神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1.1(2008年10月16日木曜日版)
以下、FAQのバージョン1.1を掲載します。おそらくこれが最終版となると思います。
当blogカテゴリーに「神舟7号船外活動関連」を追加しました。
注意
この場における議論は2008年10月15日をもって終了しています。
意見のある方は、自分でblogを開設して意見を発表し、当blogにトラックバックを送ってきてください。
本blogは明らかにトラックバックスパムと判断される場合以外、トラックバックの制限をしていません。
バージョン1.1での修正点:誤字脱字修正と、一部表現の手直し。「●「水中のロープ締め」という発言」への記述追加。
神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1.1(2008年10月16日木曜日版)
前文:このFAQが作成されるまでの経緯
このFAQ(よくある質問と答え)は、2008年9月に中国が有人宇宙船の神舟7号で行った、中国初の船外活動(EVA:通称「宇宙遊泳」)について、ネットで起こった疑問について答えるものです。
神舟7号は、2008年9月25日現地時間午後9時10分、酒泉衛星発射センターから打ち上げられました。乗組員はタク志剛、劉伯明、景海鵬の3名です。9月27日にタク志剛飛行士が15分間の船外活動を行い、翌9月28日に内モンゴル自治区中部に帰還しました。船外活動の様子は中国中央テレビ(CCTV)で中継され、ウェブキャストで日本においても視聴することができました。
その後、ニコニコ動画(http://www.nicovideo.jp/)に、「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」というタイトルでCCTVの画像が投稿され(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)、またニュースまとめ系サイトの「アルカン速報」(http://alsoku.blog47.fc2.com/)に、「【神舟7号】 中国の有人宇宙飛行はねつ造か?→国営新華社が発射前に打ち上げ成功を誇らしげに伝える、宇宙遊泳の映像に泡が見つかる」(http://alsoku.blog47.fc2.com/blog-entry-257.html)という記事が掲載され、インターネット・ユーザーの間で、「神舟7号の船外活動は中国のでっち上げ、偽造ではないか」という話題が広がっていきました。
それら偽造論に対して、当FAQをまとめた松浦は「松浦晋也のL/D」(https://smatsu.air-nifty.com/)に、9月29日付けで「このっ、バカ共が!」(https://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2008/09/post-af53.html)という記事を掲載して反論。そこから同blogのコメント欄を使った、画像の具体的な検証が始まりました。
様々な立場の人々が参加した議論の結論は以下の通りです。
「中国が公開した船外活動の動画像には、『どう考えても宇宙空間ではあり得ない。このような現象は地上のみで起こりうる』という現象は写っていない。
疑惑が取りざたされた現象は、すべて、宇宙空間での現象であるとしても矛盾なく説明できるものであり、その一部は宇宙空間でなければ起こりえない現象だった。」
つまり、中国初の船外活動を、捏造とする決定的証拠は動画像中に見いだすことはできませんでした。
その他状況証拠も、中国には捏造を行う積極的理由がないことを示しており、中国が実際に船外活動を成功させたことは、公開動画像から見てもまず間違いないと言えます。
以下、「松浦晋也のL/D」コメント欄で行われた議論に基づいて作成したFAQ(よくある質問と答え)です。文責は松浦晋也にあります。
この文書は出所を明らかにした上ならば、印刷物も含め、どこにどのように転載して貰っても構いません。また転載した旨の通知も不要です。
検証にあたっては、主に「中国の「神舟7号」の船外活動の映像の中に・・・泡が?」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291)の動画像を使用しました。
ニコニコ動画のアカウントを持たない方は、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
から、同じ動画像を見ることができます。
第1章:動画像に写ったデブリ状物体について
●デブリ状物体の移動についてその1
Q:動画像に写っているデブリのようなものは、通常見られる宇宙遊泳中の宇宙飛行士の動きからは考えられないほど高速に移動しています。これはなぜでしょうか。
A:デブリの動きが速いことを不自然に思う人が多いようですね。
「宇宙では重いものが軽々と動かせる」と考えがちですが、慣性は地上と同じなので、外力が加わった場合、重いものはゆっくり、軽いものは速く動く傾向にあります。
船外活動を見慣れていない人にとって意外なのは、紙切れや綿屑のようなものが指で弾いただけで弾丸のようにすっ飛んでいく光景です。船外にこぼれたメモ用紙が餃子に見えたのもそのためでしょう。空気抵抗がないことと無重力の二つが関わった現象です。
ではその速度はどうやって作られたかといえば、いくらでも考えられます。
