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2013.04.30

東京にオリンピックを???

 猪瀬直樹都知事が、2020年オリンピック招致を巡ってニューヨークタイムズから受けたインタビューで「アスリートにとって、いちばんよい開催地はどこか。インフラや洗練された競技施設が完成していない、2つの国と比べてください」と立候補国を比較する発言をし(IOC行動規範は比較を禁じている)、「イスラム諸国で人々が共有しているのは唯一、アラーだけで、互いにけんかばかりしている」と誹謗ともとれる発言をした——と、ニューヨークタイムズが記事を掲載し、波紋が拡がっている。

NHKニュース:すぐ消えるだろうが、この手のニューズの扱いがもっとも遅れるであろうNHKに掲載されたので。
毎日新聞

 これに対する猪瀬知事コメントは、知事のフェイスブックに掲載された。
猪瀬直樹facebook

 私は、IOCの行動規範第14条を充分理解しており、これまでも遵守してきている。今後も尊重し遵守していく。
記事の焦点が、あたかも東京が他都市を批判したとされていますが、私の真意が正しく伝わっていない。
 私は、トルコに行ったこともあり、イスタンブールは個人的にも好きな都市である。私には、他の立候補都市を批判する意図はまったく無く、このようなインタビューの文脈と異なる記事が出たことは非常に残念だ。
 私の招致にかける熱い思いは変わらないし、今後もIOCルールの遵守、他都市の招致活動への敬意をもって、招致活動に取り組んでいく。

 知事がどう思ったかは問題ではなく、具体的にどういう文脈でどのような発言をしたかが問題となっているのだが。

 ともあれ——個人的に不思議なのは、「なぜそこまでオリンピックにこだわるのか」ということだ。石原都知事時代に一度落選し、なおかつ運動を復活させ、しかも知事が猪瀬知事となっても運動を継続展開する理由が、私には分からない。
 私の周囲にも、「東京の古くなった都市インフラを一気に再整備するにはオリンピックをするしかない」という人がいるのだけれど、そんな内向きの理由だけでオリンピックを招致していいの?

 1964年の東京オリンピックは、首都高速道路を始めとしたインフラ整備に目が行きがちだけれど、実際には敗戦・占領を経た国が国際社会に再デビューを果たすという意味合いが大きかった。1963年に日本は「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」12条国から11条国に移行している。GATTでは、11条で自由貿易を規定する一方で、経済力の弱い国の自由貿易の制限を認めている(12条)。日本は1955年にGATTに加盟した時は12条の適用を受けていたが、1963年に11条国へ移行した。また1964年4月にはIMF(国際通貨基金)協定第8条を受託してIMF8条国に移行している。IMF8条は、自国通貨の交換性維持や差別的通貨措置(例えば自国に有利に相場を政策的に設定すること)の回避などを記した条項だ。GATT11条とIMF8条は、簡単に言えば国際的な貿易ルールの基本を定めたもので、日本がそれに従うということは、国際的な財貨の流れの中に復帰することを意味した。1964年10月の東京オリンピックには日本の国際社会復帰をアピールする意味があったわけである。

 このあたり、誰かが仕組んだというよりも、時代の流れの歯車がそのように噛み合っていったということのようだ。1959年5月に、1964年オリンピック開催地として東京が選出されている。一方IMF8条国移行は、1960年代に入ってから問題になりはじめ、1962年11月のIMF対日年次協議(東京にて開催)で、「日本は8条国に移行すること」という対日勧告が採決されている。GATTの12条適用の可否はIMFが判断することになっており、この対日勧告で自動的にGATT11条国移行も不可避になった。
 かくして日本の国際貿易体制への復帰とほぼ同時期に、海外から人もメディアも集まってくるオリンピックが開催されたわけである。

 今回そのような外向きの誘致の理由はない。となると、オリンピックという道具の使い道は、東京のインフラ再整備しかなくなる。インフラの再整備はどのみちやらねばならないことだし、拙速で変なハコモノを作ると今後100年は後を引くだろう。そこまでのリスクを取ってまで、たかだか2週間のお祭りを引っ張ってくる理由は、私にはないように思える。
 オリンピックの価値もかつてほどではないだろう。レスリングの五輪種目外れ問題に見るように、ますますオリンピックはショーアップされたお祭りと化している。たんまりと公費を突っ込むには、あまりにコストパフォーマンスが悪くはないだろうか。
 同じ肉体を駆使するショーなら、私はXスポーツを引っ張ってきたほうがずっと面白いと思うのだけれど(もちろんXスポーツを名目に、インフラ整備を行うことはできないだろうが)。

 その昔、墨田区の古老から東京オリンピックの印象を聞いたことがある。「川向こうでなんかやっとるという雰囲気で、こっちはどうってことなかったねえ」と言われて、はっとした。川とは隅田川だ。同じ東京でも、代々木のあたりと墨田区ではそれほどまでに大きな温度差があったのだ。50年を経てはるかに多様化した東京にオリンピックを誘致しても、面倒ばかり増えて大きな意義はないのでは、と思うのである。

 個人的には日本にオリンピックを誘致するとしたら東北。東日本大震災からの復興を見計らったタイミングで、と考える。もっと言うならオリンピックよりILC(国際リニアコライダー)誘致のほうがずっと有意義で、生きた投資となるだろう。

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Comments

猪瀬センセイがtweetすべき当事者はこちら↓
https://twitter.com/GSB_SuatKilic
反オリンピック派閥としては今回の猪瀬発言は喝采
トルコ料理好きとしてはゲンナリ
アルメニア人やクルド人コミュニティーがこの程度の発言で猪瀬に靡くかは疑問。
だが言うなら、イスラムではなく現実としての国境侵犯に言及すべきで、猪瀬はいずれにしても、底が浅い。

一夜明けてこの記事が出た。

猪瀬知事「不適切な表現、おわび」 五輪招致巡る発言
http://digital.asahi.com/articles/TKY201304300071.html

 2020年五輪招致をめぐり、東京都の猪瀬直樹知事がインタビューで他の立候補都市を批判する趣旨の発言をしたと米ニューヨーク・タイムズ紙が報じたことについて、猪瀬知事は30日、「誤解を招く不適切な表現で、おわびしたい。認識が甘かった。発言は撤回したい」と話した。

 都庁で記者団に答えた。猪瀬知事は発言内容について「インタビューの終了間際の雑談の中で出た話」と説明。五輪招致への影響に関しては「教訓にしたい。これからの活動に反省を踏まえる」と述べた。

 結局言っていたんだ。で、NYTに「録音もあるよ」と言われて認めざるを得なかった。最初から撤回しておけば傷は浅かったのだけれどね。

はじめまして、ブログ楽しく読ませて頂きました。
オリンピックで予算つくといろいろと建物が建てられるので東京都はほんと必死ですね^^

真面目な意見
我欲五輪はもういらない
五輪招致する資金とか資材とかあるならば東北の被災者の為に少しでも役立てていただきたいです。
アスリートの育成とか強化に国の予算を使うこと自体は賛成だし一向に構わないが、五輪招致までする事無いだろう。(呆)

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