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2010.08.10

日本惑星科学会が、惑星探査の推進に関する会長談話を出した

 表題通り、ここまではやぶさ後継機に関してもっとも関連が深いにも関わらず音無しの構えであった日本惑星科学会が、井田茂会長名義の談話を発表した。

 とにかく読んでもらいたい。基本線は、「今後も専門家集団として日本の惑星探査の将来計画の検討を進めていきたいと思います。」と、積極的関与を宣言するもので、特定計画の推進を主張するものではない。

それでも以下の部分は要注目だ。

「かぐや」や「はやぶさ」の後継を担う探査計画や、火星や木星を対象天体とした野心的な探査計画も立案されつつありますが、これらの探査をどのようなロードマップの上に位置づけるべきかを広く検討したいと考えています。また、宇宙利用等を見据えた政策目的と純粋な科学目的の相乗りあるいは切り分けをどのように図るのかも、コミュニティが考えるべき重要問題であると認識しています。

 宇宙開発委員会、毒饅頭、一の太刀に書いたように、科学者の間には「予算がもたらすのは予算なくしては実現不可能な研究、予算が奪い去るのは研究の自律性と研究者の自由」という二律背反の意識がある。

 しかし、今回の会長談話には、その意識を超えて、積極的に政治や社会に関わっていく中で惑星探査を考えていこうという意志がこもっている。

 これは良い変化だろう。

 ただし、個人的には今後10年の展望を2年半かけて検討して報告書を作るというのは、いかにものんびりし過ぎだろうとは思う。そんなことをやっていたら、報告書の完成より先に未来が来てしまうのではないかと思うのだけれど。

追記(2010.8.11) :コメント欄、平田成さんの投稿にあるように、この検討は「2017 年から 2027 年までの惑星探査将来計画」を対象にしたものだった。従って「報告書の完成より先に未来が来てしまう」ということはない。
 とすると、今現在〜2017年の探査において、日本惑星科学会の考えは、「1996年6月の将来計画委員会報告書」にある通り、ということを、会長談話で再確認したということになる。

以下に全文を掲載しておく。

2010年8月9日
惑星探査の推進に関する会長談話
日本惑星科学会会長 井田茂


 日本の惑星探査は最近大きな成果をあげています。2007年9月に打ち上げられた月周回衛星「かぐや」は同年10月に月周回軌道に入り(*1)、2009 年2月までの1年4ヶ月にわたって、数多くの鮮明な月面映像を撮影するとともに多様な科学観測によって数々の発見をもたらしました。「かぐや」に先だって 2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、2005年9月に小惑星イトカワに到着し(*2)、がれきの集合体である小天体(ラブルパイル天体)に対して2ヶ月にわたって現地観測や離着陸を行った後、数々のトラブルを克服して、2010年6月、見事に地球帰還を果たしました(*3)。また、2010年5月には、金星探査機「あかつき」が打ち上げられ、厚いベールに包まれた惑星・金星に向けて、現在、旅を続けています。

 このような惑星探査を日本が今後も続けて行くことは、国際貢献という面においても、必要だと考えます。しかし、日本の財政は逼迫した状況にあり、大きな予算の科学探査を推進していくには、国民的な支援や合意が是非とも必要です。同時に、巨費が投じられるからには、探査の選定において、専門家による科学的価値の事前検討と技術的実現性の精査も不可欠です。

 日本惑星科学会では、今から14年前の1996年6月に将来計画委員会報告書(*4)を作成し、その中で「月惑星探査計画の立案・推進の方法」を検討しました。そこでは、太陽系の起源とその初期環境の解明と惑星の形成過程と形成後の進化の解明とが、惑星科学の本質的問題と指摘され、日本において強化・推進すべき惑星探査項目として、(A)月惑星内部構造探査、(B)太陽系小天体、(C)惑星大気・磁気圏探査の3つが提案されました。