真空中の空気分子は条件にもよりますが、音速近くになるのが普通です。秒速300mくらいです。この流れを受けた場合、紙切れも相当な速度になりうるのです。
宇宙服の皺やケーブル類がぴんと張る時にも、相当な速度が生じます。身の回りで、たるんだ紐を引いていってぴんと張る瞬間、「ぶん!」と鳴ることがあるでしょう。その瞬間は、小さな範囲に非常な高速が生じています。そうした動きが軽いデブリを押すと、デブリはすっ飛んでいきます。
鞭の先端が音速を突破して、空中で大きなクラック音を立てる現象をご存知でしょうか。
ニコニコ動画には実演の映像があります
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3062088
ムチを振る人の腕の振りは遅いのに、鞭の先端は超音速になっています。「どう考えてもあんな速度ができるわけがない」とおっしゃる人は、無い知恵を絞ったにすぎません。
神舟七号のデブリが実際にどんなプロセスで速度を得たかは、動画からは特定できません。しかし少なくとも二つのありふれた理由が考えられる。それなのにあえてトリックという特殊解を持ち出すのは不合理です。「オッカムの剃刀」というやつですね。
なお、宇宙で小さなゴミが漂い出すミスは、ロシアでもアメリカでも普通にあります。秋山豊寛さんが1990年12月にソユーズ宇宙船に搭乗したときも、ガラスの破片が船内に漂って問題になりました。どんなに頑張って掃除しても、1G下では見つけ出せないゴミが紛れ込むものです。
●デブリ状物体の移動についてその2
Q:動画像に写っているデブリのようなものは加速しているように見えます。宇宙空間での等速直線運動には見えません。
A:物体は加速していません。視点の移動速度が大きくなっているだけです。
接近する物体は視点の移動速度が大きくなりますし、広角レンズだとそれがさらに強調されます。踏切の前で通過する電車を観察してみてください。
船外にあるカメラのレンズはかなり広角寄りです。これはほぼ円筒形の神舟7号の船体が、後ろがぎゅっと小さくなったように遠近感が強調されて映っていることでわかります。
神舟7号搭載のカメラは、35ミリカメラ換算で焦点距離24ミリくらいの広角レンズを使っている印象です。それを標準レンズの感覚で見て混乱している人が多いように思います。地球の輪郭の曲率も、そのために大きく見えています。
●デブリ状物体の移動についてその3
Q:このビデオの1分5秒から
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
ハッチ内で運動していたデブリがいきなり飛行士の服から出現しているように見えます。これはどのような現象ですか。説明がつかないように思えます。デブリがカメラの視界外を巧みに迂回したのでしょうか。
Aまず、この物体を解析すると、かなり細長く、かつ0.54+-0.02秒周期で回転しています。水中撮影に入り込んだ泡ならこんなに形で綺麗に回転が観測できないはずなので、多分固体でしょう
この件については、公開されている動画像がかなりきつい非可逆圧縮をかけられているので、はっきりと「これだ」と断定することはできません。しかし、妥当に思えるシナリオを考えることはできます。
この画像は、問題のデブリが画面のどこをどのように移動していったかを、画像のフレーム単位で追っていったものです。フレームの番号はデブリが見え始めたコマを1コマ目として便宜的に付けてあります。緑の部分は、バイザー前ないしはバイザーに写ったもの、26フレーム目でデブリは消失し、赤の点の部分を動いたかのようにみえて、宇宙飛行士のヘルメットの上側に出現します。
これをどう解釈するかですが、ひとつの考え方は、1フレームから26フレームはバイザーに反射した映像だとするものです。バイザーは大きく凸面に湾曲しているので、超広角レンズと同じ役割を果たします。
バイザーに写っているハッチのように見えるものは、実は2本の命綱です。これは宇宙飛行士の左手が握っていることから分かります。
バイザーのデブリは、実体がカメラに写っているならば、バイザーの前を通過していますし、バイザーに鏡像として写っているならば、宇宙飛行士の胸の方向から移動してきたことになります。
以下、デブリがバイザーに写っていると仮定すると、デブリは命綱と宇宙飛行士との間の狭い空間を宇宙飛行士の体に沿う形で上昇してきたということになります。それが凸面のバイザーに写って、ゆっくりと動いているように見えたわけです。
デブリはカメラから見て宇宙飛行士のヘルメットの向こうをすり抜け、画面上方に飛んでいったことになります。
カメラからみた、バイザーに写ったデブリの軌跡と、ヘルメットの向こう側に見えたデブリの軌跡が一直線上に並んだので、デブリが宇宙空間ではあり得ないような加速運動をしたかのような錯覚を生じたわけです。
この解釈では、バイザー上に写ったデブリの本体が、なぜ画面に映っていないのかが問題になります。これについては、
1)デブリは宇宙飛行士の体で陰になるところを通過した
2)たまたま紙を真横から見るような形で通過したので動画像伝送時の情報圧縮とあいまって写らなかった
などの理由が考えられます。
もうひとつの考え方として、このデブリは、画面奥からカメラ側に向かって飛んできているのだとする説もあります(例えばhttp://studioneet.blog.so-net.ne.jp/2008-10-02-1を参照のこと)。
この場合は、ヘルメット部分でデブリが消えている理由を、上記2)と考えます。向こう側からカメラ側へと向かって来ているので、最初は視線速度が小さかったものが、最後は高速に移動しているかのように写っている、と考えるわけです。
