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カテゴリー「宇宙開発」の365件の記事

2012.12.18

【宣伝】12月18日火曜日、午後8時からニコ生ロフトチャンネルで放送を行います

 もう今日になってしまいましたが、午後8時からニコ生ロフトチャンネルで放送を行います。「はやぶさ2」について、これからの宇宙探査について、そして12/25締め切りでパブコメ募集中の新しい宇宙基本計画案について、イラストレーターの小林伸光さんと話します。

[12/18火20:00〜放送]「はやぶさ2の今、来年度予算と宇宙基本計画」松浦晋也(ノンフィクション・ライター)、小林伸光(イラストレーター)ニコ生ロフトチャンネル http://live.nicovideo.jp/watch/lv118686080

2012.10.16

ちくま文庫版「スペースシャトルの落日」、目録落ちのお知らせ


 本日、筑摩書房の編集さんから、連絡あり。ちくま文庫版「スペースシャトルの落日」が、今年度限りで目録落ちが決まったとのこと。

 スペースシャトルも退役し、オービターもそれぞれ博物館に入った。もとの本を執筆したのは、「コロンビア」空中分解事故から、シャトルが復帰しようとしていた2005年だ。十分この本も社会的使命を果たしたということだろう。残念だが仕方がない。

 ただ、このちくま文庫版は「増補」とあるように、シャトル以降の宇宙輸送システムについては、主にアメリカの民間宇宙開発の進展と米政府の補助金政策を受けて全面的に書き直した。全体の1/3ぐらいだろうか。この部分の内容は今も生きている。これはちょっと惜しい。

 現在版元在庫は400冊ほどとのこと。目録落ちの来年3月末までに、売れるだけ売れて欲しいし、願わくば完売で有終の美を飾りたい。

 もしも「2005年のハードカバー版を持っているから読んでいない」というような方、あるいは「いつか学校の宿題でスペースシャトルについて書こう」と考えている方、「この先のロケットってどうなるの」という疑問を持っている方などなど、おられましたら、この本の購入をご検討下さい。図書館での購入を希望するというのもありです。

 店頭やネット書店などで手に入るのは、あと半年です。

 以下にネット書店へのリンクを掲載しておく。

 実は一部は、2005年のハードカバー版もまだ市場に残っている(e-hon楽天ブックス)。こちらは、内容的にはもう古くなっているので、マニア向きというか、コレクター向きというか、宇宙開発史の研究家向けというか……著者本人が言ってはいけないな。
 ちくま文庫版ともども、もしもロケットまつりなどに持ってきてくれたならばサインいたします。

 400冊——コミケの大手なら数時間でさばく冊数だ。全部売れて欲しいと切に願う次第。


2012.08.16

宣伝:小惑星探査機「はやぶさ」大図鑑、発売中

 久しぶりの更新ですが、宣伝です。8月1日に偕成社から「小惑星探査機「はやぶさ」大図鑑」が発売されました。


Hayabusadaizukan

 私は解説の文章を担当しています。

 小学生中学年向けということでしたが、とにかく大変な仕事でした。専門用語は使えない上に文字数はぎりぎりまで制限されています。それこそ「スイングバイを100文字で説明して下さい」というような発注が山のように来て、七転八倒しました。その甲斐があったかどうかは、本を手にとって確認してもらえればと思います。絵を主体とした図鑑ですから、主役はなんといっても池下章裕さんの細密なイラストレーションでしょう。大人であっても、イラストを見るだけでも楽しめるでしょう。

 願わくばこの本が次の世代を担う子供たちに届きますように。

 今日から少しずつ更新を再開したいと思います。

2012.04.05

【宣伝】4月15日(日曜日)、 『飛べ!「はやぶさ」小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』朗読会があります。


 大変うれしいことに、4月15日(日曜日)に日本科学未来館7F みらいCANホールにて拙著飛べ!「はやぶさ」 小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険 (科学ノンフィクション)
(学研)の朗読会が開催されることになりました。

 なんと矢島正明さんに読んでもらえます。「スタートレック」のカーク船長、「謎の円盤UFO」のナレーション、「クイズタイムショック」の問題読み上げなどなど…子供の頃からテレビで聴いていた声が、自分の本を読むというのは、何とも言えない不思議な気分です。昨日、リハーサルがあったのですが声の力というのはまったくすごいもので、単なる黙読とは全くことなるパースペクティブが眼前に拡がりました。

 矢島さんの声が入った予告映像です。



 会場がかなり広く、キャパシティには余裕があります。一人でも多くの方に来て頂ければと思います。真面目な話をするならば、私の本がどうのこうのよりも、「生で矢島さんの声が聴けるチャンス」として貴重な催し物かと思います。

