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2010.12.10

あかつき金星周回軌道投入失敗、12月10日午前11時からの記者会見

あかつき軌道投入失敗
2010年12月10日の記者会見

出席者:中村正人プロジェクト・マネージャー
    石井信明プロジェクト・エンジニア

姿勢系と推進系以外はすべて正常であった。

 昨日の姿勢データに間違いがあった。イベントの起きた秒時と角度。
 噴射開始から143秒ではなく152秒、2分32秒」
 起きたx軸周りの角度変化も360°ではなく42°

噴射開始から
0-152秒 燃料タンク圧力が徐々に低下、機体加速度も徐々に減少
152秒 機体加速度がいったん急激に低下
158秒 RCSスラスターによる姿勢維持モードからリアクションホイールによる姿勢維持モードに移行。推進剤バルブを閉じて燃焼中断。
375秒 姿勢維持モードからセーフホールドモードに移行

 推進系、酸化剤タンク圧力は維持できているが、燃料タンクの圧力が下がり続けている

 松浦注:燃料と酸化剤は別体の高圧ヘリウムタンクで加圧している。この結果は、高圧ヘリウムタンクと燃料タンクの間を結ぶ配管でなにか閉塞が発生した可能性を示唆する。

Rprofishii
模型を前に説明する石井教授

石井教授から説明
 NASA深宇宙局および臼田局可視で、昨日ほどんどすべてのデータをダウンロードできた。すべてのデータを分析したが、姿勢系と推進系以外はすべて正常だった。
 OMEエンジン噴射開始から燃料タンクの圧力が下がり続け、加速度も減少し続けている。本来、圧力は下がってはいけけない。グラフはフラットになるはず。加速度もなだらかに下がり続け152秒で急激に低下している。グラフその後の立ち上がりは、スラスターが動き出したため。

中村 土日とプロジェクト関係者も休息をとって、先入観を廃して事故原因の究明を進める、探査機の健全性を確認するためにセンサーによる金星撮影を行った。

質疑応答
東京新聞;エンジンは破損していないのか。6年後に再投入できるのか。
石井:現在まさにそれららを調べているところだ。こちらの予期していないところは何だったか。それぞれのデータの間の時間とスケールを合わせて評価を始めるところ。
東京新聞:圧力が下がっているが。
日経新聞:燃料タンクの圧力が下がることが原因か。
石井:検討中。現在正常に見えているデータの中に異常が潜んでいるかも知れない。
朝日新聞;圧力が下がるということで燃焼に異常があったと書いてもいいか。
石井:出力が変動した。予想していた幅より大きい。地上で試験していた範囲を逸脱している。
NHK:燃料タンク圧力低下の原因候補は何か。
石井:配管、配管の途中に入っているフィルターが詰まった可能性。しかし同じ推進剤を使っているRCSは使えている、いずれにせよ流露に抵抗がある。どこにどんな抵抗があったらデータと整合するか。今後きちんと解析する。同じ現象が別の監視項目に出ていないかを調べていく。姿勢制御スラスター側のデータなど。これと類似の兆候は出ていないか。
NHK:開発時に同様の現象は起きているのか。
石井:開発時は色々なデータを取っているが、今回の圧力に相当する条件のデータはないと思う。比較することになるだろう。
不明:流量をモニターして噴射を中断した仕組みがあったのか。
石井:ない。
毎日新聞:確認:燃料タンクの圧力は正常の場合、ほぼ一定なのか。
石井:そうだ。一つの可能性として配管の閉塞が考えられる。正常だと思われるデータの中に異常が隠れていないかというのは重要なポイントだ。
産経新聞:燃料タンクの圧力が下がったのは何秒後か。
石井:噴射開始直後。通常は噴射開始で圧力が下がると調圧弁が働いて、ヘリウムで加圧される。しかし、そのまま圧力が下がり続けた。158秒で燃料・酸化剤共にバルブを閉じてエンジン停止。
NHK:噴射を止めた後、燃料タンク圧力は戻っているが、今は正常な圧力に戻っているのか。
石井:そうだ。
NHK:この戻り方は遅いのか。
石井:遅い。ここは重要な情報だ。
不明:これは燃料が不足したということか。
石井:所定の混合比に比べると燃料が少なくなっていたということ。
不明:152秒で加速度急激低下ということは、それは混合比の変化と関係あるのか。
石井:なにが起きると圧力と加速度がこのような形になるのか。これから調べていく。
不明:加速度が下がった原因はなにか。
石井:一義的にはエンジン推力の低下。少しずつ先入観を持たずに
不明;流体の通路はどこからどこまでか。
石井;高圧ヘリウムタンクから、配管、間に圧力を調整する調圧弁が入っている。
不明:燃料タンクからエンジンまでの流路を考えればいいのか。
青木:ノズルの破損の可能性を指摘する声があったが、これは消えたのか。
石井:小さなカメラでもつけておけば直接確認できたが、カメラはないので未確認。今後もその可能性を排除するのではなく検討していく。
青木;探査機の燃焼試験を行うという話もあったが。
石井;まず地上で燃焼試験を行うべきだろう。現象の把握が大事。
中村;私が説明していた時点では、まだこの推進系のデータはなかったので、探査機での私見と言うことを言った。
青木;X軸周りの回転の原因は。
石井;圧力、加速度、姿勢というデータが得られたので、これから調べていく。
青木;カメラは正常に動いているのか。
中村;動いている。
石井:これをすぎてしまうと写すものがなくなってしまうので、カメラ・デジタル処理系などの健全性を試験するために、時間のないなかで撮影を行った。