ただし、いずれの考え方も推定です。画像がはっきりしないので、絶対に確実だとは現状では言えないというのが正直なところです。
大切なのは現状において「このようにも解釈されうるので、この画像のみをもって『撮影場所は宇宙空間ではない。捏造だ』と言い切ることはできない」ということです。
●デブリ状物体の移動についてその4
Q:気泡の外観をした複数のデブリはすべて地球側に向かって飛んでいったように見えます。この映像は実際には地上のプールで撮影されたものであり、デブリに見えるものは、実は気泡が上に浮かんでいったからではないでしょうか。
A:画像を注意深く見てみると、かなり多数の物体がハッチから放射状に出ています。画像で確実に確認できるものだけでも10個以上あります。
個々の物体の軌道を画像解析すると、ハッチから放射状に、しかもブロックの中の圧縮ひずみを考慮するとほぼ等速運動をしています。ここで「ほぼ」といっているのは、画像解析では物体の最大輝度を追っていて、重心を追っているわけではないためです。
もしもこの画面の舞台が水中であれば、そしてこのデブリが気泡であれば、気泡の描く軌跡は、すべてまっすぐに水面に向かって鉛直の軌跡を描いているはずです。従ってどの気泡も平行な軌跡を描くはずです。もしも気泡発生時に横方向の力が気泡にかかっていたとしても、気泡はカーブを描いて最後には水面に対して鉛直な軌跡を描くはずです。
にもかかわらず、映像のデブリは、それぞれ異なる角度で画面の下から上に向かって直線の軌道を描いて移動していきます。これは、水中の気泡であった場合には説明のできない現象です。
なお、デブリの軌跡はかなり広く放射状に広がっているので、広角レンズのひずみだけでは説明できません。本当に放射状に飛散しています。つまり水中から水面へと一方向に立ち上る泡ではありえないということです。
Qその2:プールで試してみてもらえれば分かると思いますが、水中では気泡そのものが踊りながら、それぞれ少し違う軌道を取ります。コップに水を満たしてストローで息を吹き込んで同じ現象を観察できます。ですから、複数のデブリが平行に動いていない状況は、水中の泡でもあり得ると思いますがどうでしょうか。
Aその2:まず、コップに水を満たしてストローで息を吹き込むという状況は、泡の動きを見る尺度が小さすぎます。動画像に写ったデブリ/泡は、移動距離が宇宙飛行士の身長以上の十分大きなスケールで、明らかに違う方向を向いてるということが重要です。このようにきれいに泡を、ほぼ同時に等速直線運動で別方向に流す水流を作り上げるのは、かなりの困難が伴うでしょう。
Qその3:ハッチから放射状に流れ出る水流を考えれば、このような水泡の動きも作り出せると思います。やはり、この映像を水中撮影であり、写ったのは泡ではないでしょうか。
Aその3:この映像が地上での撮影だったとするならば、“泡”は本来写ってはいけないものです。ですから、泡の動きを宇宙空間でデブリが示す等速直線運動に合わせるために水流をわざわざ起こすというのは、合理的な態度ではありません。“泡”を出さないように注意するはずなのです。
また、ハッチから水が流れ出ているとしても、その水流は画面上に向かうでしょう。水は比重が大きく、流れは運動量を持っています。物理的に考えると、ハッチ内を上昇してきた水は、運動量を保って上に向かうしかありません。ハッチのふちを通過した途端に放射状に流れるということはありえません。
放射状に水が流れるように水の吹き出し口を作るなどの細工をしてあったと仮定すると、“泡”の運動から見ると、かなり高速の水流を作っていると考えねばなりません。そのような水流は周辺に水の乱れた流れを生み出し、宇宙飛行士の身体の動きや、命綱などの挙動に影響するはずですが、動画像中からは、そのような不審な動きを見て取ることはできません。
●ハッチから飛び出した紙片の動きについて
Qその1:ハッチを開けたときに紙片のようなものが飛び出しています。船内と船外にいくらかの圧力差があってもハッチは開くものなのでしょうか。
また、ハッチの縁付近で向きが変わってるように見えます。この時外側のハッチは開いたままなので内側のハッチが開くはずもありません。どこから飛んでいく方向を変えるような空気が来たのでしょうか。
A:ひょっとして昔のSF映画とかにあったような、内外二重式のエアロックを想定しているのでしょうか。神舟7号は、そのような構造になっていません。
神舟7号の場合、軌道モジュール全体を減圧してからハッチを開けています。ですから内側のハッチのようなものは存在しません。
ウェブの報道によると
http://www.china-news.co.jp/culture/2008/09/cul08092802.htm
>船内の気圧が2キロパスカルに下がると、飛行士が船外にでる条件が満たされる。
とあります。
また報道によると、今回の船外活動では、船内に気圧が残った状態でハッチを開けたそうです。
http://www.excite.co.jp/News/china/20080930/Searchina_20080930049.html
神舟7号が船外活動を実施したのは27日。景海鵬飛行士は帰還船に残り、タク船長と劉飛行士は軌道船に移った。船外に出たのはタク船長ひとりだが、劉飛行士も宇宙服に身を包み、船内からタク船長を補助した。両氏によると、軌道船内部は狭く、ハッチの取っ手にはひとりしか力を入れることができなかった。かなりの力が必要なことは想定内だったが、地上のプールでの訓練とは異なり、船内に残っていた空気の圧力の問題などがあり、予想外に大きな力を必要とした。
