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2009.08.19

NHK戦争証言アーカイブズ——公共放送が為すべき仕事

 私は終戦記念日という言葉は好まない。負けは負けであり、8月15日は敗戦記念日というべきだと思っている。

 NHKが素晴らしいサイトを立ち上げている。

NHK戦争証言アーカイブズ

 敗戦から64年を経て、すでに80歳を過ぎた人々から戦争の記憶を聞き出し、なんとノーカットで公開している。

 それぞれの証言は、動画像に加えてインタビューから起こされたテキストも読むことができる。読む速度は話す速度より速いので、時間のない向きは、テキストを読むことで内容を把握することができる。
 サイト設計もよい。戦争証言には不可欠のいつごろ、どこの話なのかというデータががすぐにわかる。

 しかも公開されているのは証言だけではない。以下ご覧になる前により引用

  1. 証言 NHKが番組制作の過程で、2007年から2009年にかけて、日本全国の戦争体験者の方々に対して行ったインタビューの収録映像を、閲覧に適した長さにしたものです。「証言」を閲覧する前に、下記の「証言」閲覧上の注意をお読みください。

  2. 番組
    1992年から1993年にかけて放送された「NHKスペシャル ドキュメント太平洋戦争 第1集から第6集」や、衛星ハイビジョンで放送された「証言記録 兵士たちの戦争」などのNHK制作のドキュメンタリー番組を公開しています。
    証言をお話しいただいている方々が体験した戦場やできごとなどに関しては、「証言記録 兵士たちの戦争」の関連する部分をご覧いただき、証言に関する理解を深めることにお役立てください。また、太平洋戦争全体の動きなどについては、さまざまな側面から掘り下げた「NHKスペシャル ドキュメント太平洋戦争」をご参照ください。

  3. 日本ニュース
    「日本ニュース」は、太平洋戦争を間近に控えた1940年(昭和15年)から終戦をはさみ、1951年(昭和26年)まで制作されたニュース映画です。戦時中の「日本ニュース」は、日本軍や内務省の検閲を受けた後、毎週映画館で封切られ、国民の戦意高揚に用いられました。テレビがない時代、国民は「日本ニュース」が伝える真珠湾攻撃や特攻隊出撃、学徒出陣の様子を映画館で目にしたのです。
    「日本ニュース」は、戦争完遂を目的にした国策映画ですが、太平洋戦争中の映像記録として大変貴重なものです。今回の「戦争証言アーカイブス」では、太平洋戦争末期の1944年(昭和19年)、1945年(昭和20年)の9月までに上映された70号分のニュースを公開しています。「日本ニュース」を閲覧する際には、事前に下記の「日本ニュース」閲覧上の注意をよくお読みください。

  4. 戦時録音資料
    NHKは、初期の円盤式レコードであるSP盤を、戦時中の重要な記録媒体として使い、およそ16000枚のSP盤を保管してきました。
    その中から、当時の「大本営発表」や要人の演説など戦時中の肉声が記録された貴重な「歴史的音源」の一部を公開します。

 つまり、敗戦から六十余年を経て、記憶の風化を受けた証言に加えて、それを客観的(それはNHKにとっての“客観的”であるという限界を抱えているが)に検証した「番組」、さらには当時に一次資料である「ニュース映像」「録音」もまとめて公開されている。多面的に太平洋戦争を振り返ることができる仕組みだ。

 これこそ、公共放送の為すべき仕事だろう。

 問題点は2つ。小さいほうから言えば、公開されている画像が、「全画面」での視聴ができない。これは、放送法のなどの制限なのか、それともNHKエンタープライズあたりで後でDVDだかブルーレイディスクだかを売って儲けようという魂胆なのかは、私には分からない。

 そして、もっと重大な問題。

このサイトは2009年8月13日から同年10月12日までの2か月間のみの限定公開なのだ!

