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2010.06.29

月で公共工事をしたいのか:午後の追加、新規性とは何か?

 色々取材してみたところ、「はやぶさ2は、はやぶさの繰り返しで新規性に乏しい。月探査には新規性がある」というような論理が話を進めているらしいことが分かってきた。

 Twitterでは「はやぶさ2と月探査の話をバーターにして、一方を貶めるような論調は良くない」という議論が、宇宙クラスターの間で出ているが、霞が関界隈ではすでにバーター議論が定着してしまっているようである。

 この新規性は「日本としては」なのだろうけれども、諸外国が1950年代からさんざん月探査を行っているのだから、判断基準としては「国際的な新規性」も考慮すべきだろう。でなければ「世界で一番」にはなれない。科学も宇宙開発も日本だけで閉じているわけではない。
 「日本国民にアピールする新規性」としても、当然計画が始まればソ連のルナ計画の成果が比較対象になるので、新規性を押し出すのはかなり難しい話になる。「月の南極での探査は初めて」だが、では「なぜ南極」なのか。「資源としての水があるから」として、肝心の米有人月探査計画はもうない。有人月探査構想を持つ中国と組むというのだろうか(それぐらいの戦略性を持っているならまだ安心できるのだが)。


 また本日29日(アメリカ時間の昨28日)、オバマ宇宙政策が正式決定された。

Set far-reaching exploration milestones . By 2025, begin crewed missions beyond the moon, including sending humans to an asteroid . By the mid-2030s, send humans to orbit Mars and return them safely to Earth;

 というわけで、有人月探査構想は正式中止。文書内にmoonという単語は上記引用部分の「begin crewed missions beyond the moon(月よりも遠くへの有人ミッションを開始する)」の一語しか入っていない。アメリカは近傍小惑星と火星軌道(火星そのものでないことに注意すべき。おそらくターゲットは、火星の衛星フォボス・ダイモスだろう)への有人ミッションに踏み出すことを明言した。

 ここは、あくまで月探査で日本の独自性(しかも国際的には新規性が乏しい)を押し通すべきタイミングだろうか?


 最後に、新規性にこだわる向きのために月探査と小惑星探査の新規性について比較したデータを以下に掲載する。長くなるので、続きをクリックして読むようにした。

月探査


  1. 最初の月探査の試み:ルナ1号(ソ連:1959年)
  2. 最初の人工物体月面到達:ルナ2号(ソ連:1959年)
  3. 最初の月の裏側撮影:ルナ3号(ソ連:1959年)
  4. 最初の月面軟着陸:ルナ9号(ソ連:1966年)
  5. 最初の月周回軌道への人工物体投入と月リモートセンシング:ルナ10号(ソ連:1966年)
  6. 最初の月周回軌道有人到達:アポロ8号(米:1968年)
  7. 最初の有人月着陸:アポロ11号(米:1969年)
  8. 最初の無人月面サンプルリターン:ルナ16号(ソ連:1970年)
  9. 最初の無人月面ローバー:ルナ17号/ルノホート(ソ連:1970年)
  10. 最初の月面越夜:ルノホート(ソ連:1970年)
  11. 最初の有人月面ローバー:アポロ15号(米:1971年)
  12. 最初の日本の月周回軌道到達:「はごろも」(1990年)
  13. 最初の日本の宇宙機月面到達:「ひてん」(1992年)
  14. 最初の欧州月探査:スマート1(2003年)
  15. 最初の日本本格的月探査:「かぐや」(2007年)
  16. 最初のインド月探査:チャンドラヤーン1号(2007年)
  17. 最初の中国月探査:嫦娥1号(2007年)

小惑星探査


  1. 最初のフライバイ(横を通り過ぎる)観測:木星探査機ガリレオ(米:1991年10月29日、小惑星ガスプラを観測)
  2. 最初の小惑星ランデブー・長期間観測:小惑星探査機ニア・シューメイカー(米:2000〜2001年、小惑星エロスを周回軌道から観測)
  3. 最初の小惑星表面への人工物体到達:小惑星探査機ニア・シューメイカー(米:2001年2月12日、小惑星エロスへの接地を敢行。ミッションを終了)
  4. 最初の小惑星接地・上昇:「はやぶさ」(日本:2005年)
  5. 最初の小惑星から地球への帰還:「はやぶさ」(日本:2010年)
  6. 最初の小惑星(岩石質のS型小惑星)サンプルリターン(サンプル確認は現在進行形):「はやぶさ」(日本:2003〜2010年)