 詳細はロケットまつり事務局掲載されています。以下に転載します。

    ロケットまつりpresents 『飛べ!「はやぶさ」小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』朗読会

    60億キロの旅を終え、小惑星イトカワのかけらを拾って無事地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。世界に日本の技術力の高さを示した「はやぶさ」とは、どんな探査機だったのか。トラブルを克服して地球にもどってくるまでの物語を読み物で再現した科学ノンフィクション(児童書)『飛べ!「はやぶさ」小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』を矢島正明の朗読で展開する──。


    日時:2012年4月15日(日)12:30開場13:30開演(17:00終了予定)
    於:日本科学未来館7F みらいCANホール:東京・お台場。新交通ゆりかもめ「テレコムセンター駅」下車、徒歩約4分
    読み手:矢島正明(声優・ナレーター)
    挨拶:松浦晋也(著者)
    司会:秋の『』
    チケット:大人¥2000/中・高生¥1000/小学生¥500/未就学児童¥0
    (このイベントの来場に日本科学未来館の入館料は必要ありません)

     上記チケットはe+にて発売中…PC携帯


      未就学児童のお子さんに対して、チケット入手は必要ありませんが保護者の方は、事前に下記メールまでお連れになるお子さんの年齢と人数をお知らせください。お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。
      お子さんが泣いてしまわれた際など、保護者の方と共に場外にご案内させていただくことも ございます。ご了承ください。
      また、中学生から高校生のお客さまは学生証のご提示をお願いします。

    値段変更のお知らせ(3/23)大人¥4000→大人¥2000


      大人¥4000でお買い求めていただいたお客さま。すでにお買い求めいただいたところ大変恐縮な次第ですが、大人¥4000でお買い求めいただいたチケットについて、¥2000を返金させていただきます(多くのお客さまにきていただけよう赤字覚悟で値引きに踏切りました)。お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。

      [返金] 大人¥4000チケット→¥2000 当日〜5月末日まで
      当日会場受付にて該当チケットをご提示ください。その際に返金させていただきます。
      当日お越しになれない際は下記までご連絡ください。ご連絡後、現金書留かお振込にて¥2000をお返しいたします(全額返金はお受けできませんことご了解ください)。
      当日以外でのご返金はご連絡をいただいた上で5月末日までの受付とさせていただきます。
      ロケットまつり事務局 rocketfes@gmail.com



    障害者の方はご同伴の方含め半額(当日、障害者手帳のご提示をお願いします)
    ※半額チケットはイープラスでは販売しておりません。下記ご参照お願いします。
    大人¥2000→¥1000
    中・高生¥1000→¥500
    小学生¥500→¥250
    未就学児童¥0→¥0
    障害者の方の半額チケットはお席確保のため、下記のメールかお電話にてご予約をお願いいたします(料金は当日精算です)。
    [メールの場合]
    宛先:rocketfes@gmail.com
    件名:飛べ!はやぶさ朗読会・予約
    文面:お名前/人数さま/ご来場のみなさまのご年齢/ご連絡先
    [お電話の場合]
    番号:090-7714-1533(平日10:00~18:00)
    申し訳ありませんが不在の場合は折り返しいたします。
    車椅子専用席は2席ございますが、そのお席が満席の場合、会場備え付けの座席にお座りいただき、車椅子はお預かりする形になりますこと何卒ご容赦ください。
    朗読中、一部映像使用をいたします(朗読上の間、ブリッジとしての使用となりまして数秒から数分以内になります)。

    全ての問合せ:ロケットまつり事務局 rocketfes@gmail.com 090-7714-1533(お電話は平日10:00~18:00)


2011.12.09

【宣伝】12月10日土曜日、早朝5時からのテレビ番組で、はやぶさ2の解説をします

 12月10日土曜日の早朝5時から、フジテレビの「新・週刊フジテレビ時評」という番組に出ます。関東ローカルの番組なのですが、「はやぶさ2…予算削減、打ち上げピンチ!テレビ報道は?」というタイトルで、ここ一週間ほどのはやぶさ2の予算削減(実質中止)周辺の情報を解説します。

2011.12.08

はやぶさ2で野田事務所に嘆願書を送った

 野田佳彦首相の事務所に、はやぶさ2予算に関して嘆願書を送った。

 文章は以下の通り。

内閣総理大臣 野田佳彦さま


小惑星探査機「はやぶさ2」
平成24年度予算案における予算大幅圧縮に関する嘆願

松浦晋也
科学技術ジャーナリスト/ノンフィクション・ライター

 私は、主に宇宙関連分野で文章を発表して生計を立てている者です。3年程前に、民主党本部でGXロケットと宇宙基本法関連のレクチャーが開催された際に、講師として招かれ、その席で野田さまとお会いしております。このような嘆願書を送ることをお許し下さい。
 この嘆願は、小惑星探査機「はやぶさ2」の平成24年度予算「日本再生重点化処置」について、特段の配慮を願うものです。

