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2009.11.10

はやぶさリンク:はやぶさ2の現状について

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 はやぶさ2について、とりあえず知っていることを書く。

 まず、来年度に実質的な開発に持ち込めなければ、はやぶさ2は消滅する。2014年打ち上げが絶対条件となるので、機体開発期間5年を考えると、来年からの着手が必須になるためだ。

 2014年の次の打ち上げチャンスは2020年。ところが、2020年の打ち上げウインドウは条件が悪い。2014年と同程度に条件の良いウインドウとなると、2020年代後半となってしまう。

 その一方で、欧州と共同で進めようとしていた「マルコ・ポーロ」(はやぶさMark2)も、主に欧州の財政難が原因で頓挫している。2017年打ち上げはほとんど消滅状態。つまり「はやぶさ2がなくとも、マルコ・ポーロがある」とはとても言えない状態だ。

 はやぶさ2が消滅すると、はやぶさをきっかけに育ってきた国内の固体惑星系の科学者コミュニティが事実上消滅する。探査機は科学者コミュニティの核だ。これがなければ、論文を書けず、業績を積み上げることもできないので、研究者は他分野に散っていくものである。
 このあたりは分かりにくいかもしれないが、例えば、固体の惑星を探査する機体であっても、例えば金星探査機「あかつき」は惑星大気を研究するための探査機である。固体惑星系とは専門が異なる。もちろん搭載しているセンサーの用途も違う。単純に「あかつき」があるから固体惑星の研究者も大丈夫とは言えない事情がある。

 もちろん、JAXA、メーカー、研究者の3つに渡る人材、開発した工学的技術、運用経験のノウハウなど、1990年代からはやぶさの開発と運用で、積みかさねてきたものも四散し、これでおしまいとなる。

 来年度概算要求(宇宙開発戦略本部発表:pdf)に、「はやぶさ2」の文字はない。つまり、予算要求時点で、まだプロジェクト化されていない。しかし、これで終わったわけではなく、関係者はまだ粘る方策を探して動いているとのこと。

 例えば、実質的な開発開始に持ち込むという手段が考えられる。
 以前、5億円あれば初年度の着手はできるという話があったのは覚えておられるだろうか。あれと同じ状況が現出しつつある。JAXAは独立行政法人なので、ある程度の予算編成の自由度を持つ。その中から、なんとか初年と着手に必要な分を認めてもらって、実質的な開発開始に持ち込む。

 さらには、10月22日にアメリカで、有人月探査から、ラグランジェ点や地球近傍小惑星など幅広い有人探査への転換を求めたオーガスチン委員会の報告書が出た。
 もしもオバマ政権が、ブッシュ前政権の打ち出した有人月探査計画を方針転換するならば、はやぶさ2には、「アメリカが実施する有人小惑星探査に先行する無人探査」として、政治的な利用価値が出てくる。

 また、昨今の日本の政治状況は、どこでなにがひっくり返ってもおかしくない。そこに希望をつなぐチャンスがあるかもしれない(あくまで、「かも」という希望的観測なのだけれども)。

 というわけで、まだまだ「はやぶさ2」も粘っている。

 「はやぶさ2」は、民話のお姫様のようだ。様々な難題を解き、難関をくぐり、ここまできた。が、まだ「めでたし、めでたし」には至っていない。

 鉢かぶり姫や、シンデレラのように、「はやぶさ2」についてのハッピーエンドはあるのだろうか。「めでたし、めでたし」と、打ち上げを見送ることはできるのだろうか。日本は、星の世界へ新たな船を送り出すことはできるのだろうか。


 写真は、10月19〜20日に東京で開催されたInternational Workshop on Small Body Exploration by Physical Interactionsでプレゼンされていた、はやぶさ2(上)及び衝突機(下)の概要。

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Comments

今話題の行政刷新会議の事業仕分けの対象にJAXA関連でGX ロケット、HTV、衛星打上げ(24 年度以降打上げ分)が俎上に上っています。はやぶさ2の行方が案じられる気がするのですが。

日経の記事を読みましたが
NASAはやはり月を目指したいのでは?
水の存在が確認されたと発表されました。

現在の政治状況では、「ほぼ、無理」としか考えられないのがあまりにもつらいですね……。
「不要不急は全てダメ」が現与党の感覚ですからね……。
もはや、「議論」自体が成立しないまま削られて行く……。
ああもう、「彼ら」がそういう生き物達だとは選挙遥か以前から解っていたことなのに。
4年間でどれほど我が国は後退するのだろう。

初めまして

ちょくちょくブログを覗かせていただいています。

今回、はやぶさの雲行きが怪しくなったのことで、コメントさせていただきます。

事業仕分けで新型スパコンがほぼ予算停止となった現状を見ると、宇宙開発もかなり削られるような気がします。

確かに財政は危ないし、科学予算はつけられないというかもしれませんが、何とかつけて欲しいですね。

仮に事業仕分けで削られても、松浦さんのおっしゃるような科学的、戦略的意義を説明できれば、復活するような気もしますが、甘いでしょうか。
(書くことしかできない自分が情けないです)

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