 そして「はやぶさ2」の目指すものは、「最初のC型(炭素質)小惑星からのサンプルリターン」である。

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Comments

有人探査の対象として月を考えるだけでなく、地球軌道の近辺に周回する彗星ないし小惑星を最初のターゲットとして考えた方が、科学的な成果も望める他、米中露などとの差別化が図られ、独自色が鮮明になると期待する。南極条約があるように月を巡る国際法の整備には「Boots on the moon」も必要だろうが、鶏口牛後、月以外を独占する方が費用対効果が高いと考える。
と、宇宙基本計画パブコメ祭りで書いたなぁー。

はじめまして。
はやぶさでにわか天文ファンになった私ですが、色々と調べるうちに、ここに行き当たりました。
はやぶさ2の科学的な是非はともかく(感情的には是なのですが)、松浦様が警鐘を鳴らすのでしたら、私はそれをニコニコ動画で知らせたいと思います。
よろしければ、このブログを引用させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?
このコメント自体、的外れでしたら、消してください。

でも、月の開発って、今の技術じゃ先鞭をつけるにも難しいんじゃ・・・?
お小遣いは少ないんだから、計画的に使いましょーね~(子供に言うんじゃないんだから・・・)

はじめまして。
なんというか、月面探査は巨大科学における大艦巨砲主義の亡霊みたいなものですね。貧乏国が一点豪華主義で時代遅れの戦艦大和をつくろうとしてるようなものです。資源として考えても小惑星のほうがありとあらゆる可能性を秘めているのに、なぜほぼ砂漠のような月を目指すのか・・・。はやぶさ2に対する冷淡さの裏ではこのような計画が推し進められていたのですね。
極度に冗長性を削った探査を繰り返してる日本は、この体制のまま月面探査に乗り出したら破滅的な失敗を繰り返しかねません。そうなったら、国民の支持も霧散します。この方向性は危険すぎます。

はじめまして。
もともと、にわか天文ファンでしたが、はやぶさの事で再燃し、いろいろ調べている内に、松浦さんのサイトにたどり付きました。
署名サイト、JAXAへはやぶさ2実現をお願いする嘆願等、微力ながら個人で出来る事はやってみました
ISASへ、応援とカプセル等の地方巡回展示を希望しました。(地方のニュース継続話題になり、地方の子供達みる機会が増えて良いかと)
企画展として、はやぶさ以外ISASの計画等の展示紹介あると、正しい知識を得る機会としてとゆうのはどうでしょうか?
東京JAXAiで夏休みに展示予定を計画されていると、伺いましたので…
アメリカも計画の進路変更をした今なお、他の予算を犠牲にしてでも月面探査に固執しているとは、正直驚きました。
はやぶさ実証機であり、種類の違う小惑星探査を継続調査熟成してこそ世界に先駆けた価値も上がるし、人材の育成へもつながると思います。
苦しい財政状況で全部は出来ない以上、月が探査無駄とは思いませんが、優先順位を考えれば、答えは一つだと思うのですが…
ただ気になるのは、NET全般の空気は、事業仕分けが諸悪の根源で、JAXA内部事情はほとんど話題なりません
私も、詳細について松浦さんのサイトで初めて知りました
このまま行くと、はやぶさ2が客寄せパンダとなり、違うベクトル向かい、他の宇宙科学分野が犠牲になりそうで、怖いです
JAXAの方には、将来的なビジョンを精査したうえでの、予算配分をお願いいたします(一国民として)

かつて日本人は、その飛行機で航空決戦時代を切り開きました。けれども国は大艦巨砲に予算を注ぎ込み、自滅に向かって行きました。なぜならそのとき、組織の派閥は愚かにも、少ない国の資源を奪い合っていたからです。

今回も日本人は、その探索機で太陽系探索時代を切り開きました。けれども国は大艦巨砲に予算を注ぎ込み、自滅に向かって行くのかもしれません。なぜならそのとき、組織の派閥は愚かにも、少ない国の資源を奪い合っているからです。

「彼」は星からミッションを託されて帰ってきた。
失敗というものは成功の元にするものではありませんか。


本気で月開発を進めようとしている人達はきっと
月をデススターに改造して地球を・・・

>月をデススターに改造して地球を・・・

月にそんなもん作る資源があるなら月を目指す価値は大アリなんだけどねー。

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