 初代はやぶさについてはご存知のことと思います。平成15年(2003年)に打ち上げられた日本初の小惑星探査機です。プロジェクト・マネージャーである川口淳一郎JAXA教授の指揮のもと、平成17年(2005年)に小惑星イトカワの探査を実施し、平成22年(2010年)6月にイトカワの岩石サンプルを地球に持ち帰ることに成功しました。はやぶさ2は、その後継機で平成26年度(2014年度)の打ち上げ、小惑星1999JU3を探査し、平成32年(2020年)地球帰還を予定しています。はやぶさの成果を引き継ぎ、さらなる科学的成果と、宇宙及び地球に関する人類の知的資産の蓄積を、日本自らの手によって目指す計画です。
 平成24年度予算要求において、はやぶさ2は文部科学省から「日本再生重点化処置」で73億円を要求しています。探査機の製造には数年がかかります。平成26年度打ち上げのためには、満額執行が不可欠です。
 しかるに、12月6日の第三回政府・与党会議において、はやぶさ2の来年度予算の圧縮が了承されました。
 予算が圧縮され、平成26年打ち上げを逃せば、計画は実質中止に追い込まれます。それは、日本の宇宙事業が諸外国より相対的に少ない予算の中で、長い時間をかけてやっと一つ達成した世界的アドバンテージが無に帰することを意味します。

 地球から目的地の1999JU3という小惑星への打ち上げチャンスは限られていて、次は平成31年(2019年)、その次は平成36年(2024年)です。2019年は到着時の太陽と地球との角度が悪くて、小惑星への着陸リスクが大変に大きくなります。2024年には初代はやぶさに若手として参加した研究者が定年となり、経験の継承と発展はおろか、研究者・技術者集団を維持することすら不可能になります。1999JU3はC型という特殊かつ科学探査の価値が高い小惑星であり、はやぶさ2の能力で行ける範囲に他のC型小惑星は存在しません。
 探査機の製造には数年の時間が必要であり、そのためにはメーカーに支払いをしなくてはなりません。平成26年(2014年)打ち上げのためには、平成24年度予算において、73億円の要求を圧縮することなく通すことが必要です。

 平成26年打ち上げを維持しないと、はやぶさ2は実質中止になるのです(正確にはH26から27にかけて打ち上げチャンスがあります。年度を跨ぐのですが、星の運行は地上の予算制度など顧慮しませんから、ここではH26と表記しました)。

 はやぶさ2が中止になると、昭和62年(1985年)以降、大変な努力の末に世界で初めて日本が達成した「小惑星からのサンプルリターン」という偉業にまつわるもろもろ(技術的蓄積、科学的成果)がすべて途絶し、無に帰します。
 日本の成果を知り、その科学的価値を認識したアメリカは今年度からはやぶさと同様の小惑星サンプルを持ち帰る探査機「オシリス・レックス」の開発を開始しました。予算総額ははやぶさ2の3倍です。小惑星サンプル採取と持ち帰りには、それだけの価値があるとアメリカも認識したわけです。オシリス・レックスは2016年(平成28年)打ち上げ、2023年(平成35年)帰還を予定しています。
 はやぶさ2は当初は平成22年(2010年)打ち上げを予定していましたが、財政状況その他で実現は4年遅れました。研究者は論文が書けない4年間を耐え、技術者とメーカーは収入の当てがない4年間をしのぎ、はやぶさ2の実現に向けて動いてきました。はやぶさ2には、それだけの価値があるからです。ぎりぎりの努力は今や限界に近づいています。

 なによりも、小惑星からの物質サンプル持ち帰りという世界初の試みに挑み、数多の困難に打ち勝って成功を収めた者に対して、国が後継機を実質的な開発打ち切りとすることの、国民心理への影響を憂慮します。はやぶさの帰還カプセルは、全国各地で展示され、老若男女を問わず多くの人々がその偉業に触れました。その中には、はやぶさの飛行に胸弾ませた子供も多くいました。
 彼らに「日本という国は、政府自らが、成功する者を罰する国だ」ということを、事実をもって示してしまって良いものでしょうか。多くの子供が「この国では成功すると罰を受ける」と思ってしまえば、日本の未来は閉ざされます。

 それは、民主党の第一の理念「透明・公平・公正なルールにもとづく社会をめざします」に逆行する行為ではないでしょうか。

 内閣総理大臣としての野田さまの見識を信じ、「日本再生重点化処置」におけるはやぶさ2の平成24年度予算について特段の配慮を賜りたいと強く願うものです。

#追記:勝手ながら同内容を、メール及びファクシミリで送らせて頂きます。


平成23年12月8日

(住所・電話番号・メールアドレス)

