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2010.07.12

ヘラに付着した微粒子の回収方法を検討中

 本日午後3時半から、JAXA東京事務所ではやぶさサンプルの回収状況についてブリーフィングがあった。
 本日から、8月一杯まで原則として月曜日の午後に定期的なブリーフィングを開催するとのこと。どうやら、新聞・テレビ局が、「まだか、まだか」と相当な頻度で電話取材をかけたらしい。
 しかし、このサンプルについては、やいのやいのとメディアがせっつくよりも、もっとゆったりと科学者の分析を待つほうがいいように思う。何か新発見があったなら、当事者たちが感激に浸る余裕ぐらいはあっても良い。

2010年7月12日午後3時半からのブリーフィング 東京事務所

出席者

上野宗孝 ミッション機器系グループ 副グループ長
向井利典技術参与

向井
 ブリーフィングは特になにもなくても開催ということで、今日は実はあまりネタがない。
 先週、テフロンのヘラでサンプルキャッチャー壁面をなでたところ、ヘラに数十の粒子が付着してきた。これは問い合わせにお答えした通りだ、現在、それを効率よく回収する方法を検討している。微粒子の回収が予想外に大変な事が分かってきた。現状、ヘラに付着した粒子にに集中していて、新しい粒子は見つかっていない。

上野
 特に補足事項はないです。

読売新聞
 何が困難なのか。

向井
 微粒子は静電気でヘラに付着している。それを除電といって、紫外線を当てたりアルファ線をあてたりして電荷を除去して、マニピュレーターで取り出す。これがかなり大変な作業で、しかも見つかっている微粒子の大半は地球由来ではないかと予想される。そこでもっと効率的な方法はないかと検討している。

毎日新聞
 とすると、まだヘラでなでた部位は、サンプルキャッチャー内の平らな部分だけということか。

向井
 そうだ。


朝日新聞
 大半が地球由来らしいということだが、中には違うものも入っていたりするのか。

向井
 今のところ全く分からない。ただしコスミックダストを見慣れた人たちが作業をしていて、感じとしては、大半が地球由来かな、というところ。私個人は何かあるだろうと思っているが、まだ確認できていない。

日経新聞
 作業に時間がかかるので別の方法を考えているということだが、どんな手法を考えているのか。

向井
 一個一個、石英の針で確認する手法で微粒子2つ見つけたが、ヘラでこそげると数十個出てきた。基本的にこの方法しかないように思うが……ともあれ検討中である。

共同通信
 電子顕微鏡を使わない方法で、イトカワ由来の微粒子をより分けることは出来るのか。

向井
 電子顕微鏡が一番よく見える。電子顕微鏡自身が電子ビームで試料を汚染するので、使い方はよくよく考えねばならない。

東京新聞
 放射線や紫外線は、まとめて当てるのか。それとも一個一個の微粒子に宛てるのか。

上野
まとめて当てる。

向井
 その後の微粒子の回収が大変なのです。また、光学顕微鏡の分解能以下の数ミクロンの粒子も管理できないかとか、とにかくどんどこどんどこ進めていって取り返しのつかないことにならないようにしないといけない。

東京新聞
 個数は数十個とというのはどれぐらいか。八十個とか。

向井
 二三十個です。八十個ということはないです。

毎日新聞
 どの微粒子を選んで解析するのか。その基準は。

向井
 いくつか考えているが、まだ確定はしていない。

日経新聞
 今のところの作業状況はテフロンのヘラに付着した微粒子を回収している状況といえばいいのか。

向井
 その通り。回収方法について検討しており、具体的な手法を試験しているところである。

朝日新聞
 数十個見つかった微粒子は、サンプルキャッチャー内壁のどれほどの面積をこそげて得たのか。

向井
 ごく一部です。

上野
 ヘラでなでた場合も、すべてヘラに付着するわけではないということに気を付けてください。

向井
 イトカワ由来の物質があるともないとも確認できていないということです。

毎日新聞
サンプルキャッチャーのB室を開けるのはいつ頃になるでしょうか。

向井
 まだなんとも言えません。回収方法を再検討しているところなので、しばらくお待ちください。

NHK
 予想外に大変だというのは、何が予想外だったのか。

向井
 一個一個マニピュレーターで拾い上げるのが大変だし、ヘラについたすべての微粒子を拾い上げるのも大変だ。当初は石英の皿に番号を振って一個ずつ微粒子をおいていく準備をしていたが、それはあまりに大変なので別の方法を検討している。

NHK
 全部を回収するのではなく、めぼしいものを回収するということか。

向井
 いや、全部を回収する必要がある。

NHK
 ということは、全部を早く回収することを検討するのか。

向井
 なんかもう少しいい方法がないかなあ、ということです。まだ具体的な事を言える状況ではないので説明できないです。

東京新聞
 回収と並行している作業はあるか。ガス分析とか。

向井
 ガス分析や初期分析の一環として行うので、まだだ。コンテナのほうは内部を顕微鏡で細かく見ている。より細かい物質が見えているが、見えているものと同じようなものだ。優先順位は低いので、微粒子がどこに付着しているかマッピングを行っている。

