33年目の「ドーリアン」
ちょっとエンジンがかかってしまったので続けて更新。
3月20日、吉松隆 還暦コンサート《鳥の響展》に行ってきた。
吉松 隆 還暦コンサート≪鳥の響展≫
2013年03月20日(水・祝) 15時開演 東京オペラシティ コンサートホール出演者
吉松 隆 Takashi Yoshimatsu (作曲 / Composer)
藤岡 幸夫 Sachio Fujioka (指揮 / Conductor)
舘野 泉 Izumi Tateno (ピアノ / Piano)
須川 展也 Nobuya Sugawa (サックス / Saxophone)
田部 京子 Kyoko Tabe (ピアノ / Piano)
吉村 七重 Nanae Yoshimura (二十絃 / Koto)
福川 伸陽 Nobuaki Fukukawa (ホルン / Horn)
長谷川 陽子 Yoko Hasegawa (チェロ / Cello)
小川 典子 Noriko Ogawa (ピアノ / Piano)
東京フィルハーモニー交響楽団 Tokyo Philharmonic Orchestra第1部 (第1部の曲順は未定)
プレイアデス舞曲集より
(ピアノ:田部京子)ランダムバード変奏曲より(1985)
(ピアノ:田部京子/小川典子)夢色モビールより(1993)
(チェロ:長谷川陽子)タピオラ幻景より(2004)
(ピアノ:舘野泉)スパイラルバード組曲より(2011)
(ホルン:福川伸陽)夢詠み(2012)
(チェロ:長谷川陽子/二十絃:吉村七重)
第2部
鳥は静かに・・・(1998)
…静謐を湛える鳥たちへの鎮魂歌。透明な夢の詩情サイバーバード協奏曲(1994)
…天空を翔け大地を疾走する超絶のコンチェルト降臨
(サックス:須川展也、ピアノ:小柳美奈子、パーカッション:小林洋二郎)ドーリアン(1979)
…幻のデビュー作復活!青春のシンフォニックロック
第3部
「平清盛」組曲(2012)
…NHK大河ドラマ「平清盛」を彩る壮大な平安交響絵巻タルカス(2010)[原作:キース・エマーソン&グレッグ・レイク]
…プログレッシヴ・ロックの名曲オーケストラ版、ついに再演!
NHK大河ドラマ「平清盛」の音楽ですっかりメジャーになった吉松隆だが、私は極初期から注目して彼の曲目当てにコンサートに通っていた。今回の目的は33年振りの再演となる「ドーリアン」を聴くこと。。実は私は、1980年の「ドーリアン」初演。つまり吉松隆のオーケストラ曲デビューを東京文化会館大ホールで聴いているのである。おそらくは作曲者以外は数人しかいないだろう、「ドーリアンを実演で2度聴いたリスナー」になるべく、コンサートに赴いた次第。
コンサートそのものは「堪能した」の一言に尽きる。特に、当代随一の美音の持ち主である田部京子と近現代の曲を積極的に取り上げる小川典子による「ランダムバード変奏曲」は、素晴らしい演奏だった。
1980年のドーリアン初演は以下のようなものだった。
現代日本のオーケストラ音楽 第4回演奏会 <委嘱作品と第2回作曲賞入選作>第2回作曲賞入選作品
高橋裕 シンフォニア・リトルジカ
吉松隆 ドーリアン招待作品
入野義朗 ヴァンドゥルンゲン(転)指揮 秋山和慶
チェロ 岩崎洸
尺八 横山勝也・岩本由和
東京交響楽団主催:日本交響楽振興財団
1980年6月21日 午後2時〜 東京文化会館大ホール
当時私は高校を卒業したばかりで、浪人中だった。予備校通いで東京までの定期が手に入ったのをいいことに、勉強もせずにせっせとコンサート通いしていた。上野の東京文化会館大ホールは、客が入らずにほとんど空っぽで、オーケストラの音がとてもよく響いていた。空っぽのコンサートホールは、かくも音を良く響かせるのかと、私は感じ入った。
このコンサート、今にして思えば空っぽだった客席と反比例するかのようなエポックメイキングなコンサートだった。
まず吉松隆が、オーケストラ曲デビュー。シベリウスとプログレロックに根を持ち「現代音楽撲滅」を叫ぶ吉松のデビューは、日本音楽史にとってけっこう大きな転換点だったのではないだろうか。
ドーリアンについては作曲者本人が語るのを聞いたことがある。「これはイエスとかELPをオーケストラで模写する試みだったんですよ。でも、評論家にはストラヴィンスキーを思わせるとか言われた。イエスもELPもロックでストラヴィンスキーを模写したわけで、それを再度オーケストラで模写したわけですから、ストラヴィンスキーと言われても仕方ないんですが」と言っていた。
2曲目の高橋裕は、音大の先生をしつつ仏教音楽を着々と発表する人生を歩んでいる。普通の作曲家の人生と言えないことはない(本当のところは分からないけれども)。
が、残る2曲は壮絶。