記事によると軌道モジュールをエアロックとして使用。船内と船外に気圧による圧力差があっても、ハッチを開くことは可能だそうです。今回はハッチには一人で開けることができるが、かなりの力を要する程度の圧力がかかっている状態だったとのことです。
2キロパスカル=50分の1気圧です。ハッチを仮に50cm角の大きさとすると、そこには500ニュートン=50キログラム重の力がかかっています。開けるには相当の力が必要です。実際にハッチを開けるにはかなり苦労している様子が動画像からもうかがえます。
船内もしくはエアロックの容積が解りませんが、船外活動服を着た2人を収容可能なのですから、それなりに広いのでしょう。そこにつまった2キロパスカルの空気が、ハッチ開放とともに排出されれば、無重力となっている室内に浮遊していた軽い紙片などが吹き飛ばされるには十分でしょう。
第2章:カラビナの動きについて
●カラビナの動きについてその1
Q:水中撮影を否定する意見の中には「カラビナは水中で沈むはずだが、画像に写るカラビナは浮いている」というものがあります。しかし、水中撮影用に沈まないカラビナを作ることもできるはずです。中国がそのようなカラビナを用意して水中撮影を行った可能性は否定できないのではないでしょうか。
A:カラビナの材質については画像だけでは分かりません。密度を水に合わせたカラビナを作ることは可能ですが、その動きまでを無重力空間と合わせるとなると、カラビナをつないだ命綱の浮力も合わせる必要があります。さらに、そこまでしても動きに対する水の抵抗は避けることができません。
そのことを理解した上で、宇宙飛行士の体の動きに注意して画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
1分47秒付近から1分ほど、宇宙飛行士の腕と体が、命綱の付近ではげしく動いています。水中ならばこれに伴って水流が起こり、ワイヤを1)宇宙飛行士の体が動いたのと同じ方向に、2)宇宙飛行士の体の動きにわずかに遅れて、動かすはずです。しかよくみると命綱はそのような動きをしていません。宇宙飛行士の体に取り付けられた部分に押されての動きしかしていません。
空気中で吊りをしているならば、この動きが可能ですが、そうなると命綱の形状やたるみを説明できません。また命綱の部分が、編み込みのワイヤーを入れて剛性を高めてこのような映像を作ることも可能ですが、それは「●カラビナの動きについてその2」で示した理由により否定されます。従って、この映像におけるカラビナと命綱の動きは、水中撮影を行った場合よりも、本当に無重力の宇宙空間で撮影したと考えるほうがすっきりと矛盾なく理解できます。
Qその2:しかし、もともとの宇宙飛行士の動きがゆっくりしているので、水流が存在してもごく弱いものであり、カラビナを動かすほどではないのでしょうか。
A:ビデオの2分23秒付近を見て下さい
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
宇宙飛行士の体全体が、画面上から右下へ大きく、かなりの速度で動いています。体全体が大きな面として動いているので、水中ならば大きな水流が発生しますし、また宇宙飛行士の体が動いた後にも水の乱れが残ります。その流れは命綱の位置、特に宇宙飛行士との身体との距離、および命綱自身の振動に影響を及ぼすはずです。
実際には命綱は体の動きに押された分だけ動いているだけであり、体との距離はほとんど変えていません。また命綱は特に振動もしていません。
水中ならば、大きな水流が発生する状況でも、命綱の動きに影響が出ていないということから、水中撮影ではないと結論されます。
●カラビナの動きについてその2
Q:カラビナの命綱の部分が、編み込みのワイヤー製の可能性が高いのではないでしょうか。簡単にいうと、カラビナが針金みたいなもので吊られている状態です。カラビナが浮かんでいると断定するのは早計であり、むしろ水中撮影の疑惑が濃厚だと思います。
A:きちんと画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
(2分34秒あたりが分かりやすいです)
明らかに綱の部分がたわみ、宇宙飛行士の動きに合わせて揺れています。このことから、剛性の高い、カラビナの動きを拘束するほどの編み込みワイヤではないことが分かります。にも関わらず、その前後のシーケンスでカラビナは浮いています(2分10秒あたりが分かりやすい)。このことから、剛性の高い編み込みワイヤーで、カラビナを浮かせているという説は否定されます。
Qその2:2分34秒付近のカラビナの向き(綱の付いている方向)は、画面右向きだった。触ったために向きが画面奥に変わった。綱も「逆Cの字」の状態から、螺旋状に変わった。
これは、針金をCの字に曲げて、その一端を固定し、もう一端を120度くらい捻ったのと同じではないでしょうか。命綱はやはり剛体だと思います。
A:命綱がたわむのが分かるのは、2分34秒付近だけではありません。例えば0分25秒の宇宙船の後部からの画像では伸びている命綱が、1分2秒付近ではおおきくたわんで変形しているのが分かります。あるいは2分14秒から19秒では、命綱自身が振動し、たわんでいるのがはっきり写っています。2分34秒付近の映像のみが剛体であると解釈しうるとしても無意味です。
第3章:宇宙飛行士の姿勢と旗の動きについて
●宇宙飛行士の姿勢について