 以前書いた月探査機「かぐや」のハイビジョン配信問題の時に気が付いたのだが、NHKは巨大組織であり、内部には本当に様々な人がいるということだ。


 かぐやハイビジョン配信問題については、以下の記事参照のこと。


 放送事業のビジネスモデル——国家から電波を使用する権利を独占的に与えられ、全国民に対する情報の流通経路を占有する——が、インターネットの発達によって崩れつつあるのは、すでに明らかだ。
 だが、NHKのような巨大組織には、そのことを理解している人と理解していない人の両方が在籍している。
 例えばBBCがネット配信に関してNHKよりもはるかに先を行く取り組みをしていることを、理解している人と理解していない人がいる。
 さらに、理解している人の中にも、「どうせ大したことない」と高をくくっている人や、「自分が定年になるまで今の体制で押し通し、逃げ切れば勝ち」と思っている人や、そもそも「ネットも放送も興味ない、給料さえもらえれば無事此名馬」という人もいる。
 そして、必ずしも、危機感を抱いて行動する人が、組織内で昇進するとは限らない。硬直化した組織では、うまく立ち回った者が偉くなる傾向がある。そうやって偉くなった者は、自分の地位を脅かさないおとなしい——あるいは場合によっては無能な——者を引き立てる傾向がある。

 公共放送の使命に、「日本という国が健忘症に陥らないため、可能な限り国の有り様を写し取った映像をアーカイブし、誰でもいつでも閲覧できるようにする」というものがあるだろう。これは、スポンサーを持つ民放にはできない。法律で視聴料の徴収が認められているNHKにしかできない仕事だ。

 その意味では、NHK戦争証言アーカイブズは、期間限定であってはならない。未来永劫公開されるべきものだ。

 それが、期間限定のトライアル公開になっているあたり、内部では様々な軋轢が発生しているらしきことが見て取れる。

 取りあえず、NHKとその周辺において、このサイトを作り上げた人たちには大きな拍手を。このサイトを限定公開に留める判断に与した人たちには派手なブーイングを。10月の公開終了までに、なんらかの進展があることを期待しよう。


 NHKが敗戦後64年目にしてやっている「当時を知る者から証言を集める」という極めて公共性の高い仕事を、伝説の編集者・花森安治が率いる暮らしの手帖社は、敗戦後24年目の段階で行っていた。

 しかも、雑誌「暮らしの手帖」の販売収益を使って、だ。彼らは、法律に守られた視聴料徴収の権利など持たずして、これだけの仕事をやったのである。
 本書は、戦時下において人々の暮らしがどんなものであったのかを、まだ記憶が鮮明であった戦後24年目の段階で記録したものだ。戦時下において、人々は何を食べていたのか、何を着ていたのか、どんな生活リズムだったのか、政治は戦況はどう報道されていたのか、それを人々はどう受け止めていたのか——具体的な戦時下における「朝起きてから寝るまで」を様々な証言を集めてまとめている。

 戦争というものを考える上で、必読の本である。この本を読まずして、どのような形であっても敗戦までの昭和の歴史を語ってはならない——そう言い切れるほどの価値を持つ本だと思う。

 さらに暮らしの手帖社が偉いのは、この本が発売された1969年から現在に至るまで絶版にすることなく市場に供給し続けていることだ。自分たちの仕事が持つ公共性をきちんと認識していなければ、一私企業が、この姿勢を保ち続けることはできないだろう。

 この本があるので、私の「期間限定公開に留めた側のNHKの中の人たち」に対する評価は極端に低くなる。
 お前ら全員切腹な。腹切って黄泉まで下り、花森安治にあやまってこい!


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Comments

戦争証言が公共的?ご冗談でしょ?

