ロゼッタのルテティア観測成功、探査機による小惑星観測の歴史
一夜開けると、ロゼッタによる小惑星ルテティアの接近観測は成功しており、鮮明な画像がESAのホームページで公開された。
素人ならば「へえっ」で終わってしまうような画像から、科学者は呆れるほど大量の情報を読み取る。これからが楽しみである。
すでに、ここにも時折コメントを書いている会津大学の平田成さんによるTwitterのつぶやきが 小惑星ルテティアについてという形で、まとまっている。SF作家の野尻抱介さん、林譲治さん、サイエンスライターの鹿野司さんなどが、画像を見ながら、平田さんと意見を交換している。
データ公開の素早さは、今後日本も見習わねばならないところだろう。2005年11月のはやぶさによるイトカワへのタッチダウンの時は、初めてのこと故ではあったのだが、データ公開ポリシーが混乱し、一般が見たいと思う画像がなかなか公開されないということもあった(このあたりの過去記事を参照のこと)。現在金星に向かっている探査機「あかつき」では、手際よく、一般をうならせるようが画像が出てくることを期待している。
今回のロゼッタのような、小惑星の近傍を通過するフライバイ観測は、過去にも何回か行われている。昨日書いたティティウス・ボーデの法則のn=3の位置、太陽から2.8天文単位の近辺には多数の小惑星が存在して、小惑星帯、メインベルトと呼ばれる密集領域を形成している。密集といっても、広大な太陽系の中に小さな小惑星が浮かんでいるだけだから、実際にはすかすかだ。スターウォーズ「帝国の逆襲」に見るような、ごんごん岩の塊が飛んでくるようなイメージは間違いである。
メインベルトは火星と木星の軌道の中間にある。だから、火星を超えて木星の向こうまで向かう探査機は、軌道をうまく調整することができれば、小惑星の近くを通過し、観測を実施できる。
外惑星方向を目指した最初の4機の探査機。アメリカの、パイオニア10号/11号、そしてヴォイジャー1号/2号は、小惑星フライバイ観測を行わなかった。その事情を私は知らないが、おそらくは最初の外惑星観測ミッションだったので、惑星観測を最優先にして失敗にもつながりかねない余計なことをしなかったのだろう。
というわけで、最初の小惑星フライバイ観測の栄誉は、アメリカが木星に向けて打ち上げた探査機ガリレオのものとなった。
2機のボイジャー探査機が、木星やら土星やらの惑星にフライバイ観測を行った。ならば次は惑星を回って長期間観測を実施する探査機だ——というわけで、ガリレオは木星を周回しつつ、木星本体と周囲の衛星を観測する探査機として開発された。最初の打ち上げ予定は1986年で、1989年に木星に着く予定だった。
ところが1986年1月28日にシャトル「チャレンジャー」爆発事故が起きて、打ち上げにシャトルを使うはずだったガリレオは事故に思いきり振りまわされてしまう。そのあたりの経緯は、拙著「スペースシャトルの落日」に書いたので興味のある方はどうぞ(と、宣伝)。
ともあれ、1989年10月18日にスペースシャトル「アトランティス」で打ち上げられたガリレオは、1991年10月29日、小惑星ガスプラから1600kmのところを通過し、史上初の小惑星へのフライバイ観測を行った。
さらにガリレオは、1993年8月28日には小惑星イダから1万500kmのところを通過して観測。イダは差し渡し60kmほどのでこぼこのじゃがいも形状をしていたが、なんと差し渡し約1.6kmの衛星を持っていることを発見した。小惑星を回る衛星が見つかったのはこれが初めてで、見つかった衛星はダクティルと命名された。
なお、ガリレオは1995年に木星に到達し、8年間、木星の周囲を回って木星本体及びその衛星を観測した。2003年に軌道制御用推進剤が尽きたので、木星本体に落下させ、運用を終了している。
次が、同じくアメリカの小惑星探査機NEARシューメーカー(1996年打ち上げ)だった。この探査機、当初は「NEAR (Near Earth Asteroid Rendezvous」という名前だったのだが、打ち上げ後の1997年に計画の中心人物だったユージン・シューメーカー博士が交通事故死したことを受けて、計画終了後に「NEARシューメーカー」と改名された。