Q:国旗を振りまわしている割に、宇宙飛行士の身体の姿勢が安定しているように見えます。これはなぜでしょうか。
A:よく画像を見て下さい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
冒頭20秒付近
左手で旗を振りまわしている間、宇宙飛行士は右手で取っ手をつかんで体を固定しています。さらに、旗の振り方もよく見ると、腕全体で振りまわしているのではなく、肘から先、さらには手首のスナップで旗を振っているのがわかります。なるべく動く質量を減らして、姿勢がゆれないようにしているのでしょう。
姿勢がゆれないような旗の振り方をしていることは、体の周囲を高密度流体の水で支えているのではなく、真空かつ無重力状態の宇宙空間に浮かんでいることの傍証といえるでしょう。
●宇宙飛行士の目的と姿勢についてその2
Q:そもそも彼らは何をしてるのでしょうか?命綱を繋いだあとむやみに足を宇宙に放り出すような体勢とっていますが、これには何か理由があるのですか。
A:今回の船外活動の目的は、中国製宇宙服を実際に宇宙空間で使用してみるというところにありました。打ち上げ前に神舟7号の壁面に取り付けてあったサンプルを手でつまんで回収し、船内に持ち帰るという、もっとも簡単な船外活動の手順を実際に行ってみたわけです。
足を放りだした姿勢は、無重力状態では、あれが人間にとってもっとも楽な姿勢なのです。
●宇宙飛行士が持つ旗の動きについて
宇宙飛行士の持つ旗の動きは、水中での倍速撮影で実現できるように見えます。本当に宇宙空間で撮影したものには見えません。
A:画像に写った旗の動きをよく見て下さい。
冒頭7秒付近
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4765291
旗を振ったその瞬間にぴんと旗が張り、振り終えたその瞬間にくるりと旗が反対側に回り込んでいるのを見て取ることができます。もしも水の中で旗を振っているならば、水が旗の動きに対する抵抗になりますから、くるりと旗が一気に反対側に回り込むことはありません。しかもその時の旗の面の運動方向を見ると、面が完全に運動方向とほぼ一致しています。つまり水が存在するならば、非常に大きな抵抗を受けるような形状で、旗はくるりと回り込んでいます。
宇宙飛行士の身体と比べると、旗の面積は30cm×40cm程度でしょうか。このサイズの平面が、比重1の水の中を動くと相当の抵抗が発生します。この動きを水中で再現するとなると高速度撮影によるスローモーションではなく、微速度撮影が必要になります。
もしも水中における微速度撮影を、宇宙飛行士の演技込みで行っているとすると、宇宙飛行士が水中で、旗の動きの高速度撮影に合わせて、思い切りゆっくり、かつスムーズに動かなくてはなりません。宇宙服を着て、なおかつ水中でゆっくりかつスムーズに行動することはまず不可能です。
従って、この映像は水中撮影ではないと判断できます。旗の動きは、捏造の根拠とはなりません。
第4章:ロケットの打ち上げと、カプセル内の構造について
●打ち上げ時のロケットの振動について
Q:長征2Fロケットによる打ち上げ時の船内映像ですが、あまりにも振動がなさすぎるように見えます。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4751461
この動画では3分28秒辺りにロケットブースターの燃焼最終段階及び分離と船内の映像が管制の画面に同時に映っています。
しかし、飛行士は微動だにしていません。
http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
スペースシャトルの固体ロケットブースター分離(5分35秒辺り)では分離直前も振動しているし、分離の際の振動はかなり大きいです。
これは、訓練風景などを実際の打ち上げと偽って流した結果ではないでしょうか。
A:打ち上げに使用した長征2Fロケットのようなすべて液体燃料を使うロケットの振動は、固体ロケットを使用するスペースシャトルに比べてずっと小さいのです。
全段液体ロケットエンジンを使用する、ロシアのソユーズロケットの打ち上げ風景と比較してみると分かります。
以下はYouTubeにアップされているソユーズロケットによる打ち上げの映像です。
- http://jp.youtube.com/watch?v=VxSngCl4xjM&feature=related(2分32秒から)
- http://jp.youtube.com/watch?v=VwHOE8hlGV0&feature=related(6分41秒から)
- http://jp.youtube.com/watch?v=sJobS0uQwMo
- http://jp.youtube.com/watch?v=ya91BbkNZ3I
- http://jp.youtube.com/watch?v=tJtY6BEkDyk
- http://jp.youtube.com/watch?v=nxk07od9hnA&feature=related
やはり船内は振動はないかのように写っています。
ただし吊り下げられたマスコットとか固定されていない物体の挙動を良く見ると、それなりに揺れてはいることが分かり、実はまったく振動がないわけではないようです。
テレビカメラががっちりと取り付けられているし、宇宙飛行士の身体も座席にしっかりと固定されているのでしょう。
●打ち上げ映像の事前流出について
Q:打ち上げ映像が、打ち上げの2日前に放送された件はどのように説明できるのでしょうかか?