まず入野義朗。この日、本当は「交響曲 あめつちのことば」という邦楽器とオーケストラの新作が初演されるはずだった。しかし作曲者体調不良で作曲が間に合わず、急遽同じ邦楽器・オーケストラの編成ということで「二本の尺八とオーケストラのための転」が演奏された。
実はこの時、入野は体調が悪いどころではなく、末期の床についていた。2日後の6月23日に死去。享年59歳。絶筆となった「あめつちのことば」は、冒頭20小節ほどが残っており、この断片は後に黛敏郎が「題名のない音楽会」で演奏した。
そして小倉朗の「チェロ協奏曲」。この曲が、戦前・戦中・戦後を反骨の作曲家として生き抜いてきた小倉朗にとって人生最後の作品となった。小倉はその後10年を生きたが、体調を崩したために作曲をやめてしまい、絵ばかりを描いて晩年を過ごした。その間、作曲はわずかに旧作の「フルート。ヴァイオリン、ピアノのためのコンポジション」の改訂を行ったのみである。
まさに世代交代の節目となったコンサートだったのである。
この時聴いたドーリアンは、まず巨大音量で私の耳を圧倒した。叩きまくる打楽器は、時にケチャのリズムになり、祭太鼓となり、「こんなのありか?!」と感じた当惑は、ラストの全オーケストラが高々と協和音をフォルテッシモで引き延ばし、打撃音で曲が終わると同時に「この手があったかっ」という喝采に変わった。印象はあいさつに出て来た肥満の巨軀にベレー帽という作曲者本人を見て、さらに強まった、
私は吉松隆という名前を意識に刻み込み、その名前が出てくるコンサートに意識的に通うようになったのだった。
1980年6月21日のコンサートでは、私は東京文化会館の3階中央の最前列で聴いた。だから今回も東京オペラシティ、タケミツメモリアルホール3F中央最前列の席を取った。学生800円だったチケットはA席7000円となっていたが、その価格差こそはメジャーになるということの意味なのだろう。
33年前のドーリアンの演奏は、疾走するという形容が相応しかった。秋山和慶は高いバトンテクニックで分析的に演奏を組み立てるタイプの指揮者だが、この時の演奏ではオーケストラを追い立てるようにして、アレグロというよりもプレストで10分間の曲をまとめ上げていた。
今回の演奏で、藤岡幸夫は、よりゆっくりとしたテンポで、ストラヴィンスキー的な変拍子の構造が聴く者にはっきり分かるような知的で分析的な演奏を行っていた。作曲者が若い時のどしゃめしゃな曲なのだから、もっとノリと勢いで演奏してもいいのにと思ったが、これもまたありだろう。次に演奏する指揮者が、また違った解釈を聴かせてくれればいい。
1980年の演奏はNHK-FMで放送されたので、エアチェックした音源が手元に残っている。今回のコンサートも近くFMで放送され、CDにもなるらしい。まとめて33年の時を経た2つのドーリアンを聴き比べることができるようになるわけだ。今から楽しみである。
還暦を機に綴った作曲家の自伝。例によってシニカルで苦いユーモアを秘めた語り口で来し方を振り返っている。東由多加が主催するミュージカル劇団、東京キッドブラザースのニューヨーク公演「SHIRO」の音楽を担当するくだりがとても興味深いのだが、よっぽど大変な経験だったらしく、「胃に穴が空いた」と記してさらっと流しているのが印象的。1970年代後半から80年代にかけて、東京キッドブラザーズの人気はものすごかった。その渦中に巻き込まれ、振りまわされた話は、別途どこかで詳細を記録してほしいなと思う。
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コンサートの模様は、5月1日(水)6:00-6:55,NHK-BSプレミアム「クラシック倶楽部」で放映予定。
http://www.nhk.or.jp/classic/club/
曲目は「ランダムバード変奏曲」「サイバーバード協奏曲」「「平清盛」より5曲」
「タルカス」はやらないんですね。
(かわりに見るなら【初音ミク】TARKUS/タルカス オケ+歌版【NHK大河/平清盛/ELP】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17019530
でしょうか。)
第1部の曲順ほか当日の模様については、「月刊クラシック音楽探偵事務所」2013/04/10参照
http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2013/04/post-b64d.html
Posted by: mrhsmkt | 2013.04.26 02:00 AM
おお、情報どうもありがとうございます。3時間もあった長いコンサートをNHKは1時間にしちゃうんですね。残念というか、どうまとめるか興味があるというか。
Posted by: 松浦晋也 | 2013.04.26 10:34 AM