東京事務所;
TBS;使ったのはカメラ5台中3台か。
中村;そうだ。残る2台は冷凍機や高圧電源があるので起動に時間がかかる。
テレビ朝日:燃料タンクの圧力低下で、6年後の軌道投入も分からないといっていいのか。
石井:可能性はある。圧力低下の原因をきちんと評価しないといけないが、なにもかもだめということは決してない。
日経サイエンス:高圧ヘリウムタンク周りの部品は国産であり、ブラックボックスになっていることないのか。
石井:基本国産品で、海外のものも含まれている。すべて標準品で動作が保証されている。ヘリウムタンクの圧力は正常。今の燃料タンク圧力は最初の圧力に戻っている。
共同通信;ヘリウムガスの量は想定されている量が減っているのだろうか。
石井;この圧力差ではヘリウムの量はあまりかわらない。150秒吹いた場合の圧力が維持されている。
共同通信;熱制御に問題が出るような気がするが。圧力が変わったこと温度が変わるような気がするが。
石井:そこも含めて調べていく。
松浦;燃料系のバルブの動作は確認しているのか。
石井;アンサーの帰ってくるバルブについては動作を確認している。それ以外にも逆止弁という簡単なバルブがある。バルブは宇宙用の標準品であり、特注したものではない。
日経サイエンス;燃料と酸化剤の残量は。
石井;燃料残量を一番知りたいところで、直接計ることができないので現在のところ情報はない。
喜多:今後トラブルシューティングを進める中で、技術的な制約はあるのか。それともじっくり取り組める状況なのか。
石井;一番おそれているのは太陽の放射線。放射線劣化を防ぐような冬眠に近い運用が必要になる。現在、至急データを見直している。
山根一眞:打ち上げ時の軌道投入精度が高かったので、かなり推進剤が余っていると聴いているか、推進剤量については余裕があるのか。
石井;正確に数字で答えられないが、今回152秒相当だけを使ったと仮定すると次の金星周回軌道投入には足りる。
読売新聞;燃料タンクなどの写真を使って説明して欲しい。
石井;写真はありますが、でもわかりにくいですよ。家庭も蛇口は単純で、内側の
日刊工業新聞;冬眠状態について。いつまでにどのようなことを行うのか。
石井:年内に4つめのカメラの試験を行う。通信機器に関しても試験を行う。年が明けたら性能評価試験を行う。冬眠というのは火を入れない状態。バッテリーは空にちかい充電量を下げた状態にして寿命を延ばす。通信系の機器に関しては2系統あるので、1系統だけ使うようにする。なにができてなにができないか、リスクはないかといった評価をしている。年明け3から6ヶ月かけて実施し、後は冬眠モードにしたい。
毎日新聞;姿勢を崩した時、どこにどれぐらいの力がかかったのか。
石井:これから計算をする予定。
日経サイエンス;RCSで姿勢を安定させたということか。
石井;158秒で姿勢維持がスラスターからリアクションホイールに移ったが、姿勢を安定せず
共同通信;一回宇宙で噴射した時には圧力異常はなかったのか。
石井:6月に13秒間噴射試験を行ったが、その時には異常はなかった。ただし噴射時間が短かったせいなのかは分からない。

