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2010.07.14

開発研究(フェーズB)と開発(フェーズC)

 本日の宇宙開発委員会を傍聴してきた。話題の中心は、M-Vロケットの実質的後継ロケットのイプシロンの開発入りと、はやぶさ2の開発研究入り。委員会の冒頭では、イカロスのこれまでの成果の報告もあった。

 使用された資料はJAXAのホームページで公開されている。

 はやぶさ2は一歩前進だが、まだまだ崖っぷちの状況が続いている。来年4月から開発を始めないととてもではないが打ち上げが間に合わないが、今回は「開発研究段階への移行できる状況になったので、宇宙開発委員会で審議してもらいたい」ということなのだ。一方、イプシロンロケットは「開発段階へ移行できる状況になったので、審議してもらいたい」である。

 開発研究とか開発といった紛らわしい用語は、計画の各段階を示すもの。遡れば米航空宇宙局(NASA)が計画管理に使っていた「フェーズA〜D」という用語を日本語化したものだ。

  • フェーズA「研究(あるいは概念検討)」:新しい宇宙機やロケットをどんなものにするかのコンセプトの検討を行う
  • フェースB「開発研究」:コンセプトから一歩踏み込んで、設計作業を実施してより現実的に実現可能性を探る。一部新期技術は先行開発を行ったりもする。
  • フェーズC「開発」:実機の設計と製造
  • フェーズD「運用」:実機の運用

 今回はイプシロンが、「実物の開発に入るよ」という段階に来た。いっぽう、はやぶさ2は、まだ「開発」段階にまで至っていない。その一歩手前のステップアップである。

 今回の審議の中で明らかになったが、目標とする小惑星1999JU3に対するはやぶさ2の打ち上げウインドウは2014年7月。ロケットの打ち上げ能力が十分にある場合は、地球スイングバイを省略可能で、この場合は2015年(おそらくは7月)に打ち上げることができる。

 だいたい探査機は実機組み立てに1年、その後の試験に1年、射場作業にまあ4〜6ヶ月はみておくのが普通だ。これだけで2年半。2014年7月打ち上げとなると。2011年度初頭から開発を開始したとしても、3年半しかない。設計や製造、試験でトラブルが出ると、簡単に数ヶ月の時間が吹っ飛ぶ。本当にぎりぎりだ。
 それでいて、今日の議題は、「開発への移行」ではなく、「開発研究への移行」なのである。

 今年度内にもう一回ネジを巻いて、「開発開始」への手順を踏むことができるかどうか。今回の説明に出席していたJSPECの長谷川義幸統括リーダは、記者に対して何度も「ぎりぎりです」と繰り返していた。

 今日の委員会審議でもっとも興味深かった点は、青江茂委員が、はやぶさ2は理学ミッションで押すのではなく、技術開発要素のある工学的技術開発の部分も前に出すべきでは、と示唆していたことだろう。以下、その場で取った審議内容のメモより。説明に立ったのは吉川真准教授と長谷川統括リーダ。



井上委員
 海外の動向は?

吉川
 アメリカ、ニューフロンティアという枠でオシリスという探査機が提案されている。打ち上げは2018ぐらい。

井上委員
 技術基盤を作るのは大事。深宇宙港構想(資料中に関連が記述してあった)とはやぶさ2との関係は何か。

吉川
 地球帰還後に、探査機の本体を地球スイングバイをしてラグランジュ点を狙う。

青江委員
 整理の仕方、説明の仕方の問題だが、「期待できる成果」で、科学の成果が資料の4.5.7ページに書いてあるが、すべて方法論だ。方法論で区分けしてある。そういう整理がいいのか、サイエンスとして「生命の起源に迫る」「太陽系の生成に迫る」というような区分けで整理をするのがいいのか、何を狙うかで整理するのとどっちが分かりやすいか考えてもらいたい。普通の人に分かりやすいような整理方法を検討してもらいたい。