 送付先は、野田首相のホームページにある。
 メールアドレスはすべてのページの一番下に書いてある post@nodayoshi.gr.jp
 ファクシミリ番号は後援会である未来クラブのページに書いてある。

 紙という実態の重みもあるので、署名を入れたファクシミリも送付した。内容は全く同じで、ファクシミリは、署名などの挿入位置を変えて体裁を整えている。

 政治家に嘆願書を送る時の秘訣。

1)政治家は忙しい仕事なので、なるべく短く簡潔に書く。ビジュアルで一発で理解できるようなものが一番良い。ひとつの目安はA4用紙に12〜14ポイントの文字で印字して1枚に収まること。私は文章しか書けない上に、くどい質なのでどうしても長くなって2枚になってしまった。

2)礼節を守り、決して失礼な事や攻撃的なことは書かない。目的はあくまでも自分の主張を相手の心に届けることで、自分の怒りをぶつけることではない。

3)きちんと自分の身分を明かし、それを証明できる住所などを添えること。個人情報の漏洩を心配する必要はない。もしも事務所が個人情報を漏洩したら、昨今の情勢からしてその政治家は失脚する。きちんとした事務所は、個人情報の管理はしっかりしている。ここは相手の事務所の力量を信じるべき局面である。

 最後にファクシミリ送付した文面の画像ファイルを掲載する。ファクシミリを通した後も読みやすく要点が一目で分かるように心がけた。

 どんなときも最後の最後まで諦めることなく、自分のできる限りのことをする。いうまでもなく、これは初代はやぶさが私たちに教えてくれたことである。

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2011.12.05

はやぶさ2、予算の危機について

 日曜日の毎日新聞一面トップに、はやぶさ2:ピンチ 予算削減、打ち上げに暗雲という記事がでた。

 生命の起源とされる有機物を含んだ試料採取を目指す小惑星探査機「はやぶさ2」計画が、延期の危機に直面していることが分かった。来年度予算編成では、東日本大震災の復興経費を捻出するため、宇宙関係予算は大幅な減額が避けられない上、国家戦略に基づく実用衛星が優先される可能性が高い。予算次第では、はやぶさ2の打ち上げが目標(14〜15年)に間に合わず、計画が形骸化する恐れもある。

 この件、私も聞き込んでいて色々取材していたところだった。細かい部分では差異はあるが、大筋私の聴いていた話と一致する。

 計画が形骸化は、正しくは「計画は事実上の中止」だ。


 はやぶさ2は、昨年帰還したはやぶさの後継探査機だ。

JAXAはやぶさ2プロジェクト

 C型という、初代はやぶさが探査したイトカワとは組成が異なる小惑星「1999JU3」を探査する。目標の1999JU3の軌道と特性から打ち上げ機会は非常に限られており、人の世の事情と噛み合わせると事実上2014年〜2015年のワンチャンスしかない。
 小惑星サンプルリターンの検討が始まったのは1985年、初代はやぶさ開発開始が1996年、打ち上げが2003年。検討開始から26年、開発開始から15年、打ち上げから8年——当初はやぶさ2は2010年打ち上げを目指していた。当初予定からすでに4年遅れとなり、開発・運用体制の維持はメーカーも研究者も限界近い。
 来年度予算要求は、73億円。2014年打ち上げまであと3年しかないので、これが基本的に満額付かないと実機の製造は進まない。2014-2015打ち上げは不可能になり、結果、計画は事実上の中止となる。

 はやぶさ2の予算は、通常のJAXAの予算枠からは出ていない。今年度の30億円は、政治が決定する政治枠の「日本再生重点化措置」から支出され、来年度も同じ枠で要求が出ている。年度ごとに政治の支持を得ていかないと、はやぶさ2は打ち上げに至ることができない。

 当blogの読者なら、はやぶさ2の意義はすでに知っているだろう。工学面では、世界初であったはやぶさの成果を引き継ぎ、繰り返すことで信頼性を高める。理学面では岩石主体のS型小惑星であるイトカワに引き続き、炭素を含むC型小惑星を探査し、小惑星の成因、太陽系始原の調査、さらには生命発生のプロセスなどを探る。この流れの次には、次には炭素も水もある枯渇彗星核やD型小惑星の探査が控えている。続けざまにタイプの異なる小惑星に探査を行うことで、太陽系全体への理解を深める。

 はやぶさは端緒であり、次には「こうするとこれがわかる」というルートマップが見えている。ルートに最初に気がつき、たどりだしたのは日本だが、はやぶさの成功でルートの存在に気がついたアメリカが追ってきている。