A:打ち上げ前に漏れたのは、『事前に準備されていた、軌道上の船内の様子のレポート記事』でした。映像ではありません。大イベントの前に予定原稿を用意することは、マスメディア全般で広く行われている普通のことです。過去にも予定原稿が流出する事故は、何度も起きています。
●打ち上げ時の乗組員の姿勢について
Q:搭乗員の姿勢に違和感を覚えます。打ち上げ時の加速度で腰に負担がかかったりしないのでしょうか?
http://jp.youtube.com/watch?v=iwfsFtpACFw&feature=related
スペースシャトルと比較してみると、船内の様子もまったく違います。
A:あれがソユーズ・タイプのカプセル型宇宙船の標準的な搭乗姿勢なのです。
- 断面図(http://suzymchale.com/kosmonavtka/images/soyuz-sa.jpg)
- 断面図その2(http://i88.photobucket.com/albums/k166/suzymchale/mars-center/soyuz-inside-side.jpg)
- 座席(http://www.astronautix.com/craft/sokolkv2.htm)
シャトルとは設計思想が違うのです。
第5章:大紀元が掲載した捏造疑惑報道について
●照明器具のようなものが写っていた件について
中国系のメディア「大紀元」日本語版(http://jp.epochtimes.com/)で、捏造疑惑が報道されました。
http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
宇宙飛行士が左手首に付けている鏡に、宇宙には存在しないはずの照明器具のようなものが映っているというものです。
確かに公開された動画像を見ると、照明器具らしきものが写っています。
http://www.youtube.com/watch?v=fvz0GZPNIF0&eurl=http://jp.epochtimes.com/jp/2008/10/html/d21942.html
8分41秒と8分54秒あたり
地上で映像を捏造した証拠でしょうか。そうでないとしたら、これはいったい何でしょうか。
A:大紀元がYouTubeにアップした画像の8分41秒と8分54秒付近を子細に調べると、照明器具らしきものは、実は神舟7号本体から
離れた場所にあるのではなく、神舟7号の軌道モジュールに取り付けられていることがわかります。
そこで、中国が公開した神舟7号の映像を調べてみると、これが地球の陰の部分で船体を照らすためのライトであることがわかります。
http://jp.youtube.com/watch?v=B8GpZztIjJg
この映像の1分28秒付近から、地球の陰の部分を飛行する神舟7号を、このライトが照らしている映像を見ることができます。また2分43秒からの映像では、ライトを直接カメラが撮影しています。
この照明器具は神舟7号の装備です。地上のスタジオの装備ではありません。
●「水中のロープ締め」という発言
Q:同じ大紀元の記事では、宇宙飛行士と地上との交信で「水中」という言葉を使っていたと指摘しています。
CCTVの下記の生中継映像2では、宇宙船外でドッキング作業する宇宙飛行士に指令を下す指揮官は、「01番、02番、水中拉糸、工作正常(ドウヤオ、ドウリャン、スイジョン・ラーシー、ゴンゾウ・ジョンチャン)」と指令を出した。文字通りに日本語に訳すと、「01番(宇宙飛行士・タク志剛氏を指すコードナンバー)、02番(宇宙飛行士・劉伯明氏を指すコードナンバー)、水中のロープ締め、作業が正常完了」である。映像では、その声は明確に聞き取れる。
これは、映像が地上のプールで撮影された捏造であることの証拠ではないでしょうか。
A:まず、大紀元日本語版の「水中拉糸」は誤りです。大紀元のオリジナル記事(http://www.epochtimes.com/gb/8/10/4/n2285035p.htm)によると「水中拉系(スイジョン・ラージー)」となっています。
この件に関しては、中国のネットでも議論となっており、「水蒸発器(シュイジェンファーチー)と言っている」という説が出ています。ネットにアップされた動画の音声はかなり不明瞭なので、確かにこのようにも聞こえます。
漢字 カタカナ表記 ピンイン表記
水中拉系 スイジョン・ラージー shui3 zhong1 la1 ji4
水蒸発器 シュイジェンファーチー shui3 zheng1 fa1 qi1
水蒸発器であるとすると、それは何を意味するかですが、宇宙服の図解には、「水昇華器等」という記載があります。
・http://www.gov.cn/jrzg/images/images/00123f37af8b0a4593fe01.jpg
・http://www.gov.cn/jrzg/images/images/00123f37af8b0a45924f05.jpg
さらに、航天国際動態与研究(第12期---2001.4.30)http://www.space.cetin.net.cn/docs/htdt99/htdt0112.htm の、「宇航員出艙活動技術(宇宙飛行士のEVA技術)」という項目に以下の記載があります。
「宇航員的代謝熱通過水蒸発器或水昇華器排除(宇宙飛行士の代謝熱を“水蒸発器”あるいは“水昇華器”で排除)」
つまり、この発言は宇宙服の生命維持システムの一部である、宇宙服内にこもる熱を排出するための冷却器の動作に関するものなのです。
録音が必ずしも明瞭ではないので、「水中拉系」と言っている可能性を完全に否定することはできません。しかし、「水蒸発器」だとすると、宇宙服の構造とも一致し、この発言が宇宙空間での活動についてのものであるとして矛盾は生じません。つまり、この発言のみをもって、「船外活動の映像そのものが捏造である決定的な証拠である」と言うことはできません。
(注:この件については、ホシボシヲあ〜かいぶの記事を参考にしました)
第6章:軌道上からの中継画像の品質について
●軌道上からの中継映像の品質についてその1
Q:他の船外活動の動画と比べてみたところ、画像や音声が異常なまでに鮮明です。宇宙から送られてくる動画像がこんなに鮮明なことがあるのでしょうか?
