙開発」(大人の科学マガジン別冊) »

2009.07.23

「いぶき」の撮影した日食の影

 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が軌道上から撮影した日食の影も公開された。

「いぶき」が宇宙から日食を撮影

Gosat_nisshoku2_big
いぶきのモニタカメラが撮影した日食の影(Photo by JAXA)
   これは驚きだ。

 「いぶき」のミッションは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの全世界的な分布の計測だが、打ち上げから運用初期にかけての一番トラブルが起こりやすい段階(クリティカルフェーズ)での動作確認用に8台のモニタカメラを搭載している。

いぶき搭載カメラ/運用管制室の画像・映像




H2af15


 この素晴らしい写真もモニタカメラで撮影されたもの。分離したいぶきから撮影したH-IIAロケットの第2段。同時打ち上げの小型衛星7機が写っている(Photo by JAXA)。


 動画像を見ると、「いぶき」は日食の影の中を通過している。運用者はかなり気をつけて衛星を監視していたのではないだろうか。

 モニタカメラ担当者は、いぶきに8台ものカメラを搭載するために大変な苦労をしたと聞いているが、日食の影まで撮影できたのだから、苦労のかいはあったと言えるだろう。ご苦労様でした。

 私の記憶ではこの手のモニタカメラを搭載した最初は、1996年8月に打ち上げたH-IIロケット4号機。4号機は、開発時に地上設備との整合性を試験するための地上試験機(GTV)を改修したものだったが、当時の五代富文NASDA副理事長の発案で、第1段の上部に固体ロケットブースター(SRB)を見下ろす形でモニタカメラが搭載された。
 動画像は通信容量を圧迫するし、すでに完成した機体に新たな配線をはわせるのは断熱材を剥がす面倒な作業となるので、三菱重工業は難色を示したそうだが、「美しい画像が得られれば、広報的価値は大きい」と副理事長が押し切ったと聞いている。結果、4号機打ち上げでは、ロケットが上昇し、途中でSRBが分離し、落ちていくという迫力のある画像が撮影できた。その映像はJAXAビデオアーカイブズのこちらで見ることができる(JAXA広報は、ビデオアーカイブズの画像もそろそろ、マスターテープからエンコードしなおして、YouTubeのJAXAチャンネルからより美しい画像で提供することを考えてもいいのではないだろうか。マスタテープはきちんと保存しているだろうか。少し心配…)。

 その後、まさに4号機で打ち上げた地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)「みどり」が、軌道上で太陽電池パドル破断を起こすという事故が発生した。設計ミスが原因だった。急遽同じフレキシブル太陽電池パドルを搭載した通信放送技術衛星「かけはし」(COMETS)に、パドル監視用のモニタカメラが取り付けられた(なお、パドルの製造元は「みどり」が東芝、「かけはし」が日本電気、このため同じフレキシブル・パドルであっても設計はかなり異なる)。
 「かけはし」は1998年2月H-IIロケット5号機で打ち上げられたが、第2段エンジンの破損で予定軌道に入ることができなかった。「かけはし」は、搭載アポジエンジンで7回の軌道変更を行い、とりあえず最小限の通信実験が実施できる軌道に投入されたが、その際にモニタカメラが活躍し、運用者側がその利便性が認識した。「かけはし」はアポジエンジン噴射時にフレキシブル太陽電池パドルを半分畳んで振動や加速度の影響を軽減する設計だったが、通常の手順では3回しか畳まない予定で、「軌道上で3回の折り畳みを保障する」という設計だったのだ。それを急遽7回畳むことになり、モニタカメラからの画像がパドルの動作確認に役立ったのだった。

 その後、モニタカメラの搭載はロケット、衛星共に一般化し、また撮像素子や通信方式などの進歩と共により鮮明で高精細な画像を取得できるようになった。いぶきのカメラでは、それこそ「宇宙に行った観光客がデジカメで撮った」と言えるぐらいのきれいな画像が取得できている。

 なお、いぶきの特設ページには、 アメリカの地球観測衛星「Terra」の撮影した日食の影も掲載されている。

 以下に、衛星から撮影された日食の映像へのリンクを整理しておく。

 こんなに多くの衛星から影が撮影された日食は、今回が初めてではないだろうか

« 日食、太陽活動、木星への衝突 | Main | 書籍紹介:「ロケットと宇宙開発」(大人の科学マガジン別冊) »

ニュース」カテゴリの記事

宇宙開発」カテゴリの記事

サイエンス」カテゴリの記事

Comments

いぶき写真をご紹介いただきありがとうございます。
モニタカメラ開発担当の中村です。

このカメラの開発は本当に苦労しましたが、宇宙の様子を少しでも
皆様にお伝えできれば、とても嬉しく思います。
このモニタカメラには私の魂が込められています。あまりのこだわりように、
メーカーさんは私のことを「ナカメラさん」と呼んでいたらしいです(笑)。

タイムリーに公開できなかったのは残念ですが、
遅ればせながら、モニタカメラで撮影した地球蝕の動画をアップしました。

http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gosat/news/2009/nisshoku/index.html

公開するためにデータサイズを圧縮しましたが、それでも再生までに少々時間が
かかってしまいます。申し訳ありません。
よろしかったら是非ご覧いただければと思います。

 おお、ご本人が。メーカーの方々共々、本当にご苦労さまでした。このモニタカメラは本当にクリーンヒットだと思います。まだまだ、色々な画像が得られそうですね。

 動画もすばらしいです。いぶきの軌道からなにがどう見えるかがよく分かります。左下だけの画像というのも見たいですね。とても美しい。

  YouTubeのJAXAチャンネルにも掲載するといいと思います。そうすれば、様々なページがエンベッドしてくれるでしょうから。

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「いぶき」の撮影した日食の影:

« 日食、太陽活動、木星への衝突 | Main | 書籍紹介:「ロケットと宇宙開発」(大人の科学マガジン別冊) »