 その後の実際の惑星探査は、概ねこの報告書の提案と合致した方向で進展しました。しかし、トラブルや予算削減などもあり、進展速度としては若干緩やかなものとなっています。(A)月惑星内部構造探査としては、報告書が出た時点で開発段階にあったLunar-A計画は、ペネトレータの開発が難航したことなどの理由で当初計画から大幅に遅延し、最終的に2007年1月に計画中止に追い込まれました。ただし、独自技術として現在でも色あせていないペネトレータについてはLunar-Aとは切り離して技術的完成まで開発を進めることとなっています。一方、1999年から開発が開始された月周回衛星「かぐや」は、リモートセンシングによる探査にターゲットを絞り、前述のように大きな成果をあげました。(B)太陽系小天体に関しては、サンプルリターンを目指した小惑星探査機「はやぶさ」によって、小惑星の現地観測、離着陸、地球帰還などが成功し、現在カプセルに採取された可能性のある小惑星物質の確認・分析作業が進められています。(C) 惑星大気・磁気圏探査については、報告書作成当時開発中だった火星探査機「のぞみ」が1998年7月に打ち上げられましたが、同年12月の地球スイングバイ時のトラブルのため、火星到着予定が2003年末に遅延となり、さらに2002年4月の太陽フレアの影響で電子回路部がトラブルを起こし、火星軌道投入ができませんでした。一方、1999年から本格的検討が開始された金星探査計画は、スーパーローテーションの解明など気象探査にターゲットを絞り、中間赤外から紫外域まで波長帯の異なる5台のカメラなどが開発されました。2010年5月に打ち上げられ、金星探査機「あかつき」として金星を目指しています。また、欧州宇宙機関(ESA)との共同による水星の磁気圏探査計画「ベピコロンボ」も開発が進められています。

 このように、これまでの日本の惑星探査は、将来計画委員会報告書の展望と合致した形で進んできました。しかし、同報告書の作成から14年が経過した現在、惑星探査を取り巻く国内外の状況も大きく変化し、報告書の内容の改訂をすべき時期に来ています。そこで、2010年3月、日本惑星科学会では将来惑星探査検討グループにおいて、2年半ほどをかけて日本の惑星探査の長期的な展望を検討し、報告書を作成することとしました(*5)。この検討活動は惑星科学コミュニティが自らの責任において将来像を描いていく作業です。「かぐや」や「はやぶさ」の後継を担う探査計画や、火星や木星を対象天体とした野心的な探査計画も立案されつつありますが、これらの探査をどのようなロードマップの上に位置づけるべきかを広く検討したいと考えています。また、宇宙利用等を見据えた政策目的と純粋な科学目的の相乗りあるいは切り分けをどのように図るのかも、コミュニティが考えるべき重要問題であると認識しています。

 惑星探査を通した太陽系と地球の起源と進化の解明は、日本惑星科学会の活動の大きな柱のひとつであり、JAXAなど関係機関・学会と密接に協力しながら、今後も専門家集団として日本の惑星探査の将来計画の検討を進めていきたいと思います。また、その内容を分かりやすく国民に伝えていく努力もしたいと思います。

*1)https://www.wakusei.jp/news/topics/kaguya/KAGUYA_appeal.pdf
*2)https://www.wakusei.jp/news/announce/2005/2005-09-17/appeal.pdf
*3)https://www.wakusei.jp/news/announce/2010/2010-06-17/index.html
*4)https://www.wakusei.jp/news/announce/1996/1996-06/shourai.pdf
*5)https://www.wakusei.jp/news/activities/decade/index.html

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Comments

>ただし、個人的には今後10年の展望を2年半かけて検討して報告書を作るというのは、いかにものんびりし過ぎだろうとは思う。

https://www.wakusei.jp/news/activities/decade/index.html
の資料に書いてある通り,この検討の対象範囲は「2017 年から 2027 年までの惑星探査将来計画」です.

なので,タイムライン的なことだけいえば

>報告書の完成より先に未来が来てしまうのではないかと思うのだけれど。

ということはありません.

 なるほど。修整しておきます。

 ということは、次がまとまるまでは、1996年6月の将来計画委員会報告書が惑星科学会の見解ということで良いのでしょうか。

全般的な方向性についてはそうですね.

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