相模原にマイク戻る。
共同通信;酸化剤タンクに異常はないが、燃料側配管

共同通信;素人考えだが漏れた可能性はないのか。
石井;可能性はあるが、現在圧力が一定しているのでそのデータと矛盾する。
東京新聞:のぞみとの違いは
石井;酸化剤にはのぞみと同じラッチ弁が2つパラレルに入っている。燃料はラッチ弁がなく、逆止弁が入っている。
不明:ほかの衛星に影響が出る可能性は
石井;何が起きたかによる。
不明;このあたりは、すでに獲得した技術なのか、まだ獲得中の技術なのか。
石井;それは難しい。惑星探査機も次々上げられないので。
中村;2液スラスターを使う探査機は数少ない。我々10年にいっぺん程度しかこういう挑戦ができないので、その意味では挑戦である。
時事通信;姿勢制御スラスターも噴射中に吹いているがそちらに異常データは出ているのか。
石井;データとしては正常だが、異常が隠れていないか姿勢データと合わせて、噴射すべきタイミングで噴射しているかと言ったことを調べていく。
時事通信;実際に噴射して試験をするのか。
石井;それはありうる。ここまでやればこれが確認できるという項目はあるので。その前に、地上でどこまで詰められるかだ。
朝日新聞;姿勢制御用スラスターはすべて正常と確認できているのか。
石井:現時点で異常は見つかっていない。ただし姿勢の時間的変化と相応してきちんと吹いているかは今後の解析が必要。
朝日新聞;横方向からかかった力はいったい何なのか。現状で分かるところを。
石井;軸対称の流れができているかどうか。
朝日新聞;混合比が変化することでどんなことが起こるのか。
石井;一概にいえない。今後海外の論文なども含めて調べて行かねばならない。
不明;姿勢と加速度の変化はどちらが先に起きたのか。
石井;得られたデータのサンプリング間隔が荒いので細かいところは不明。現状では同時と思っていい。
不明:燃料タンク圧力の戻りが階段状に見えるが。
石井:これはなめらかにもどったと考えていい。
毎日新聞;混合比が変わったことでどれだけ推力が低下したのか。
石井;これから調べなくてはいけない。
毎日新聞;配管が詰まるとして何が原因と考え得るか。
石井;つまるものはなにもないはずなのだが、なにがあり得るか考えていく。
東京新聞;加速度は減っているが。
中村;本来なら噴射と共に軽くなるので加速度は大きくなるはず。
東京新聞;エンジンと燃料タンクの間でつまりが発生したと仮定して、燃料タンク圧力は上がるのか。
石井;調圧弁経由で加圧しているので、圧力は一定となる。
NHK;加速度の履歴が最後ぽんとあがってるのはどういうことか、
石井;ここにも何か重要な情報が隠れていると考えている。
青木:データはすべてダウンロードできているのか。
石井;記録されているものはすべて取得した。探査機に残っているデータはない。
青木;今後取得するデータはあるのか。
石井:それはある。機体各部の温度など。金星軌道より1000万kmも内側にはいるので、これから熱対策を考えねばならない。

東京事務所
喜多:金星を撮った画像はこれが初めてか。
中村:そうだ。
喜多;感想は。
中村;予定通りの画像で実に惜しいというものだった。近赤外の画像には金星の山脈も写っており、この中から最大限の成果を引き出すべく努める。
共同通信:燃料タンクの圧力が元に戻ったということだが、戻りきってないように見える。
石井:この後のデータで確認したい。この圧力だと正常の範囲内。
中村;今確認した。調圧バルブを閉じているのでこの圧力は異常ではない。

以上

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Comments

日経ビジネスの記事を読みました。
「はやぶさ」が成功して、「のぞみ」「あかつき」が失敗したから、
工学系が優秀だけど冷遇されて、理学系が優遇されているけど成果がないと書いてあるように感じました。

10年に一度の惑星探査のどこが優先されているか分かりません。
10年に一度の惑星探査なら理学系が優先されて当然。

今回の原因は立川理事が言われたように、ロケットに合わせて探査機を設計したこと。
リスクの高いはじめての国産スラスターに、十二分に冗長系を持たせなかったこと。

松浦さんは、組織の問題にしがみついているように感じます。
外から見たら、分からないのですが、そんなにJAXAの中って、分裂・派閥・権力争いがあるのですか?

