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2009.07.22

日食、太陽活動、木星への衝突

 今日の日食は今年の天文現象のハイライトだったが、宇宙では日食だけではなく、非常に興味深い現象が起きている。以下、日食も含めて三題噺。

噺その一
 NHKが今回の日食の映像をYouTubeにアップしている。

46年ぶりの皆既日食 中継ダイジェスト (NHK)


46年ぶりの皆既日食・硫黄島

46年ぶりの皆既日食・太平洋上


 これでこそ公共放送。NHKエライ!
 まったくもってNHKオンデマンドはふざけていて頂けないが。受信料を払っている者に対しては無料にするのが筋だろう。

 それとスタジオの「うわー」というだけの芸能人は不要。日食自体が「うわー」な現象なのだから、視聴者がそれぞれ心の中で「うわー」と思えばいい(なんでこんな簡単なことが、テレビ局のプロデューサーには理解できないのだろう??)。

 ちなみに、HDTV画像の伝送に用いたのは超高速インターネット衛星「きずな」である。

超高速インターネット衛星「きずな」による皆既日食の映像伝送について(平成21年6月12日 宇宙航空研究開発機構 情報通信研究機構)

 日本の太陽観測衛星「ひので」も日食を撮影し、画像を公開した。

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 「ひので」が撮影した日食

7月22日皆既日食 ~「ひので」衛星から見た日食を即時公開~
ひので観測チーム

 高解像度MPEGムービー(約6MB)もある。

噺その二
 日食報道では私の見る限りでは一切触れられていなかったが、今、太陽では奇妙な現象が起きている。
 そろそろ次の極大期に向かわねばならない時期にも関わらず、太陽活動が一向に活発にならないのだ。

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 SOHOが撮影した7月22日の太陽表面。黒点が存在しない(ESA/NASA)。

 現在、地球から太陽方向に150万kmの距離にあるラグランジェ1点(地球と太陽の重力が釣り合う点)に、アメリカ・欧州共同の太陽観測衛星「SOHO」があり、太陽表面の観測を続けている。1995年12月の打ち上げ以来すでに14年にもなるが、観測は継続しており、着々と太陽活動に関する継続した観測データを蓄積している。
 SOHOの観測データはホームページで公開されており、太陽活動のバロメーターである黒点の状況はこちらから見ることができる。太陽活動の分析はNASAマーシャル宇宙飛行センターがThe Sunspot Cycle において公開されている。

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 観測が始まって以来の、黒点数の推移(Credit:HATHAWAY.Y/NASA/MSFC 200907)


 太陽活動は11年周期で活発になったり不活発になったりを繰り返している。太陽活動が活発になると黒点は増え、逆に不活発になると消失する。
 前回、太陽は2001年〜2002年にかけて極大期を迎えている。従って、いつもの11年周期ならば2012年〜2013年の極大期に向けて黒点が増えていなければならないのだが、昨年以来、増えるどころか黒点がほとんど消えてしまっているのだ。これは19世紀半ばに継続的な太陽観測が始まって以来の異常事態である。

 このあたりの事情は去年PC Onlineの記事に書いた。


(全文を読むためには無料登録が必要)

 太陽活動が低下すると、地球は寒冷化する傾向がある。太陽活動は地球大気中に炭素の放射性同位元素である炭素14を作り出す。このため植物などに蓄積された炭素14を測定すると、継続した太陽観測が始まる以前の、過去何千年にも渡る太陽活動の状況を知ることができる。この方法で、ジュペングラー極小期、マウンダー極小期といった太陽活動が何十年も不活発になった時期が存在したことが判明し、同時にその時期に地球が寒冷化していたことが明らかになった。

マウンダー極小期〜太陽サイクルと地球文明(情報通信研究機構・平磯太陽観測センター)

 これから地球は温暖化するどころか、寒冷化するのか? 地球温暖化という話は本当なのか、それとも太陽活動の低下が温室効果ガスによる温度上昇を圧倒するのか? 我々は観測データを積みかさねていくしかないのである。


噺その3
Jupiter ちょっと目を木星に向けると、7月20日、オーストラリアのアマチュア天文家が、木星に何か——おそらく未発見の彗星か小惑星——が衝突した跡が発生していることを発見した。木星への他の星の衝突は1994年7月のシューメーカー・レヴィ第9彗星以来15年振り。

New NASA Images Indicate Object Hits Jupiter(NASA/JPL Release)


 写真は、ハワイ・マウナケア山頂の赤外望遠鏡で7月20日に撮影した木星の衝突痕(Image credit: NASA/JPL/Infrared Telescope Facility)

 これはかなりショッキングな出来事だ。なぜなら、1)15年という宇宙スケールではごく短い期間の間に次々と衝突が起こりうるものだということが事実で実証された、2)衝突した天体が、どうやらそれなりの大きさのものであったにも関わらず、未発見のものだった——から。

 1)は、太陽系における衝突現象が、我々が今思っている以上に頻繁に起こっている可能性を示唆する。2)は、その衝突を、現在の観測網では、我々は直前まで気が付かない、ないしは衝突が起きるまで気が付かないかもしれないことを意味する。

 木星に星がぶつかったからといって、地球にもぶつかるのではないかと危惧する必要はない。しかし、今回の木星への衝突で、太陽系内の天体の運行について、我々はまだまだ無知でありすべてを知っているわけではないということが、よりいっそうはっきりしたと言わねばならない。

 以上、日食、太陽活動、木星への衝突、と天体現象三題噺。日食に引っかけて、なぜこんな話をまとめて書いたかと言えば——

 つまりは、私たちは宇宙に生きており、日々の生活の安心も安全も(そういえば麻生内閣のキャッチフレーズは「安心・安全」だった)も、宇宙の状況と密接に結びついているということだ。宇宙のことは一朝一夕に知ることはできない。地道に投資し、観測を積みかさねていくしかない。

 それこそは、民間ではできない国が行うべき施策だろう。私は宇宙科学への投資をもっともっと進めるべきという意見を持っている。
 その理由の一つは、このような事実にある(国民の一人として言わせて貰えば、ISASだろうがJSPECだろうがどうでもいいから、もっとガンガン科学探査を進めて欲しいのである)。


 太陽をテーマにした音楽ですぐに思い出すのがピンクフロイドの「太陽讃歌」。1968年のアルバム「神秘」に収録された。一つのモチーフを偏執的に繰り返して熱狂的なクライマックスに至り、やがて静かに消えていく楽曲構成は演奏効果抜群。初期ピンクフロイドの名曲だと思う。

 同じ「太陽讃歌」という題名では、佐藤聡明のピアノ曲も私にとっては思い出深い。ピアノのトレモロ奏法を多重録音して圧倒的な音響を作り出し、なおかつその中からかすかな倍音が浮かび上がるという、佐藤聡明20代の傑作だ。かつてはコジマ録音からレコードが出ていたのだけれど、現在はCDでもカタログ落ちしている模様。


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Comments

素晴らしい映像を見せていただいて、ありがとうございます。YOU-TUBEの映像にはあまり期待していなかったのですが、ダイヤモンドリングやプロミネンスを見ていたら涙が出てきてました。また、太陽や木星の情報も、とても興味深いものでした。この世界は、奇跡によってできているんですね・・。

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