フリーランス青木
 全部を初期分析にかけるわけではないということだが、たとえイトカワ由来の物質が見つからなくても保存している資料中にイトカワ由来のより小さな粒子が付着している可能性はどれほどあるのか。

向井
 あくまで一般論として言うが、可能性はゼロではない。仮定の話はなかなか難しいんですがね。私の個人的意見をいうと、必ずあると思っている。ちなみに試料中の半分ほどは将来のために残す予定になっている。カタログ化の過程で、明らかに地球由来物質と分かったものはどんどん除去していく。どれだけ残るか…残った分の中から10-15%を初期分析に回す。

青木
 今の予定は遅れ気味なのか予定通りなのか。

向井
 予定通りです。いくらリハーサルをしていても初期は試行錯誤があるものです。

青木
 リハーサルと違った点はどんなものがあるか。

向井
 例えばリハーサルではもっと大きな粒子を扱っていた。今後の状況次第では9月からもっと遅れるかも知れない。予定としては半年をめどとしているが、あくまで予定である。

青木
 海外の研究者は今も分析に参加しているのか。勤務時間はどうなっているのか。

向井
 今は帰国している。現在は8人体制で、通常の勤務時間で行っている。あわててやって間違いがあるといけないので、定時で動いている。土日は休みだ。これは長丁場です。

青木
 回収物質はどんな環境で保管しているのか。

向井
高純度窒素雰囲気で、温度は室温。25℃ぐらい。湿度はゼロ。将来的には得られた試料を石英に封入する。

不明
 今週の作業スケジュールを教えて欲しい。

向井
 回収手順を検討中ということ。多分今週は次のステップに進めないのではないかと思う。今週いっぱいは検討にかける予定だが、何かいい方法が見つかれば先に進むことはありうる。

共同通信
 試料の変質などでいつまでに作業を終わらせねばならないというリミットはあるのか。。
向井
 それはない。あまり延びることはないと思うが。

宇宙作家クラブ松浦
 100倍の実体光学顕微鏡がキュレーション設備に装備しているが、より高倍率のものに入れ替えることは考えているのか。

向井
 顕微鏡は清浄雰囲気で使えるように各部を洗浄し、潤滑油が汚染源にならないように特別な蒸気圧の低い潤滑物質で可動部を潤滑した特注品。入れ替えるということはない。

上野
 倍率の高い顕微鏡だと視野が狭くなるので、より小さな粒子を見つけることはできても、微粒子の捜索が大変になる。

向井
 まあ、倍率を求めてもきりないですよ。

上野
 何十倍も効率が高い回収方法は無理かも知れないが、数倍早く進められる方法はないかなと考えているところです。  

以上

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Comments

僕だったら、サンプルが付着したヘラの先端を切り取って、
そのまま分析しちゃいますどね。

これは大変なことになってきてますね。
内部は鏡面にしてあるの...かな。そうでないなら無限の時間がかかりそう。
シリコンウェハー表面のパーティクルを計測している会社に相談するとか。

すべてが初めての中での試行錯誤。こういう一つ一つの事が知見ということなんでしょうね。地味ですが、日本の科学者が科学の最先端に立ち会っているという事を誇りに思います。慌てずに確実な仕事をして欲しいと思います。

ある程度まとめてより分けてから分析に回すんでしょうけど、外野の勝手な意見としては、とりあえず一つだけでもイトカワ由来というのを見つけてほしい気がします
でもあざとい事を云えば、そういう発表は次年度予算を決める前のタイミングでやった方がいいのかなとか思ったり

やはり、今後の分配や分析を意識しているから、どのように作業を進めるべきか考える必要があるのでしょうね。

 これを読み、連想したのは遺構・遺跡の考古学的な検証ですね。
 出土品は丁重に扱い、同時にどのような状況で出土したのかも記載するはずです。その出土状況が、遺跡を作り上げた人たちの行動や、そこで営まれた生活から背景にある文化を読み解くわけで、荒っぽい扱いは、そのかすかな情報すらも喪失させかねない、ということなんでしょう…。

 なにせ、純粋窒素または真空状態で、クリーンベンチの中にあるものを取り扱う訳ですから、一筋縄ではいかないでしょうね。

向井技術参与の以下の発言につられて、電子顕微鏡について一言。

>電子顕微鏡自身が電子ビームで試料を汚染するので、
>使い方はよくよく考えねばならない。

ここで言う汚染とは電子ビームの照射によってベーキングした状態になり、揮発性物質が飛んでしまうこと、あるいは分子構造に影響することをおっしゃっているのかと思います。

それともう一つ。
電子ビームを照射した物質が非導電性の場合、帯電した粒子がマイナス極同士の反発力を起こし、ピョンと飛んで行ってしまうことがあります。今回のような微粒子観察においては大きな問題ですね。
一般的な対策としては、対象物の表面に金を薄く蒸着して観察したりしますが、これをやるとEDX分析の精度がガクリと落ちますので。

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