NHKが完璧な徴収体制を持つ既得権益団体という点は非常に同意です。それ故に昨今NHKが放送している太平洋戦争絡みのドキュメンタリーは酷すぎる。
物議を醸した先の「JAPANデビュー」の台湾統治の回では、数多くの史料の「事実」の中から「任意の事実」だけを流した「偏向放送」でした。
それはNHKが持つ左翼的思想に基づいたもので、統治の光と陰の中から陰だけを切り取って編集されたものです。なるほど、都合のいい事実だけで任意の史観を築くことが出来るとてもいい例でした。もっとも日台戦争とか人間動物園とかデタラメなことも含まれていましたが。

今回の戦争証言も当事者である者の発言だから一定の史料になるとも言えます。しかし60年も経って当時の記憶に戦後の価値観が装飾されていないか?過去を過ちと思う人間もいれば正しかったと思う人間もいるのに何故前者が優遇されるのか?それは先程のJAPANデビューの件と同じく、情報発信者だけが作り上げることができる点だからです。

そもそもNHKのドキュメンタリーでは圧倒的に先の大戦関係が多すぎます。しかも毎回日本悪玉説の内容。当時の国益同士がぶつかり合った戦いなのに、敗者だけを断罪する内容だけ垂れ流し続けて恥ずかしくないのか?史観が史実を覆い隠してないのか?これは反省という意味を当に超えて、もはやイデオロギーの主張に成り果てている。公共放送を謳うなら公平に戦後の左翼が引き起こした数多くのテロや言論への同調圧力を総括して流してみろ!全共闘の時代に暴れまわり日本を貶して北朝鮮や中国やソ連を崇拝していた連中が今の言論の中枢に居座り、この時代の人間が自らの負の時代を隠すために先の大戦をスケープゴートにしているとしか思えません。

今の東アジアは北朝鮮や中国の脅威が現実にあります。その時にこういった過去の大戦を利用した思想が日本の安全を脅かしています。「憲法改正すれば日本は軍国主義になる、自衛隊は違憲の存在だ、日米安保は解消しろ、敵が攻めてきても平和憲法を守って抵抗するな」。幸いにも戦後は自衛隊や米軍の庇護の下で日本の安全が保たれてきましたが、その事実すら左翼は絶対に認めない。今の若者が中韓に対して捻じ曲がった嫌悪感を持つのが多いのも仕方ないでしょう。ネットの登場により「装飾されていない情報」が手に入るようになってきたからです。
今の若い世代に「日本は昔こんなに酷いことをした、だから反省しろ、謝罪しろ、平和を守れ」と言っても「そんなことより今の隣の国の軍拡何とかしろよボケ」と返ってくるだけでしょう。

加えてインターネットの隆盛により誰でも情報が発信できるようになりました。それと同時に情報の多様化も進むべきでしょう。もちろん受けて側も今以上のメディアリテラシーを身につけることが必要ですが。そんな時代で、公共放送でありながら偏った思想を垂れ流し続けて日本の歴史を勝手に総括しようとするNHKの体制には反吐が出る思いです。
日本の宇宙開発予算の倍以上の予算を集めながら彼らがやってることは手前勝手なイデオロギーを流しているだけ。本来ならば完全な民営化か国営化をするべきでしょうね。前者なら契約の自由という憲法違反にならないし、後者なら日本のためによりよい情報を出してくれるでしょう、少なくとも宇宙開発関係においては。

私は松浦さんとは違って戦争証言の公共性を感じられないので、この記事の件については全く同意できません(“当時の情報のみ”のアーカイブだけは公共性はあると思います。もっとも他にやることはあると思いますが)。また宇宙開発に関する良質な情報のサービスを求めるなら国営化した方が、遥かにメリットがあると思います。

「人間動物園」Human Zooという言葉が当時は使われなかった、
という「誤った説」がネットでは広まってますね。

ある意味「都合のいい事をホイホイ信じるのは誰か」を見分けるリトマス紙として、
私自身はニヤニヤしながら見てます。
どうせ訂正したところで、別の「都合のいいこと」を出してくるでしょうし。

嫌中、嫌韓だけど嫌米でないネット似非右翼は置いておいて・・・


松浦様のNHKのinternet対応についての主張はもっともと思うこともありますが、今回の件については一カ所認識間違いしてられるようなので、ご指摘させていただきます。