 「日本再生重点化措置」という予算枠は、省庁を横断する予算枠。一般的な予算とは別に、日本の成長戦略に必要な経費などを支出する。今年度は東日本大氏震災からの復興もこの枠からの支出を行う。このような投資は、将来への価値創造に投資するべきだろう。この価値とは、金銭的価値のみではない。人類の持つ知識に新たな知見を加えること、人類の知覚の到達領域を拡げること、

11月21日 提言型政策仕分けにおいて、はやぶさ計画を指揮した川口淳一郎JAXA/ISAS教授は以下のように発言した。

【11月21日】「提言型政策仕分け」 AWG 生中継(主催:行政刷新会議):冒頭から5時間03分付近から約5分間

「科学技術はロングレンジな投資であり、(社会に利益を生み出すイノベーションという)出口が見えないとよく言われるが、出口が必ずしも近くにあるとは限らない。堅実な投資もさることながら、規模とバランスを考えつつロングレンジの投資は不可欠である。現在の日本の経済情況は悪いが、経済状況が逼迫すればこそ、耐え忍んでしのぐのではなく、長期的に見てイノベーションを産むように先行した投資を行うべきである。経済状況の結果としての科学投資があるのではなく、科学投資の結果としての経済成長があるのではないだだろうか。
 現在すでに意外なところに大きな経済効果を生んでいる成果が存在する。たとえば日本が開発・生産に参加しているボーイングの新旅客機「787ドリームライナー」に使われる炭素系複合材は日本発信の新技術であり科学技術の成果である。科学技術が産業を引っ張っているわけだ。宇宙に関しては、例えば地上デジタル放送などに使う符号化技術は、アメリカが宇宙探査機の遠距離通信に使うために開発した技術が回り回って我々の身近で使われるようになったものだ。
 仕分けの議論の一つの論拠となっている論文の引用数の低下だが、論文の引用数は一つの指標である。政府政策担当者は研究者が論文を書くために予算を付けているわけではないと良く言う。指標ではなく実質で、我が国の科学技術が産業や経済に貢献してきたところを評価していただきたい」

 結果が目の前に見えるものだけが、良い投資ではないというのは、民生品の分野では常識だ。ヘンリー・フォードは「人々は自動車を欲しいとは言わない。なぜなら自動車というものを知らないから。皆は速く走る馬車が欲しいというだろう」と言った。iPhone以前に、iPhoneを欲しいと言った人はいなかった。iPhoneが世に出たとき、人々は初めて「自分の欲しかったものはこれだ」と気付いた。

 今回の毎日の記事が議論になった昨日の日曜日、野田司令こと野田篤司さんがツイッターで見事な例を引いていた。

ファラデーの逸話(野田篤司 (@madnoda) on Twitter)

ファラデーの逸話『「磁石を使ってほんの一瞬電気を流してみたところで、それがいったい何の役に立つのか」と問いかけた政治家に対し、「20年もたてば、あなたがたは電気に税金をかけるようになるでしょう」とファラデーは答えたという』出典元:電気史偉人辞典

 「日本再生重点化措置」は、政治の専決事項というなら、何か言うなら政治家にむけて素直な声を届けるべきなのだろう。和歌山大学の秋山演亮さん(宇宙開発戦略本部の有識者会議で活躍した。はやぶさ観測チームの一員でもあった)も、はやぶさ2予算の件(2011年12月4日付け)で以下のように書いている。

一つの抜け道は、今回の予算が日本再生特別枠要望分で出ている点にあるかも知れません。すなわち、この予算の性格上、各省庁の意見よりも与党・政府がどう考えるかが重要になります。官僚と言うよりは政治家が対象って事です。
実際、与党・政府間でも「日本再生のために何を重点項目とすべきか?」との摺り合わせが、今週中に行われるとの話しを聞いています。それを受け、来週には宇宙以外の他の分野も全部ひっくるめて重点項目が決められ、それを受けて財務省が最終判断をすることになるでしょう。

 幸いなことに野田佳彦首相の事務所は、メールアドレスとファクシミリ番号を公開している。
 すべてのページの一番下には、「ご意見・ご質問を大歓迎いたします。E-mail post@nodayoshi.gr.jp」と書いてあり、未来クラブの案内というページには事務所の連絡先が公開されている。

 今回、本blogで「これをしよう」などという動員はかけない(昨今更新をサボっていたから、読者もぐっと減っているだろうし)。読んだ方ひとりひとりが、自分は何をすべきかを考え、行動するか否かを決めて、その判断のとおりに振る舞ってもらえればと思う。