NEARシューメーカーの目的地は小惑星エロスだったが、それに先だって、1997年6月27日に小惑星マティルドから2400kmの距離を通過し、フライバイ観測を行った。
同探査機は2000年2月14日、小惑星エロスの周回軌道に入ることに成功し、小惑星とランデブーした史上初の探査機となった。その後1年間の観測の後、2001年2月28日にエロスへ着陸し、ミッションを締めくくった。
次に外惑星方向に向かった探査機は、アメリカの土星探査機カッシーニ(1997年打ち上げ)だ。しかしカッシーニは大規模な小惑星フライバイは行わなかった。2000年1月23日に小惑星マサースキーを160万kmの距離から撮影しただけである。
冥王星に向かったアメリカの探査機ニュー・ホライズンズ(2006年打ち上げ)も小惑星を観測している。同探査機は2015年に冥王星をフライバイ観測する予定で、2010年7月現在、天王星軌道のやや内側を、太陽系外に向けて飛行している。ニュー・ホライズンズはまず、2006年6月13日に、小惑星APLに10万1867kmまで接近してフライバイ観測した。APLというのは奇妙な名前だが。ニューホライズンスの開発と運用を担当するジョンズ・ホプキンス大学・応用物理研究所(Applied Physics Laboratory:APL)の名前にちなんだものだ。
カッシーニとニュー・ホライズンズの間に、我らがはやぶさのイトカワ探査が挟まる。2005年9月12日に小惑星イトカワから20kmのポジションに到達、約2ヶ月探査を行い、11月にイトカワに降下してサンプル採取に挑んだ。11月20日の第1回のサンプル採取で、はやぶさはイトカワに着陸後、また上昇し、月以外の天体に着陸し、また上昇した世界初の探査機となった。その後今年6月13日の地球帰還までの旅路については皆さんも知っての通りである。
そして、ロゼッタだ。ロゼッタは、2008年9月5日に小惑星シュテインスに1700kmまで接近してフライバイ観測を実施した。2番目の、そして最後のフライバイ観測が、今回のルテティアである。
まとめよう。これまでに人類が接近観測した小惑星は以下の通りである(観測順)。小惑星名にはWikipediaへのリンクをつけた。
- ガスプラ(ガリレオによるフライバイ観測:1991年)
- イダ/ダクティル(ガリレオによるフライバイ観測:1993年)
- マティルド(NEARシューメーカーによるフライバイ観測:1997年)
- マサースキー(カッシーニによる遠距離フライバイ観測:2000年)
- エロス(NEARシューメーカーによるランデブー観測:2000〜2001年)
- イトカワ(はやぶさによるランデブー観測:2005年)
- APL(ニュー・ホライズンズによる遠距離フライバイ観測:2006年)
- シュテインス(ロゼッタによるフライバイ観測:2008年)
- ルテティア(ロゼッタによるフライバイ観測:2010年)
ここまでで9個。接近観測に限ると7個(イダの衛星ダクティルを数に入れると8個)。ランデブーによる詳細観測を行ったのはエロスとイトカワのみだ。数十万個もの小惑星があることを考えると、ごくごく一部である。
今後の予定だが、現在アメリカの小惑星探査機ドーン(2007年打ち上げ)が、小惑星ベスタを目指して飛行を続けている。ドーンは、はやぶさ同様イオンエンジンを使って飛行している。はやぶさが往復飛行のために“高効率”のイオンエンジンを使ったのに対して、ドーンは、小惑星帯のベスタとケレスという軌道の異なる大型の小惑星2つに連続してランデブー観測をかけるために、イオンエンジンを採用した。
ドーンは来年、2011年8月11日にベスタとランデブーし、翌12年5月まで観測を行う。12年5月にベスタを出発して、2015年2月にセレスにランデブー、同年7月まで詳細観測を実施する。その後、推進剤や機材の寿命に余裕があれば、ドーンをさらなる観測対象に向かわせることが検討されている。
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