「はじめに」http://www.nhk.or.jp/shogenarchives/about/
に以下の記述があるので、期間限定なのはトライアルページについてであって、2011年の完成後については言及されていないと見受けられます。


「これは、収集した証言を、未放送の部分も含めて、インターネットを通じて誰もがいつでも視聴できるようにするものです。その第1段階として今年の8月から 2か月間、約100人の証言を収めた「トライアルサイト」をオープンしました。このサイトをできるだけ多くの方にご利用いただき、さまざまなご意見、ご要望を生かしながら、より使いやすく充実したアーカイブスに進化させていきたいと思っています。そして太平洋戦争開戦70年にあたる2011年には、空襲や疎開など銃後の体験も含め、1000人の証言を集めたサイトを完成させる予定です。」

別途、裏をとられていて圧力をかける意図であったならスルーしてください。

松浦さんがNHKの戦争関係の話題に触れるのなら、「JAPANデビュー」の偏向について怒っていたことも書かないと「アンチ自虐史観」の人が誤解しそうだな、と思ったら、もう誤解している人がいますね。

当事者だとしても60年以上前のことについて本当に当時の心境・状況を語っているかというとやや疑問に感じますね。
当事者と言ったって当たり前ですが当時の状況全体を把握できた訳じゃないし、『当時の状況』と
されるものは戦後から今に至るメディアに刷り込まれたものである可能性は少なからずあるでしょうから。

そもそもJAPANデビューの一軒に限らずNHKの公平性には大きな疑問の余地が有りますからね。
冗談抜きでそのアーカイブから意図的に捨てられた証言があっても不思議じゃないし。

60年前の状況やらを正確に語れるはずもなく、またそれを期待しても意味がないでしょう。
重要なのは当事者が振り返ってみてどう思い、どう感じているのかをノーカットで見られるのは
悪いことではないかと思います。

それより、日本ニュースの公開されている部分が「戦争末期」だけにされているほうに疑問を感じます。
せめて大戦中に関しては全て見られるようにしてほしかった。
でないと戦争そのものを流れとして見れないと思うのですが…

敗戦記念日ですが、降伏文書に調印した、9月2日だと思うのですが。8月15日は玉音放送で「終戦の詔勅」(これって俗称かどうか未確認)が発表された記念日ではないでしょうか。

>>bathyscapheさん
振り返るまでに半世紀以上の様々な思惑や抑圧や情報統制やプロパガンダがあったという
前提を置いて割り切ってみるならそれでもいいと思うんですけどね。
でもそうやって割り切ってしまうと、学者が資料を基に語るのと比べて当事者が語る事の
価値がどれだけあるのかって事にもなりますけど。

JAPANデビューの証言の切り貼りと歪曲についてはNHK側が「番組の趣旨、文脈がある」
と釈明していましたが(って釈明になってる?)戦争証言アーカイブズもそういう『趣旨や文脈』
に沿っているのかなって思いますね。

「公共機関にはいろいろな人がいる」という点、本当に感じます。そして、その中で時代の風を読み取れず、保身に汲々とする人が多いということも、実体験としてわかります。NHKもJで始まる巨大宇宙機関も、そうだということですね。だとすれば、私たちができることは、そういった意欲ある人たちを盛り上げていくこと。ほめてあげること。力づけてあげること、それだと思います。
見ます。

ここに、投稿している文章を読んで思う事は、いったい何歳ぐらいの人が、書いているのだろうか、
とゆう事なんですが。わたしは、55歳になるけど、直接戦争体験聞きましたよ。個人だから、体験談も、狭い範囲のものだけど、でもうそとか、粉飾しているとは、感じなかったな。みんな、「あん時はな-」とか「殺ってしもうた。」とか、親父なんて満州で戦っていたんだけど、戦争体験は、ほとんど、しゃべらなかったよ。でも80歳超えた頃からポツポツ言い出したよ。「まるたを運べと言われた時は、本当につらかった」って言ったよ、黙って聞くしかなかった。

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