打ち上げ費用に90億円近いお金を使って、H2Aを使っているのにもかかわらず、
重量が500Kgの探査機で、軌道制御エンジンに余裕がなかって、おかしすぎる!!!

M-Vの制約がなくなった時点で、設計の変更するべきだったに、
あえて、それをやらなかったプロジェクトマネジャーの責任が大きい。

これは、予算の問題でも、組織の問題でもないでしょう???
中村氏の意思決定に問題があったのでは??
なぜ、誰もそれを言わない??

そこに問題がある。

と思って、怒りを覚える。

素人考えですが、OMEエンジンの故障原因は、燃焼ガスの高温高圧に負けてセラミックスラスタに穴があいたと考えれば、かなりの現象が説明できます。

もしもそうならば、燃料タンクの圧力低下は、燃料経路の抵抗増加が原因ではなく、セラミックスラスタの穴による背圧の減少(燃焼ガスの一部が穴から逃げるために、燃料噴射ノズルへの背圧が減少した)と考えられます。
さらに、燃焼ガスの一部がセラミックスラスタの穴から漏れれば、推力が落ちた事も姿勢が崩れた事も納得できます。
また、燃焼時間の経過とともに穴が大きくなったと考えれば、燃料タンクの圧力が下がり続けた現象や、加速度が減少を続けた現象、姿勢の崩れが大きくなった現象は全て説明が付くように思います。

ただし、この仮説で説明出来ないのは、酸化剤タンクの圧力が正常だった現象です。
例えば、酸化剤タンクへのヘリウム加圧が高圧なので背圧の影響が少ないとか、ノズルが背圧の影響を受けにくいなどのように、燃料タンク系統との違いが有れば良いのですが、有るか無いか分からないので、説明出来ません。
ひょっとして、酸化剤タンクの圧力計が故障していたら、この仮説でいけそうですが、、、

それにしても、「主エンジンを約9分間以上噴射できなければ、金星を通り過ぎてしまう一発勝負」だったそうですが、一発勝負に負けるとむなしいですね。
負担のかかる部分ゆえに、世界初のセラミックスラスタを開発したのは誇るべき事ですが、それでも、負担を軽減して、一発勝負を避ける軌道投入方法は無かったのか、素人ながらあれこれ考えてしまいます。

大塚実氏の取材日記に、取材時のデータが掲載されていたので、「推進系各部圧力履歴」チャートを見ました。
燃料タンク圧力{P3}の変化をみると、燃料タンクへの圧力補充スピードが遅すぎたか、もしくは燃料タンクからの燃料排出スピードが速すぎたかのどちらかに解釈出来ると思います。

この解釈で、松浦氏も大塚氏も前者の「燃料タンクへの圧力補充スピードが遅すぎた」考えを支持されているようですが、私は逆に後者の、「燃料タンクからの燃料排出スピードが速すぎた」考えを支持します。
どちらも同じチャートになると思いますが、燃料残量に差が出てきます。前者は燃料残量が予定よりも多くなりますが、後者は予定よりも少なくなります。

素人考えですが、燃料タンクからの燃料排出スピードが速すぎたと仮定すると、その原因はインジェクタの一部が損傷して、燃料噴射口面積が拡大した可能性が考えられます。また、インジェクタの一部が損傷すると、偏った燃料噴射が発生し、燃焼ガスの噴射形状もいびつになり、横方向への推力が発生したので垂直方向への加速度は減少したという可能性が考えられます。
しかし、あれこれ考えても、素人考えの域を出ませんので、関係者の更なる発表を期待します。

最後になりましたが、はやぶさの報道以来、松浦様のブログを有り難く読ませて頂いていますので、お礼を申し上げます。

理学が工学より格上というのは、形而上的なものが存在するというキリスト教圏的な思想ではないでしょうか?天文学も農林水産業と航海術のために生まれたものです。人間あっての天文学。
私個人は、人類の、あるいは日本人のテリトリーを拡大するということが日本の宇宙開発の大目的だと考えています。
テリトリー拡大の現地調査としての宇宙理学があり、テリトリー拡大の技術開発として宇宙工学がある。
大航海時代に動植物や地理調査をしたのが博物学/理学、造船技術を発達させたのが船舶工学というのに似ている。
両社は少なくとも全く同格、見方によっては宇宙理学は宇宙工学のための環境調査、理論整備というとらえ方も出来ます。


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