池上委員
 水について。C型小惑星に水が存在するのか。

吉川
 含水鉱物である。飲めるものではないない。

青江委員
 月の水も同じなのかな。

長谷川
 月の場合は水酸基があるということで、じゃばじゃばあるわけではない。

池上委員
 打ち上げウインドウはどうなっているか。

吉川
 2014年7月。ロケット能力があればスイングバイなしで2015年打ち上げ。次は2019年だが到着後の条件が良くない。同じ条件を狙うならさらにその次ということになる。

池上委員
 はやぶさ1から、必要な技術は修得できたと言えるのか。

吉川
 うまくいったところを確実性を高め、うまくいかなったところはうまく行くように設計を見直す。

長谷川
 はやぶさ1はロバスト性が完全ではない。太陽系往復飛行の技術として現状確立したかというと、まだ完全ではない。まだもう一息成熟させる必要がある。はやぶさ2は、まだ技術を確立する過程。

青江委員
 吉川さんの説明だと、サイエンスを強調していたけれども、そんなにサイエンスを強調しないでも、もっとはやぶさ1の技術をよりちゃんとしたものにするとういうことなのか。

長谷川
 だから、プレゼン試料は方法論で分けて書いている。

青江委員
 サイエンスのほうをかなり全面に出した説明をしているけれど、サンプルを持って帰ってくるテクノロジーをきちんとしたものにする、ということを完全にパラレルに説明してもいいかなと思う。そちら方向でも検討してもらえればと思う。

吉川
 我々もそのように考えている。

池上委員
 大きな探査という流れの中の位置付けもできるといいな、と思う。サイエンスだけではなくエクスポラレーションで位置づけるということ。サイエンスだけで押していくと、サイエンスの側はやりたいことがいっぱいあるのでフラストレーションを感じてしまうかもしれない。

松尾浩道研究開発局参事官
 今回は開発ではなく、開発研究への移行である。ただし開発フェーズ移行で審議すべきことも可能な限り審査する。

 実は、はやぶさ2に関して科学者の側から、「理学ミッションとして実施するには、危険性が大きい。もっと確実な構成にすべき」という声が出ている。青江委員の発言は、「では、より工学ミッションの要素を押し出して開発フェーズ入りすべきでは」という、霞が関の中での筋の通し方を示唆したものだといえる。同委員は、1970年代から科技庁で宇宙行政に携わってきた筋金入りの官僚出身者だ。その示唆は、現状と照らし合わせると興味深い。

 今回驚いたこと。

 はやぶさ2の審議の後も、宇宙開発委員会は別の議題の審議が続いたのだが、終わって、吉川准教授と長谷川リーダが退席した途端、傍聴していた記者達が我先に退席して後を追い、文科省の廊下で臨時のぶら下がり取材となった。
 今まで傍聴していて、委員会途中で一気に記者が退席するのを見たことがない。現在の一般の興味がどこにあるかが、こんなにはっきりと形になるのを初めて見た。

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Comments

工学の積み重ねがまだまだ必要で、これからも必須、という話は一般人にとっても理解しやすいことなのではないか、と思います。日本では、まだものづくりに対する考え方は根強く残っていて、どっかからタダもって来ればいい、と(ビジネススクールでいうような話に)までは毒されていないのではないか、、なんてうがって見すぎでしょうか。

宇宙開発委員会を傍聴お疲れ様でした。まだ完全に認められたわけではないですけど、一歩前進という状態でしょうか。
青江委員の話はわかりやすいように思います。サイエンス側を強調してしまうと、どうしても「できたらいい事」という説明になりますが、工学側の説明では日本のものづくりのために「やらねばならない」という説明の仕方になるので。

宇宙開発委員会の動向にはとても興味がありましたので、公表いただき感謝いたします。

怪メールの件、状況もわからずに一般論を書いてしまい、その後の説明で多いに納得いたしました。掲示板汚し申し訳ありませんでした。

ところで、はやぶさの計画は、当初より「全て達成すると目標達成率500%となる無茶な計画」という事で、奇跡扱いされていると認識しております。僕ははやぶさ2の実現を望んでおる一人でありますが、またしても無茶な目標達成、無茶なスケジュールとならない事も祈る次第であります。その点では、現在のはやぶさ2の計画はどういう評価なのでしょうか?昨今の騒ぎを見ていると、たった1つのはやぶさの成功により、要求水準が高くなりすぎたり、成果目標に対して強気になりすぎていたりしないかと、心配になったもので。