 結果は、現政権の政治家が科学技術に対してどのような見識を持っているか、いないかを示すものとなるだろう。

 以下に、いかにはやぶさ2の打ち上げチャンスが限られているかを説明しておく。

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2011.08.18

コミケット御礼

Comiket80l

  8月14日のコミケット80、3日目は大変御世話になりました。おかげでロケットまつりブースで販売した「星を作った男〜昭和の衛星屋さん〜」は当初予定を超える部数を販売することができました。一度は最初に予定した部数を売り切って「完売」の表示を出したのですが、午後から会場にいらっしゃった著者の小野英男さんが「この場で必要とする方に渡して下さい」と著者取り置き分を急遽販売に回してくれました。

 増刷をかけますので、冬コミに当選したならば、冬も販売いたします。また、通信販売にも出そうと考えていますので、今回入手し損ねた方はしばしお待ち下さい。

 自分も会場で初めて手に取ったのですが、300ページ超というのはかなり手に持った時の実体感があって感動しました。編集を担当した斉藤さんの努力の成果です。朝、見本誌を回収に来た運営スタッフの方が「書店売りの本みたいですね」と言ってくれたのがうれしかったです。
 私は長年、友人のブースの売り子を担当しているので、こちらには時折顔をだすことしかできなかったのですが、斉藤さん、今村さんに加えて、小林伸光さんが「きく1号」のペーパーモデルを作って参加し、ブースをうまくさばいてくれました。

 販売を担当した今村さんが当日の様子を書いています。合わせてお読み下さい。

2011.08.12

宣伝:コミケット80、3日目(8月14日日曜日)、ロケットまつりが参加します

 今週末に東京ビッグサイトで開催されるコミケット80に、ロケットまつりが参加します。

 8/14(日)コミックマーケット80 @東京ビックサイト
 東地区 W-56a

 販売するのは、衛星まつりのために小野英男さんが作成したレジメをまとめた本です。

Onobook


■『星を作った男〜昭和の衛星屋さん〜』
著者: 小野英男
値段: ¥2000
サイズ: 四六版(128mm×188mm)
ページ数: 310P


 ロケットまつりスペシャル版として9回開催した衛星まつり、その主役である日本衛星開発に立ち上げの頃から携わった小野英男さんの本です。小野さんは、衛星まつりにあたって詳細なレジメを作成していました。そのレジメを読みやすく整理し、当時の貴重な写真と共に一冊の読み物にまとめました。
 学生時代からラジオとアマチュア無線に熱中した小野さんは、スプートニク1号の電波受信をきっかけに衛星開発の道に踏み込み、日本衛星事始めから、最初の科学衛星、最初の技術試験衛星、最初の気象衛星、最初の地球観測衛星と、最初のアマチュア無線衛星、数多くの衛星に関わりました。宇宙開発初期の抱腹絶倒波瀾万丈のエピソードから、生まれ育った北朝鮮再訪、さらにはGoogle Mapで分析する北朝鮮の現状など、思いきり語りまくった記録です。

 部数があまり多くないので、コミケ会場及び9/17のロケットまつりにおける受け取りで、メールによる予約を受け付けています。

件名: 小野さん本
本文: お名前、購入希望冊数、ご連絡先(住所・メール)、ご希望の受取先(8/14コミケ or 9/17ロケットまつり)

上記を rocketfes@gmail.com までお送り下さい。


 もうひとつ。

9/17はロケットまつり46です。
9/17(土)ロケットまつり46〜垣見恒男スペシャル2〜 @阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/
12:00Open / 13:00 Start〜16:00end
ネット予約終了していますが、当日券もあります。
本購入のみのご来場も可能です。

 なお、書籍についてのお問い合わせはロフトAでは受け付けていません。
全てのお問い合わせは
rocketfes@gmail.com までお願いいたします。

2010.12.17

12月17日午後6時からのあかつき事故原因究明の記者会見

20101217


12月17日、午後6時からの記者会見。もう資料が公開されているので、とりあえず記者会見の様子のみアップする。

出席者:中村正人プロジェクト・マネージャー、石井信昭プロジェクト・エンジニア、稲谷芳文教授

 ISAS宇宙理学委員会委員長(中村)、宇宙工学委員会委員長(稲谷)の重鎮2人がそろった記者会見となった。

広報から:宇宙開発委員会調査部会の説明を行う。文部省記者会見は長時間の説明を行ったが、今回は質疑応答を中心にしたい。

中村:この前の記者会見以降のことを石井から、FTAについての説明を行う。

 石井教授から、あかつき概要説明。今までに出てきた話が大部分なので割愛。

 軌道変更エンジン(OME)噴射時の姿勢制御ロジックが公開された。噴射中はスラスターの噴射で姿勢を維持する。各軸周り各加速度が設定値以上に変化した場合は噴射を中断してリアクションホイールを使う姿勢維持モードに移行する。

