読売新聞の報道は勇み足だった模様。ただし、1ミクロン程度の小さな粒子は100個程度電子顕微鏡で確認され、「可能性は広がった」と。
会見後のぶら下がり取材に答える上野副グループ長
2010年10月6日午後5時半からの記者会見
出席者:上野宗孝JAXA/ISASミッション機器系グループ副グループ長
広報:
一部報道もされたので早くお知らせするために急遽ブリーフィングを開くことにした。
上野
前回のブリーフィングで電子顕微鏡での観察をするとお伝えしたが、それが実行できた。
先週後半から、サンプルキャッチャーA室の壁面をへらでぬぐい取るようにこすって、そのまま電子顕微鏡で観察している。電子顕微鏡でしか見えないサイズの微粒子が見えた。
ヘラの写真を出しての説明。ヘラの先の部分の長さが6mmぐらい、幅が3mm強。
現在電子顕微鏡の画像を解析しているところ、画像の提供は今日ぎりぎり間に合わなかった。一両日中に画像を準備して提供する。作業自身は淡々と続いている。
新規に制作したテフロン製のヘラ。先端の大きさは3mm×6mm。写真提供:JAXA
操作用のロッドの先にヘラをつけたところ。この状態でサンプル室の壁面をこすって微粒子を採取し、電子顕微鏡で観察した。写真提供:JAXA
ここから質疑応答
朝日新聞:電子顕微鏡でみてどんなことがいえるのか。
上野:電子顕微鏡では光学顕微鏡に比べると小さな1ミクロン程度のものも見える。おおむね100程度の粒子が見えている。
現在、形状や大きさを確認している。小さいので形状は確認づらい。最終的には初期分析の結果を見て判断せざるを得ないと、我々としても考えている。
読売新聞:今、作業を行っているのはヘラ1つ分か。
上野:そうだ。結構時間のかかる作業である。ヘラは小さいが、電子顕微鏡の視野もまた狭い。
現在ヘラでぬぐい取った範囲は、1/10ぐらい。この作業を10回ぐらい繰り返せば捌けるだろう。ただし将来の進んだ採取技術のために全部をこすることはしないと思う。
読売新聞:電子線を当てると、元素の組成もわかるはずだが、100個のうちどれほどが初期分析にかけるに値するかはわかったか。
上野:元素構成だけで地上のものではないというのはかなりむずかしいと思う。これは金属片だから違うよというぐらいはわかる。蛍光X線だけでは同位体比や結晶構造はわからないので、初期分析をしないとなんともいえないだろう。今回みている粒子はほとんどが光学顕微鏡では、見えないサイズ。量的に分析は可能なのだが、光学顕微鏡で見えないものをどうやって分析チームに受け渡すかは今後考えないといけない。
日本経済新聞:一ミクロンサイズでもサイエンス的な意味はあるのか。
上野:同位対比はわかるので、どこ由来かは確認できる。どうやってできたかまで
NHK:これまでの光学顕微鏡と異なる特徴のものが見つかっていると報道されているが。
上野:正直言うと、顕微鏡写真の外観だけは分からないなと感じている。今までも「地球由来じゃないの」という粒子があったわけだが、外観だけでは分からないというのが正直な感想である。明らかに金属片のようなものは見た目でわかるが、まったく判別できない領域(大きさ)のものを扱っている、まあそんな感じです。
日経サイエンス:初期分析にかかるのは12月という予定は変わりないか。
上野:先週末から今回のヘラをつかっての採取をやっているが、一サイクル一週間はかかっている。今月末ぐらいからB室にいきたいと思っている。Bの状態が見えてきたところで、総量の15%ぐらいを初期分析に回るということになっている。全部スプリング8で分析するというわけではなく、いろいろな手法を使う。
毎日新聞:100粒ほどのなかに、明らかに地球由来だといえるものはいくつぐらいか。
上野:現在全部をみているわけではないので、もう数日待ってもらえれば。
共同通信:100個ぐらい見えているというのは、一ヘラ分ということか。写真は撮っているのか。あさって、名古屋の惑星科学会に間に合わせるのか。
上野:一ヘラ分です。写真は撮っているが、写真の調整が必要なので。
共同通信:あまり贅沢は言わないので、見えていれば十分なんですけど。
ニッポン放送:今回の状況は、地球外物質が見つかる可能性が高まったのか。喜んでいいんでしょうか。喜ぶのはまだはやい、とか。
上野:まだなんともいえないです。小さい粒子がいっぱいあることが分かったので、チャンスは広がったとはいえると思う。
産経新聞:これまでに見つかった粒がいくつぐらいか。
上野:光学顕微鏡で見て、石英の針で拾ったのは60粒ぐらい。これに加えて100ぐらいが増えた。1ミクロン以下のものがかなり含まれている。
産経新聞:初期分析に回す候補は絞られているのか。
上野:まだです。
不明:15%というのはA室のサンプルからということか。
上野:全体の15%。Bに入っている量が推定できた時点で初期分析に回すことになる。
不明:この数は予想に比べて多いのか少ないのか。
上野:こんなものかなあと思う。B室はもっとあるといいなと思っている。
毎日新聞:光学顕微鏡で拾った60粒ほどの中で、明らかに地球由来と思えるものはどの程度あるのか。
上野:はっきりはじけるものはあまりないなあ、というのが私たちの感想だ。
NHK:スプリング8の分析以外にどんな分析をするのか。
上野:粒子をスライスして顕微鏡でみると結晶構造が見えてくる。同位対比がわかると生成時の温度環境で分かる。また破壊的分析では蒸発させてガスを分析するということもできる。
不明:B室でも同じことをやるのか。
上野:そうだ、大きな粒子があったらその回収を行う。次にヘラで小さな粒子をすくう。ヘラを電子顕微鏡で見るのは当初からの予定ではなかった。小さな粒子をみるために考えた手法。
不明:サンプル分析の戦略は、B室の概要が分かってからか。
上野:そうだ。小さな粒子をどうやって渡すかは、検討しなくてはならない。
不明:初期分析に回す線引きはどこで行うのか。
上野:とりあえず数があるので、それぞれの分析研究者に配布はできる。
フジテレビ:スプリング8に回す時期と、結果がいつごろになるかは分かるか。
上野:スプリング8の試験予約を確認しなくてはならないが、いったん試験が始まれば比較的早く結果がでると思う。
ぶら下がり取材にて。
記者:初期に見つかった大きな粒には明らかに地球由来のものがあったけれども、今回判別がつかない小さな粒がぐっと増えたということか。
上野:まあそうですね。正直、大きな粒子をみていた時は悲観的な雰囲気もあったんだけれど、可能性は広がったなと。確率的にチャンスは広がったということです。