A:いつの時代の船外活動の動画像と比較しましたか?
打ち上げ時の画像にブロックノイズが入っている事から、今回の画像伝送にデジタル技術が使われたことが分かります。デジタル動画像の技術は、過去20年ほどの間に急速に進歩しました。 今回の画像が鮮明なのは、近年のデジタル動画像技術を中国がフルに生かしているためと考えて間違いないでしょう。
同時に、今回の打ち上げに対して、彼らが大出力大容量の通信回線を用意した可能性もあります。
デジタル技術の進歩と、大容量回線の準備とで、今回の画像の鮮明さは説明が付きます。
●軌道上からの中継映像の品質についてその2
Q:背景の地球(雲)の動きがカクカクなのに対し遊泳している宇宙飛行士は滑らかに動いているように見えます。なぜでしょうか、地球と宇宙飛行士を別途撮影した上で合成したからではないでしょうか?
A:それはデジタル画像伝送のコーデック(画像をデジタル信号化したり、その逆を行う手順)の影響である可能性が高いです。
コーデックにはさまざまな種類がありますが、基本的に人間の視覚の知覚特性に合わせて設計されています。簡単にいうと「人間が認識しやすい変化には大きな情報量を割り当てて、認識しにくい情報をばっさりと削る」ということをします。このようにして自然に見えてなおかつ情報量の小さい「軽い」動画像データを生成するわけです。
具体的には、動画像のコーデックでは限られた帯域内において、1)コントラストが大きな部位、2)時間的に変化が大きい部位、に優先的に情報を割り当てます。つまり、目で分かりやすいコントラストの付いた部位や、時間的に素早く変化する部分に優先的に情報量を割り当て、コントラストが小さかったり、時間的な変化がゆるやかな部分は情報量を減らします。
ですから地球のような少しずつしか変化していない部分の情報は極端に間引きされ、圧縮されます。
その結果、地球がカクカクと動いているように見えたのでしょう。
一方、宇宙服は動いていることが多いですし、宇宙服とその周囲との輪郭検出が容易なので情報を多く割り当てる対象になります。ですから、宇宙飛行士には大きな情報量が割り当てられ、なめらかな動きを見ることができるようになるわけです。
第7章:中国の体制について
●中国の情報公開に対する姿勢について
Q:中国の情報公開に関しては、月探査機「嫦娥一号」においてアメリカの専門家も疑問を投げかけています。神舟7号の船外活動についても同様の疑問を持つのは当然ではないでしょうか。
A:まず、科学者の間で嫦娥一号の取得した映像を捏造と断定している人はいません。中国側の事情を考えても、いずれ「かぐや」をはじめ、アメリカのルナ・リコナイサンス・オービター(LRO:2009年打ち上げ予定)の撮影画像などが公開されればすぐわかってしまうような嘘をついても意味がありません。嘘をついてもアポロ疑惑より賞味期限が短いのです。この情報化時代、事実はそう簡単に隠蔽できるものではありません。
嫦娥画像の「疑惑」については、アメリカの惑星協会(The Planetary Society)関係者が詳細に検証しています。こちらの記事も読んでみて下さい。
http://www.planetary.org/blog/article/00001248/
●中国が過去に起こした情報偽造の事例について
Q:ばれるようなことはしないはずといいますが、今まで中国(いや他の国も)がやってきた事はいったい何なのでしょうか。
中国は、様々な偽造ができる強権を振るいうる国家体制ですし、過去には実際にそれをやってます。今回も偽造をしないとは思えません。
A:過去に偽造をやっていたから、今回はどうかな、と疑問を持つことはある意味自然かも知れません。それでも、「今回だってやっているに違いない」と考えるのは決めつけに過ぎません。神舟7号の宇宙遊泳については、あくまで神舟7号に関するデータから判断しなくてはなりません。
先入観は人の目を曇らせます。事実を知るためには先入観を廃した観察眼が必要です。過去にこうだから今度もこうに違いないという決めつけの目で見ることは、判断を狂わせます。
●中国の体制について
Q:中国はご存知社会主義国家です。厳しいノルマの生産計画があります。宇宙計画にもノルマがあるそうで、2017年までに月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込む計画だそうです。
仮定の話ですが、もし、今年中に、EVAを成功させるノルマがあった場合、中国技術者にとって、捏造してでも成功と発表する必要性に迫られるのではないでしょうか。失敗した場合、国家の威信を著しく損なったとして、厳罰に処される可能性もありそうです。
A:中国は政治的には社会主義国家ですが、経済的には事実上の資本主義体制を採用しています。全国家的な生産ノルマによる計画経済体制は、トウ小平による改革開放政策以降、漸次消滅しました。