1)OME噴射開始後から本来一定に保たれるべき燃料タンク圧力が緩やかに下降している、
2)噴射開始から152秒で、急激な姿勢変動が起き、同時刻に機体加速度も急激に変化した。
3)噴射開始から158秒で、噴射中断に対応する姿勢制御モード変更が記録されている。
4)158秒で、酸化剤タンク圧力がステップ状に上昇すると同時に、燃料タンク圧力が徐々に増加しはじめた。

稲谷:
 これからの調査のやりかた。FTA(故障の木)解析について

 事実の絞り込みにあたって、試験・実験が必要になるだろう。

 故障の木解析の説明。
 その中で、現状ではもっとも可能性があると思われる事象。

・姿勢異常を検知しての燃焼停止からの故障の木解析。資料中ハッチングしてあるのが現在可能性があると考えている事象。

現状で可能性があるのは
 異常燃焼による軸非対称燃焼
 その原因となるのは
  ・スロート後方後燃え:
  ・不安定燃焼
  ・インジェクタ噴射異常
     これらについては
     「実績のない燃焼条件で動作させた可能性があるので要因として否定できない」

 さらに原因として考え得るのは。
  ・フィルム冷却のクーリングの噴射異常
  ・燃料の高圧ガス加圧系に入っている逆止弁CV-Fの閉塞

質疑応答
日経サイエンス:噴射停止は157秒ではなかったか。以前の発表では157秒だったような
稲谷:姿勢維持モードに入ったのが158秒。この操作にともなってエンジンを止める。
読売新聞:図面上で酸化剤側と燃料側でバルブの構造が異なるのはなぜか。エンジンは実際にはどういうところまで試験したのか。
石井:燃料側はガスと燃料が分離する隔膜が入っている。酸化剤側は隔膜がない。酸化剤側は気化した酸化剤が逆流する、可能性があるのでラッチングバルブがダブルで入っている。
稲谷:燃料と酸化剤の混合する割合。我々が事前の試験で混合比を降って試験の範囲をはずれた可能性がある。そこで何が起きるかは試験をしていないので分からない。
読売:セラミックスラスターの耐熱温度は1500℃というが、実際にはどの程度の温度条件まで試験で確認しているのか。
稲谷:ものが壊れるかの判断は応力なので、応力で考えている。温度では考えていない。燃えかたによって条件のきつい部位は変わっていく。今、シミュレーションで、想定外の状況で応力がどう変化するかを調べている。温度だけでは議論できない。
読売;試験で確認した範囲というのはどの程度なのかということを、後で出してもらえないだろうか、一般読者に説明する場合に、どこまで試験したかという目安がないと説明しにくい。
稲谷:たぶん、混合比をどの範囲で振って試験したかは出せると思う。
毎日:燃料タンクにチェックバルブは、絶対必要なのか。酸化剤リッチになった場合、温度が上がる可能性はあるのか。
石井;ない設計もありうるが、我々は必ず入れている。海外の設計は知らない。
稲谷:一般に最適混合比からはずして燃料リッチで燃焼させるほうが多い。少し最適より低い混合比で設計されているので、酸化剤リッチになると最適混合比に近づくので温度が上がっていく。設計点近傍では、酸化剤リッチで温度が上がっていく。
共同通信:燃焼室の温度の圧力は?
稲谷:今正確にでないので、後で出す。
不明:今、どこか欠けているということには分かっているのか。そのことで6年後の再突入は。
稲谷:燃焼室とノズルでは、燃焼室は壊れていない。加速度が出ているので、ノズルはどうなったかは今検討中。今、予断を持つべきではない。
中村:今の状態を確認するのが先決。決してあきらめるようは状況ではない。楽観しているわけもない。
読売:インジェクターの温度は前回、150℃ほどで予定の範囲内だったと前回聞いているが、インジェクターには影響の及ばない設計だったのか。
稲谷:インジェクター温度が正常であることは、燃焼室が健全であることの傍証となる。