オリンピックやワールドカップのCMみたいに「願えばかなう」みたい精神論がはびこるのは、勘弁願いたいと思ったりもします。

通行人さんの言う通り「はやぶさ」は有る意味で「カミカゼ」が吹いた奇跡的快挙だったと思います。
川口教授が感情的に表現せざるを得ないほどに数々の苦難を乗り越えた「はやぶさ」だからこそ
本来のエクストラミッションに(機器の故障・寿命等で)挑戦する事が叶わなくなってしまった事を思えば
順調に進んでいた場合は、ここまでの注目も無かったでしょうが「はやぶさ」は今でも存在していたかも知れません。

日本の宇宙開発事情に巨大な一石を投じるかのような、強烈な置き土産を遺していった「はやぶさ」だからこそ。
特に協力するメーカーも半分宣伝を兼ねているとは言え、色々な面で無理を強いている点は有るでしょうし
「はやぶさ」を模範とすべきで有っても「はやぶさ」をモデルケースとしてはならないと思います。

また「はやぶさ2」も、必ずしもサンプルリターンにこだわらなくて良いと思うんです。
原始地球等の謎を解く事が最重要目的と言うので有れば、探査機自らがサンプリング及びその場分析でも良いのですし。
持ち帰る事で貴重な試料に変質が生じる、地球由来物質との篩い分けと言う余計な作業だって削減出来ます。

とは言え、科学者側からも「理学ミッションとして実施するには、危険性が大きい。もっと確実な構成にすべき」と言う意見が
出ている事には安堵の一言、ですね。これだけ鮮烈な成果を示した為に世界中が注目を浴びていると思えば
「なーんだ。まぐれだったのか。」で終わるか「流石、はやぶさで出来なかった課題をしっかり対処してるね」と再評価されるか。
今は更なる成果よりも、確実に経験と実績を積み増すべき時期だと思います。

「はやぶさ」は「カミカゼ」なんかじゃない。
いくら日本が不景気の真っ最中に舞い降りた希望の光だったとしても、そう思ったらあっと言う間に「終戦」です。
ここら辺は日本人の悪しき人格と言うか、楽観的かつ無責任主義に対して厳しく戒めなければならない。
例えは不適切かも知れませんが「H2Bロケット・HTV」が真珠湾とすれば、「はやぶさ」はフィリピン制圧までの快進撃に等しい。
ここで慢心していたら、あっと言う間にミッドウェー以降の日本と同じ末路だと思っています。

後は工学的な部分では…上述しましたけれど、メーカー及び技術者の善意・熱意で持っている部分は非常に大きいです。
結局の所は先端技術並び開発研究の実証なのですから、すぐに利益に結びつく訳でも有りません。
それでもコストダウンが難しい中で、「IKAROS」は今後の探査機・衛星・ロケットの劇的な燃費削減に繋がる…
「あかつき」がしっかりと「はやぶさ」「のぞみ」の技術を活用する等…実績をしっかりと踏襲している事を示す所は示す。
そして科学的にも工学的にも何が足りないのか、何が必要なのか、きちっとしたロードマップを示すべき、と思います。

はやぶさの軌跡がネット上いろんなところで調べられますが、あと1箇所
どこかが壊れたら即アウトという薄氷の勝利だとの感じを強く受けました。

工学面での積み重ねははやぶさ2でも当然完成に至るものではありませんが
変な期待をして政治圧力で無理やり予算化した場合、帰還できなかったら
実際の技術レベルでのリスク評価とは関係なしに「大失態」という烙印を
押されるでしょう。科学ではなく政治の話です。

冷静に判断して次の実証フェーズとしてのはやぶさ2なのか、もっと基礎的
分野での積み重ねをやった後のはやぶさ2なのか決定していただきたいとは
思います。忸怩たる思いでNASAの後塵を拝すのもひとつの決断です。

当面の目標が何で、そのためにイオンエンジンとソーラーセイルの基礎を
手にした日本が次に何を手にするべきか、ロードマップとはそういう方向性
のことですね。木星以遠に行くならあとは電力問題とか。

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