中国の宇宙計画には長期計画が存在します。ただし、過去の経緯を見ると、彼らは技術開発の進展の度合を見計らってかなり柔軟に計画を変更しています。また、そのスケジュールもかなりの余裕を持って組んでいます。
有人飛行が2から3年に1回のペースであるというのも、余裕あるスケジュールの一例です。例えば、アメリカが1960年代に実施したジェミニ計画では、1965年3月から1966年11月までの約19ヶ月間に10回の有人飛行を実施しています。3人乗りの神舟宇宙船は2人乗りのジェミニ宇宙船よりも大規模ですが、共に「新しい技術を開発して地球周回軌道で検証する」技術開発計画であることが共通しています。ジェミニ計画当時、アメリカはアポロ宇宙船による月着陸を急いでいました。国家がトップダウンで計画を急がせると、これぐらいのことはできるという一つの例といえると思います。
状況証拠ではありますが、今回の神舟7号が、北京オリンピックに合わせて打ち上げられなかったというのは、中国宇宙開発の現場が、政治の都合から来るスケジュール的なノルマにしばられていない証拠となるでしょう。政治的には、北京オリンピックの開会式に軌道上の宇宙飛行士からのメッセージ画像が入れば、それは強烈な政治的アピールとなります。中国首脳部が国威発揚を狙うならば、これ以上のイベントはないといえるほどです。しかも打ち上げをたった1ヶ月半、前倒しするだけで実現できたのです。
神舟宇宙船の打ち上げのためには、通信確保のために南緯40度付近の海域に追跡船を派遣する必要があります。この海域は年間を通じて波浪が高いのですが、南半球の春から夏、つまり北半球の秋から冬にかけて比較的穏やかになります。神舟宇宙船の有人打ち上げが9月から10月にかけて行われていたのは、追跡船を派遣する海域が穏やかな時期を選んでいたのです。
しかし、国威発揚を重視するならば、周回軌道の一部での通信を諦めるという選択肢もあり得ます。実際、ガガーリンによる最初の有人飛行(1961年)では、通信できない時間帯が存在しましたし、過去にはソ連/ロシアの宇宙ステーション「ミール」が、通信不可能な時間帯を抱えたまま長期間の有人運用を行ったこともありました。
しかし中国はそのような選択をせず、9月25日に神舟7号を打ち上げました。そのことの意味を考えてみて下さい。
●中国が過去に起こした事故隠蔽について
Q:中国では少し前に宇宙船のロケット発射実験を失敗して、村一つが500人規模の死者を出して壊滅しています。「その問題点がいまだに解決できていない」と考えると、捏造に走る根拠としては整合性が高いのではないでしょうか。
A:確かに中国の宇宙開発は過去に大惨事を起こしています。1996年2月14日、「インテルサット708」通信衛星を搭載した長征3Bロケットが打ち上げ直後に近傍の村に墜落し、多数の死者を出しました。中国政府はこれを隠蔽しましたが、打ち上げに立ち会っていた衛星製造元の米スペースシステムズ/ロラール社の技術者によって事実が世界に知れ渡りました。
事故後、中国の宇宙開発上層部では、苛烈な責任追及が行われ、主要メンバーが一新しました。それ以来。長征ロケットは12年間で、66機もの連続打ち上げ成功を続けています(2008年10月6日現在)。これは世界的に見てもすばらしい実績です。ちなみにスペースシャトルはチャレンジャー事故からコロンビア事故まで86連続成功でした。
事故隠蔽は恥ずべきことですが、彼らが組織の自浄能力を持つことを過小評価するべきではないでしょう。自浄能力があれば、組織は生まれ変わりうるのです。
第8章:補足説明
●そもそも、捏造に必要な設備はどれほどか
A:ここに神舟7号の乗員候補が水中でExtra-Vehicular Activity(中国語では出船活動)の訓練を行っている映像があります。
http://jp.youtube.com/watch?v=6-Gcs1VWVpA&feature=related
実際のEVAの映像とはずいぶんと違いますね。
周りのサポート要員のことは抜かしても、宇宙服からは泡が絶えず立ち上っているし、水は不鮮明だし。宇宙服も当然ながら水中訓練用と本物の宇宙用途ではデザインが違って来ます。
一部の人が疑っているように、仮に神舟7号のEVA映像が水中で撮影されたのだとしたら、中国は撮影用にここに映っているのとは別の施設とまったく別のデザインの水中用模擬宇宙服を造り上げたと言うことになるのでしょうね。
●そもそも、今中国が映像を偽造する必要性はあるのか
A:中国は、以前の米ソのように熾烈な競争相手もいない中で、じっくりと有人宇宙開発に取り組んでいます。ですから、ここで後に問題を残すようなことをする理由がありません。
この事は直接捏造疑惑を直接否定するものではありません。それでも、船外活動の動画像が捏造ではないかと思うほどのインパクトを受けた人は、中国やロシアの宇宙開発について、自分で資料を当たってみてはいかがでしょうか。
以上。