 ここから資料2
日経新聞;まずは、燃焼ガスが噴射方向に異常が出たというのは間違いないのか。
稲谷:その可能性を排除しないということ。たとえば、燃えずに噴射してノズルの外で燃える後燃えという現象もある。予想外の運転状況を今後試験で確かめていく。
日経新聞;タンク圧力異常と燃焼異常は関係しているということでいいのか。
稲谷;関係してくる可能性はあるだろう。
朝日新聞:不安定燃焼と、インジェクター噴射異常を細かく教えて欲しい。
稲谷:ある状態になると燃焼は安定せずにばたばたしたり息をついたりする。どうすればそういう状態になるかは、まだ分かっていない。インジェクター噴射異常は、吹き出し口の流量は上流の圧力と関係するかも知れない。燃料と酸化剤は混ざらないといけないが、圧力が予定と異なると、なにか部分的に詰まったり、よく混ざらなかったりする可能性がある。
稲谷:現象としては重なるかも知れないが、事象としては別。別に試験していきたい。
朝日新聞;フィルムクーリングの噴射異常とは?
稲谷:エンジンの冷やすために、燃料だけを内壁に沿って吹き出して、内壁全体を冷却している。この燃料を流すことをフィルムクーリングという。均一に流しているはずの燃料が均一でなくなったらどうなのか、とか、可能性を排除できないのでこの項目を残している。
朝日新聞:混合比を燃料リッチにしているというのはこのフィルムクーリングの分か。
稲谷:混合比は燃料と酸化剤の流量で定義している。フィルムクーリングの分も入っている。
朝日新聞:燃料側圧力低下から、燃料流量の低下を推測できていないのか。
稲谷:現在解析中である。
朝日新聞:燃料と酸化剤のパターンを試していたのを、地上の試験で超えた可能性があるというが、混合比は逸脱している可能性があるではなく、もう超えていると言っていいのか。
稲谷:可能性がある、だ。
朝日新聞:地上試験はもうやっているのか。
稲谷:現在計画中。ものをつくらねばならないので。すべてを年度内に行うのは難しいかもしれない。あかつき自身に噴射させる試験は、これで壊れたら後がないので慎重に行わねばならない。

 ここでマイクが相模原に渡る。
青木:高圧タンクのフィルターに目詰まりが起きた場合はもっと早く圧力が戻る可能性があるということだったが、その後の検討は進んだか。FTAの×の項目は今後再浮上する可能性があるのか。
石井:記者会見で何言ったかあんまり覚えていないのですが。フィルターもバルブも詰まる可能性はある。まだ解析中です。
稲谷:×については、別の事実が出てくればそこで見直すことはあり得る。確かめてないことは、すべて確かめてから判断すべしだ。
青木:破損が起きていた場合、再投入は難しくなるのか。
稲谷:その可能性はある。
青木:現在あかつきの運用は何人体制で
中村:海外局は使わず、クルージングフェーズと同じ運用をしている。

 マイク東京事務所に戻る。
共同通信:スロート後燃えと、フィルムクーリングの異常は何がおきるのか。逆止便の動作は地上で確認できるのか。5つの原因候補を絡めてシナリオは描けるのか、
稲谷:今、検討している。探査機の姿勢変動から、探査機に力がかかったことは間違いないので、その候補として考えている。こうなったらこうなるというシナリオがあるから候補として挙げているわけではない。バルブの動作は圧力で分かる。圧力変動を説明できるバルブの動作を解析しているところ。これからなお探査機に動作をさせて検証するということは、あり得るだろうが未定。
東京新聞:逆止弁は、特に新しい部品ではないということだが、具体的にどんなことが起きうるのか。
石井;得られたデータを説明できるよう調べている。非常にシンプルな構造。
不明:この5つの中で可能性の強弱はあるのか。逆止弁のトラブルとして水平展開はすでに行われているのか。
稲谷:これから強弱はつけていく。水平展開はまだ。
共同通信:フィルムクーリングで何度温度下げることができるのか。
稲谷:やらないと壊れるのでやっている。
共同通信:燃料タンクの圧力が下がった場合、フィルムクーリングに向かう燃料のはどうなるのか。

毎日新聞:逆止弁が過去に閉塞した事例はあるのか。閉塞がはずれて今は復旧している可能性はあるのだろうか、
石井;どちらについても、おそらくあると思うが、これから調べる。ないということはないと思う。
毎日新聞:スラスターノズル破損だけ、上流にさかのぼって検討しているということが、これが一番あり得るということなのか。
稲谷;今排除できない原因候補は平等に扱って検討していく。

松浦:今回の事故調査は人的組織的要因まで踏み込むのか。
稲谷;資料中にある「背景要因」はそこまで含む。
中村:すざくのXRS不具合調査も、人的要因まで含めて調査を行っている。今回もそこまでやる。

青木:現在、運用は平常に戻っているのか。
中村:そうだ。はいゲインアンテナを使った通信で、機器の健全性など確認している。

稲谷;最後に。ここまで説明のために色々たとえを使ったが、我々がそれを有力と考えているわけではない。あくまで予断を持たずに検討していく。

 終了後のぶらさがりにて。

石井:噴射停止直前のデータを見ると、姿勢を元にもそうとする兆候がある。これはスラスターによる制御ができるということを意味する。(ノズル破損なりで)横方向の力がかかったとしても姿勢制御ができるということだ。6年後の投入の可能性はあると思っている。
以上

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